研究レポート

部長クラス移行時の変化と問題行動とは

「Transition(マネジメント階層の移行)」にともなう変化と成長 第3回

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「Transition(マネジメント階層の移行)」にともなう変化と成長 第3回

優れた経営者・経営人材を育成するニーズが高まる一方で、その手法は確立されているとは言えません。 弊社では、研究レポート『「Transition(マネジメント階層の移行)」にともなう変化と成長 第1回』でもご紹介したように、経営幹部層がより上位のマネジメントステージへ移行(Transition、トランジション)する際に直面する変化と、それを乗り越えるための要件を探る研究を行っています。

本研究では、まず日本の代表的な製造業6社計23名の執行役員・事業部長(副社長1名を含む)の方々にインタビューを実施し、マネジメントの階層が上がる際にどのような変化を経験され、それを乗り越えて新たな階層でパフォーマンスを上げるために、どのような知識や能力が必要となったのか、またどの階層からどの階層へのトランジションが最も大きな変化であったのかなどをお聞きしました。 第1回・第2回での報告に続き、今回はそのインタビューから明らかになった経営幹部層の変化と成長に関して、現在さまざまな企業の皆様にご協力いただいている、「定量調査」の企画意図と集計の途中経過を報告いたします。

定量調査の基本的な構成

前回(第2回)、課長クラスから部長クラスへの職位の移行に際し、マネジメント上の大きな変化に直面するという仮説を報告しました。 これを受けて、本稿ではそれがある程度普遍的なのか、業種・業態や職位移行のパターン(課長時と同一の職務系統の部長クラスとなる、あるいはまったく異なる職務系統の部長クラスとなる)で明確な違いがあるのかを検証するために、定量調査を企画しました。

定量調査は

 ・従業員3000名以上の大手企業で、課長クラス・部長クラス・事業部長クラスの階層構造を持つ

 ・個人プレーではなく、主に組織単位で仕事が進められている

企業を対象とし、当該企業において任用されて2~3年程度の方を調査対象としました。

調査項目は、製造業の執行役員・事業部長のインタビューから抽出されたものに加えて、リーダーシップ開発や昇進・昇格に関する最新の先行研究結果を織り込み、構築した仮説を検証するためのものとしました。 また、集計・分析に用いるために異動歴や管轄部下人数、マネジメントスタイル等の追加情報も収集しました。

直面する変化・期待される役割行動の変化

それでは、部長クラスにおける立場および役割行動の変化について、定量調査結果からいくつかの示唆に富むポイントをご報告します。なお、図表01では、部長クラスにおける変化のうち、2008年9月末までに得られたデータを集計した結果(以下暫定結果※)から見られる事柄について報告します。(※最終集計結果とは異なる可能性があることをご了承ください。)
まず、部長クラスになって直面する変化や期待される役割行動の変化についてです。

図表01

補足説明;
職務異動なし(課長クラスと同一の職務系統の部長クラスに任用された方)
職務異動あり(課長クラスからまったく異なる職務系統の部長クラスに任用された方)
凡例;
○印 定量調査の回答平均値2(2;やや当てはまる、大変だった)以上のもの

上記のとおり、職務異動の有無にかかわらず、部長クラスになると

 ・自らが意思決定をしなければならなくなる

 ・自らの対外的な責任や影響力の大きさを自覚し、矢面に立つ

 ・事業戦略や経営戦略を意識して判断を行う

 ・他部門と折衝し、資源調達をしなければならない

 ・抵抗があったとしも、必要なことは進めていくことが求められた

 ・組織内の人材再配置、組織風土変革を行わなければならない

などが大きな変化として抽出されました。これらは事前のインタビュー調査での仮説とほぼ一致するものでした。

また、課長クラスから部長クラスへの職位の移行時に職務系統をまたがる異動を経験した(これまであまり経験したことのない未知の部門に異動した)方については、異動なしの方と比べて

 ・さまざまなトレードオフに直面する

 ・現場情報が耳に入ってこなくなる

 ・(自分の知らない課長に)任せて、(その)課長同士を連携させる

 ・必要な時には、組織内のルールや仕組みを変更する

なども加えた、さまざまな変化に直面していることがうかがえました。

さらに、課長クラスから部長クラスへの職位の移行時に職務系統をまたがる異動を経験された方に、職務系統をまたがる異動と職位の変化がマネジメント上どれほど大変だったか質問し、『きわめて大変だった』と回答された項目を図表01にピンク色で表示しています。

 ・自分が未経験でよく知らない部門が管轄下に入って大変だった

 ・かつての先輩が自分の部下になって対応に苦慮した

 ・自分の後継者となりうる人材の見極めと、育成が求められるようになった

 ・組織目標の達成のために、組織全体の雰囲気、組織風土を変えていく必要に迫られた

ここで興味深いのは、戦略デザインやスキル・知識習得ではなく、管轄範囲が広がる中で、対人対応や人材育成、組織風土など、いわゆる組織構造の維持・創造に苦労された様子がうかがえるところです。 部長層への任用時に、コンプライアンスや知識・スキル研修を実施している企業は一定割合存在するようですが、それらが「直面する変化」を乗り越えるためにどの程度有効に機能しているのかは、検証を行う必要があると言えるでしょう。

職位の移行にともなう問題行動の発生について

次に、定量調査で新たに企画した、課長から部長クラスへの移行にともなう「問題行動」についての調査結果(暫定結果)について報告します。問題行動とは、職位の移行前はそれほど問題ではなかった(特に問いただされたりしない)ものの、新たな職位で期待される役割行動に照らして見ると、首尾一貫していない・適切ではない行動を指します。調査では、以下の行動のうち、どの程度問題と思うかを聞きました。 その結果、「問題だと思う」「非常に問題だと思う」という回答が多かった項目について以下に報告しています。

図表02

補足説明;
職務異動なし(課長クラスと同一の職務系統の部長クラスに任用された方)
職務異動あり(課長クラスからまったく異なる職務系統の部長クラスに任用された方)
凡例;
○印 定量調査の回答平均値3(3.問題だと思う)以上のもの

上記のとおり、職務異動有無にかかわらず、全体的には

 ・自身の影響力が拡大していることに対して無自覚

 ・経営層の意向ばかりを優先した意思決定や行動をとる

 ・課長や一般社員から上がってくる情報をうのみにする

 ・全体最適や事業戦略を無視して、自部門を中心とした思考・計画立案を行う

などを問題行動と認識していることが明らかになりました。
また、課長クラスから部長クラスへの職位の移行時に職務系統をまたがる異動を経験した方については

 ・自分が知らない/経験がない職務機能(部署)にはあまり関与しようとしない

 ・周囲を、自分が仕事をしやすい部下で固める

 ・自分の関与していない提案や決定に対して否定的な見方をしてしまう

など、職務系統をまたがる異動者に特有の「問題行動」として認識されやすい傾向があることが示唆されました。

さらに、職務系統を跨る異動をしたかどうかを問わず、部長になって実際にとってしまった行動(あなたの経験上あてはまるもの)として多く回答されたものに、水色の5項目がありました。

 ・自身の言動の影響力を自覚せずに、以前と同じような意思表現をしてしまう

 ・課長を飛ばして現場と直接やりとりをしてしまう

 ・経営層の意向ばかりを優先した意思決定・行動をしてしまう

 ・課長や一般社員から上がってくる情報をうのみにしてしまう

 ・自分が知らない/経験がない職務機能(部署)にはあまり関与しようとしない

これらの行動については、職位の移行をスムーズに行うために、意識して取り組むべき要素であるとも言えます。 また、どのような場面でこれらの行動をとりやすいのか、新たな職位に就く前にシミュレーション(トレーニング)や自己の内省を行うことが求められる要件であるとも言えます。

ちなみに、前の職位で高いパフォーマンスを発揮しているにもかかわらず、次職位になっても旧来のやり方が抜けない、期待役割を無視した行動をとってしまうなどの問題行動は多くのシニア・マネジャーで見られ、ディレイルメント(脱線)と呼ばれています。

最後に

ここまで、定量調査の調査結果(暫定結果)の一部を報告させていただきました。 今後多くのデータを用いて、総括的・詳細な分析を行っていくことができればと考えています。企業経営を担う人材として求められる、あるいは望ましい要素は何なのか、それは開発可能なのか、そしてどの段階でどのように開発されていくのか、本研究は引き続き探っていきます。

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