米国産業・組織心理学の最新動向(第2回) SIOP(米国産業・組織心理学会)2013 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

「米国産業・組織心理学の最新動向〜SIOP2013年度大会参加報告〜 (第1回)」では、最近の産業・組織心理学研究のトレンドについて紹介しました。今回は、リーダーシップ研究を通じて優れた科学的な貢献を行ったとして表彰を受けたLord氏の研究と、若手研究者として表彰されたWang氏が行った資源活用という観点から見た環境変化への適応に関する研究のなかから退職に関するものを報告します。


フォロワーから見るリーダーシップの研究

Lord氏は、1970年代からリーダーシップに関する研究を続けています。リーダーシップの研究においては、研究者の数と同じくらいアプローチの数があると言われるほどさまざまな研究が行われていますが、Lord氏の研究にはいくつかこれまでの研究になかったユニークな点があります。

1つはフォロワーに着目したこと、もう1つは社会的認知や自己観といった社会心理学で研究されてきた知見を取り込んだことです。Lord氏にとってリーダーシップとはリーダーが影響を及ぼす過程であって、そこには常にリーダーとフォロワーの相互作用があります。彼によれば、リーダーの影響を受け入れて行動し、組織として結果を出すのはフォロワーであって、リーダーシップの過程にはフォロワーの影響力が大きいにもかかわらず、そちらに着目した研究がないため、特にリーダーシップの影響過程について十分に理解が得られていないということです。

Lord氏によれば、リーダーシップは、以下のようなプロセスで生じます。まずリーダーの行動や発言は、フォロワーからリーダーのものとして受け取られる必要があります。その際、その人物の言動がリーダーのものであるかどうかを判断するための基準として、私たちには暗黙のリーダーシップ理論(Implicit Leader Theory)が備わっているとしています。いわゆるわれわれがもつ一般的なリーダーのイメージのようなものです。リーダーの行動や発言によって、フォロワーの自己観は影響を受けます。例えばリーダーが“われわれ”という言葉を使って、次の期の目標達成に向けた戦略について話をしています。その人物の言葉から、フォロワーは同じ目標を追いかけるグループの一員として自分自身を認識します。それによって、自らの行動を変え、これまで以上に目標達成に向けてグループに貢献しようとするのです。

さらに、このようなリーダーからの影響は、直接その人に接するとき以外にも、例えばその人が使った言葉や、話をしたときの状況などを通じて、間接的にも伝わると論じています。リーダーがフォロワーに影響を及ぼす過程を明らかにすることで、リーダーの影響を受けて、どのように組織の文化や価値観が形成される過程も説明できるのです。また複数の人がリーダーシップを共有していて(Shared Leadership)、状況に応じてリーダーが柔軟に変化する様子も、プロセスとしてリーダーシップを捉えることで説明が可能になるのです。

対人への影響を考える際のベースとなる社会的認知の研究においては、細分化された認知プロセスを実験的な検証で明らかにしており、これまで数多くの研究知見の蓄積があります。しかしそれは、今回のリーダーシップのようにダイナミックな対人影響の現象の説明に用いられているわけではないため、Lord氏がとったリーダーシップ研究のアプローチは、学術的にも、大胆で面白いアプローチであるといえます。

※Lord, R. G. (2013) Four Leadership Principles That Are Worth Remembering, Presented at 28th Annual SIOP Workshop.

資源活用の観点から環境変化への適応を考える

若手研究者として表彰を受けたWang氏は、さまざまな場面での適応に際して、本人が活用できる資源をもっていることが重要であるとの考え方を用いて、研究を行っています。例えば、図表01は退職後の適応について、資源活用の考えをもとに他の研究者と提案したモデル図です。適応の際に活用できる資源として、身体的資源(ex. 健康状態)、認知的資源(ex. 記憶力)、動機的資源(ex. 自己効力感)、社会的資源(ex., 対人関係の良さ)、経済的資源(ex. 貯蓄)、情緒的資源(ex. ムード)が挙げられています。

図表01 資源活用の視点から見る退職後の適応プロセス

出所:Wang, M., K.Henkens & van H.van Solonge (2011)

これまでも定年退職後の適応に関しては数多くの研究が行われ、例えば健康状態や経済状態、配偶者の有無などの影響について、確認が行われてきました。これらの研究結果から、それぞれの要素は適応に影響を及ぼすことが分かっているものの、複数の要素の影響を統合的に説明できる理論的なモデルは存在しませんでした。実際、退職後の人の適応状態について継続的に収集されたデータを用いた研究では、退職の時間の経過と共に、適応には変化があることや、変化のし方にはいくつかの異なるパターンがあることが分かっています。これらの研究を通して、適応の際に利用する資源に着目することで、適応におけるダイナミックな変化や個人差が統合的に考えられるようになることをねらったものです。

退職以外にも、入社後新しい仕事や組織環境に適応する際などに、この考え方は適用することができます。また今後は、理論的観点から、環境変化の性質によって効果的な働きをする資源は異なるのか、資源は交換可能か、といった点について明らかにするような研究が期待されます。例えば自己効力感が低くとも、対人関係が良かったり、経済的に豊かであったりすれば、適応はうまくいくのか、あるいは自己効力感が低いことが決定的に適応を阻害するような環境があるのか、といったことが明らかになれば、適応を援助するための具体的な方策を考える際の参考になるでしょう。

※Wang, M. (2013). Adjustment to Changes: Maintaining Well-being and Productivity, Presented at 28th Annual SIOP Workshop.

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