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研究レポート
管理職志向と専門職志向による相違点
「30代~50代ビジネスパーソンに対するキャリア意識調査」から、2010年9月の研究レポート「やっぱり部長くらいにはなりたい~管理職志向・専門職志向と昇進希望の実態調査報告~」では、管理職志向より専門職志向のほうが多く、一般社員で専門職を志向している人のうち7割弱が昇進を希望し、4割弱は部長クラスまでの昇進を希望しているという結果についてご報告しました。続く10月の研究レポート「昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響~見通し不全型と意欲喪失型のキャリア停滞~」では、昇進可能性やキャリアの継続性に関する本人の認知が、仕事のやりがいや意欲の低下にどのような影響を及ぼすのかを検証した研究結果についてご紹介しました。そこで、本レポートでは、前回のレポートで検証したモデルが管理職志向・専門職志向によって相違があるのかどうか、その点について分析した研究結果についてご報告いたします。
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主幹研究員
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主任研究員
昇進可能性や仕事経験が蓄積され専門性の向上につながっていると感じるキャリアの継続性に関する本人の認知と、仕事のやりがいや意欲低下との関連性について、前回のレポートでは、
●昇進機会が失われたと感じると、キャリアの見通しが失われたと感じ、それが働く意欲の喪失につながる
●昇進機会とは別に、キャリアに継続性があると感じれば、キャリアの見通しは失われているとは感じず、働く意欲も低下しない
●キャリアの見通しが失われると感じると、何とか環境を変えたいとの意志が見えるが、そうでない場合には、あきらめが生じて働く意欲が失われ、現状に甘んじて変化を求めなくなる
といった分析結果についてご報告いたしました。
本レポートでは、その際に用いた共分散構造分析のモデル図に基づいて、それぞれのパス(影響)に管理職志向・専門職志向の違いがどのように表われるのか、検証を試みました。
分析対象データは、前々回、前回のレポートで用いた「30代~50代ビジネスパーソンのキャリア意識調査」と同様のものです(30~54歳の会社勤務男性500名)。
使用した尺度は以下の6つです。
(1) 「見通し不全型の停滞感」「キャリアの先行きに期待が持てない」などの5項目でα= .83(2) 「意欲低下型の停滞感」「新しいチャレンジをするつもりはない」などの3項目でα= .76(3) 「昇進可能性の認知」「将来順調に昇進すると思う」などの2項目で項目間相関 r= .68(4) 「キャリアの継続性の認知」「これまでの仕事経験が専門性向上に役立っている」などの5項目でα= .84(5) 「仕事のやりがい」「自分で判断し、主体的に進めることが求められる」などの7項目でα= .87(6) 「新天地への志向」「現在の仕事をこれ以上続けたくない」などの6項目でα= .92
分析方法としては、共分散構造分析の多母集団同時分析を、管理職志向と専門職志向の2群について行いました。この分析方法を用いることで、志向の異なる2群で変数間の関係性に違いがあるかを検討することが可能になります。群の分類に際しては管理職志向・専門職志向をたずねた2項目(「あなたは管理職(組織やグループを統括・運営する立場)にどれくらいなりたいですか」「あなたは専門職(専門的視点から企画や商品開発・研究を行う立場)にどれくらいなりたいですか」)で、より高い評定値をつけたほうの志向に当てはまるとし、両方に同じ評定を行ったものについては分析から除外しました。管理職志向の人が132名、専門職志向の人が202名で、各群の職種の内訳は図表01のとおりです。
図表01 管理職志向・専門職志向の職種内訳
分析結果は図表02、03のとおりです。
管理職志向、専門職志向ともに、昇進可能性が低いと認知することが「見通し不全型の停滞感」につながる。その影響は、管理職志向のほうが専門職志向よりも強い。
研究レポート「やっぱり部長くらいにはなりたい~管理職志向・専門職志向と昇進希望の実態調査報告~」でもご報告したとおり、専門職になりたいと答えた人であっても、68.8%の人が「できる限り昇進したい」「生活と調和の取れる範囲で昇進したい」との意向をもっていることが明らかになりましたが、管理職志向、専門職志向ともに、昇進可能性の低さが「見通し不全型の停滞感」につながるようです。その程度は“組織やグループを統括・運営する立場”を希望する管理職志向のほうが大きいことが確認されました。
専門職志向の人のみ、昇進可能性が低いと思うと仕事のやりがいが低下する。
結果の解釈に際して、太田肇氏による「組織人」「仕事人」の概念を参考にしました(『仕事人と組織 -インフラ型への企業革新-』太田肇著(1999))。個人と組織の関係性において、所属組織にコミットし、そこから得る報酬や誘因によって主に欲求の充足を得る「組織人」と、所属組織よりも自分の仕事に強くコミットし、仕事を通して欲求の充足を得る「仕事人」という2通りの働き方があるというものです。
「組織人」にとって、昇進は自分のコミットする組織への貢献が成功した証しであり、職業生活における主要な目標であるため、管理職志向の人は「組織人」にあたると考えることができます。一方、「仕事人」にとっては、特定の仕事分野で第一人者になることが職業人生の到達目標になります。「仕事人」には、研究職、技術職、法律やマーケティングの専門家、コンサルタントなどが含まれますが、これらの職業に就いている人の多くが専門職志向をもっていると考えられます。
さらに同著では、「仕事人」であっても自分がやりたい仕事に十分コミットできるような環境、たとえば、収入や肩書きなどの提供を組織に求める、とあります。そこで、専門職志向の人にとって、昇進することは、“仕事で満足のいく成果をあげるための発言力や裁量を得るための手段”であるため、昇進の道が断たれることはやりたい仕事をする可能性が失われることを意味し、仕事のやりがいの低下を招いているのではないでしょうか。それに対して、「組織人」にとっての仕事とは組織から要請のあった課題をしっかりと遂行することであって、内容に関するこだわりはさほど強くないことから、管理職志向の人にとって、昇進の道が断たれることと仕事のやりがいとは直接的な関係はないのかもしれません。
専門職志向、管理職志向ともに、キャリアが継続して積み上がっていないと思うと、仕事のやりがいが低まるが、専門職志向の人のみ「意欲喪失型の停滞感」が高まる。
専門職志向の人にとって、自分の専門性を高めるようなキャリアの積み重ねが重要であるため、仕事のやりがいや仕事の意欲への影響が生じるものと考えられます。一方、「昇進・昇格実態調査2009」でも、「昇進・昇格選考において期待し求める要件(課長)」のうち、「自ら担当する職務に関するスキル・知識」「自ら担当するビジネスに関する専門性」に対する人事の回答はそれぞれ44.7%、37.1%となっているように、管理職になるためにも、ある程度の専門性を身につけることが組織から求められています。専門性向上に資するキャリアの継続性は専門職志向ほどではないにしてもある程度の重要性をもつため、仕事のやりがいには影響を与えるものの、意欲低下までは引き起こさないのではないかと考えました。
「見通し不全型の停滞感」をもつ場合、いずれの志向の人でも新天地を志向する程度が高まるが、専門職志向の人のほうが管理職志向の人に比べてその傾向が強い。
専門職志向の人にとって、昇進が自分の求める仕事を行うことを可能にする条件である場合、昇進できないなら現在の組織や部署にいる意味がないことや、もともと組織へのコミットメントが高くないことから、「見通し不全型の停滞感」が強くなると、社内外を問わず新しい環境への移動を志向するものと考えられます。一方、仕事の割り当ては組織によって決定され、与えられた仕事を遂行することで組織に貢献したいと考える管理職志向の人にとっては、仕事や職場を変えることは何の解決にもならないし、コミットしている現在の組織から離れることへの抵抗が予想されることから、専門職志向の人に比べると、新しい環境への移動をあまり志向しないのではないかと思われます。
その他、2群間の値が有意に異なっていたのは以下の2つのパスです。●管理職志向の人は、仕事のやりがいが低下すると意欲喪失型の停滞感を感じる●専門職志向の人は、キャリアの見通しが立たないと思うと意欲喪失型の停滞感を感じる
管理職志向の人にとって、仕事にやりがいがないと感じることは、全体的な意欲喪失を招き、キャリアの見通しが立たないと感じたとき、それが全体的な意欲低下につながる程度は、専門職志向の人のほうが強くなりました。
キャリアの観点から重要であると思われる昇進可能性の認知とキャリアの継続性の認知が働く意欲に与える影響が、管理職志向と専門職志向によってどのように異なるかを検証したところ、いくつかの傾向の違いが見られ、以下のような示唆が得られました。
●管理職志向・専門職志向によって異なる昇進の意味管理職志向の人のほうが、昇進の可能性が低いと認知することがキャリアの見通し不全による停滞感につながる程度は大きかったものの、専門職志向の人でも同様の影響が見られました。専門職志向の場合のみ、昇進可能性の認知が仕事のやりがいをあげることにつながっていたことから、昇進はやりたい仕事を行うのに必要との認識があることがうかがえ、これが専門職志向であっても昇進したいと考える理由のひとつと考えられます。一方、管理職志向の人にとっては、昇進可能性の認知と仕事のやりがいは関係がありませんでしたが、「組織人」として組織から与えられるものを仕事と捉えているならば、そして昇進は与えられた仕事を通して高い成果をあげた結果であるとするならば、両者の間に関係がないのも納得のいく結果であると言えます。
●管理職志向・専門職志向ともに重要なキャリアの継続性専門職志向の人にとって特に関心が高いと考えられるキャリアの継続性については、専門職志向の場合のみ、キャリアの継続性がないと思うことが全体的な意欲低下を招いていました。一方、キャリアの継続性の認知が仕事のやりがいに与える影響は、予測に反して管理職志向の人であっても専門職志向の人と同程度であることがわかりました。理由としては、ある程度の専門性の獲得が昇進の前提条件となっていることが考えらます。また、本データでも管理職志向の62.4%が希望するポジションまでの昇進はかなわないであろうと予想している中で、特定分野の専門性を高めることで組織貢献を目指すのかもしれません。
●自らのキャリアをコントロールしようとする専門職志向仕事中心にキャリアを組み立てる専門職志向の人にとって、やりたい仕事ができそうにないと思ったときに環境を変えたいと思う程度は、管理職志向の人よりも強いという結果でした。また、「見通し不全型の停滞感」が「意欲喪失型の停滞感」に及ぼす影響も、管理職志向よりも専門職志向のほうが強いことがわかりました。管理職志向の人は、組織に十分に貢献していれば結果がついてくると考える一方で、専門職志向の人のほうが自らのキャリアをコントロールしようとする意識があるのかもしれません。管理職志向の人は現在の仕事でやりがいがあれば全体的な意欲の低下を防ぐことができるとの結果に対して、専門職志向の人にはこのような関係性が見られなかったことからも、専門職志向の人のほうが自分のキャリアの先行きにより敏感であることがうかがえます。
今回の一連の研究では、昇進機会が減少することが意欲低下にどれくらい影響があるのか、昇進に代わる動機付けをどう考えたらよいかを模索することが目的のひとつでした。同じく昇進を希望しているという現象があったとしても、専門職志向の人が求めているのは納得のいく仕事を行える機会であり、管理職志向の人が求めているのは自分の貢献が認められている証しであるとすれば、これらの欲求を昇進以外の方法でどう担保していくかを考えることで、意欲の低下を未然に防ぐ効果的な対処方法が見出せるかもしれません。
研究レポート 2024/09/30
―能力適性検査にまつわる疑問― 受検者によって出題される問題が変わるのは不公平か?(前編)
―能力適性検査にまつわる疑問― 受検者によって出題される問題が変わるのは不公平か?(後編)
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