国際的な経営学のトレンド Academy of Management(米国経営学会)2017 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
仲間 大輔
執筆者情報
組織行動研究所
研究員
藤澤 理恵

AOM(Academy of Management:米国経営学会)の第77回年次大会が、ジョージア州アトランタで5日間(8月4日〜8日)にわたって、開催されました。


2017年大会概要

88カ国から10000名を超える参加者が集まり、2177のセッションが行われ、昨年の大会と参加者・セッション数ともにほぼ同規模となっています。米国からの参加者は4割弱で、海外からの参加が過半となっており、国際的な学会であることもあらためて確認されました。

また、多様な研究カテゴリーでの発表が行われているのもこれまでと同様です。

大会全体を通じたテーマは
「At the Interface(境界・接点にて)」

今年の大会テーマは“At the Interface(境界・接点にて)”となっています。Interfaceの辞書的な用法は、「システムや概念や人間などの間にある境界や接点(Random House Dictionary, 2016)」ですが、今大会では、その両義的な意味――組織の内部と外部の「境界」であると同時に、その境界を越えたコミュニケーションを促進する「接点」ともなる――に注目してテーマとした、との趣旨説明がされました。今日の組織においては、情報や人間、その他のリソースが組織の境界を越えて移動しており、Interface(境界・接点)の重要性が飛躍的に高まっていることが、その背景となっています。

前述のとおり、セッションは基本的に研究カテゴリーごとに構成されていますが、そのなかで28のシンポジウム、14のワークショップが、All-Academy(全体セッション)として、“At the Interface”をテーマに設定されました。

全体セッションでは、ビジネスとソーシャルインパクト(公共善・社会課題解決)の境界、プラクショナー(実務家)とアカデミア(学会)の境界、リーダーとフォロワーなどの役割間の境界、境界をまたぐチーム(cross-boundary teaming)など、マクロからミクロにおよぶさまざまな“At the Interface”において、異なるドメイン間の連携や融合を加速させていくことの必要性が議論されました。

境界・接点における関係性に変化を起こす
「自分は何者か」という問い

“At the Interface”のテーマに沿った全体セッションのなかから印象的だったものをご紹介します。まずご紹介する2つのセッションでは、いずれも、境界における関係性に変化を起こすときに、「自分は何者か」を問うことの意味が強調されました。

Session566: Authenticity at the Interfaceは、アカデミックな研究の方向性を議論するシンポジウムでした。テーマであったオーセンティシティ(authenticity)は、「真正性」「本来感」などと訳されますが、ぴったりのニュアンスを日本語で捉えることがとても難しい概念です。

『オーセンティシティのパラドックス』という論文(*1)において、「自分らしい」やり方にこだわることがリーダーとしての成長を阻害することもあると警鐘を鳴らしたインシアードのハーミニア・イバーラ(Herminia Ibarra)氏は、オーセンティシティとは何かという問いに、「自分は何者かということに意識的であること」と答え、転職や昇進など個人のキャリアの転機となる境界・接点において、「自分自身でいること、自己の可能性に開くこと、新しい自己を実験することなどが、良いコミュニケーションや成功につながる」と指摘しました。

*1 Ibarra, H. (2015). The authenticity paradox. Harvard Business Review, 93(1/2), 53-59.

また、ミシガン大学のロバート・E・クイン(Robert E. Quinn)氏は、単に自分らしさを語りあうというようなことではなく、“authentic authenticity(真正なる本来感)”とはどのようなものかを考えるべきだ、と今後の研究の方向性に強い示唆を与えました。あわせてクイン氏は、「奉仕したい目的に意識的であること、高次の目的(Higher purpose)をもつことが重要」と指摘し、しかしそれは「スティーブ・ジョブズのような偉大で高名な人物に影響を受けて発見するようなものではなく、親や教師といった身近な人から受ける影響や自分が身近に行っていることを重視すべきで、自分がエンゲージ(engage)する問題や場所を見つけることこそが重要で困難な仕事なのだ」と訴えました。
このような研究者の指摘は、実際の企業活動に対しても示唆に富むものであることが、同じ日の午後に参加したSession764: Transformation at the Interface -- The Case of the LEGO GroupにおけるLEGO社の変革事例のプレゼンテーションで実感されました。2004年、経営不振を打開すべくCEOに抜擢されたヨアン・ヴィー・クヌッドストープ(Joergen Vig Knudstorp)氏は、単なる業績回復ではない変革を志し、従業員やサプライヤー、カスタマーなどすべてのステークホルダーとの間で「Why Do We Exist?(我々はなぜ存在するのか)」を問い直したことが、それぞれとの関係性の変革とブランドの再構築に成功した要因であったと語りました。存在意義と優先順位を再定義したことの効果について、クヌッドストープ氏は、「原理原則(discipline)をもつことが、熱意とエネルギーと創造性をもってLEGOグループに関わってくれる人々と出会うためのチケットだった」と語り、プレゼンテーションを締めくくりました。

オーセンティックであること、つまり個人・組織が自分(たち)は何者であり、何を目的とするかを問い直し、自らの在り方に忠実であることが、境界・接点における関係性をよりよいものに変革することが、研究・実務のいずれの視点からも熱く語られたことが印象的でした。

実務と学術との境界・接点
経営学は役に立つか

また、プラクショナー(実務家)とアカデミア(学会)との境界・接点を取り上げた全体セッションも多く見られました。

Session 40: At the Interface with Practitioners: Professional Doctoratesでは、実務家に対するアカデミックなトレーニングの場としてのDBA(Doctor of Business Administration)の意義について議論されました(*2)。米国のウェブスター大学やペース大学、仏ISEORなど各大学でのDBAの取り組みが紹介されると同時に、実務家の知やイノベーションをどのようにアカデミックな形に還元していくのかについて議論されました。教育上の焦点としては、実務的な知を学術的に発表していくに当たりどの程度の深さでの文献レビューを求めていくのか(DBAコースとphDコースで異なるのか)、また、学術雑誌への論文発表に向けたアカデミックライティングのトレーニングをどの程度行うべきか、といった実務と学術とプログラム上のバランスについて活発な意見交換がなされました。過度にアカデミックに適応させていくことによって生徒である実務家たちの知を損なうことの危険性が指摘されるなど、実務(家)的な知見に対する尊敬・尊重が共通認識となっていたのが印象的でした。

*2 DBA (Doctor of Business Administration)とは
Professional doctorate(専門職博士)の一種で、主に職業人を対象としたプログラム。通常の博士課程(phD)とは区別され、学術的な知識・理論の実務的な活用・応用への貢献が重視される。日本では経営学博士、経営管理学博士などと呼ばれることが多い。

さらに、Session 567: Time Is Ripe for Knowledge Synthesis: (Re)inventing Technologies, Outlets, and Incentivesや、Session 669: At the Interface-- Building Paradigmatic Bridges across Disciplinary Boundariesにおいては、学会での研究の蓄積をより実務に役立つ形にしていくために何ができるのか、について、著名な経営学者が多く参加して活発な議論が繰り広げられました。

経営学は、他の諸科学と同様に、カテゴリーに分かれてそのなかで研究が進められていますが、経営実務において必要となる知識はそのようなカテゴリー分けは必ずしも行われておらず、学会と実務との間にある種の乖離が生じています。そのようなことを背景に、学会として知識の統合を行っていくことが必要ではないか、具体的には、より体系的な研究概観(Systematic review)の必要性(カーネギーメロン大学のデニス・ルソー<Denise Rousseau>氏)や、そのような統合の試みを発表するような学術誌が必要なのではないか(テキサスA&M大学のデュアン・アイルランド<Duane Ireland>氏)といった提言が行われました(Session 567)。また、マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)氏は、医学の例を引き合いに、カテゴリーに分けることは知識の進歩に必要であり、カテゴリー分け自体が問題というわけではないとした上で、カテゴリーのなかにおさまらない(現実的にかかる)病気に対峙する際には問題となりえること、そして、そのような現実的な問題に取り組む実務家に対するInsight(洞察)の提供こそが研究者・学者のミッションであり、知識の統合とはそれをより追求していくことにつきる、といった持論を(氏独特の皮肉交じりの口調で)展開し、会場を沸かせました(Session 669)。

両セッションとも、経営学の大家たちから経営実務への有用性に対する危機感とコミットメントが表明されており、また同時にフロアの実務家の参加者からも多く質問・コメントが寄せられていました。より統合的な学術的な知見に関する期待の高まりは、今大会のテーマを象徴するものであったと感じられました。

3500を越えるペーパーセッション、1000を越えるシンポジウム

これらのような全体セッションに加え、カテゴリーごとにペーパーセッションといわれる論文発表を中心に多くの個別セッションが行われています。図表2のとおり、多岐にわたる内容で発表数も非常に多数となっているため、ここでは特に印象に残ったトピックスとして、経営・組織の研究の方法論の探求と、チームや対人関係についての研究をご紹介します。

新たな経営学の方法論の探求

まず、より有効な経営・組織の研究に向けた方法論の探求についてのセッションが数多く見られました。代表的なものとして、戦略論や組織行動、HR、アントレプレナーシップなど、多数のカテゴリー横断のワークショップとして開催された「マルチレベル理論の方法論的進展:創発とボトムアップ効果への注目(Session 453: Multilevel Methodological Advances: A Focus on Emergence and Bottom-up Effects)」が挙げられます。

マルチレベル理論とは、経営学研究において分析対象となるレベル・階層についての議論で、個人のレベル(ミクロ)や組織全体のレベル(マクロ)、その中間にあるチームのレベル(メゾ)などを区分します。例えば、優秀な個人を集めたチームが必ずしも優れたチームとはならないように、個人レベルで見られる特徴が必ずしも上位レベルにそのまま適用されるわけではない、ということが論じられており、複数のレベル間の関係性を解き明かすことの重要性が指摘されています(*3)。

本ワークショップにおいては、マルチレベル研究の第一人者であるミシガン州立大学のスティーブ・コズロウスキ(Steve Kozlowski)氏が講演者の一人として登壇し、マルチレベルの研究におけるコンピュータシミュレーション(エージェントベースシミュレーション)の有効性を指摘しました。エージェントベースシミュレーションとは、コンピュータ上に単純化された行動ルールをもつ個人(エージェント)を設定し、そのエージェント同士の相互作用によって生じてくる集合的な事象を分析する手法であり、複雑系の研究や、社会システムの研究などに使われる手法です(*4)。エージェントベースシミュレーションを活用することにより、個人(ミクロ)の行動傾向や相互作用によって、どのような組織的事象が生まれてくるか(メゾ、マクロ)を観察・分析することが可能になることを、自身の研究を参照しながら論じられました。本セッションには、ワークショップとしては異例ともいえる100名超の聴衆が集まり、関心の高さをうかがわせました。実際の研究への適用も始まっており、別セッションでは、ニューサウスウェールズ大学のキム・サンフー(Sunghoon Kim)氏とクイーンズランド工科大学のジェフ・シム(Jaehu Shim)氏より、エージェントベースシミュレーションを戦略的HRMに応用した研究も報告されていました(Session 1962: Dynamic Processes in HRM)。

*3 例えば、Kozlowski, S. W., Chao, G. T., Grand, J. A., Braun, M. T. & Kuljanin, G. (2013). Advancing multilevel research design: Capturing the dynamics of emergence. Organizational Research Methods, 16(4), 581-615. など
*4 例えば、Fioretti, G. (2013). Agent-based simulation models in organization science. Organizational Research Methods, 16(2), 227-242. など

また、Session 138: Experiments in Institutional Theory and Strategy Researchや、Session 1697: Frontiers of Psychological Research in Strategic Managementでは、経営学における心理学実験の有用性が論じられました。

これまで経営学のなかでも比較的マクロな事象を扱い、組織全体を分析単位として捉えていた戦略経営論や組織理論といった分野についても、ミクロな基礎付け(Microfoundation)、つまり理論をより個人に根差したものにしていくことの必要性が近年議論されていますが(*5)、その流れを受けて、心理学や行動経済学のように実験室実験を経営学においても活用していくべきだということが指摘され、実際に活用しているフロンティアの研究が紹介されていました。

*5 例えば、Felin, T., Foss, N. J. & Ployhart, R. E. (2015). The microfoundations movement in strategy and organization theory. Academy of Management Annals, 9(1), 575-632. など

これらの他にも、フィールド実験(ボッコーニ大学のマウリツィオ・ゾロ<Maurizio Zollo>氏、Session 138)や、トピックモデリング(ロンドン・ビジネススクールのケイヴァン・ヴァキリ<Keyvan Vakili>氏、Session 453)、ウェアラブルセンサーの活用(オレゴン大学のラルフ・ハイダル<Ralph Heidl>氏、Session 453)など、さまざまな方法論的展開が論じられ、参加者の注目を集めました。どの論者も、複数の手法を組み合わせて多面的に理解することの重要性を共通して指摘しており、組織や経営という複雑な事象を対象とする経営学の難しさと面白さをあらためて認識することとなりました。

チームの功罪

また、仕事上の対人関係やチームに着目した研究にも目を引くものが見られたので、いくつか概要をご紹介します。

■「課題解決者」から「解決法探求者」への変容が、オープンイノベーション成功の鍵
2010年に行われたNASA(アメリカ航空宇宙局)のオープンイノベーション実験を調査した、ニューヨーク大学のヒラ・ライフシッツ・アサフ(Hila Lifshitz-Assaf)氏は、課題解決者(Problem Solvers)から解決法探求者(Solution Seekers)へと自分たちのアイデンティティを変化させられたかどうかがオープンイノベーションの成否を分けたと報告しました。オープンイノベーションでは、課題解決に必要とされる専門領域を事前に定義できず、実際に「専門家」ではない人の参加によって課題解決が進んでいきます(8つのプロジェクトに3カ月で30000人が参加したそうです)。ここでNASAの技術者たちは、自分たちは何者か、何のプロフェッショナルかという自己認識を再構築する必要に迫られたといいます。それまでの「専門家」としてのアイデンティティを守ろうとすると、外部との境界を強固にすることになり、解決策を柔軟に取り入れることができなかったそうです。オープンイノベーションに臨む組織は、メンバーのアイデンティティを一度溶かし、仕事に焦点を当て直すことで、新しく何者としてプロジェクトを推進するかを定め直すことを支援する重要さが示唆されました(Session614: Meeting at the Interface of Research on Teams and Boundaries to Explore Cross-Boundary Teaming)。
■領域を超える人材が、組織に果たす役割
組織や活動の領域を超えて、橋をかけたり、つないだりする活動をする人材は、バウンダリースパナー(boundary spanner)と呼ばれ、研究対象とされています。アビリーンクリスチャン大学のサラ・イースター(Sarah Easter)氏らは、カナダ政府でセクションを越える活動をオーガナイズしているバウンダリースパナーを調査し、彼らが1.パートナーシップを構築し2.協働の要となり3.視点を翻訳し4.ビジョンを共有し5.ファシリテートすることを自らの役割とし、1.焦点をしぼり、2.複雑さを認め、3.知識を変換し、4.学びを追求し、5.個人の関係に焦点を当てることを日々の活動とすることによって役割を果たしていると指摘しました(Session929: Humanism and the Search for Meaning at Work)。

■仕事の相互依存性は、他者とのつながりの充足感と、コントロールの渇望の両方を生む
マイアミ大学のスコット・ダスト(Scott Dust)氏とアムステルダム大学のマリア・ティムズ(Maria Tims)氏は、従業員自身が仕事を自分に合ったものへと変形する「ジョブ・クラフティング」の動機と、仕事の進捗や成果が他者と連動している度合い(仕事の相互依存性)の関連を検討しました。仕事の相互依存性は、低すぎれば人とのつながりの不足を、高すぎればコントロールの不足を感じさせ、いずれもジョブ・クラフティングの動機となるという実証結果が紹介され、人には仕事上で他者とのつながりを求める欲求と、自身のコントロールを高める欲求が並存しているためであるとの考察がなされました(Session1471: Crafting Job Crafting Research)。

■チームの目的に共感するほど、弱い自分をさらけ出しにくくなる
「詐欺師(インポスター)症候群」とは、自分の成功や能力は偽物でありそれが露見するのが怖いと感じるような心理状態を指します。ネバダ大学のリチャード・ガードナー(Richard G. Gardner)氏らは、そのような心理状態が、参加する活動に共感するほど強くなることを示し、そのような場合に人々が、過去の成功体験を思い出す、誰にでもあることだと自分に言い聞かせる、自分と比較する対象を変える、などの対処法をとっていることを調査によって明らかにしました(Session1330: Identity at the Interface: Constructing Identity across Temporal, Social & Intrapersonal Boundaries)。

以上の研究はいずれも、対人関係やチームに着目する上で、日常的な行動に光を当てる細やかなアプローチがとられている点に好感をもち、ご紹介しました。人々が、他者やチームとの関係性やその境界を、さまざまな思いと共に経験しており、そこで何者として振る舞うかに日々心を砕いていることが分かります。そのような認知や感情の動きに丁寧に意識を向けることが、仕事の成果に直結する世の中になってきているともいえるでしょう。

おわりに

以上、今大会で印象に残ったトピックを紹介してきました。昨年の大会テーマは、“Making Organizations Meaningful(組織を意味があるものにする)”であり、世界金融危機を契機に高まった物質主義、経済至上主義の問い直しを背景に、組織には意味があるのだろうか、あるいは、意味ある仕事とはどのようなものだろうか、と問う内容が印象的でした。それに対して、今年は、そこから一歩を踏み出す、より実践的な知の創出の試みがより強調されていたように感じます。自分たちの研究をより社会的なインパクト・実務的な価値があるものにしていきたいという学会全体の志向性を感じる大会となりました。

学術的な知と実務的な知との接点(Interface)を担っていくのは当研究所のミッションでもあります。引き続き、弊社では個と組織を活かす力を探求していきたいと思います。

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