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研究レポート
ミドルシニアの停滞感を「主体的学び」で緩和する
40歳以降の「ミドルシニア」とされる世代では、管理職ポストの減少や昇進難度の高まりにより、将来の昇進可能性を期待できないと感じる人が増える傾向にあります。こうしたキャリア停滞の認識は、仕事へのモチベーションや満足度、幸福感の低下を引き起こすことが知られています。このことはミドルシニア層の活躍を期待する企業にとって大きな課題です。一方、先行研究では、学習意欲や自己コントロール感が高い人はキャリア停滞を感じにくいことが示されています。そこで私たちは、「主体的な学び」によってキャリア停滞のマイナス影響が緩和される可能性があると考えました。本研究では、キャリア停滞にあるミドルシニアが「主体的な学び」に取り組むことを促進する要因にはどのようなものがあるか、学ぶことがキャリア充実感や幸福感にどのような影響をもたらすのかを検証しました。
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 研究員
総務省の「労働力調査2024 年(令和6年)平均結果」によれば、2024年における45~54歳の労働力人口は1653万人で、全体(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)の4分の1近くを占めます。高年齢者雇用安定法の改正や定年の延長、人手不足などで、ビジネスパーソンの就業期間は長期化しており、ミドルシニア世代が役割変化に対応するための能力を維持・育成することは、企業にとって重要な課題です。 40歳以降の「ミドルシニア」は、組織の中核として活躍している人もいる一方で、キャリアの閉塞感を抱えがちな世代でもあります。原因の1つは、「階層的プラトー(停滞)」です。これは同じ職位に長年とどまり、将来の昇進可能性が低いと判断される状態のことで、仕事へのモチベーションや満足度、幸福感などを低下させがちであるとされます。特に管理職志向・組織志向の強い人は、階層的プラトーにあると、仕事のやりがいを低下させる傾向が強いことが確認されています。*1
先行研究では、学習意欲が高い人ほど階層的プラトーを感じにくいことや、社会人が自ら学ぶことで仕事のやりがいや幸福感を高められることが明らかになっています*2。つまり、ミドルシニアは主体的に学ぶことで、キャリア停滞の悩みから抜け出せるかもしれないのです。そこで、今回は、キャリア停滞にあるミドルシニア層の主体的な学び始めを促す要因とその影響を検討します。
では、ミドルシニアの主体的な学び始めに特に関係すると思われる要因にはどのようなものがあるでしょうか? 今回は以下の観点に着目しました。
「職務内容的プラトー」とは、新たな挑戦や、新たに学ぶべきことがない状況を指します。ミドルシニアは長年にわたって同じ業務を繰り返すなかで、仕事がルーティーン化・マンネリ化しがちです。しかし、与えられる仕事が多彩だったり、仕事への取り組み方を自ら工夫したりすることで、職務内容的プラトーに陥るのを避けられるかもしれません。職務内容的プラトーが低いことは階層的プラトーによるモチベーション低下を軽減させ、学び始めにプラスの影響を与える可能性があると考えました。
どんな人も加齢にともない、人生の残り時間が短くなります。そして人生の残り時間が短いと感じると、知識習得のように将来の見返りが期待できる目標より、情動的な満足を優先する人が増えるとされています*3。 ミドルシニアは、人生の折り返し地点に立つ世代でもあります。残された人生をどう過ごそうかと考えを巡らせたときに、将来の見通しである「未来時間展望」が高い状態である(「私の未来にはまだ多くの可能性がある」と感じるなど)ことが、新たな学びを始めることに関係があると想定しました。
以上を踏まえて、以下の仮説を立てました。
仮説1……階層的プラトーにあるミドルシニアは、職務内容的プラトーの程度が低い、未来時間展望の程度が高い、あるいはライフキャリア上の出来事を経験することによって学び始める
また、先行研究から、階層的プラトーのネガティブな影響として想定されるキャリア充実感と幸福感の低下は、学び始めによって緩和されると想定しました。
仮説2……階層的プラトーにあるミドルシニアのうち、学び始めた人は学び始めていない人と比べて、キャリア充実感と幸福感がより向上する
これらの仮説を確かめるため、下記の対象に調査を行いました。○従業員規模300名以上の会社に正社員として勤務している40~59歳の男性○回答者の条件は「現在勤務する会社で5年以上同じ職位に留まっている」こと。これを階層的プラトーの客観的指標としました。〇年齢は5歳刻み、職種系統は営業系、事務系、技術系の3系統で均等になるように回収しました。〇女性は出産・育児などのライフイベントでキャリアを中断することがあり、キャリアに影響する要因が複雑である可能性が高いことから、今回の調査では男性のみを対象としました。
分析に使用した尺度・項目は、図表1のとおりです。
有効回答数は1541人で、うち「この1-2年の学び有」と答えた人が954人、「学び無」が587人でした。また、「学び有」と答えた人が最も熱心に取り組んだ学び内容は、「現在の仕事に直結する学び」が370人、「今後のキャリアに役立つ学び」が383人、「仕事以外に関する学び」が201人となっています*5。
目的変数を「学習の有無」とした二項ロジスティック回帰分析の結果が、図表2です*6。
仮説であげた青色の囲みの変数のうち、職務内容的プラトー、未来時間展望は、学び有の人には「学び始めたときの状況としてあてはまりますか」と尋ね、学び無の人には「ここ1-2年の状況としてあてはまりますか」と尋ねています。項目としては、職務内容的プラトーは「仕事から大いに刺激を受けていた」など、未来時間展望は「私の人生にはまだ多くの時間が残されている」などです。ライフキャリア上の出来事については、学び有と無に共通で「ここ1-2年で次のような出来事はありましたか」と21の選択肢と「特にない」から選択を得ています。分析1では「特にない」、つまり出来事がなかった、の回答を使っています。属性情報(年代、職種、職位滞留年数)に加えて、学習効力感、職場の学習風土は統制変数として使用しました。
説明変数のオッズ比が1より小さいと学び始めが起こりにくくなる、1より大きいと学び始めが起こりやすくなると解釈できるため、図表2から、職務内容的プラトーの低さと未来時間展望の高さが、学び始めを起こりやすくし、また、「ライフキャリア上の出来事がない」と回答した場合は、学び始める確率が低下することが示されました。
以上から仮説1は支持されたといえるでしょう。
続いて、学びの効果についてです。「学び有」群と「学び無」群で、キャリア充実感と幸福感の変化(いずれも3項目6件法で尺度化 1:まったくあてはまらない~6:とてもあてはまる)について、平均値の差のt検定を行った結果、いずれについても「学び有」が「学び無」より有意に高い結果となり、学び始めた人は学び始めていない人に比べ、キャリア充実感と幸福感がより向上していることが示されました(図表3)。よって仮説2も支持されたといえるでしょう。
さらに、学びの内容の違いを加味し、「A. 現在の仕事に直結する学び」「B. 今後のキャリアに役立つ学び」「C. 仕事以外に関する学び」「D. 学び無」それぞれのキャリア充実感と幸福感の変化を比べた結果が図表4です。
キャリア充実感の変化は、A>B>C>Dの順です。一方、幸福感の変化はC>B≒A>Dの順です。つまり、現在の仕事に直結する学びはキャリア充実感を最も高め、仕事以外に関する学びは幸福感を最も高めることが示唆されます。仕事以外に関する学びは、仕事に関する学びのようにキャリア充実感を高めないとしても、ミドルシニア個人にとっては意義が大きいといえるでしょう。仕事以外に関する学びは幸福感だけでなくキャリア充実感も高めると想定されますが、その効果は本研究では明らかにはなりませんでした。こちらについては、今後研究を進めていく予定です。
今回の研究で、職務内容的プラトーの低下や未来時間展望の高さ、ライフキャリア上の出来事が、学び始めに影響を与えることが明らかになりました。階層的プラトーにあるミドルシニアであっても、例えば、この先にも新たに取り組むべきことがあると感じられるような形で異動や業務内容変更などが行われれば、仕事のやりがいや学びへのモチベーションが促進され、階層的プラトーの低減につながる可能性が考えられるでしょう。
なお、今回の調査ではライフキャリア上の出来事の種類と、学びの有無・学びの内容に関しても聞いています。そのなかで、学びの有無で選択に大きな差が現れた項目を抜き出したのが図表5です。
学びの内容にかかわらず学びの有無で選択に差が見られた出来事は「テレワーク・フレックスタイム」「業務内容が大きく変わる異動」「副業・兼業」で、これらはこれまで述べたほかの要件と絡み合いながら、特に学び始めを促す可能性があります。また、「副業・兼業」「降格・人事評価の低下」はAで選択率が低くBで高い傾向、「健康状態の悪化」「家族の介護」はA/Bで選択率が低くCで高い傾向が見られました。どんなライフキャリア上の出来事がきっかけとなり、どのような学びに気持ちが動くのかについては、ミドルシニア特有の特徴がありそうで、詳細は今後の検討課題です。
今回の研究では対象を男性社員に限定していること、学び前後の心理的変数を一時点で測定していること、各尺度を構成する項目数が十分でないことなどの限界がありました。これらを踏まえ、さらに追跡的調査や質的調査を進めて検討を深めようと考えています。
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