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研究レポート
課長・部長への職位の移行時に直面する変化
これまで3回の研究レポート(『「Transition(マネジメント階層の移行)」にともなう変化と成長』)でもご紹介したように、弊社では、経営幹部層がより上位のマネジメント階層へ移行(Transition、トランジション)する際に直面する変化と、それを乗り越えるための要件を明らかにする研究を行っています。
前回、『「Transition(マネジメント階層の移行)」にともなう変化と成長(第3回)』にて定量調査の中間報告を行いましたが、本稿では、最終的な集計結果より、主に「一般社員から課長、課長から部長のそれぞれの職位の移行に際して直面した変化、とってしまいがちな問題行動」について、ご紹介します。
「職位の移行に関する調査」の概要は以下のとおりです。
図表01「職位の移行に関する調査」の概要
一般社員から課長への職位の移行については、これまで数多の研究者や実務家の研究が行われてきました。管理過程論における「管理者」つまり「組織や職場の目標を達成するために、ヒト・モノ・カネなどの資源を、効率的・効果的に活用することを主な役割とする」立場に変化する、という考え方などが代表的なものと言えます。
本調査においても、一般社員から課長への職位の移行時に「変化があった」という回答が多かった項目には、以下のような、部下との関係性、部門や先々を見る視点の獲得などに関するものが挙げられます(“ ”内は回答者のフリーコメント)。
・部下の人事考課を行うことになり、責任を感じるようになった
・部下が行ったことであっても自分が当事者として対処、解決しなければならなくなった
・部下の指導と育成が求められるようになった
・部門の方針や計画を考える場に参加する機会が増えた
・目前の仕事だけでなく、先々のことを考えることが必要になった(“自分の会社への貢献について考えることが多くなった”など)
一方で、変化が大きくても、本人にとってそれが「大変だったかどうか」は別問題です。以下は、一般社員から課長への職位の移行に際して「変化があり」「大変だった」という回答が多かった項目です(“ ”内は回答者のフリーコメント)。
・たとえ、資源(ヒト、モノ、カネ)が不十分でも、その中で与えられた目標を達成しなければならない状況が増えた“課やそのメンバーのパフォーマンスを最大限にする方法を考える必要が増えた”“上司や経営上層部、スタッフ部門などから報告を求められたり、資料をまとめて提出したりする機会が増えた”
・登用される以前よりも、自分の時間がとれなくなった“具体的に開発や設計をする時間がとれなくなった”“さまざまな調整や会議に時間をとられ、自分自身の作業時間が不足する状況になった。責任も重くなり、業務遂行のための時間を休日や深夜に求めるようになった”
これらの回答からは、所与の資源や制約の中で、自らの実務(プレイヤー業務)も遂行しながら職位の変化を乗り越えようとしている課長の姿が伺えます。また、近年のワークライフバランス施策や深夜残業の禁止等の施策により、これらの変化への対処をより「短時間で」「効果的に」行わなければならなくなっているとも考えられます。
さらに、「周囲で見聞きした、もしくは自らもとってしまいがちだと思う問題行動」として多かったものとしては、
・自分で仕事を抱えこんで手一杯になってしまう
・業績達成に関心が向くあまり、組織のその他のこと(部下の気持ち、組織風土など)はほとんど気に掛けなくなる
・目前の仕事に追われて、担当組織の将来や部下の育成など中長期的なことに関心を向けられなくなる
・部下からの相談や質問をわずらわしく感じ、相談や質問をするときのルールや手続きを決めようとする
・あれもこれもと複数のテーマに手を出してしまい、課題の優先順位がつけられない
などが挙げられています。太字部分は、周囲で見聞きしたのみならず、自らが実際に職場でその行動をとってしまったとの回答が多かったものです。これらから、「未来や今後というよりは、今・現在の関係者の期待や要望に応えることにパワーが割かれ」かつ「対課題志向」に重きを置かざるを得ない、プレイイング・マネジャーとしてのミドル(課長)の実態が推察されます。
つぎに、課長から部長への職位の移行について述べていきます。これまで、海外の職務基準の人事制度では明確に定義されているシニアマネジャー(部長)以上の役割定義が、特に日本を本社とする企業においては大変曖昧なものとされているとの報告がなされてきました(ASTDほか)。一般社員から課長へのようなわかりやすい職位の変化が見られないために、トレーニングやデベロップメント施策についてもあまり実施されてこなかったと言えます。
本調査における現職部長へのアンケート結果では、以下のような結果となりました。課長から部長への「(移行に伴う)変化の大きさ」「(移行に伴う)大変さ」の2軸で各項目を分類すると、図表02のようになります。
縦軸(大変さ)を中心に各項目を見ていくと、ある特徴に気づかされます。部長への移行に伴い、回答者が「大変だ」と回答している項目は、何を決めるか、つまり「WHATの意思決定」に関することがらであり、それほど「大変ではない」と回答している項目は、どのようにやるかという「HOWレベルの組織運営・判断」に関することだと言えます。これらの傾向は、本シリーズの第2回で報告した、現職事業部長に対する「課長から部長への職位の移行に関するインタビュー調査」の結果とも概ね符合しており、一般的な傾向であることが示唆されます。
このことから、「自らがタスクレベルまで具体的によく知らない事柄」について、「正しい根拠や事実」を基に、「二律背反レベル」の、時には「組織風土変革や異動・配置替え」まで伴う意思決定をし、描いたゴールまで推し進めていくことが、課長時代とは異なり要望されてくることであると伺えます。これらに、HOWレベルで発生する変化(例:不安があっても、課長たちに任せなければならない場面が増えた)が同時に発生することが部長への職位の移行の特徴であるとも言えそうです。
図表02 課長から部長への職位の移行における「直面する変化の大きさ」と「変化に対応することの大変さ」(※主なもののみを抽出)
また、部長になり、「周囲で見聞きした、もしくは自らもとってしまいがちだと思う問題行動」として多かったものは、
・事業全体がどのように動いているかを理解せず、自部門の方針や計画を決めてしまう
・短期的あるいは当期の成果を重視し、中長期的な課題は先送りにする
・経営層の意向ばかりを優先した意思決定・行動をしてしまう
・自分がよく知っている分野に、偏った予算配分や関与をしてしまう
・会社や事業の戦略よりも自部門が果たすべき組織目標の達成を優先しようとする
などが挙げられています。太字部分は、周囲で見聞きしたのみならず、自らが実際に職場でその行動をとってしまったとの回答が多かったものです。これらから、事業責任者や経営トップと近い立場になり中長期的な視点で戦略との接続を考える役割と、部下である課長層がプレイヤー化する中で日々の現場マネジメントを統括していく役割とを、高いレベルで両立させていくことが部長に期待されていると言えるのではないでしょうか。
環境変化が激しく不透明な中、グローバル環境下で勝ち抜く企業の経営を担う部長や課長に対する期待はますます高まり、そこから「現状を打破する」経営幹部層を輩出したいとの声もよく聞かれるようになりました。ただし、人材の育成は一朝一夕にとはいかず時間がかかるものです。
本研究では、「職位の移行」に着目し、各職位への移行に伴う変化を具体的なレベルで明らかにし、それらを「意図して」「効果的に乗り越える」ことがリーダー育成の一つの方向性ではないかと考え、各企業に協力をいただきながら調査を進めてまいりました。現段階での仮説として、下記4点が示唆されました。
・課長への職位の移行については、プレイヤー化等の影響により「未来や今後というよりは、今・現在の関係者の期待や要望とのマッチングへパワーが割かれ」かつ「対課題志向に重きを置かざるを得ない状況」が進んでいること
・これまであまり語られてこなかった、部長への職位の変化は大きく、大変なものであること
・部長には、WHATレベルの意思決定とHOWレベルの組織運営や判断が同時に求められること
・つまり、課長と部長の間の職位のギャップは大きくなっており、部長への職位の移行を「意図して」「計画的に」行う必要があること
本稿で扱った、部長への職位移行に関するさまざまな課題等については、機会をあらためて何らかの報告ができればと考えています。企業経営を担う人材として求められる要素は何なのか、それは開発可能なのか、本研究にて引き続き検討していきたいテーマです。
研究レポート 2024/09/30
―能力適性検査にまつわる疑問― 受検者によって出題される問題が変わるのは不公平か?(前編)
―能力適性検査にまつわる疑問― 受検者によって出題される問題が変わるのは不公平か?(後編)
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