米国産業・組織心理学の最新動向 SIOP(米国産業・組織心理学会)2014 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

SIOP(Society for Industrial and Organizational Psychology)の年次大会に参加したセッションのなかから興味深かった研究についてご紹介します。まず実務家を対象に産業・組織心理学に関する知見を伝えることを目的としたワークショップより、ゲームのトレーニングへの活用とビッグデータの活用についてトピックスを取り上げます。そして、アカデミック分野に優れた科学的な貢献を果たしたとして表彰を受けたJohnson氏による、潜在的な測定方法を活用した研究の成果について報告します。


はじめに

29回目となる今年のSIOPの年次大会は、5月14日から17日の4日間、ハワイにおいて開催されました。大会には例年通り3,000名を超える参加者が集い、数多くの研究発表が行われました。今年は開催地が日本から近いこともあり、日本人の研究者の方も参加されていたようです。ここ最近の傾向として、引き続きグローバル関連、ダイバーシティ、チームなどに関するセッションが数多く設けられていました。また新しいトピックとして、ビッグデータに関するセッションや、ソーシャルメディアの活用、ITを用いたトレーニングや測定などに関する発表が行われました。

SIOPは学術的な研究を発表するための場ですが、特にこの分野が応用科学であること、多くの研究者が人事や人事コンサルテーションなどの実務に従事していることから、実務家に向けたワークショップが年次大会の前日に行われます。そのなかから、ゲームを使ったトレーニング、ビッグデータの活用、経験からの学習を通じたリーダシップ開発のやり方について、セッションの内容を簡単にご紹介します。それ以外に、たとえば「Experience-Driven Leadership Development」「Culture Diagnosis and Intervention」といったワークショップが行われました。

Get your games on!(ゲームを始めよう)

通常、ゲームは娯楽を目的として行われるものですが、ここでのゲームは「まじめなゲーム(serious game)」と呼ばれるものです。ゲームである以上、参加者は楽しんで参加でき、エンゲージメントの高まりも期待できます。類似のものとしてシミュレーションがありますが、まじめなゲームでは協力・競争の関係があったり、物語性があったり、報酬が得られる点などで違いがあるとしています。

学習の観点から、このようなゲームを利用することの利点として、参加意欲が高まることに加えて、複雑な一連の要素を繰り返し経験できることや、ゲーム中の行動や結果についてさまざまなアセスメントが行えること、実際の仕事場面への転用が促進されることなどが挙げられていました。実際に、ゲームを用いた学習の効果についても、近年報告がなされているようです。

いくつかサイトが紹介されていますので、興味のある方はこちらをご覧ください。(販売スキルのシミュレーション個人特性の測定と仕事とのマッチング

より現実感の高い仕立てにするほど(e.g. アバターではなく実際の人、2Dではなく3D)効果が高まるのですが、それに伴い開発のコストが大きくなったり、適応範囲が限られたりすることが予測できるため、開発に当たっては目的や期待する効果に見合った投資を考えるべきとのアドバイスもなされていました。

そうは言ってもゲームを学習の機会と捉えると、現実と比べて複雑性やダイナミックスの程度は低下せざるを得ません。したがって、現実場面でのOJTではなくゲームを用いたトレーニングが特に効果を発揮するのは、失敗の許されないもの(e.g.フライトのシミュレーションや軍事関係)や、現実に直面する可能性の低いもの(e.g.事故の際の緊急対応)、認知的負荷の高いもの(e.g.患者の診断や治療方針の決定)などだといえるかもしれません。開発コストがかかる一方、これまでのトレーニングの限界を超えられる可能性を秘めているものだけに、その性質について今後の研究が期待されます。

Big Data:Catch the wave(ビッグデータの波に乗れ)

「ビッグデータ」という言葉を、報道や書籍、セミナーなどで耳にすることが多くなりました。ITの発展によって、私たちがこれまで想像もできなかったような大量のデータを手にすることが可能となった結果(1分間に、200万件のgoogle search、68万4,478件のfacebookへの投稿、2億400万件以上のemailなど; 出所「How Much Data Is Created Every Minute?」)、これをビジネスや社会的な用途に役立てるための試みが多くの分野で始まっています。このセッションでは、マーサーの人事コンサルタントであるRick Guzzo氏とグーグルの人事であるTodd Carlisle氏が、人事分野におけるビッグデータ活用の可能性について話をしました。

人事に関連するデータとしては、従業員数、従業員の属性(e.g.正規・非正規、年齢、社歴、経験職種、経験ポジション)、勤務状況(在職・離職)、採用時の評価、トレーニングの受講履歴、取得資格、態度(e.g.満足度、コミットメント)など、さまざまなものがあります。グーグルの事例では、例えば採用時の面接回数の見直し、採用ソース(e.g.大学、紹介会社、採用広告)の見直しなどが行われ、効果をあげたことが報告されていました。マーサーの事例では、過去3年間のローカルの失業率、直近のパフォーマンス評価、勤続年数や最終学歴などの属性、最近の変化(昇進や転勤など)、サーベイ結果(満足度など)を用いて離職のリスクを推定した結果が紹介されました。

ビッグデータ活用とこれまでの人事データとの分析の違いとして、結果を説明する(e.g.なぜ離職したのか?)ための分析モデルではなく、未来を予測する(e.g.どの程度離職する可能性があるのか?)ための分析モデルが用いられること、またこれまでのように妥当な対象者のサンプリングや、正確なデータ収集にこだわる必要がなくなることが挙げられていました。また、データの分析によってモデルや理論を導出したり、検証したりするのがアカデミック分野の仕事でしたが、今後はビッグデータにアクセスできる実務家も、同様のことが行える可能性についても論じられていました。

こうして見ると、かなり期待のもてるデータ活用の未来が開けているように思えるのですが、実際のところ、ビッグデータの解析によって、広範に応用可能な人事関連の知見が、今の時点で出てきているわけではありません。グーグルの事例にあったような面接の回数については、個々の面接事情によって異なってくるものと考えられます。また、離職リスクの分析についても、有意な離職の予測ができたとしても、具体的にどのように対処すべきかについての示唆があるわけではありません。結局、分析する際の問題意識やデータの背後にあるメカニズムを考える力をもつデータサイエンティストの存在があってこその、ビッグデータということになるでしょう(東京大学 大学院教育学研究科・教育学部 准教授 星野崇宏氏「統計学と人間行動のメカニズム」RMSmessage34号)。

潜在的な特徴のアセスメントについて

ここからは、産業・組織心理学へのアカデミックな貢献を認められた若手の研究者であるRussell E. Johnson氏が行った研究について、紹介します。

社会心理学では、ここ30年ほど無意識に関する研究が行われてきました。背景にあるのは、私たちの行動は思っている以上に無意識に行われることが多く、意識的な行動だけを扱っていると、十分な行動理解につながらないとの問題意識です。

Johnson氏の問題意識も同様で、より妥当な組織行動の理解を進めるために、無意識の情報処理を用いた個人特性の測定とそれを用いた研究を精力的に行っています。ここではJohnson氏が行った研究のなかから、論文に発表されている2つを取り上げて紹介します。

1つは、組織の正義や公正の経験が、従業員の信頼、協力行動、反社会的な行動に影響を及ぼす際に、自分自身を独立した個人と見るか(独立的自己観)、周囲の人との関係性のなかにあると見るか(相互協調的自己観)によって影響の仕方が異なることを示した研究です。それぞれの見方をする程度について、一般に行われることの多い、提示された項目への当てはまりを自己報告式で評定する測度(顕在測度)とあわせて、2つの方法で潜在的な特性の測度を用いた測定を行いました。潜在的な測度の1つは、欠けた単語の一部をうめて単語を完成させる課題を用いたもので、例えば“UNI_ _ _”の場合、“UNIQUE”であれば独立的な自己観、“UNITED”であれば相互協調的な自己観をもつ傾向があると判断します。もう1つの測度は、小さい文字から構成される大きな文字を提示し(e.g.小さい“L”でかたちづくられた“J”)、どちらの文字をより早く識別するかという課題を行います。これまでの研究から、独立的な自己観をもつ人ほど小さい文字の識別に長けていて、協調的な自己観をもつ人ほど大きな文字の識別に長けていることが分かっています。分析の結果、組織の公正を経験すると相互協調的な自己観をもつ傾向が高まり、逆に独立的な自己観が低まることが示されました。公正を経験することで、自らが組織内の他者から大切にされている感覚を得ることができ、その結果、協調性が高まると解釈できます。さらに、顕在的な測度に加えて、潜在的に相互協調的な自己観をもつ程度が高いほど、信頼や協力への公正の経験の影響が強まることが示されました。
※ Johnson, R. E., & Lord, R. G. (2010). Implicit effects of justice on self-identity. Journal of Applied Psychology, 95(4), 681.


もう1つの研究は、特性的な肯定的感情と否定的感情が仕事のパフォーマンスに及ぼす影響に関する研究です。特性的な肯定的感情とは、おしなべて肯定的な感情をもつ傾向のことで、特性的な否定的感情とはおしなべて否定的な感情をもつ傾向のことです。これらは、比較的安定した個人特徴として見られるものになります。上記の研究と同様に、特性的な肯定的感情と否定的感情をそれぞれ、通常の質問紙で測定するとともに、潜在的な測度を用いた測定を行いました。分析の結果、顕在的な肯定的感情に加えて、潜在的な肯定的感情も上司によるパフォーマンス評価を有意に予測していました。自分はポジティブな感情をもちやすいとの自覚だけでなく、無意識的にそのような傾向のある人ほど、パフォーマンスが高いといえるでしょう。また否定的感情に関しては、パフォーマンスを有意に予測したのは、潜在的な測定結果の方のみでした。パフォーマンス評価に加えて、組織市民行動と呼ばれる、仕事以外の同僚を助けたり会社のための行動を積極的に行ったりする結果変数に関しても、顕在的な測定結果よりも、潜在的な測定結果の方が予測する程度は強いことが分かりました。感情は無意識に生起することも多いことから、潜在的な測度の方がうまく特徴を捉えたことによるものと考えられます。
※ Johnson, R. E., Tolentino, A. L., Rodopman, O. B., & Cho, E. (2010). We (sometimes) know not how we feel: Predicting job performance with an implicit measure of trait affectivity. Personnel Psychology, 63(1), 197-219.


無意識的な反応に関しては、2009年のSIOPの参加報告の際にも紹介しました(「米国産業・組織心理学の最新動向〜SIOP2009年度大会参加報告〜」)。その際には、無意識に働きかけることで、例えば動機づけを行うといった効果が期待できることを述べましたが、倫理的な問題があって実施には慎重を要するだろうとの感想を述べています。今回の研究は、あくまで行動をよりよく説明するために無意識的な反応に着目したものですが、例えば、肯定的感情がパフォーマンスを予測するとしても、これを選抜時に評価することは、応募者の納得感を考慮すると難しいかもしれません。一方、なるべく多くの社員が肯定的な感情を喚起されるような仕組みやコミュニケーションの方法などを考えることは可能かもしれません。大きな可能性を秘めた分野であり、今後の研究に期待したいと思います。

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