国際的なHRD・ODの潮流 ASTD STADA Asia Pacific Conference 2011 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
マネジャー
主任研究員
兼 HR Analytics & Technology Lab
入江 崇介

弊社では、ASTD(*1)が主催する国際大会に毎年研究員を派遣しています。今年度は5月に米国フロリダ州オーランドで開催された国際大会(レポートはこちら「ASTD 2011国際会議 参加報告」)の他に、2011年11月16日から18日の3日間、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズのコンベンション・センターで開催された、ASTD STADA Asia Pacific Conference (ASAP) 2011(*2)にも参加しました。この大会の当日の模様やそこから感じられたことについて報告いたします。

【脚注*1】ASTD:米国人材開発機構。1943年に設立された産業教育に関する世界最大の会員制組織(NPO)。会員は世界中の企業、公共機関、教育機関で学習と開発に携わる人々で、その数は約7万人(100カ国以上)におよぶ。ASTDは学習と開発に関する国際的な資源に比類ないネットワークを持っており、調査研究、出版、教育、資格認定、カンファレンスを展開している。年1回開催される国際大会は学習と開発における世界の潮流をつかむ機会でもある。

【脚注*2】ASTD STADA Asia Pacific Conference (ASAP) 2011:ASTDとシンガポール人材開発協会STADA(Singapore Training and Development Association)が共催した、アジアで初となるASTDのカンファレンス。2012年も開催が予定されている。


多様な参加者と発表者が集う場

面積約700平方キロメートル、人口約518万人の都市国家であり、天然資源をほとんど持たないシンガポールの経済成長を支えてきた資源は人的資源と言っても過言ではありません。国際企業のアジア統括会社も多く集まり、世界第4位の金融センターとも評価され、まさにアジアにおけるビジネスの中心の一つと言えるシンガポールで、人材開発の世界最大の団体であるASTDの大会がSTADAと協働で開催されたことは必然と考えられます。

実際、大会には、開催国であるシンガポールや隣国のマレーシアのみならず、日本をはじめとするさまざまなアジアの国々、また米国などからも参加者が集い、活発な議論がなされていました。参加者同様、発表者についても、ASTDの本拠地である米国だけではなく、シンガポールやマレーシア、また日本や中国やフィリピンなど、多様な国の方が名を連ねていました。また、参加者・発表者の従事している仕事についても、企業の人材開発担当者、トレーナーやコンサルタント、教育ベンダー関係者に留まらず、大学教授や政府関係者と多様でした。

今大会のセッション数は80程度、Expoのブース数は30程度と、米国のASTDに比べれば小規模でしたが、連日400人程度の方が参加しており、アジアで開催された初めての大会としては非常に充実したものでした。

65個あった個別のセッションのカテゴリー分類とそれぞれのセッション数は図表01のとおりです。「リーダーシップ開発とタレントマネジメント」のセッションが相対的に多いことは、このテーマの普遍性を示していますが、セッションの中にはアジア固有の課題も語られており、この大会ならではの発見が数多くありました。

図表01 カテゴリー別セッション数

アジアの人材開発を取り巻く現状

いくつかのセッションでは、アジアにおける人材開発課題の現状が紹介されていました。アジアと言っても、経済成長が停滞している日本のような国もあれば、中国を始めとする毎年高い経済成長を遂げている国もあります。また、日本のように高齢化が進み人口ピラミッドが釣鐘型になっている国もあれば、フィリピンのように若年層の人口が多く人口ピラミッドが三角形になっている国もあります。よって、それぞれの国によって当然課題の違いはありますが、共通課題としては、

【1】人材の需給ギャップ
【2】グローバル人材の不足
【3】リーダー人材の不足

が挙げられていたように思います。

【1】の人材の需給ギャップは、経済成長に伴い産業界が必要とするスキルが変化しているにも関わらず、そのスキルを持った人材が十分に供給されていない課題です。このギャップの解消のためにシンガポールが行っている、キャリア開発による仕事と人材のマッチング、人材のスキル向上のためのトレーニングなどを有機的に組み合わせた産官学連携の取り組みが紹介されていました。

【2】のグローバル人材の不足は、アジア各国の企業もアジア内やアジア外で海外進出を進める中、異なる国・文化圏で高い成果を上げる、また複数の文化を統合して成果をあげる人材が不足しているという課題です。また、【3】のリーダー人材の不足は、環境が激変し、複雑化する中、成長を牽引するリーダーが不足している、あるいは多国籍企業の中でアジア人としてリーダーシップを発揮する人材が不足しているという課題です。

これらに関係するものとして、後述するアジアのリーダーのグローバル化に関するセッションなどがありました。なお、多国籍企業のアジア統括会社が集積するシンガポールは、このような人材を輩出し続けることが、今後の経済成長を支える重要なテーマとなることなどから、自国を積極的に人材開発のハブとしていくことを国家戦略として掲げているようです。

大会のタイトルは“Real World Human Capital Development Solutions for the New Asia Pacific Economy”でしたが、これは、相対的にスキルが低い人材の「戦力化」と、相対的にスキルが高い人材の「タレント化」の双方が求められているアジアに必要なことを的確に言い表しているものだと感じました。

アジアにおけるリーダー人材のチャレンジ

ここからは、当日行われていたセッションのうち、いくつか興味深かったものを紹介します。一つ目は、アジアにおけるリーダー人材のプールを豊かなものにすることを目的として、2009年に設立されたシンガポールのHCLI(Human Capital Leadership Institute)のKwan Chee Wei氏による“Leading Across Boarders - Creating a Global Talent Pool in Asia”です。このセッションでは、アジアのリーダーにとっての3つのチャレンジとして、

【1】現場の自信の開放
【2】国境を越えたリーダーシップの発揮
【3】インパクトのあるコミュニケーション

が挙げられていました。

これらは、特に多国籍企業で働くアジア人のリーダーが直面するチャレンジとして挙げられていましたが、アジアの人材がリーダーとして国際舞台で今後ますます活躍するために、またアジアの人材の潜在能力を最大限に引き出すためには、いずれも欠かすことのできないポイントではないでしょうか。

また、このような人材を育成するために必要なこととしてあげられていた3つのポイント、

【1】パフォーマンスだけでなく、学習に目を向けること
【2】失敗を許容し、人を育てることを支援する“生態系”を作ること
【3】コーチングやフィードバックのできるリーダーのリーダーを育てること

などについても、日本企業が益々取り組まなければならないポイントと一致しているように思いました。

アジアにおける異文化コミュニケーションのチャレンジ

続いては、異文化コミュニケーションのコンサルタントとして著名なFons Trompenaars氏による基調講演“Leveraging diversity for competitive advantage”です。このセッションでは、文化の定義、文化を捉える7つの軸(普遍主義と個別主義、個人主義と共同体主義など)、そして異なる文化的背景を持つ人同士が協力し、多様性をパワーにするステップである「相互の認知→相互の尊敬→相互での調整→調整したプランの実行」というフレームワークなどが紹介されていました。

たとえば、普遍主義と個別主義の両者が調整されたものとしての「マス・カスタマイゼーション」、個人主義と共同体主義が調整されたものとしての「チームワークへの貢献に対する個人への賞賛」などの観点は、異なる価値観のよい点を統合し、新たなパワーを生み出している例として、非常にイメージがわきやすいものでした。

加えて、興味深かったのは、アジアであれ欧米であれ、リーダーは同じような問題に直面するものの、アジアのリーダーは「相互の尊敬」や「相互での調整」を行う傾向が相対的に強いこと、言い換えれば、アジアのリーダーにとってのチャレンジは、異なる文化への感度をさらに高め、調整したプランの実行力を高めることだということが提示されていました。

異文化コミュニケーションにおいて、国ごとにコミュニケーションのスタイルが違うことはよく認識されていますが、葛藤の解決の仕方にも違いがあることは忘れがちなポイントではないかと感じました。

アジアで進む学習の社会化

Tony Bingham氏の基調講演 “The Power of Collaboration: Transform your Organization with Social Media”は、デジタル世代である若年人口の割合が高い国が多いアジアの特性を考えると、あらためて重要なメッセージだったように感じています。若年人口が多く、また社会的なインフラの構築が現在急速に進んでいるアジアにおいては、欧米以上にスピーディにソーシャル・メディアや新たなテクノロジーの活用が求められ、また必然的にそれが進んでいくと考えることができるのではないでしょうか。

実際に、台湾のInstitute for Information Industry, Digital Education InstituteのLi-Chieh Lin氏の“Classroom of the Future: IGCS (Innovative Green Cloud-based education System) - Flexible Learning Management Platform Open for Application Building”では、学校教育におけるクラウド・プラットフォームの事例が紹介されていました。

電子白版やタブレット端末を利用した多様な感覚を活用した分かりやすい授業、電子的に共有されたさまざまな教師の教材、そしてそれらを効果的に活用し、構造化された学習ステップ。クラウド・プラットフォームという場で、さまざまな人の知恵がつながり、その知恵がいつでもどこでも引き出せる、効率と効果が同居した近未来の教育のあり方を目の当たりにしたように感じました。

現場の力を「掛け算」で引き出すリーダー

“Multipliers: How the best leaders make everyone smarter”の著者である、Liz Wiseman氏による基調講演では、組織のメンバーの能力を掛け算のように引き出す「Multipliers」(“増幅型リーダー”)と、その対極にある「Diminishers」(“消耗型リーダー”)の特性が紹介されていました。具体的な特徴は、図表02のとおりです。

図表02 「Multipliers」(“増幅型リーダー”)と「Diminishers」(“消耗型リーダー”)の特徴

出典:Wiseman,L.(2010). Multipliers: How the best leaders make everyone smarter より作成

現状のアジア各国を見渡すと、一見「Diminishers」の行動がとられがちであったり、場合によってはリーダーとして好まれる国もあるかもしれません。たとえば、先に紹介した“Leading Across Boarders - Creating a Global Talent Pool in Asia”の中で、中国とインドネシアを比較すると、相対的に中国ではコントロールが強く、指示的なマネジャーが求められるため、相対的にファシリテーティブなインドネシア人のマネジャーと現場との間でギャップが起きたという事例が紹介されていました。二転三転し現場を混乱させることさえなければ、マネジャーによる力強い意思決定が求められる場合などはあるかもしれません。

一方で、会場のテーブルごとに「自分の能力を引き出してくれたリーダーの特徴」を振り返り、交換したなかでは、国の差異に関わらず、自分自身にとってよかったと思うリーダーの特徴として、「Multipliers」の特徴が数多く挙げられていました。この「Multipliers」の特徴として挙げられたポイントは、これまでもさまざまなリーダーシップ理論などで提示されてきたものと一致するものであり、これからのリーダー像を示すひとつの分かりやすいモデルとして有用なものだと感じられました。

おわりに

今回の大会に参加して、アジア各国で先進的な教育事例が数々積み重ねられている事実を目の当たりにしました。また、今後の経済成長のため、産官学が連携して人材育成に取り組む、アジア各国の人材育成に対する情熱も肌で感じることができました。それに加え、アジアでビジネスを行う欧米企業が、アジアでさらにビジネスを展開するために、人材の調達、育成に注力していることも確認されました。

アジアの中で、日本企業の人材育成に関わるビジネスを行う一企業として、有用な情報を提供できるよう、今後、アジアでの情報収集をさらに積極的に行ってまいります。

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