社会人を成長させる
“振り返る力”

SPIとは(理念編)

人生100年時代と言われる今、“はたらく”ことは、多くの人にとって益々大きなテーマになっています。

社会人になったら、どのような会社で、何の仕事をするのだろう?
どんなスキルを身につけて、どのようなキャリアを積むのだろう?
これから社会人になる学生の方は、そんな期待と不安をお持ちかと思います。

アルバイトやインターン、サークル活動など、仕事に近しい経験や、すでに仕事そのものといえる経験をされている方にも、そうでない方にもお伝えしたいことがあります。
それは、“振り返る力”です。

“振り返る力”が社会人にとってなぜ重要なのか、事例を交えながらお伝えしていきます。

本当の意味で“振り返る力”とは

筆者が過去に営業職として実際に参加していた、営業会議での事例です。その組織では月の初めに、課のメンバー全員で振り返り会議を行っていました。順番に前月の目標数字に対する達成状況、KPI※に対する結果と要因、各案件の情報を共有します。
多くの業績目標を持つ組織では、このような取り組みを行っていることでしょう。
※KPIとは:「Key Performance Indicator」の略称で、重要業績指標のこと。

しばらく誰もこのやり方に疑問を抱かずに実施していましたが、あるとき、先輩の1人が疑問を投げかけました。
「この内容ならわざわざ対面で集まる意味はないのでは? みんな忙しいなかこの会議に参加しているのだから、お互い学びになるようなことをしませんか?」
先輩の発言は、私にとっては目からウロコでした。

翌月以降、数字情報や案件のトピックスは、各自が会議前にフォーマットに書いたうえで、会議では前月の自分の営業活動のなかから、今後も生かしたい学びを、成功体験でも失敗体験でもいいので共有することにしました。すると、「それいいですね。私もやってみます!」と実行宣言が出たり、「それならこういうやり方もあるかもしれないですね」とアドバイスし合ったりする場になったのです。

もしかしたら、当初この振り返り会議が始まった目的は「経験から学び、次に生かす」ことだったのかもしれませんが、いつしか営業メンバーにとって単なるルーティンと化し、数字やトピックスが書いてある紙面をほとんど読み上げるだけの時間となってしまっていました。それでは、“振り返り”会議ではなく、単なる“情報共有”会議です。
先輩の発言のおかげで、各自の振り返りから相互に学び合える効果的な会議に生まれ変わることができました。
それ以来私は、自分の経験から得た学びをシェアし、互いに生かせる情報を交換したりすることこそ、忙しいメンバーが集まって行う意義のあることであり、そういう風に時間を使わなければもったいない、と考えるようになりました。

今の世の中は、職場・仕事の変化が激しく、スピードが求められ、正解がなく前例に頼れない時代です。そんな時代だからこそ、単に事象や結果をなぞるだけの“振り返り”では終わらない、本当の意味で“振り返る力”が、個人や職場に求められているのです。

とはいえ、みんな忙しく、なかなか対面で話せる時間・機会も限られているなかで、みんなで集まる必要があるのでしょうか?
自分一人で振り返るだけではだめなのでしょうか?

周囲の力で“振り返る”

自分一人で振り返る習慣をつけるのも重要なことですが、経験の少ない新入社員のうちは特に周囲の力を借りることが肝になります。なぜなら、職場の上司や先輩は新入社員に対して、「周囲の力を借りてでも、目的に向かって仕事を推進していくこと」を期待しているからです。
周囲の力をうまく借りるためには、「こうだろう」と自分で決めつけたり、「次はこうしよう」と自己完結の振り返りで終わったりせず、「こう思っていますが、どうでしょう?」「この前のあの仕事について、アドバイスをください」などと周囲に自分から投げかけ、次に生かせるヒントをキャッチしにいくことが大切です。

そもそも人は1人で振り返るとき、自分自身の経験や知識、考え方、観点などを基に振り返ります。したがって、どうしても知識や経験に偏りのある、自分一人での振り返りには限界があるのです。
また、周囲を巻き込んで振り返ることで、周囲からも「ちゃんと振り返ろうとしているな」「また任せてみようかな」と応援してもらえるようになったり、次の機会につながったりもします。
このように、自分が“振り返る”ことで信頼を生み、仕事の成果やチャンスにつながっていくスパイラルは結果的に、数日後、数年後の自分に影響を及ぼし、一石二鳥、三鳥になるのです。

また、自分一人で“振り返る”ことばかり続けていると、どうしても視野が狭くなり

  • ひたすら反省モードになり落ち込む
  • 自分は悪くない、と環境・条件のせいにばかりしてしまう
  • 振り返り後の行動計画が、自分で想定できることだけになってしまう(「もっと知識をつけよう」など)
    といったことに陥ってしまう場合があります。

このような“振り返り”は次へ生かせる学びが起きづらいため、可能な限り周囲の力を借りたいところです。

仕事の場面で周囲の力を借りる“振り返り”のイメージがしにくい方は、料理やスポーツで考えてみてください。
料理をするとき、自分だけの知識・やり方だと、余程料理好きな人でない限り、どうしても味付けやおかずのバリエーションの幅が広がりません。
でも、今の時代は作り方動画やレシピ紹介サイトなどに、いろいろな方がたくさんのレシピを投稿していて、それらの情報をいつでも求めにいくことができます。
他人の作り方を見ていると、「こういう作り方もあるのか」「この調味料で味付けできるんだ」などと新しいことを知れて、今までの自分の作り方とは違う味付け・調理・盛り付けができ、作れる料理が増えていきます。

スポーツの場合は、自分一人で練習するだけではなく、フォームをコーチやチームメイトに見てもらって、はた目からどういう形になっているのか、きれいなフォームにするためには、どこをどうすればよいのかアドバイスをもらうことで、自分だけでは気づけなかったフォーム・動きを改善することにつながることがあります。

このように、苦手だったものがいつの間にか得意になったり、自分では気づかなかったことに気づいて自分自身ができることを増やしていけたりと、新しいことにチャレンジもできて、気持ちにも余裕が持てるようになります。

料理やスポーツを例に出しているように、この周囲を頼る“振り返る力”は、何も社会人に限って求められることではありません。
学生の間にも知らないうちにすでにやっていることもあると思います。
学生生活のなかでも、例えば家事、アルバイトやサークル活動、飲み会やイベントなど、周囲を巻き込んで振り返り、学びを次に生かすことを、ほんの少しだけでも意識してみてください。

そうすると、徐々に真の“振り返る力“が身につき、社会人としてスムーズなスタートが切れ、その後の歩みに大きく貢献することでしょう。

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