学会レポート

米国産業・組織心理学の最新動向

SIOP(米国産業・組織心理学会)2012 参加報告

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SIOP(米国産業・組織心理学会)2012 参加報告

27回目となる今年のSIOP(Society for Industrial and Organizational Psychology)の年次大会は、4月25日~28日の4日間、米国サンディエゴにおいて開催されました。正確な数字は発表されていませんが、今年も前年同様4000名を超える人が大会に参加をしていたものと思われます。大会では、口頭の研究発表やポスターによる研究発表など800を超える発表が行われました。昨年からのトレンドでもあったグローバル関連の発表セッションやチームに関しては、今年も引き続き多くのセッションが設けられていました。また、今年のテーマが職場における差別の問題であったため、差別やダイバーシティに関するセッションの数が多かったようです。

本年度の大会で参加したセッションの中から、特に興味深かったものを取り上げ、以下に簡単に報告を行います。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保(いましろ しほ)
プロフィールを⾒る

組織変革のためのリーダーシップ開発とは

米国のリーダーシップ開発の研究機関であるCenter for Creative Leadership(以降CCL)からMcGuire & Palusを招いて、組織に変革をもたらすためのリーダーシップ開発の必要性についてレクチャーが行われました。

CCLでは個人を対象としたリーダーシップ開発を長年にわたって行ってきましたが、環境変化が加速する中では、これまでのリーダーシップ開発では望むような組織変革につながらない可能性を指摘しています。まず彼らは、リーダーシップを個人の特徴としてではなく、グループの方向性、調整、コミットメントを生むものと定義したうえで、リーダーシップ文化に「Interdependent」「Independent」「Dependent」の3つの分類を設けました(図表01参照)。その上で、これまでは主に前者の2つのリーダーシップがとられてきましたが、今後はinterdependentのリーダーシップが必要になると述べています。

図表01 リーダーシップ文化の3つの分類(筆者訳)引用元の図を参考に作成

図表01 リーダーシップ文化の3つの分類(筆者訳)引用元の図を参考に作成

Palus, C. J., McGuire, J. M., & Ernst, C. (2012). Developing interdependent leadership. In The Handbook for Teaching Leadership: Knowing, Doing, and Being. S. Snook, N. Nohria, & R. Khurana (Eds.). Sage. pp. 470.

interdependent とは、リーダーシップはグループメンバーが協働した活動であり、メンバーは主体的に関わってグループの方向性を設定し、その方向性にあわせて自己責任において行動を調整し、グループの活動を進めることにコミットするものを指しています。dependentのように上下関係があり、特定の個人にコントロールが任されるわけではなく、independentのように個人の利益をメンバー間で調整するわけでもありません。役員グループのリーダーシップを例にとって考えると、会社の進む方向は社長が決め、その意向に各自が管理する組織の戦略を合わせるのはdependentなリーダーシップ、各役員が自組織の利益を活かすように他の役員と折衝を行うのがindependentなリーダーシップのイメージです。一方、interdependentの場合は、全員が主体的に関わって会社の進む方向性を決定し、その実現のために進んで自組織の行うべきことを考えます。

interdependentなリーダーシップのもとでは、グループは凝集性が高く、コミュニケーションがスムーズであるため、グループとしてより柔軟に環境変化に対応しながら主体的に行動することが可能となります。リーダーシップのスタイルは組織のビジネス戦略と合致していることが必要とのことですが、柔軟でスピードのある環境変化に対応するために、今後の組織改革はよりinterdependentなリーダーシップを必要とするだろうと予測していました。

日本企業の中では伝統的にdependentなリーダーシップがとられてきました。このリーダシップスタイルは、安定した環境の下で効率を上げること、あるいはリーダーの意思決定が正しい時には素早い対応を可能にしてきました。しかし、それで対応しきれなくなった結果として近年プロジェクト制での仕事が多くなっていることからもわかるように、日本でもinterdependentなリーダーシップは重要性を増すものと思われます。はたして、日本において実際どの程度interdependentなリーダーシップが実現されるかは興味深い問いです。

※McGuire, J. B. & Palus, C. J. (2012). Beyond the Misery of Change Management: Getting Change Leadership Right. Presented at 27th Annual SIOP Workshop.

トレーニング成果をいかに実践につなげるか

米国でも日本同様、多くの企業が従業員にトレーニングを行っています。しかもグローバル化の中で競争優位性を高めることを目的として、トレーニングが実施されるようになっています。日本と比べると、米国ではスキルや知識の獲得を目的とするトレーニングが多いですが、いずれにしても人事や経営の関心事は、トレーニングで学んだことが実際の仕事でどれだけ活かされているかということです。

Huang, Blume, Ford, & Baldwinの研究では、トレーニングで学んだことを仕事で活かす方法として2つの異なった考え方を用いています。ひとつは、「トレーニングで学んだことが必要となればできること」で、これを“最大限の遂行行動”(maximum performance)と呼びます。もうひとつは、「トレーニングで学んだことが、普段の職務遂行に活かされること」で、これを“典型の遂行行動”(typical performance)と呼びます。彼らは、“最大限の遂行行動”に着目する場合と“典型の遂行行動”に着目する場合では、トレーニングの結果が活かされる程度に影響を与える要因は異なるだろうと予想しました。そして、メタ分析と呼ばれる手法を用いて、多くの先行研究の結果をまとめることで、より一般的な結論を導きました。トレーニング成果の活用の程度に影響を与える要因として、トレーニング終了時に獲得されたスキルや知識、受講者の個人特性として一般知的能力、誠実性、自己効力感、モチベーション、そして職場の特徴として職場のサポートを用いました。結果は図表02の通りです。

図表02 トレーニング成果の活用の程度に影響を与える要因(筆者編・訳)

図表02 トレーニング成果の活用の程度に影響を与える要因(筆者編・訳)

Huangたちが予測した通り、普段の職務遂行に研修で学んだことが活かされる(典型の遂行行動)程度は、受講者がまじめな性格特性を持っていたり、職場のサポートがある場合に高くなりました。一方、その気になれば学んだことが活用できる(最大限の遂行行動)程度は、トレーニングの終了時のスキルや知識の獲得が多いほど高くなりました。つまり、典型の遂行行動か最大限の遂行行動のいずれを目的とするかによって、トレーニングの中で、あるいは終了後に何に気をつけるべきかが異なることが示唆されたのです。

トレーニングで学んだことが普段の仕事で活用されることを促進するためには、トレーニングの中で、本人のまじめな取り組み姿勢を促すためにどのように普段の活用を動機付けるか、あるいは活用の動機づけが持続するように、またうまくいかない場合にあきらめるのを防ぐために、周囲がどのようにサポートするかを考慮することが重要になると考えられます。

※Huang, J., Blume, B., Ford, K., & Baldwin, T. (2012). Paths to Transfer: A Meta-analytic Investigation of the Roles of Cognitive, Skill-based, and Affective Training Outcomes.

感情のコントロールは異文化適応を促すか

Cross-Cultural Competence(以降3C)に関するシンポジウムが開催されました。3Cとは、素早く異文化を理解し、その中で効果的に行動する能力のことを言います。海外赴任の際や、国内でも外国人の同僚や顧客を相手にした仕事を行う際には、3Cが高い人のほうがより適していると考えられます。特に異文化との接触場面で生じる強い感情を考えれば、3Cには感情に関する能力が含まれると予測できます。ここでは、3C と感情を理解する能力や感情をコントロールする能力の関係について行われた実証研究が紹介されました。

Reid & Richardは、自らの感情を理解することは感情をコントロールする程度を高め、その結果3Cが高まり、文化適応が促進されることを陸軍のデータを用いて示しました。Trejo & Richardは同じく陸軍のデータを用いて、感情のコントロールができる人は3Cが高まり、その結果異文化の中で感じるストレスを軽減する効果があることを示しました。さらに彼らの研究では、感情のコントロールは直接3C を高めるだけでなく、楽観的なものの見方を促すことによっても間接的に3Cを高めることも示しています。つまり感情をコントロールするだけでなく、結果的にうまくいくだろうと思うことによって、3Cは向上することがわかりました(図表03)。

図表03 感情のコントロールが異文化適応に与える影響のプロセス(筆者訳)

図表03 感情のコントロールが異文化適応に与える影響のプロセス(筆者訳)

Culhane & Gabrenyaは、感情をコントロールするスキルトレーニングの効果について実験的に検討を行いました。異質な対象について、あらためて理解しようとする方法を身につけるトレーニングを受けた人は、そうでない人に比べて、対象への嫌悪感が軽減されることを示しました。最後にMcCoyは、異文化のバックグラウンドを持つ相手に対する信頼感は、自国の文化と相手の文化が乖離している程度や、相手に対して持つ感情に影響を受けると述べました。

3つ目の実験を除いて上記の実証研究は、全て軍隊を対象に行われたものです。軍事的な理由で海外に派遣された兵士たちは、派遣先の国の人との信頼関係を築いたり、派遣先に溶け込むことが一般の企業以上に難しいことがあると想像できますが、その一方で例えば現地での治安の確保など、重要な目的達成のためには適応が必要不可欠な状況があることが考えられます。産業組織心理学の発展が、兵士のアセスメントや評価、トレーニング、チームビルディングなどに多くを負っていることを考えると、異文化適応やそのために必要な個人の資質やトレーニング等についても、軍隊における研究の今後の発展に期待したいと思います。

※Richard, E. M. (2012). Understanding the Role of Affect in Cross-Cultural Competence. /Reid, P. & Richard, E. (2012). Emotional Abilities and the Development of Cross-Cultural Competence and Adjustment. /Trejo, B. C. & Richard, E. (2012). Emotion Regulation Ability, Optimism, and Strain: Relationships with Cross-Cultural Competence. /Culhane, E. & Gabrenya, W. (2012). Training the Affective Component of Cross-Cultural Competence. /McCoy C. (2012). Setting the Stage for 3C: Trust and Affectivity.

心理学全体の流れの中で研究の対象となる人間の行動や反応には、感情や動機といった、いわゆるソフトな心理概念が多く用いられるようになっています。産業組織心理学も心理学の一分野であって、異文化適応のテーマはまさに感情コントロールの重要性を指摘しています。また、スキルや知識獲得のためのトレーニングであったとしても、単に教わったことを知っているのではなく、それを活用するかどうかには動機が大きく関連します。リーダーシップにしても、特にコミットメントの仕方については、interdependentなリーダーシップではメンバーは主体的にグループの発展にエンゲージする状態にあり、そこにはポジティブでかつエネルギッシュな感情が伴います。感情や動機を理解することが、人の行動理解や予測には必要不可欠であり、当然、人事や人のマネジメントを考える際にもこの点はますます重要な視点になるのではないでしょうか。

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