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Vol.4 エンゲージメントを高めるマネジメント行動を抽出する

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HR Analytics & Technology Lab の研究テーマ
Vol.4 エンゲージメントを高めるマネジメント行動を抽出する

組織サーベイと360度サーベイのデータを組み合わせることで、エンゲージメントを高めるマネジメント行動を抽出することができる。今回は、その方法と留意点をお知らせする。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
研究主幹

入江 崇介(いりえ しゅうすけ)
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エンゲージメントなどの組織のコンディションを確認するための組織サーベイ、従業員個々人の強み・弱みを確認するための360度サーベイ。これらはそれぞれ個別の施策として行われることが多い。また、組織サーベイは人事企画や経営企画を管轄する部署が実施し、360度サーベイは能力開発を管轄する部署が実施するなど、異なる主管部署によって実施されることも多い。このようなこともあってか、現時点では両者のデータを組み合わせた分析は、思いのほか実施されていない。そこで、今回は両者を組み合わせた分析のイメージと、そこでの留意点についてお伝えする。

組織サーベイと360度サーベイを組み合わせた分析のイメージと効用

今回紹介する分析の結果得られる成果物のイメージは、図表01である。

<図表01>分析のイメージ

分析のイメージ

※矢印は関係性があることを示す。また、破線で囲んだ職場要因、マネジメント行動は、関係性が確認できなかったものである。

まず、組織サーベイを用いた分析を行う。組織サーベイでは、エンゲージメントのように「最終的に高めたいもの」だけでなく、職場でのコミュニケーションの活性度など、エンゲージメントの向上に資する可能性のある、職場の実態を確認するためのさまざまな質問項目も用意されていることがある。これらを用いて、のちに紹介する方法によって、エンゲージメントを高める職場要因を抽出していく。

また、360度サーベイでは、戦略推進行動やメンバー育成行動など、さまざまな側面から管理職のマネジメント行動を確認している。これらのマネジメント行動のなかには、エンゲージメントを高める職場要因のそれぞれに対し、それらを高めるものが含まれていると考えられる。よって、エンゲージメントを高める職場要因と、それらのマネジメント行動との関係も確認していく。

それによって、図表01のようにエンゲージメントを高める職場要因、その職場要因を高めるマネジメント行動を抽出し、モデルを描くことができるのだ。

このような分析を行うことで、組織サーベイや360度サーベイで聞き取りを行っている項目のうち、特に重視すべきものは何かを見分けることができる。それにより、特に重視すべきものに絞って改善活動を行うなど、施策の絞り込みを行うことができる。

また、自社の「エンゲージメント向上モデル」のようなものを作り上げることができれば、それを統合報告書等で社外に示すこともできる。

分析に用いるデータ

分析に用いるデータのイメージは、図表02である。

<図表02>用いるデータのイメージ

用いるデータのイメージ

ポイントは、組織サーベイ、360度サーベイとも、個々人の回答結果を用いるわけではないということである。組織サーベイであれば課などの職場ごと、360度サーベイであれば被評価者である管理職ごとに、回答者の平均値を算出し、その結果が利用されていることが多い。よって、課などの職場ごとの組織サーベイの結果と、その職場を管轄する管理職に対する360度サーベイの結果、それらをマッチングして分析に用いる。

分析に用いる手法

図表01のようなモデルを作るために関係のある要因を抽出する手法を、ここでは3つ紹介する。それぞれの方法の詳細については、リンク先の記事をご確認いただきたい。

1目の方法は、「相関分析」である。2つの変数の直線的な関係の強弱は、ピアソンの積率相関係数によって確認することができる。よって、例えばエンゲージメントと職場要因の間の相関係数を確認すれば、関係の強い要因をピックアップすることができる。

2つ目の方法は、「重回帰分析」である。重回帰分析を用いることで、他の変数の影響を統制した際の、目的変数(従属変数)と説明変数(独立変数)の関係性の強弱を確認することができる。扱いに注意が必要だが、ステップワイズ法などの変数選択法を用いることで、要因の絞り込みを行うこともできる。

3つ目の方法は、「共分散構造分析」である。この方法を用いるメリットの1つは、図表01のようなモデル全体のあてはまりの良し悪しを確認することができることだ。

まずは最もシンプルな相関分析からスタートし、その後、統計解析の手法になれてきたら、重回帰分析や共分散構造分析の利用にチャレンジすることをお薦めする。

留意点

今回紹介した方法は、厳密な因果関係を分析するための方法ではない。なぜならば、エンゲージメント指標と職場要因にあたる質問項目への回答は同じタイミングに取得するものが多く、「結果であるエンゲージメント指標よりも、職場要因にあたる質問項目に対する回答を先に取得している」のように、厳密な因果の時系列を満たすものではないからだ。

また、モデル上は最も起点となる部分に置いているマネジメント行動を測定する360度サーベイよりも、組織サーベイの方を早い時期に行う企業も少なくない。よって、組織サーベイと360度サーベイについても、厳密な因果関係の時系列にならないこともある。

さらには、人事異動等により、組織サーベイ実施時と360度サーベイ実施時で、職場を構成するメンバーが異なることもあり、両者が厳密にマッチするデータとはなっていないこともある。

よって、相関分析などの結果を確認しつつ、自社の実態なども踏まえ、抽出されたエンゲージメントと職場要因、職場要因とマネジメント行動の関係が妥当なものかを考察し、最終的に妥当感の高いモデルを作り上げる必要がある。

おわりに

厳密な因果関係の検証を行うためには、上記のような問題をクリアする必要がある。しかし、そこまでの水準に達しなかったとしても、組織サーベイと360度サーベイを組み合わせた分析を行うことで、一定程度参考になる示唆は得られることが多い。本記事が、これから組織サーベイと360度サーベイのデータ活用に挑戦しようという方の参考になれば幸いである。

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