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研究レポート
どのような対話がメンバーのリフレクションの質を高めるのか
リーダー・メンバー間の対話を用いたフィールド実験を行った。対話内容を分析したところ、リーダーによって、質問をする程度や内容が異なっていた。その違いは、メンバーの翌日の就業後の振り返りの内容に影響していた。リーダーとの対話によってメンバーの思考が深まり、リフレクションが促進されることが示唆された*1。
*1 本研究の詳細は、今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2024)「メンバーの思考を促進する対話とは -介入実験の対話分析を通して-」産業・組織心理学会 第39回大会発表論文をご参照ください。
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主幹研究員
目次
経験学習には、仕事から離れて経験を俯瞰的に振り返る「リフレクション・オン・アクション」だけでなく、活動中に自然に生じる「リフレクション・イン・アクション(以下RIA)」が重要である*2。筆者らは、RIAを促進する方法の1つとして行動前の仮説生成に着目し、フィールド実験を通じてその効果を確認した*3。
生成された仮説は個人差が大きかったため、再びフィールド実験を行い、仮説の質の向上を目的としてリーダーとの対話を実施したところ、RIAや仮説の役立ち感の向上が確認された*4。リーダーとの対話によって仮説の質が向上したメンバーは、翌日の仕事に主体的・意図的に取り組み、RIAが促進されたと考えられる。本研究では、対話がどのように影響したのかを検討するために、対話内容の詳細な分析を行った。
サービス業A社で法人営業に従事する営業経験1.5年未満の若手社員(以下メンバー)22名とメンバーを指導するリーダー8名を対象に、5週間の介入実験を行った。参加者はランダムに、リーダーとの仮説をめぐる対話がある「実験群」と対話がない「統制群」に分けた。本研究では、対話の内容を検討するため「実験群」(メンバー12名・リーダー4名)を分析対象とする。
メンバーは、毎週火曜日に、翌日の大事だと思う仕事についての仮説として「うまくいった状態」「そうなる確率」「確率を100%に近づけるために重要なこと」を行動計画として記述する。その後、計画についてリーダーと15分間の対話を行う。リーダーには実験開始前にガイダンスを行い、「不足している視点に気づかせる」「より具体性の高い計画が作れるようにする」ことを目的として、質問を中心とした対話を依頼した。
対話は録音・文字起こしをして、逐語録を作成し、介入効果が安定していると思われる3週目のデータを分析に用いることとした。逐語録のリーダーの発話部分について、カウンセリング理論の応答技法*5を一部参考に、論文著者3名で取り決めたカテゴリに則って、コーディングを行った(図表1)。カテゴリは、大きくメンバーへの質問、リーダー自身の考え、会話を前に進める発言から成る。著者ら3名が個別にコーディングを行った後、齟齬がある部分については3名で話し合いを行い、確定させた。
<図表1>コーディングのカテゴリと具体例
コーディング結果をまとめたものが図表2である。15分間の対話で、自分の考えを話す割合や質問する割合には、リーダーによる違いがあった。リーダーBは、多くの時間を質問に費やしていたが、リーダーCは自分の考えを多く話す傾向があった。リーダーDはその中間で、自分の考えと質問をどちらもほぼ同程度行っていた。リーダーAは2名のメンバーに異なる対話を行っていたことが分かる。
<図表2>対話中のリーダー発言のコーディング結果(n=12)
質問の内訳についてもリーダー間で違いが見られた。この違いは、メンバーの仮説の内容とRIAに影響を及ぼしていたことが、メンバーの対話後および就業後アンケートの記述から推察される。
例えば、「1.質問(事実確認)」の割合が高いリーダーCでは、顧客の状況確認についてリーダーがアドバイスすることが多かった。リーダーとの対話が翌日の仕事について考えを深めるのに役立ったかどうか、その理由をメンバーにたずねた対話後アンケート(以下、対話役立ち理由)では「自分の苦手な〇〇についてアドバイスをもらえた」など、メンバーは具体的な打ち手のヒントを得ていた。一方、前日に仕事について考えたことが当日の仕事をうまく進める上で役立ったかどうか、その理由をメンバーにたずねた就業後アンケート(以下、仮説役立ち理由)は「アポイントがとれなかった」「受注に至った」など、自らの行動や思考の振り返りというよりは、課題達成の有無についての言及にとどまった。
「2.質問(意図や考えの確認)」の割合が高いリーダーBの場合、メンバーの考えが深掘りされているため、対話役立ち理由では「自分の理想を達成するには、どうすればいいのか、具体的なイメージをもてた」など、曖昧だったイメージが具体化したというコメントが見られた。就業後の仮説役立ち理由については「理想の状態としてのアポ獲得にはつながらなかったが、事前にやることを整理していたことで、〇〇に関しては問題なく聞くことができた」など、自分が意図的に行ったことに対する結果について認識していた。
「4.質問(視点提供)」の割合が高いリーダーDの場合、リーダー自身の仮説をもとに、本人に新たな視点に気づかせる質問であったため、対話役立ち理由については「明日だけではなくてこの先も使える考え方を教えてもらえた」「手段が目的化していたため、目的を再確認することができた」などのコメントがあり、就業後の仮説役立ち理由では「うまくいかない場合のリスクから自分の行動を考えることができた」など、何を考えるべきかの理解が促された様子であった。
このように、リーダーとの対話が、メンバー仮説をめぐる思考やRIAの内容に影響することを支持する結果となり、対話による介入の可能性が示された。
リーダー間で発言内容には違いがあったが、リーダー自身の考え方やスタイルの違いだけでなく、メンバーの仕事の特徴や力量による影響もあると考えられる。いずれにせよ、リーダーは、自分の発言がメンバーの思考にどう影響するかを想像しながら、意識的に発言を使い分ける必要があるだろう。
*2 Schön, D. (1991). The reflective practitioner:How professionals think in action. Aldershot, UK: Arena (Original, 1983) *3 今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2021)「就業前の行動の意識化は経験学習を促進するか」日本社会心理学会 第62回大会発表論文 *4 今城志保・藤村直子・佐藤裕子(2023)「対話による経験学習の促進可能性 ―フィールド実験による検討―」産業・組織心理学会 第38回大会発表論文 研究レポートに概要を掲載 メンバーのリフレクションの質を高める対話の在り方 *5 労働政策研究・研修機構(2016)『職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査』JILPT 資料シリーズ No.165
・本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.79 特集1「成長と信頼につながるフィードバック」より抜粋・一部修正したものである。・本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
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