米国産業・組織心理学の最新動向(第1回) SIOP(米国産業・組織心理学会)2013 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

今月から2回にわたり、SIOP(Society for Industrial and Organizational Psychology)の年次大会に参加したセッションのなかから興味深かった研究についてご紹介します。まず今回は、最近の産業・組織心理学研究のトレンドをまとめたワークショップより4つのトピックスを取り上げます。そして次回は、優れた科学的な貢献を行ったとして表彰を受けたLord氏によるリーダーシップに関する研究と、若手研究者として表彰されたWang氏が行った資源活用という観点から見た環境変化への適応に関する研究のなかから退職に関するものを報告します。


はじめに

28回目となる今年のSIOPの年次大会は、4月10日から13日の4日間、米国ヒューストンにおいて開催されました。大会には3,800名を超える参加者が集い、口頭の研究発表やポスターによる研究発表など800を超える発表が行われました。最近の傾向として見られたグローバル関連の発表セッションやチームに関しては、今年も引き続き多くのセッションが設けられていました。加えて、今年はソーシャルメディアを活用した採用活動や、IT技術を用いた測定などに関する発表が増えていたようです。

今回ご紹介するSackettとTippinsはいずれもアメリカの産業・組織心理学会において中心的な役割を果たす研究者であり、数多くの質の高い論文や著書を世に送り出しています。前者は大学教授として、後者は実務に近い現場で研究者として活躍しています。彼らが過去5年間で注目すべき発展のあった産業・組織心理学の分野を取り上げ、最新の研究動向について共有を行いました。彼らが取り上げた研究領域は11領域に上りますが、ここではその中から4つの領域について概要を報告します。

学習に関する研究

ここでは、学習に関する研究について次の4つの観点から報告がありました。「効果的なトレーニングがもつ特徴は何か」「Web上のトレーニングは集合研修形式のトレーニングと何が異なるか」「高齢者を対象としたIT技術を用いたトレーニング(TBI;Technology based Instruction)の工夫」「コーチングについてわかったこと」です。

1番目の観点については、昨年度のSIOPの報告のなかで触れているのでそちらをご覧ください。

2番目のWeb上のトレーニングは、スクール形式のトレーニングと比べて知識の獲得において、より効果的ですが、その理由の1つは、受講者が学習ペースをコントロールできる点にあることが分かりました。一方、Web上のトレーニングの方が講師や他の受講生とのやり取りが少ないことがよく懸念されますが、効果に影響はありませんでした。また、教示の内容や方法が同じ場合には、Webでもスクール形式でも効果に違いはないことも示されました。

3番目の高齢者を対象としたTBIの効果を上げる工夫としては、学習内容の構造を明確にする、フィードバックを効果的に利用する、メタ認知の利用を促す、などのヒントが紹介されていました。欧米の場合、日本よりもスキルや知識系のトレーニングの方が多い傾向があるため、結果をそのまま鵜呑みにすることはできませんが、上記のような研究結果は、今後トレーニングに用いるメディアを変える際や、社員が高齢化した際のトレーニングプログラムを検討する際に示唆を与えてくれるものです。

最後のコーチングについては、コーチ自身を対象とした調査の結果を用いて、コーチが心理学者である場合とそうでない場合の比較検討が行われました。自らが評価するコーチングの効果には両者で違いがなかったものの、違いとしては、心理学者ではないコーチの方はコーチングを主な収入源にしており、自らクライエントのリクルーティングを行うこと、1人との面談回数が多いことなどが特徴として挙げられていました。また心理学者のコーチの方が、効果が検証されていない手法を採用することが少なく、さまざまな手法を組み合わせて利用する傾向がありました。弊社の機関誌でも「コーチングの効能」について取り上げましたが、産業・組織心理学においてコーチングの効果に関する実証的な研究はまだあまり進んでいません。コーチによる自己申告にとどまらず、客観的に測定したデータを用いた、効果を高めるための手法やコーチの特徴についての検討が今後期待されます。

※Sackett, P. & Tippins, N. (2013). What’s All the Buzz About? The Most Impactful I-O Research Developments of the Last Five Years. Presented at 28th Annual SIOP Workshop.

内容的妥当性

採用や昇進昇格で用いられる選考ツールは、将来のパフォーマンスをある程度予測できることが期待されています。この予測の程度を、選考ツールの「予測的妥当性」とよび、具体的には選考ツールによる評価結果と選考後のパフォーマンス評価の間の関連性の検証を行うことで確認できるものです。例えば採用時の面接評価と、入社後のパフォーマンス評価の間の関連を見るといったことです。一方、「内容的妥当性」とは、選考ツールの評価内容が評価すべきものを妥当に反映するかどうかを指すもので、こちらは通常データによる検証ではなく、理論的な検討を行って確認します。例えば英語の能力検査で単語の意味を問う問題が出た場合、単語の意味を知っていることは英語の能力すべてではないものの、英語能力の1つとして測定することは妥当であると考えます。

最近、研究者の間で行われた議論は、「内容的妥当性が高いことは、はたして予測的妥当性を高めるか」ということでした。経理職の採用選考の際に、経理業務の知識に関する検査は、業務との関連性は明らかで内容的妥当性は高いといえますが、予測的妥当性は、例えば一般知的能力検査と比べて高いといえるのでしょうか。受検者の納得感を抜きにすれば、もし2つの検査の予測的妥当性が変わらないとすれば、一般知的能力を利用する方が他の職種にも適用できて効率的かもしれません。

このような問いを受けて行われた一連の研究では、職務に関連する専門分野が明確に特定される場合で、測定したい内容が心理特性のような抽象的概念でなく、知識のように限定的に扱えるものである場合には、内容的妥当性の高いものを評価することで予測的妥当性は高まるとの結果が得られています。一般知的能力は知識獲得のベースにあるためさまざまな職業において予測的妥当性がありますが、専門知識の方がすでに知識として獲得されている分、すぐに職務遂行に役立つということだと思われます。内容的妥当性は、受検者の納得感を考慮すると大変重要なものですが、それに加えて予測的妥当性を高めるために重視することが必要な場合があるということでしょう。

プライミング

「プライミング」とは、私たちが刺激を受けたときに、それが後続する反応に無意識的に影響を及ぼす現象を指します。例えば、ある言葉(ex. 「台所」)を呈示した後、一定時間後に自由連想テスト(ex. 「料理」から何を連想するか)を行うと、前に提示された言葉(ex. 「台所」)が連想語として出現しやすくなりますが、なぜこうなるのかを私たちは意識しているわけではありません。

このような無意識的な心理や行動への影響については、これまでは人が他者や物事をどのように認知・認識しているかを研究対象とする認知心理学や社会心理学のなかで主として研究が進められてきましたが、近年、この考え方を取り入れた研究が産業・組織心理学の分野、特に動機づけの分野で行われるようになっています。例えば達成のイメージを喚起するような絵を見せることで、その後の課題の遂行が促進されることが、コールセンターのような現実の仕事場面における研究で示されています。

企業が従業員の動機づけに、この効果を意図的に利用することには倫理的な問題があると思われますが、無意識に動機づけが生じる現象を明らかにすることは、結果的に動機づけのプロセスを説明するのに役に立つでしょう。例えば、現在筆者が所属するリクルートは営業力が強いとされている会社ですが、私が入社した頃、達成を祝う際に行われていた、象徴的な鳴り物や垂れ幕を用いた演出は、社員の達成の動機づけをかなり高めていたと思われます。また、組織風土や職場の雰囲気といったものが、気が付かないうちに私たちのやる気に影響を及ぼしているといったこともあるでしょう。組織における、人の動機のマネジメントを考える際に、環境が私たちに与える影響にもっと気を配る必要があるのかもしれません。

組織における従業員パフォーマンスの分布

「2 6 2 の法則」という表現を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。これは組織で働く従業員のパフォーマンスは、2割のハイパフォーマーと、2割のローパフォーマーと、残る6割のミドルパフォーマーで成り立っているという現象を表現したものです。産業・組織心理学分野における研究ではパフォーマンス評価をよく用いますが、その際に、実は研究者も上記のようなパフォーマンスの分布(これを統計的には正規分布と呼びます)を前提に研究を行ってきました。ところがO’Boyle Jr. & Aguinis (2012)は、パフォーマンスは、下に行くほど多くの人が分布する可能性(例えば上が2割、中間が3割、下が5割)を指摘し、上記の前提に疑問を呈しました。パフォーマンスの評価は1人の上司によって主観的に行われることが多いですが、彼らはそうではなくより客観性の高い評価データが存在する、例えば映画や演劇の評価などの賞へのノミネート数や本や雑誌でのレビューワーの評価などを用いて、パフォーマンスは正規分布しないことを示しました。

その後行われた研究では、パフォーマンスは正規分布するものの、特に能力の偏った集団を評価した場合(ex. オリンピック選手)や測定したいパフォーマンスの一部のみを測定した場合(ex. 「自社のことを社外の人に向かってほめる」という項目への回答)などに、下に偏った集団になる可能性があることが指摘されています。結局、多くのデータを集めると2 6 2 の法則は正しいといえるのかもしれませんが、常にそうとはいえない場合があることを改めて認識する必要があるでしょう。予測したいと思っている集団のパフォーマンスはどのような分布をしているのかを、少し立ち止まって考えてみるのも面白いと思います。

図表01 正規分布とパレート分布

出所:O’Boyle Jr. & Aguinis (2012)

次回のレポートでは、フォロワーから見るリーダーシップの研究、資源活用の観点から見る変化適応への対応に関する研究についてご紹介します。

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