国際的な経営学のトレンド Academy of Management(米国経営学会)2016 参加報告<後編>

執筆者情報
組織行動研究所
研究員
藤澤 理恵

AOM(Academy of Management:米国経営学会)の第76回年次大会が、カリフォルニア州アナハイムで5日間(8月5日〜9日)にわたって、開催されました。今大会のテーマは“Making Organizations Meaningful”。学会レポート<前編> では、企業組織や個人の仕事における「meaningful(意味のある)」を考える潮流と視点についてご紹介しました。<後編>では、「社会」と「会社」、仕事の「意味」と「成果」をつなぐヒントとなるように思われた、研究発表からのいくつかの示唆を報告します。


「大義」と「働く意味」の交差点、社会貢献活動 (employee volunteering)

学会レポート<前編>では、「意味のある」組織や仕事が、CSR(企業の社会的責任)やcalling(コーリング、天職)といった視点で議論され、「自分のためにではなく、もっと大きな何かのために活動したいという欲求」「他者とつながり、自分の外にいる誰かのために何かを行うという欲求」という自己超越の欲求に従うことについての研究や議論が行われていることをご報告しました。

そのような「CSR」と「calling」、企業の社会的責任と個人の自己超越欲求が重なりうる活動への期待をもって、従業員による社会貢献活動(employee volunteering)についてのセッションにいくつか参加しました。従業員の社会貢献活動や企業のCSR活動と仕事・組織成果との関係をテーマとした複数のセッションが開かれており、ソーシャル・ワークや非営利組織の領域とビジネスの領域とが互いに接点を探っているという潮流を感じられたことが有意義でした。

研究発表にも期待したのですが(Session 845:Volunteering as a Source of Meaningfulness、Session 1480:A Multidisciplinary View of Volunteer Motivation & its Organizational Impact、Session 1614: Employee-Level Outcomes of an Organization-Sponsored Cause など)、残念ながら個人の仕事や企業組織へのインパクトを具体的に実証した研究はほとんど見られず、今後の研究を奨励する提言がなされるにとどまりました。

・社会貢献の経験が組織市民行動などの組織貢献行動を促進するか? など組織成果との関連を検討すること
・「Do you value My values?」(私の価値観を評価しますか?)……企業の評価軸と個人の価値観が重なることの影響に着目すること

などが今後の研究の有望な方向性と指摘されました。日本でもこれから、会社組織への帰属意識や忠誠心が当たり前の規範ではなくなっていくとすれば、プライベートにおいて自発性や利他心が高い人を評価したり、個人の価値観と組織の評価が共鳴することによりモチベーションを喚起したりすることへの注目が高まるかもしれません。

主体的行動の、“ダークサイド”!?

天職(calling)が経営への提言やイノベーションを促進するという研究があることは学会レポート<前編>でお伝えしました。イノベーションとまではいわなくとも、従業員に主体性がほしいと考える経営者や管理者は多いでしょう。仕事の意味と、主体性や創造性との関連を問うセッションも多く開かれていました。

しかし、主体性という言葉はポジティブな響きをもちつつ曖昧です。主体性を発揮したつもりが、「そこまでは期待していない」「波風を立ててくれるな」と苦い顔をされたというような経験をおもちの方も、もしかしたらいるかもしれません。このようなビッグワードを丁寧に分類し、名前をつけた一つひとつの態度や行動について、何が動機や促進要因となるか、結果としてどのような功罪が生じるかというようなことを検討し明らかにすることが、アカデミック・コミュニティの役割であり得意領域といえます。Session 398:The Future of Proactivity in Organizations はまさにそのように展開され、主体的(proactive)行動に関する複数の観点が提示されました。

これまでも、ビジョナリーでポジティブなリーダーシップや、個人の自律(autonomy)や学習機会(knowledge & learning)のある職務設計が主体的な行動を喚起することは知られてきました。これらに加えてセッションでは、より多くの人が参加できる目標の模索、改善行動に伴う矛盾や“ダークサイド”(闇の部分、ネガティブな側面)を踏まえ悪影響を取り除く配慮や心理的安全が重要との提言が行われ、具体的には次のような観点が提示されました。

・上司や会社への提言行動(voice)に加え、ボトムアップで時間をかけて“social movement”を作り出すキャンペーン的な行動である問題提起行動(issue selling)への着目
・主体的な行動を喚起する仕事環境をトップダウンで作るという側面に着目してきた職務設計(Job Design)に対し、従業員自身によるボトムアップに着目するジョブ・クラフティング(Job Crafting)*1 という概念の提示
・主体性のポジティブ側面だけでなく、ネガティブ側面への着目。改善行動の動機や提案を受ける側の反応には怒りや恐れというネガティブ感情が関連する矛盾がある。主体的行動が悪影響を及ぼし疎まれるような“ダークサイド”を生まないよう他者への影響を吟味することや、職場の心理的安全(psychological safety)に配慮することへの指摘

*1 ジョブ・クラフティング(Job Crafting)
従業員自身が、職務の特性と個人的な欲求・能力・好みとのフィットを高めるために、仕事の認知的な境界、タスクの境界、関係性の境界を変更するという概念。境界の変更が職務デザインと仕事の社会的環境を変えるために、個人にとっての仕事の意味とワーク・アイデンティティが変容するとされる
(Wrzesniewski & Dutton,2001、Berg, J. M et al.,2008 など)

組織における主体性の要因や影響を検討するさまざまな見方が提示され、理解が豊かになる良いセッションでした。意味を感じる仕事がイノベーションにつながるとしても、主体的行動が実を結ぶ道筋が険しすぎては組織に良い成果はもたらされません。「意味」と「成果」をつなぐためには、一面的、一時的、一方向的ではなく、長い時間軸や組織内の相互作用を良い方向に推進する施策、特にボトムアップでムーブメントを作っていくような場づくりが求められているといえそうです。

仕事の役割からはみ出す「遊び」や「思いやり」が、仕事の意味や成果の源泉となる

「遊び(play)」や「思いやり(compassion)」は、自然な人間活動の一部でありながら、仕事上の役割のなかでは発揮されにくい活動・行動であるといえるでしょう。近年、このような役割外の活動に光をあてる全体論的(holistic)な視点や、真正性・本来感(authenticity)を表現することの仕事上の意味や組織への影響の研究が進んできています。

-「遊び」

これまで、少なくとも経営の現場では、「遊び」の価値が積極的に評価されてきたとはいえません。仕事とは相容れない活動と見られたり、仕事との関連が語られる際も、より良い仕事のための息抜きやリフレッシュと捉えられたりしてきました。職場に「遊び」は必要でしょうか。結果の見えない試行錯誤や本来の役割をはみ出した行動は、計画の失敗でしょうか。それとも創造性の源でしょうか。

Session708:Making Work Meaningful through Play は、「遊び」の可能性を考えるシンポジウムでした。「遊びによって仕事を刺激があって耐えられるものにするのではなく、遊びこそが仕事のモチベーションや創造性の源泉だとしたら?」というような投げかけから始まり、次のような研究報告がありました。

・壁にロッククライミングの施設を設けるなどの「職場におけるレジャー(Leisure At Work)」がある場合、それを自分にとってのレジャーと受け止める従業員は社会関係資本(social capital)を高めた
・共創的なイノベーションにおける「ユーモア」の役割の検討。一緒に笑うことが、権力格差を小さくする。それゆえにユーモアはマネジメントのツールとなる
・演劇において役割を演じる(play)ことは、本当の自分を隠す仮面をかぶること。多くの仮面を演じることが、真の自分を生きているという感覚に関連するようだ。「役割の役割」を検討することは有益である

セッションの終わりに、ディスカッサントを務めたミシガン大学のロイド・サンデランズ(Lloyd Sandelands)教授は、「What is Play?」という問いに次のような詩的なコメントで答えました。
Play is Human being.
Play is Essential form of social life.
Play is Joyful. Joy of Being, being together, oneness & togetherness.
Play is becoming good.
Play is creative edge of Love.
Play is social capital.
Play is high quality connection.
Play is innovation process.
(遊びとは、人間である。社会的生活の重要な形態であり、喜び、そこに居ること、一緒に居ること、1つになることの喜びである。よくなることであり、愛の創造的なエッジである。遊びは社会関係資本であり、質の高い関係性であり、イノベーション・プロセスである)

-「思いやり」

思いやり(compassion)は、人の痛みを共に感じ助けになろうとする気持ちや行動などと定義されます(Dutton et al., 2006 など)。職場で「思いやり」を示すことはできるでしょうか。他者の困った事情や弱音を受け入れることは、規律や秩序を乱し、人を弱くし、仕事の停滞を招くでしょうか。それとも職場を強くするでしょうか。

ミシガン大学のジェーン・ダットン(Jane Dutton)教授らのグループは、職場において他者や自己に思いやりを向けることが利己的な規範を弱め組織を協力的にすると指摘します。職場で思いやりを見せる難しさや具体的なプロセスの研究を進めており、今年も Session 1592:Compassion as a resource、Session 1859:Empowering Compassion などのセッションが開かれました。

・上司や会社への提言(voice)は自分の利益を主張する行動と見られがちであるが、他者指向の利他的行動という側面があり、思いやりとの関連が見られたとの報告
・障害者の就労、メンバーの自殺をめぐるコミュニティの動揺など、傷を負ったり汚名を着せられたりした(stigmatized)状態からコミュニティが立ち直っていくプロセスの報告

組織内の属性が多様化すると、互いに理解することが難しい痛みや、差別に似た感情が生じる可能性があります。そこに分断を生じさせずに共創的な関係を築く「思いやり」のプロセスを理解することは、今後日本でも進んでいくと考えられる組織のダイバーシティ化の成否を分ける重要なテーマであると思われました。

柔軟な労働環境の提供は、その会社で働く意味を高める

ダイバーシティに関連した議論の1つである、ワークライフバランスについては、<前編>で紹介したように日本と海外に大きな違いはないようです。今や時間や場所を柔軟に選べる労働環境は、世界中の労働者が抱いている要望であり、最も重要な職務特性とみなされています(Ernst & Young, 2015)。

しかし、柔軟な労働環境の「成果」については研究結果が一貫せず、合意が得られていません。Session 1943:Flexible Work Arrangements では、仕事上のプレッシャーが強い場合のテレワークや短時間勤務の利用や、仕事と生活の垣根の低さが、仕事と私生活との間の葛藤(conflict)を高めるとの報告がありました(Delanoeije et al.,2016 *2)。解釈をめぐってはフロアで議論が紛糾したほどでしたが、仕事のプレッシャーが高く生活上の時間や場所の制約も多いからこそ、時間や場所にとらわれない労働環境が必要となることを考えると、希望して制度を利用するほど葛藤が高まるという相関関係は存在するかもしれません。仕事と生活の葛藤が過度にならないようにするためには、働く時間や場所を柔軟に選ぶための制度設計に頼りすぎず、仕事上のプレッシャーをコントロールする仕事設計が必要といえるでしょう。

*2 ペーパーセッション
Joni Delanoeije, Marijke Verbruggen & Steven A. Y. Poelmans(2016) It's Not What They Do, It's Why They Do It: Employee Motivations in the Study of Work-Life Practices.

一方、フレキシブルな勤務制度は、利用者の離職意図を下げ、他者を助ける行動を高めるとの報告もありました(Brosi, 2016 *3)。報告者は、2年間の制度利用前後の変化を検証した研究報告を通じて、フレキシブルな勤務制度の利用が仕事へのコミットメントの低さや自己中心的な考えの表れだとみなされることは誤解であり、そのような風潮こそが問題であると主張しました。フレキシブルな制度の利用が成果に結びついていくためには、風土に手を入れ、利用者が負のラベルを貼られる風潮によって同僚や上司との相互信頼が低下することを防ぐことが有益である可能性があります。

*3 ペーパーセッション
Prisca Brosi(2016) Flexibility is Meaningful: Employees’ Reactions to Changes in the Use of Flexible Work.

「何者として働くか」の多様性

最後に、これまで見てきた経営学の潮流を、多重アイデンティティの在り方あるいは解釈の変遷と重ねて理解できることを指摘して本稿を締めくくります。アイデンティティとは「私は何者か」「何者として働くか」という問いへの答えといえます。Session 2065:Individual and Collective Adaptation to the Emergence of Multiple Identities in Organizations の指定討論者を務めたアリゾナ州立大学のブレイク・アシュフォース(Blake E. Ashforth)教授は、これまでは複数のアイデンティティは別々のものと思われたり、その重なりが注目されたが、今日では全体性とシナジーを捉えるべき現象と見られるようになったと指摘しました。例えば「エンジニアの女性」ではなく、「エンジニアであり、女性であるその人全体」として見る視点に変化してきたとのことです。

このような人間の全体性と、多重アイデンティティ間のシナジーに着目する視点が、ここまで見てきた、

・仕事と社会貢献活動の相互作用
・主体的行動におけるポジティブ/ネガティブサイドの理解
・遊びや思いやりといった仕事上の役割からはみ出す活動への着目
・フレキシブルな勤務制度によるワークとライフの両立

などの具体的なテーマに共通した底流として存在しているように思われました。

本稿で見てきたように、各テーマのセッションでは、そのような人間の全体性・多重性が、仕事上の成果や創造性、コラボレーションや他者支援に活かされる実証例が多数報告されていました。「個人内多様性」という言葉もありますが、人が仕事と仕事外のさまざまな役割やコミュニティを感情豊かに生きることで、一人ひとりの中にダイバーシティが備わっていくと考えることもできるでしょう。多様性を備えた個人の集まるチーム・組織が創造的で「意味のある」成果をあげるという、「ダイバーシティ」の道筋を示してくれたような、今年のAOM年次大会でした。
引用・参考文献

Berg, J. M., Dutton, J. E., & Berg, J. M., Dutton, J. E., & Wrzesniewski, A. (2008). What is job crafting and why does it matter. Retrieved form the website of Positive Organizational Scholarship on April, 15, 2011.

Dutton, J. E., Worline, M. C., Frost, P. J., & Lilius, J. (2006). Explaining compassion organizing. Administrative Science Quarterly, 51(1), 59-96.

Ernst & Young(2015).Global generations
A global study on work-life challenges across generations.

Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of management review, 26(2), 179-201.

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