国際的な経営学のトレンド Academy of Management(米国経営学会)2021 参加報告
マネジャーに経営学の光を当てる

Academy of Management(米国経営学会)2021 参加報告 マネジャーに経営学の光を当てる
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤澤 理恵
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
仲間 大輔

2021年度のAcademy of Management(AOM:米国経営学会)年次大会が開催されました。昨年度に引き続き2度目のオンライン開催です。今年度は当学会史上初めて、事後の動画視聴と論文ダウンロードのみという参加プランも提供され、制約があるなかでも新たな取り組みに挑戦し続ける当学会の意欲的な姿勢が垣間見られました。


大会の概要


AOMは世界最大の経営学会で、例年の参加者は1万人以上にのぼります。また、米国からのみならず世界中から経営学者が集まることも特色です。昨年度は一昨年度と比べて参加者数・発表者数が減少しましたが、今年度はコロナ禍前に近い水準でした(図表1)。

<図表1>2021年大会の参加者・発表数など(すべて10/22時点の発表数字)


<図表1>2021年大会の参加者・発表数など

大会テーマ:マネジャーについてあらためて考える

今年度の大会テーマは、「マネジャーをマネジメントの世界に取り戻す(Bringing the Manager Back in Management)」と設定されており、マネジャーの果たす実践的な役割と、その学術的・理論的な取り扱いについて、学会として再考するようなカンファレンスが多く開かれました。

ここで「マネジャー」とは、現場の「管理職」、「経営者」などの企業組織のマネジャーだけでなく、地域や世界のリーダーといった範囲までも含む広い概念として捉えられています。

そうした「マネジャー」を、「マネジメント(研究)の世界に取り戻す」というテーマ設定は、一見すると不思議に思われるかもしれませんが、公式の大会テーマの説明のなかでも、「“マネジャー”に対して研究者のフォーカスがほとんど当てられていないのは奇妙(odd)なことである」という現状認識が語られ、「私たちの研究が実践的なマネジャーが直面するイシューにどのくらい対処できているかは必ずしも明確ではない」という学会としての危機感が述べられています(※1)。パンデミックや社会的不安の高まりといった不確実性に直面する現代社会において、必要とされる「マネジャー」像をあらためて示していくことは、経営学会の果たすべき重要な社会貢献の1つであると思われます。そうした意味で、今大会のテーマ設定は、非常に納得でき、かつ時機を得たものであると感じました。

大会テーマに則したセッションは、大会横断(All-Academy)カンファレンスということで、後述の研究各部門主催のセッションと並行して開催されています。例年どおり多くのセッションが開催されましたが、本レポートでは、そのなかでも特に印象的な議論が交わされていたセッション2つを紹介します。

マネジャーを経営のなかに取り戻す

1つ目は、経営学会の新会長となったHerman Aguinis博士(George Washington大学)がオーガナイザーを務める「どのようにマネジャーをマネジメントの世界に取り戻すか:影響力のある研究者たちの見解」というセッションです(※2)。タイトルのとおり、著名な研究者たちが集って意見交換が行われ、参加者からも「ずっと読んでいた論文の著者たちを(オンラインの画面越しとはいえ)見ることができて嬉しい」という声が上がる、豪華なセッションとなりました。

セッションのなかでは、「経営学がマネジャーを失った」背景として、「経営学では、複雑で予測が困難な“マネジャー”という要素をできるだけ排除する形で理論が組み立てられてきた」という学術的な潮流がDavid Teece博士(California大学Berkeley校)によって説明されました。Teece博士は、ダイナミック・ケイパビリティ理論の提唱者として非常に著名な研究者ですが、マネジャーの役割を中心に据えたという点に自身の理論の意義があったことを指摘すると同時に、そうした観点に立った研究の重要性を訴えました。

また、新会長であるAguinis博士も、組織行動やHR(人的資源)を専門とする研究者としての観点から大会テーマについて論じています。AmazonやAdobeなどの著名企業が伝統的な業績マネジメント(年に1回の業務評価を行うプロセス)を取り止めると発表したことが話題になっていますが、Aguinis博士は、これらの潮流は業績マネジメントに関してこれまで蓄積されてきた学術的な知見がマネジャーの役に立っていないことの証左であると指摘し、「マネジャーを取り戻す」ことがこうした現状を変えるために必要となっていると論じました。

Aguinis博士が指摘したことのうち興味深かったのは、「マネジャーを取り戻す」必要があるのは、研究のみならず、実務的にも同様のことがいえるとの議論です。つまり、業績マネジメントは従業員の行動を企業の戦略目標と紐付けるという意味でマネジャーにとって有用な機会であるはずなのに、そうしたプロセスのなかでマネジャーが主体者となっておらず(“the entire process is not owned by the managers”)、それがゆえに業績マネジメントが機能しないという結果になっている、ということです。業績マネジメントのプロセスを、人事部門が主宰するものからマネジャーが中心に運用するものに移行することが実務的にも必要であり、同時にそうした観点から学術知見を再編成していくことが研究の社会的な意義の向上につながる、という議論が展開され、非常に説得力を感じました。

リーダーシップとマネジメントとを統合して考える

もう1つご紹介するセッションは、「リーダーシップをマネジャーのもとに取り戻す:どのようにしたらリーダーシップの理論はマネジャーの課題によりよく応えられるか」という、リーダーシップ(リーダー)とマネジメント(マネジャー)の関連についてのセッションです(※3)。このセッションでは、リーダーが過度に美化(romanticize)された現状と、それと対比してのマネジャーについての関心の少なさが主題となり、ここでも、学術と実務の現状がパラレルに論じられました。

最初の登壇者であるHannes Leroy博士(Erasmus Rotterdam大学)は、リーダーとマネジャーについて人々がもつイメージに関する調査データを紹介し、リーダーについては「導く」や「動機づける」といった行動との結びつきが、マネジャーについては「監督する」や「監視する」といった行動との結びつきが連想されるという違いがあることを示しました。そして、リーダー的な行動がマネジャー的な行動よりもより価値があるものだと考えられている結果を併せて紹介しました。

そうした知見を出発点として、パネリストの間で、リーダーシップとマネジメントという2つの軸を対立概念としてではなく、統合した視点で捉えることが必要ということがさまざまに論じられました。なかでも、Olga Epitropaki博士(Durham大学)は、リーダーとマネジャーが背反的なもの(どちらか1つを選ぶようなもの)とする枠組みを認識論的な観点から批判し、より高次の概念である「リーダー」と、そのビジネスや組織の文脈における表れともいえる「マネジャー」とを対置するような議論はそもそもミスリーディングであると指摘しました。また、Zahira Jaser博士(Sussex大学)は、「マネジャーはリーダーになるべきである」という主張が、これまでのリーダーシップ研究者から発されてきたことを問題視しました。Jaser博士は、 “どのようにしてマネジャーはリーダーになるか”や“マネジャーがリーダーになるとき”といった題名の論文が発表されてきたことを例に、マネジメントに対するリーダーシップの優位性が強調されてきた経緯を振り返りながら、リーダーでもありフォロワーでもあるような、2つの役割を同時に果たす存在として(ミドル)マネジャーを再定義すべきであると主張しました。

さらに、「リーダーシップだけでなくフォロワーシップについてもトレーニングが必要か?」という参加者からの質問をきっかけに、Melissa Carsten博士(Winthrop大学)は、「リーダーになりたくない」と考える人が相当数存在しているという、自身の定性的な調査経験を踏まえた知見を紹介し、パネリストの賛同を集めました。そうした状況を踏まえ、Michelle Bligh博士(Claremont Graduate大学)は、これからの組織が直面するチャレンジとして、マネジャーによるリーダーシップの発揮だけでなく、マネジャー以外の立場からリーダー的な行動を行うことをどのように支援するかという点があることを挙げ、フォロワーに対するトレーニングの必要性を論じました。「ビジョナリーという言葉はこれまでリーダーシップを形容するのに使われてきたが、“後ろからリードする”という意味でのフォロワーシップにも同様に該当すると考えるべきであり、フォロワーに対する啓蒙やトレーニングは今後の組織にとって重要性を増すだろう」という指摘をもとに、活発な議論が交わされました。

「マネジャーになりたくない」従業員が増えているというのは、日本でも問題になっており、弊社の調査でもそうしたトレンドが示されていますが(※4)、同様の問題が米国や欧州でも存在することを知ると共に、リーダーシップとは別の次元での、マネジャーの役割やマネジメント行動を考える重要性をあらためて認識する機会となりました。

総じて、こうした大会テーマにまつわる議論は、個と組織を生かすマネジメントソリューションを探求する弊社にとっても関連性が深いものであり、学術知見と実務との接続がますます重要となってくるという実感を強くするものでした。

研究部門ごとのセッション

次に、部門ごとの研究発表について紹介します。研究発表のセッションは26の研究部門(Division And Interest Groups)によって運営されており、営利・非営利を含むさまざまな組織の、戦略、構造、ルールやプロセス、イノベーション、組織開発、働く人の組織内行動やキャリアなど、多様な視点・分析レベルの研究が積み重ねられています(図表2)。

<図表2>主な研究部門(発表論文数の多い順)


<図表2>主な研究部門


大会後の動画視聴や論文ダウンロードが可能なオンライン開催では、参加できるセッションが物理的に限られるリアル開催以上に目移りします。年次大会では優秀論文(Best Papers)が選ばれていますので、当研究所の専門に近い領域からいくつかご紹介しましょう。大会テーマ「マネジャーをマネジメントの世界に取り戻す(Bringing the Manager Back in Management)」に合わせて、マネジャーに関わるテーマが多く選ばれている印象です。

矛盾のあるリーダーが生きる職場

Organizational Behavior(OB:組織行動)Divisionでは、組織におけるさまざまな個人の行動や人々の関係性を扱います。上司やリーダーが部下や職場に与える影響も、関心を集めるテーマの1つです。

OB Divisionが選んだBest Papersの1つは、「矛盾のあるリーダーシップ」が職場の創造性に与える影響についてのものでした(※5)。

不確実で変化の速い環境において上司が一貫した行動を取ることは難しいことです。しかし著者らによれば、「部下を平等に扱いながら、個別的にも扱う」「仕事の結果を強く要望する一方で、柔軟な働き方を許容する」「自律性を促しながら、意思決定により統制する」といった矛盾のある上司の行動は、時に創造性を高め、時に創造性を阻害します。矛盾のある上司の行動により、(1)役割の曖昧さが高まると創造性の妨げとなるが、(2)部下が「認知的な柔軟性」をもち、また「仕事の複雑性」が高い場合には、メンバーの「創造的自己効力感」が仲立ちとなってむしろ職場の創造性につながると報告されています。

「認知的な柔軟性」とは、物事の他の可能性や他のやり方を考えてみるといった行動特性とされます。著者らは、リーダーの矛盾のある行動は「諸刃の剣」であると結んでいますが、むしろメンバーの能力の方が職場の創造性を左右すると捉えると示唆深いです。不確実性の高い時代においては、職場の人々が柔軟なものの見方ができること、曖昧な状況でも前向きさを失わないことが創造性の資源となるようです。

被評価者でもあるという意識がマネジャーの評価行動を磨く

Human Resources(HR:人的資源) Divisionの関心は、パフォーマンス・マネジメントやタレント・マネジメント、リモートワークなど働き方や労務のマネジメント、チームの多様性といった人材配置のマネジメントなど、HRマネジメントのさまざまな側面にわたります。人のマネジメントではなくて、「パフォーマンスをマネジメントする」といった視点のもち方は欧米的でもあり、日本で人事管理に取り組むうえでの視点を広げる参考になりそうです。

HR Divisionが選んだBest Papersの1つは、マネジャーの「役割アイデンティティの複雑性」が評価に影響を与えるというものでした(※6)。アイデンティティの複雑性研究では、複数の役割を同時に意識することが、行動のバリエーションや工夫を増やす「資源」となることが知られています。本研究でも、マネジャーが自身を評価者であり被評価者でもあると意識している(=アイデンティティの複雑性がある)場合の方が、評価そのものの質や、評価をめぐる部下とのコミュニケーションの質を高めることが分かりました。日本でも導入が進む多面評価や360度評価の意義を高める結果ともいえそうです。

自律の感覚は2段階で養われる

Managerial and Organizational Cognition(MOC:経営・組織における認知) Divisionは、経営行動や組織行動を、人の認知の観点から捉えようとします。人の主観的な解釈から無意識の反応までもが含まれるユニークな領域ですが、社会が複雑性を増すなかで、人の認知のプロセスやその多様性を知る意義は高まっているといえるでしょう。 MOC Divisionが選んだBest Papersの1つは、「自律的」な働き方の認知プロセスについてのものでした(※7)。

いわゆるノマドワーカーと呼ばれる働き方を選択したフリーランスの労働者が、「場所にとらわれない働き方をしている」という認知に至るには、「自律性の2段階補正(キャリブレーション)」というプロセスがあることが報告されています。当初は伝統的な労働環境から解き放たれて自律性を最大限拡げることを基準に働き方が選択されますが、やがて無制限の自由の欠点に気づき、自ら制約を選んで自律度を下げる2段階目の補正を行うといいます。企業で働く私たちの自律のプロセスも案外似ているかもしれません。まずは制約からの解放をひたすら望んだとしても、それがかなったあとには冷静に、「適度な」自由へと補正するものなのでしょう。

紹介したBest Papersは、マネジャーとメンバーの双方に多様性や柔軟性を促進することが、組織の創造性やパフォーマンスを高め、強いチームをつくることを示唆していました。これまで経験してこなかったような多様性や柔軟性を従業員に認めることや自身が経験することには不安や怖さが伴いますが、思い切ってそれらを試し、資源としていけることが、これからのマネジャーに求められているのかもしれないと考えさせられた2021年度の大会でした。


※1 AOM大会公式サイト 大会テーマ「マネジャーをマネジメントの世界に取り戻す(Bringing the Manager Back in Management)」
※2 How to Bring the Manager Back in Management: Views from Highly Cited Scholars (session 200)
※3 Bringing Leadership Back to Managers: How Leadership Theories can Better Respond to Managers’ Issues (session 138)
※4 新人・若手を対象とした意識調査では、管理職志向は2010年より継続して減少傾向にあります。肯定群(「なりたい」「どちらかといえばなりたい」と回答している群)は、2010年の調査では55.8%であったのが、2013年には45.0%となり、2016年の調査では31.9%まで下落していました(リクルートマネジメントソリューションズ, 2017「新人・若手の意識調査2016」)。 さらに、人事部門に対する調査でも管理職忌避の傾向が確認されており、「昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」という回答は、2016年調査の32.7%から、2021年の調査では57.4%まで高まっています(リクルートマネジメントソリューションズ, 2021「人材マネジメント実態調査2021」)。
※5 Geng, Z., Wang, Y., Wang, H., & Chen, W.(2021) The Two Faces of Paradoxical Leader Behavior in Workplace Creativity: Motivation and Hindrance.
※6 Baumann, H. M., Schleicher, D. J., Robin, J., Sullivan, D. W., & Yim, J.(2021) Two Hats Are Better Than One: How Managers’ Role Identity Complexity Impacts Performance Management.
※7 Prengler, M., Klotz, A., & Murphy, C. B. (2021) A Grounded Model of Autonomy Calibration in Location-Independent Work Arrangement.

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