組織内の階層構造への注目 マルチレベル分析を用いて ワーク・エンゲージメントが
仕事のパフォーマンスに与える影響
−組織内のマネジメントに注目して−

ワーク・エンゲージメントが仕事のパフォーマンスに与える影 響組織内のマネジメントに注目して
執筆者情報
HRM統括部
HRMサービス開発部
主任研究員
坂本 佑太朗
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
仲間 大輔

近年、産業領域において注目されている概念に「ワーク・エンゲージメント(work engagement)」(以下「エンゲージメント」と呼びます)があります。エンゲージメントは、簡単にいえば「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」のことであり、それが高いことによって仕事上のパフォーマンスにプラスの効果をもつことは、これまでの先行研究によって明らかになっています。しかし、そうしたエンゲージメントのプラスの効果と組織内でのマネジメントとの関連についてはこれまで明らかにされていませんでした。

本レポートでは、2020年の経営行動科学学会での発表(坂本・仲間,2020)をもとに、エンゲージメントの効果とマネジメントとの関係を実際の企業内のデータで分析した結果をご紹介します。詳しくは、現在、学術論文として準備中ですので、お問い合わせいただくか、坂本・仲間(2020)「マネジャーの介在が従業員の能力発揮に及ぼす影響」をご参照ください。


研究の背景

冒頭でも触れましたが、近年注目されている概念にエンゲージメントがあります。エンゲージメントは、「活力」「熱意」「没頭」によって特徴づけられ、「特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知」と定義することが一般的であるとされています*1(Schaufeli, et al., 2002; Schaufeli & Bakker, 2004; 島津, 2014)。

エンゲージメントは、個人の仕事上のパフォーマンスに対して正の関連があることがこれまでの先行研究によって明らかにされていますが(Halbesleben,2010)、こうしたエンゲージメントの効果というのは、組織内のマネジメントによってどのように影響を受けるものでしょうか。

マネジメントの役割として、例えばMintzberg(2009)は、「内部の人々を導く役割」として、メンバーを動機づけることと、そのエネルギーを組織としての成果に結びつけることの2つを指摘しています(参考:弊社機関誌「RMS Message」vol.58 特集1レビュー「マネジャーの役割に関する理論的系譜 先行研究から見るマネジャーの役割100年史」)。そうした議論を踏まえると、エンゲージメントとパフォーマンスとのプラスのつながりは、マネジメントの適切な関与があって初めて成し遂げられるものであるとも考えられます。

しかし、このようなマネジメントの影響については、エンゲージメントに関する先行研究では調べられてきませんでした。もしかすると、組織内でのマネジメントの存在は、エンゲージメントが仕事のパフォーマンスに影響を与えるという現象の「暗黙の前提」になっているかもしれません。本研究では、そうした点を明らかにすることを目的としました。

組織内のマネジメントが、エンゲージメントの効果に及ぼす影響を考えるに際しては、組織内の階層構造に注目する必要があります。つまり、マネジメントは、1人の上司から同一組織内のメンバー全体に対して提供されるものなので、マネジメントの効果は「組織(例えばチーム)」を単位にして存在すると考えられます。一方、エンゲージメントはメンバー一人ひとりを対象としたものであり、その存在の単位は「個人」となっています。「組織」を単位にして働くマネジメントが、「個人」がもつエンゲージメントに対してどのような影響をもたらすか、という視点から検証をしていく必要があります。

 

<図表1>組織内のマネジメントに関するイメージ図


マネジャーが影響を及ぼす「組織」(メンバー全体・網掛部分)と「個人」(メンバ一人ひとり)両方の視点からの検証が必要

組織内のマネジメントに関するイメージ図



このような「組織」の何らかの影響が、「個人」にどのような影響をもたらすか、について検証するための方法論として、昨今の組織行動研究においては「マルチレベル分析」(multilevel analysis)(Raudenbush & Bryk, 2002)という手法が注目されています。マルチレベル分析は、個人と集団の階層的なデータにおいて有効であり、学力調査等の分析(生徒−学校や生徒−クラス〈学級〉で階層データとなる)などでも用いられています。

本研究では、このマルチレベル分析という手法を使って、組織内でのマネジメントをマネジャーの関与の程度として置き換えたうえで、それが個人のエンゲージメントとパフォーマンスの関係性にどのような影響を与えるか、を調べることを目的としました。


研究の方法

人材系会社の本社部門において行われた従業員意識調査ならびにマネジャーによる能力評価データを使用しました。本研究では、対象企業の組織図上の最小単位を「グループ」として扱い、27グループが分析対象となりました。平均的な所属メンバー数は5.22人でした。

[エンゲージメントの指標]

従業員意識調査に含まれる関連項目を使用。先行研究を参照して、「私にとって、今の職場は今後も働き続けたい職場である」など3項目の平均点を用いて変数化。

[パフォーマンスの指標]

マネジャーによるメンバーの能力評価データを使用。「担当領域の現状を把握し、仕事の優先順位をつけている」など30項目の平均点を用いて変数化。

なお、マネジャーの関与の程度については、本研究ではマネジャーの組織人事上の配置に着目しました。具体的には、組織図上の各グループ(「課」に相当)について、そのグループのマネジャーが「主務」である場合は「マネジャーの関与が強いグループ」に、そうでない場合は「マネジャーの関与が弱いグループ」に分類しました。


結果の概要

本研究の焦点は、マネジャーの関与の程度が個人のエンゲージメントとパフォーマンスの関係性にどのような影響をもたらすかを調べることにありました。

マルチレベル分析の枠組で検証したところ*2、「マネジャーの関与が強いグループ」と「マネジャーの関与が弱いグループ」とで、個人のエンゲージメントとパフォーマンスの関係性が統計的に有意に異なっていました*3。そこで、「マネジャーの関与が強いグループ」と「マネジャーの関与が弱いグループ」に分割し、再度解析を行いました。その結果、「マネジャーの関与が強いグループ」においてはパフォーマンスに対して、エンゲージメントが有意な効果(γ=.16 ,p<.001)でした。この結果は、エンゲージメントが高いほど、パフォーマンスも高いことを意味します(図表2の実線)。

一方、「マネジャーの関与が弱いグループ」においては、パフォーマンスに対して、エンゲージメントが有意な効果をもちませんでした(γ=-.02 ,p=.756)。つまり、「マネジャーの関与が弱いグループ」では、個人のエンゲージメントがパフォーマンスに結びついているとはいえないということになります(図表2の点線)。



<図表2>エンゲージメントとパフォーマンスの関係


エンゲージメントとパフォーマンスの関係



なお、「マネジャーの関与が強いグループ」と「マネジャーの関与が弱いグループ」とで、マネジャーの関与の程度が個人のエンゲージメント自体に影響があるかを調べたところ、統計的に有意な効果は見られませんでした。

こうした結果は、従来、個人のエンゲージメントが仕事上のパフォーマンスにプラスの効果をもつとされてきた先行研究において、組織内でのマネジメントが暗黙の前提となっていた可能性を示唆しています。



終わりに

本研究の目的は、組織内でのマネジメント(マネジャーの関与の程度)が、個人のエンゲージメントとパフォーマンスの関係性にどのような影響をもたらすか、を調べることにありました。 本研究の結果は、エンゲージメントがパフォーマンスに接続されるためには、組織内でのマネジメントが必要となる、ということを示唆しており、組織内でのマネジメントの重要性にあらためて光を当てるものとなりました。

また、本研究では、マネジャーの関与の程度がエンゲージメント自体を高めるものではなかった、という結果も見られました。つまり、マネジメントの役割としては、日々のマネジメント業務によりメンバー個人のエンゲージメントそれ自体を高めるというよりも、メンバーがエンゲージメントを高めたときに、それをパフォーマンスの向上に結びつかせることが重要であることが示唆されます。実践的には、仕事を担当するメンバー本人にとっての創意工夫の余地を残し、メンバーの自己決定感(self-determination)(Deci & Ryan, 2000)を高めながら、エンゲージメントを向上させ、それをパフォーマンスへの接続ができるマネジメント手法が効果的であるといえるでしょう(小方,2021)。

ただし、本研究の限界として、組織内でのマネジメント、という現象をマネジャーの関与の程度という指標によってのみ検討している点が挙げられます。今後は、例えばPM理論におけるP機能、M機能の高低による4タイプ分類(三隅,1966,1986)などを参照し、メンバーが受けるマネジメントのスタイルやタイプごとに検証するなどの詳細な検討が望まれます。



*1 代表的な理論としては、「仕事の要求度-資源モデル(Job Demands-Resource Model)」(JD-Rモデル)があります(Bakker & Demerouti, 2007 ; Schaufeli & Bakker, 2004)。
(参考:弊社機関誌「RMS Message」vol.57 特集1レビュー「ワーク・エンゲイジメントの理論的背景〜そのメカニズムと応用のポイント〜」図表2)
*2 マルチレベル分析に先立ち、結果変数としてパフォーマンスを設定し、説明変数には何も投入しないnullモデルにもとづいて級内相関係数(intraclass correlation coefficient, ICC)を計算すると、14.89%でした。このICCの大きさから、本研究での対象データには階層性が認められ、マルチレベル分析の適用に十分な程度であると判断しました(Hox,2010)。
*3 「マネジャーの関与が強いグループ」か「マネジャーの関与が弱いグループ」かどうかを示す変数と、個人のエンゲージメントとのクロスレベル交互作用項が10%水準で有意となっていました。


参考文献
・Bakker, A.B., & Demerouti, E. (2007). The Job Demands‐Resources model: state of the art. Journal of Managerial Psychology, 22(3), 309-328.
・Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The "what" and "why" of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227–268.
・Halbesleben, J. R. B. (2010). A meta-analysis of work engagement: Relationships with burnout, demands, resources, and consequences. In Bakker, A. B., & Leiter, M. P. (Eds.) Work engagement: A handbook of essential theory and research (pp. 102-117). Psychology press.
・Hox, J. J. (2010). Multilevel analysis: Techniques and applications (2nd ed.). Routledge/Taylor & Francis Group.
・Mintzberg, H. (2009). Managing. San Francisco, CA: Berrett-Koehler, Inc.
・三隅二不二(1966).新しいリーダーシップ−集団指導の行動科学.ダイヤモンド社.
・三隅二不二(1986).リーダーシップの科学−指導力の科学的診断法.講談社.
・小方真(2021). HRのニューノーマル−リアル&テレワークのハイブリッド環境下の人事とは 月刊人事マネジメント3月号 pp19-32.
・Schaufeli, W. B., Salanova, M., González-Romá, V., & Bakker, A. B. (2002). The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmatory factor analytic approach. Journal of Happiness studies, 3, 71-92.
・Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement: A multi - sample study. Journal of organizational Behavior, 25(3), 293-315.
・島津明人(2014). ワーク・エンゲイジメント−ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある每日を.労働調査会.
・Raudenbush, S. W., & Bryk, A. S.(2002)Hierarchical Linear Models: Applications and Data Analysis Methods, Second Edition. Thousand Oaks: Sage.

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