国際的な経営学のトレンド Academy Of Management(米国経営学会)2012 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
マネジャー
主任研究員
兼 HR Analytics & Technology Lab
入江 崇介

米国経営学会(Academy Of Management; AOM)第72回年次大会が、2012年の8/3〜8/7に米国のボストンで開催されました。大会テーマは“The Informal Economy”(非公式経済)であり、経済活動の中で決して無視できない規模である非公式経済やその中でのマネジメントに関する研究発表やシンポジウムがいくつか行われていました。

*非公式経済:
法的な規制の範囲外で行われる経済活動。開発途上国においては、農業以外の雇用の半数以上が非公式経済に関わる雇用と言われている。

また、例年通り、国際色豊かな学会であり、本年度も110に及ぶ国の研究者、また実務家による多種多様なセッションが行われていました。1800セッションのうち、筆者が参加した中で特に興味深かった研究を2つご紹介します。


異文化対応力を高めるトレーニング

近年、国境を越えた活動がますます活発になる社会において、文化的知性(CI, Cultural Intelligence; CQ, Cultural Quotient)という概念が注目を浴びています。代表的な定義によると、文化的知性とは、「メタ認知CQ:自らの文化に疑問を持ち、他の文化に文化的知識を適応させていく能力」「認知的CQ:異なる文化の習慣や規範についての知識」「動機的CQ:異なる文化を学習したり、異なる文化の中で成果を上げたりすることに関心を寄せる能力」「行動的CQ:異なる文化の人々と交流する際に、適切な言語的、あるいは非言語的な行動をとる能力」からなる複合的な能力であり、異文化対応力と言うこともできる能力です。

このような文化的知性を高めるためには、どのようなトレーニングが効果的なのかについて、先行研究をもとに学習モデルを組み立て、定量的な検証を試みた研究の報告がなされていました。検証の結果得られたモデルは、図表01です。

図表01 文化的知性の学習モデル

この研究から得られる示唆は、

【1】オルポートによって提唱された「接触仮説」にあるように、「対等な集団地位」「共通する目標」「集団間の協力」「権威による支援」という条件を満たす「効果的な異文化との接触」が、もともと持っていたステレオタイプと一致しない事象(「期待との不一致」)に直面することが増える
【2】「期待との不一致」が増えるほど、自分自身の「ステレオタイプへの気づき」が高まる
【3】「ステレオタイプへの気づき」は、「メタ認知CQ」を高めると同時に、「ステレオタイプの修正」を促す
【4】「ステレオタイプの修正」は、「行動的CQ」と「動機的CQ」を高める

ということです。

最近では、グローバル人材育成のため、異文化研修や海外への赴任など、さまざまな取り組みが行われています。一方で、「とりあえず海外に放り込めば、あとはどうにかなる」というような取り組みも少なくないように思われます。しかし、本研究の結果に基づくならば、好ましくない異文化との接触は、かえってステレオタイプを助長し、文化的知性を下げるという可能性もあります。

ビジネスパーソンが海外経験から学ぶことは数多いと思われますが、何を学ぶことを目的とするのか、またそのためにどのような条件を整えるべきなのか、そのようなことを考える重要性を示すものとして、本研究は示唆に富むものでした。

【参照文献】

MacNab, B., Rosenblatt, V., & Worthley, R., 2012. Experiential CQ Education: An empirical process specification. A. Paper presented at the annual meeting of the Academy of Management, Boston, United States.

自己認識と他者からの認識の一致の重要性

リーダーシップ開発で使用されるツールの一つに、360度サーベイ(360度評価、多面観察評価)があります。360度サーベイは、自己、上司、同僚、部下、場合によっては顧客など、さまざまな視点からの評価をもとに、自己の行動特徴を浮き彫りにし、自己理解を深め、行動を改善するために用いられます。

それでは、そのような多様な視点からの評価は、それぞれどのような特徴を持っているのでしょうか。また、多様な視点の間のギャップには、どのような情報が含まれているのでしょうか。著名なリーダーシップ開発機関であり、360度サーベイで大きな実績を持つCenter for Creative Leadershipの研究者たちがこの問題に迫る研究を行っていました。

本研究では、ポジティブな側面である「リーダーシップの効果性」への評価、またネガティブな側面である「将来の失敗の可能性」への評価の双方と、さまざまな評価者によるリーダーシップ行動に対する評価、またその間のギャップとの関係性について分析が行われていました。相関係数については、図表02のような結果が紹介されていました。

図表02 リーダーシップ行動に対する評価と、将来の失敗の可能性ならびにリーダーシップの効果性との相関

※図表中の数値は相関係数。**は1%水準で有意であることを示す。

こちらの図表をもとにすると、リーダーシップ行動に対する自己評価は、他者からの「将来の失敗の可能性」「リーダーシップの効果性」の評価とはあまり大きな相関がないこと、特に同僚の評価とは有意な相関がないことが確認されます。

本研究ではさらに、Random Coefficient Model(ランダム係数モデル)、Relative Weight Analysis, Polynomial Regression Analysis(多項式回帰分析)という統計手法をもとに、より詳細な分析が行われています。

その結果、リーダーシップ行動に対する自己評価が高いほど、部下や同僚から「将来の失敗の可能性」が高く評価され、部下や同僚から「リーダーシップの効果性」が低く評価される傾向が示されました。すなわち、リーダーシップ行動に対する自己評価が高いほど、ネガティブな他者評価がされる可能性が示唆されました。このことについて、本研究ではさらに自己評価と他者評価とのギャップという観点から分析が行われています。

その結果、リーダーシップ行動に対する自己評価が他者評価を上回るover-estimatorと、自己評価が他者評価を下回るunder-estimatorでは、over-estimatorのほうが他者から、リーダーシップの効果性が低く、将来の失敗の可能性が高いと評価されていることが示されました。少なくとも、自己に対する過大な自信は、他者に対する影響力であるリーダーシップにおいてネガティブな影響を及ぼすことが、360度サーベイの認識ギャップからも確認されたと言えます。

360度サーベイというアセスメントのデータを用いた研究ならではの、リーダーシップの複層性を示したものとして、本研究は示唆に富むものでした。

【参照文献】
Braddy, P.W., Gooty, J., Fleenor, J.W., and Yammarino, F.J., 2012. Self-Other Rating Agreement: Implications for Leadership Effectiveness and Career Derailment. A. Paper presented at the annual meeting of the Academy of Management, Boston, United States.

おわりに

多くの国から参加する研究者による多様な研究に触れ、あらためて経営学の領域における研究の多様さ、奥の深さ、そして研究者の層の厚さを実感しました。

日本ではあまり行われていない研究領域、研究テーマについても、多くの実証的な研究が行われていることもあり、今後も国内のみでなく海外の研究の動向にも目を向け、より広く情報収集に努めていきたいと考えております。

関連する記事

関連する調査・研究

関連するセミナー

ピックアップ

[報道関連・マスコミの皆様へ]
取材・お問い合わせはこちらから
「この記事」の
WEBからのお問い合わせ
お問い合わせフォーム
電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付時間
/ 8:30~18:00 月~金(祝祭日除く)

※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください。

記事のキーワード検索
Page Top