日本ビジネス研究の最新動向 AJBS(日本ビジネス研究学会)2013 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
荒井 理江

AJBS(Association of Japanese Business Studies、日本ビジネス研究学会)の第26回年次大会が、7月2日・3日に、イスタンブール工科大学にて開催されました。 AIB(Academy of International Business、国際ビジネス学会)と同時期・場所で開催される本学会は、日本のビジネスおよびそれを取り巻く社会・経済・文化的環境に関する研究成果を発表する国際的な学会であり、参加者は50名程度と小規模ですが、日本企業のビジネスに携わる私たちにとって注目すべき学会の1つといえます。
弊社の研究員も昨年に続き参加し、発表を行いました。
Confusion asian cluster? Cultural, economic and institutional explanations of leadership challenges of Japanese managers in China

2012年度AJBS年次大会参加レポート
2013年度AIB年次大会参加レポート

本レポートでは、そこで行われた発表のなかから、人材マネジメントに関連する話題をいくつかご紹介します。


研究対象としての日本 日本に何を学ぶのか

オープニングセッションでは、研究対象として日本を扱うことの意味や興味深さについてパネルディスカッションが行われました。
以下に、話題として挙がっていたもののうち、日本企業のマネジメント体制の特異性についての観点をいくつかご紹介します。

●変化が緩やかで、時に逆戻りするのはなぜか
まず、変化のスピードが緩やかであることや、変化しても逆戻りする場合があるという点が挙げられました。例えば、未だに終身雇用を継続しているという点を挙げ「なぜ、そんなにも変化が緩やかなままでいられるのか?」という疑問が呈されました。また、逆戻りした例としては、日本企業は2000年代初頭に成果主義を一斉に導入しましたが、その後、取りやめる企業が出てきたことが挙げられました。
●ダイバーシティマネジメントはなぜ進まないのか
また、日本では女性や海外人材の活躍促進などの取り組みを通じて、ダイバーシティマネジメントが改めて注目されている一方で、意識面・制度面において、未だに多くの壁が残っています。パネルディスカッションでも、例えば労働人口が高齢化・減少していくことが明らかであるのに、なぜ、外国人や女性を労働者として取り入れることに積極的でない上に、外国人を自国の人と、または女性を男性と、同じように扱わないのか?という疑問が投げかけられました。

●調和のマネジメントと変革は両立しうるか
さらに、日本企業の特徴として企業内の調和を取るようなマネジメントは得意だが、特に企業が危機的な状況に陥った際など、どうしても調和が崩れることもあるはずで、そういった場合はどう対処するのか?という問いが投げかけられました。これまで築いてきた関係性を壊してでも、組織の大きな変革を行うことができるのか、また自浄機能を持ち続けられるのかというのは、日本の経営の解決すべき重要な課題の1つでしょう。

●失われた20年からのナレッジはなぜ共有されないか
その他、会場の参加者からは、この失われた20年間で、日本企業がどう環境変化に適応してきたのかを示すケーススタディがないのはなぜか?という質問が出ていました。日本企業のなかには、20年の間にも、環境に適応し立ち上がってきた企業があります。その分析が、ヨーロッパ、中国、アメリカなどに対してもよいナレッジになるはずで、もっと共有されるべきである、との主張です。実際、ビジネススクールなどでも最近はこの20年間の失敗と復活・適応のケースを取り上げはじめているようです。

このオープニングセッションは、各々の疑問に対して答えを示す場ではありませんでしたが、最後に、研究のスタンスとして、単に他国と比較した際の日本の特異性を指摘するのではなく、今後の企業マネジメントに活かすため、そこから何を学ぶかが重要であるということが、改めて強調されました。そこでは、例えば日本企業からの学びがアルゼンチンの農業団体で有効だったという例も挙げられていました。自分たちと違うもの(としての日本)から学び、抽象化していくことで新しいものの考え方を獲得し、実務へと応用していけるということです。
そして、もちろん私たち日本企業に従事する人々にとっても、外からの目によって自分たちの特徴を再確認し、今後への示唆を得ていくことができるでしょう。

後述では、日本企業を対象とした組織・人材マネジメントについて特に日本企業のグローバル化に関係したテーマの研究をいくつかご紹介します。

企業の現地化 アジア企業は進まず
ナレッジ移転に重要な本国赴任経験のある現地社員

昨今、日本企業では海外展開のなかでマネジメントの現地化を進めていますが、どのような考え方で進めていけばよいのでしょうか。特に、本社との連携や、本社と現地支社との間のコミュニケーションやナレッジのスムーズな移転は、重要な論点です。

そこで本セクションでは、企業の経営層における赴任者比率の現状や、それがナレッジ移転に及ぼす影響について、日本を含む13カ国の多国籍企業の支社800社に調査し国際比較を行ったAnne-wil Harzingらの研究をご紹介します。

●経営層の現地化は進む
彼らの調査結果によると、まず経営層の人材流動に関して、第3国出身者、および本国への赴任経験のある現地出身者の比率が高まる一方で、本国からの赴任者の比率は低下してきており、現地化が進んできていることが確認されました。

多国籍企業の各国支社における、経営層の本国出身者比率を、1990年代中頃に調査を行った他の研究結果と比較してみたところ、正確に比較はできないものの、全体的に本国出身者は減少傾向にあるとのことです。
また、アメリカ、北欧、オランダの企業は、現地出身者比率の方が大きい一方で、日本・韓国・中国を本国とする企業は、本国赴任者の比率の方が大きく、東アジア企業は、現地化があまり進んでいないということも示されました。

●経営の機能によって異なる現地化比率
さらに興味深いのは、機能領域の違いによっても、経営層の国籍の比率が異なっていたことです。具体的には、代表的な8つの経営ポジションにおける、本国出身者比率を比較したところ、特に本社統合が重要になるR&Dやファイナンスの領域は、本国出身者比率が高く、現地適合が重要になるロジスティクスやHRは、本国出身者比率が低いことが分かりました。なお、マーケティング部門は、現地適応が重要のように思われますが、本国出身者比率は必ずしも低くありませんでした。恐らく、戦略面で本社との密接な連携が重視されるケースもあるためでしょう。
日本企業にとって、マネジメント層の現地化の壁は、諸外国企業と比較して高いものになっているようですが、ナレッジ移転という観点で考えたときには、それぞれの機能領域において、現地適合と本社統合のどちらがより重要なのかなどといった観点で、赴任者のアサインを考えていくべきであることを示唆しています。

●現地化には本社での赴任経験が重要
また、経営層の国籍のナレッジ移転への影響を分析したところ、本社への赴任経験のある現地国出身者の方が、赴任経験のない現地国出身者よりも、本社から支社へ、また支社から本社へのナレッジ移転の度合いが大きいことが確認されました。
経営の現地化に向けて、現地出身者に任せるにしても、まず本国での赴任経験を積ませてからアサインするといったことが、ナレッジ移転にとっては重要なポイントのようです。

組織への「埋め込み」と離職の関係
性別や価値観がどのように影響するか

前セクションからは、ナレッジ移転において経営人材は重要な役割を担っていることが分かります。しかし、日本企業がグローバル化していくなかでは、そういった役割を担う優秀な従業員の確保、定着の問題にも直面します。
本セクションでは、組織への「埋め込み」という概念を紹介しつつ、その概念と離職意思の関係を分析した研究をご紹介します。

●「埋め込み」という概念
離職の研究における近年の関心事に、「離職者は、なぜ、組織を去ろうと思うのか、また逆に離職をしなかった人たちは、なぜ組織に残ろうと思ったのか」、という問いがあります。
それらを理解するための概念として、「Organizational embeddedness theory」(組織的「埋め込み」理論)が論じられてきました。なぜ、従業員は組織に留まることを選択するのかを明らかにしようとした理論であり、組織から去ろうとする従業員を留める力学を描き出すものです。

●「埋め込み」の3つの次元
その理論には、相互に関係する3つの次元(links, fit, sacrifice)があるとのことです。
まず1つ目のlinksとは、例えば従業員間の関係性を指し、関係性が強いと組織に留まる力が働きます。2つ目のfitとは、組織の居心地の良さや適合感のことであり、自分のキャリアゴールと組織での仕事上の要望が適合していたり、個人の価値観と組織文化が適合していることなどによって高まります。3つ目のsacrificeとは、現職を離れることで失う可能性のある利益(心理面、または金銭・物質面)の価値を認知することであり、例えば、年功序列的な組織では長期的に就労した方が利益を得られるため、組織への「埋め込み」が高まり、組織に留まる力学が働くと考えられています。

●「埋め込み」の離職への影響
先行研究では、組織への「埋め込み」が強まることによって離職意思は低下し、外的な要因ではない自発的な離職が低下することが示されてきました。

しかし、当然ながら「埋め込み」が強まっていても、自発的な転職意思が高まるという場合もあり、「埋め込み」と転職意思の相互作用が、何に、どのような影響を受けるのかについては、未だ明らかになっていません。

さらに、この理論は、アメリカで発達し、その効果が示されてきました。そのため、この理論が他国の組織においても適用可能であるかを検証していく必要がありました。例えば日本では、長期雇用や年功序列の慣習から、一社で長く勤務しやすく、また、長く勤務した方が出世しやすい環境であること、さらに、転職者は定着しにくい人材であると企業側からネガティブに評価される傾向もあることなどが指摘されています。そのため、日本は、そもそも慣習・制度面において、転職へのブレーキが利いている状態にあるともいえます。

●日本の職場における「埋め込み」と離職の関係
そこで、上記を踏まえ、Vesa Peltokorpiらの研究では、日本の職場における、組織への「埋め込み」と転職意思の関係と、そこに影響を及ぼすと考えられる要素として従業員の性別や年齢といったデモグラフィックな特徴や、個々人の価値観の影響を検証しました。

調査方法は、日本の調査対象者に計3回調査を行いました。1回目の調査で800名から回答を得たのち、同じ回答者に対して、1カ月後、1年後にも調査を行い、最終的には655名の回答を得ました。
そして、それらの調査結果を用いて分析した結果、組織への「埋め込み」が離職意思にネガティブに働くこと、また、性別とリスク志向の価値観が、組織への「埋め込み」と離職意思の関係を調整することが分かりました。

図表01 組織への「埋め込み」と離職意思の関係性および性別・価値観の調整効果

(Vesa Peltokorpiらの発表を基に筆者作成)

●女性は「埋め込み」が離職防止につながりにくい
性別の影響について、男性は「埋め込み」によって離職意思が低下する傾向が見られましたが、女性は男性ほどその傾向が見られませんでした。
日本の組織においては、女性のキャリア志向の低さや、組織においてキャリア上昇機会が少ないこと、給与が低いことなどから、女性の方が、そもそも「埋め込み」度合いにかかわらず、男性よりも自発的な離職意思が高まりやすいと考えられます。さらに、日本の女性は家庭への貢献の責任が男性よりも重いこと、また職場よりも地域などのコミュニティとのつながりを重視していることなどが影響している可能性もあるようです。いくら組織に「埋め込まれて」いたとしても、それ以外の要因が大きく影響してしまうということです。優秀な女性のリテンション施策においては、家庭環境なども含めた組織外の要素をも視界に入れておく必要性が改めて示唆された結果といえるでしょう。

●リスク回避志向は「埋め込み」に関らず離職を嫌う
次に、価値観の影響については、リスク志向の場合に「埋め込み」が離職防止に影響していることが分かりました。
離職とは、一般的にリスクを伴うものです。たとえ、転職先の方が、給与などメリットが大きいことが分かっていたとしても、そのほかの不確実な要素が多くあります。しかし、リスク志向の人は、そのようなリスクをともなう離・転職という道も視野に入れて自分のキャリアを考えることもやぶさかではありません。さらに、リスク志向の人は離職への意欲が高まったときに、実際に離職行動を取りやすいということも分かっています。そのような状況の中で、あえて組織に留まるかどうかは、「埋め込み」の度合いが影響していると考えられます。

一方、リスクを嫌う志向がある人たちは、組織を出ていくことによるネガティブな影響やリスクを避けたいと考えるため、組織への「埋め込み」度合いにかかわらず、組織に残る決断をする傾向があると考えられます。
なお、日本は国際的な価値観比較研究によれば、非常にリスク回避志向が強い国であるともいわれています。やや飛躍的な解釈ではありますが、全体的には、組織への「埋め込み」度合いにかかわらず、離職・転職を好まない文化であるとも、いえるかもしれません。

●離職をめぐる従業員へのアプローチの考え方
どのような従業員の離職を、どの程度防ぎたいのかは、企業によって異なります。しかし、リテンションを望むのであれば、いずれにせよ私たちは杓子定規に施策を検討するのではなく、ターゲットとする従業員の状況や性質を鑑みた上で、その人材を惹きつけ続けるためのドライバーを見出し、リテンション施策を考えていく必要があるといえるでしょう。

逆に、従業員に対して社外キャリアの選択を促したい場合もあるかもしれません。リスク回避志向の従業員にとっては、彼らの「埋め込み」の度合いにかかわらず、環境変化によるリスクを解消していけるようなアプローチが重要になるかもしれません。

グローバル化へのコミットメントを促すHR施策の仕掛け方

日本国内本社でのいわゆる「内なるグローバル化」をどのように進めていけばよいかも、日本の人事部門が検討している重要な議題の1つです。最後に、従業員のグローバル化へのコミットメントに、HR施策や外国語のスキルがどのように影響しているかを検証した研究をご紹介します。

Sachiko Yamaoらの行った本研究では、日本の693名の従業員への調査により、英語習得のためのHR施策が、企業のグローバル化に対するコミットメントにどのように影響するか、また、自分は英語ができる、またはできないという自覚や、従業員にとって望ましいキャリア機会の有無が、そこにどのように影響するのかを検証しました。
結果、以下のことがみえてきました。

●グローバル化へのコミットを高める要素
まず、英語習得のためのHR施策は、従業員の企業のグローバル化へのコミットメントを高めること、また、従業員が、自分は英語ができると自覚することもまた、グローバル化へのコミットメントを高めることも確認されました。

さらに、自分は英語ができないという自覚があることや、好ましいキャリア機会があることが、HRプラクティスがコミットメントに与える影響を、ポジティブに調整していることも確認されました。

図表02 HR施策とグローバル化に対するコミットメントの関係

(Sachiko Yamaoらの発表を基に筆者作成)

●語学支援がグローバル化へのコミットを高める
前者については、自分が英語に苦手意識がある人にとって、企業がHR施策として英語教育を用意したことを知った際には、特に敏感に「グローバル化しなければ(したい)」という気持ちを掻き立てられるということでしょう。本社内に英語が話せない人が非常に多い状況のなか、グローバル化のメッセージを示していく上で英語力強化のHR施策を用意し、広報することは、一定の効果が期待できるといえます。

●人事施策とのリンクが重要
後者については、グローバル化への積極的な育成施策は、キャリアアップの機会を合わせて用意するなど、人事制度とリンクした設計が効果的であるということが示唆されたといえるでしょう。

企業の内なるグローバル化に向けては、まず英語教育などの象徴的な施策を用意すること、また、併せて社内のキャリア機会を設けるなど、人材教育と人事制度を密にリンクさせることで、経営としてグローバル化への本気の姿勢を明確に従業員に伝えていくことが重要だということです。

最後に

ここまで、日本企業がグローバル化に際し直面する課題に着目しながら、関連する研究を取り上げてご紹介してきました。
冒頭で述べたとおり、本学会のような国際的な研究の場を通じて外の目にさらされることで、日本企業の特殊性が浮き彫りになっていきます。そのような状況のなかで、われわれ研究員もただ違いを論じるのではなく、改めて本来どういう形がよいのかを考えていくための、きっかけや示唆を生み出していかなければならないと感じています。多くの日本企業がますます海外で活躍していくための人材マネジメントを考える上で、本レポートが少しでも新たな気づきや示唆となれば幸いです。

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