国際的な経営学のトレンド AOM(米国経営学会)2010 参加報告

執筆者情報
HR Analytics & Technology Lab
所長
入江 崇介

2010年度の米国経営学会(Academy Of Management; AOM)年次大会が、8/6〜8/10にカナダのモントリオールで開催されました。大会の統一題目は“Dare to Care: Passion and Compassion in Management Practice and Research”であり、あらためて企業の持続的成長のために、さまざまなステークホルダー(≒シェアホルダー)に目を向けることの重要性を訴えるものでした。

大会には、開催地であるモントリオールのマギル大学の教授であり、『MBAが会社を滅ぼす』などの著作でも著名なヘンリー・ミンツバーグ氏、「学習する組織」で著名なピーター・センゲ氏など、経営学や組織行動学の大家が数多く訪れており、例年のとおり非常に活況を呈しておりました。

今回の特集では、大会で報告された数多く(ワークショップやソーシャルイベントを含め、トラック数だけでも2000に及ぶ)の研究のうち、いくつか興味深いものについてご紹介したいと思います。


脳機能で解明する肯定的なコーチングの効果

こちらは、感情的知性(Emotional Intelligence; EI)などで有名なRichard Boyatzis氏らによる、コーチングに関する研究です。この研究の最大のポイントは、最も発達したニューロ・イメージング手法のひとつであるfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging; 機能的核磁気共鳴画像法)により、コーチングの効果を血流動態反応という生理的反応のレベルで確認している点です。

この研究では、「仮にすべてのものごとがうまくいっているとしたら、10年後にはどのようなことをしていますか?」といった将来志向でポジティブな感情を想起させるような問いかけを行った場合には副交感神経系が活性化される、すなわちより脳が活性化しパフォーマンスを発揮しやすい状態になること、逆に「自分自身のパフォーマンスについて何か心配なことはあるか?」と現実志向でともすればネガティブな感情を想起させるような問いかけを行った場合には交感神経系が活性化され、逆にパフォーマンスを発揮しにくい状態になることが示されていました。

質問紙やインタビューへの回答のような、回答者の自己認知のみでなく、脳の血流動態という客観的な指標でポジティブな働きかけの効果が示されたことは、大きなインパクトといえるのではないでしょうか。動経済学やニューロ・マーケティングなどでもニューロ・イメージングを活用した研究が増えつつありますが、この動向は組織行動学にもあてはまるのかもしれません。

【参照論文】
Coaching with Compassion: An fMRI Study of Coaching to the Positive or Negative Emotional Attractor Boyatzis, R.E., Jack, A., Cesaro, R., Khawaja, M, & Passarelli, A. Paper presented at the annual meeting of the Academy of Management, Montreal, Canada August 2010

他者評定で性格を捉えることの意義

Big5(外向性、情緒安定性、誠実性、調和性、開放性)という、世界的に著名な性格を捉える枠組みについて、自己回答方式による自己認知の結果より、他者評価方式による他者認知の結果の方が、職務パフォーマンスの予測的妥当性が高いということを、メタ分析で示したIn-Sue Oh氏らによる研究です。発表で紹介されていた、これまでの自己回答方式の妥当性と、他者評定方式による妥当性のメタ分析結果との比較は図表01のとおりです。

図表01 Big 5の職務パフォーマンスとの相関の比較

他者評定の有効性については、これまでも研究発表がなされてきましたが、この研究の大きな価値はメタ分析というさまざまな研究結果を統合した方法でそれを検証したことにあると考えられます。他者評定というと、一般的に360度サーベイ(多面評価)を連想されるかもしれませんが、そこでは多くの場合、発揮能力・行動特性であるコンピテンシーの把握が行われます。この研究結果を参考にするならば、表面的に見えやすい特性だけでなく性格特性についても360度サーベイを行う価値があるのではないかと考えられました。なぜならば、この研究でも言及されていましたが、自己評価は1名分の評価しか得られないのに比べ、他者評定はさまざまな関係者の評価を統合することにより、信頼性の向上をはかることができるからです。

【参照論文】

Validity of Observer Ratings of FFM Traits: A Meta-analysis Oh, IS., Wang, G. Paper presented at the annual meeting of the Academy of Management, Montreal, Canada August 2010

変革的リーダーシップが成果を生み出す仕組み

リーダーシップ研究において、リーダーだけではなく、リーダーシップの受け手であるフォロワーにも注目した研究が最近は非常に多くなっています。この研究は、Stephen Courtright氏らによるもので、リーダーの変革型リーダーシップとフォロワーの性格特性のひとつである調和性(協調性や懐の深さ)との組み合わせが、どのようにフォロワーの文脈的パフォーマンス(Contextual Performance)に影響を及ぼすかを検証したものです。なお文脈的パフォーマンスとは、自分の役割として定義された仕事以上のこと、たとえばよりよくその役割を果たすための努力であったり、周囲のメンバーへのサポートであったり、組織の規範の遵守であったりと、プラス・アルファの活動のことを指し示します。検証のために用いられたモデルを模式的に示すと、図表02のようになります。

図表02 文脈的パフォーマンスに対する変革型リーダーシップの影響とフォロワーの調和性の調整効果

この研究からは、変革型リーダーシップそのものがフォロワーの文脈的パフォーマンスを生み出すのではなく、変革型リーダーシップがフォロワーの信頼を生み出して間接的に文脈的パフォーマンスに影響を及ぼすこと、そしてその変革型リーダーシップの文脈的パフォーマンスへの間接的な影響は、フォロワーの調和性が高い場合により顕著なものになることが示されていました。

リーダーには自らの型があるのはもちろんのこと、相手によってリーダーシップのあり方を調整すること、もしくはリーダーの特性や担当業務の特性に合わせて、適切なチーミングを行うことの重要性を実証的に示す研究のひとつといえます。

【参照論文】
The Role of Follower Agreeableness in Influencing Responses to Transformational Leadership Courtright, S.H., Colbert, A.E. Paper presented at the annual meeting of the Academy of Management, Montreal, Canada August 2010

おわりに

今回は3つの研究について紹介をしましたが、それ以外にも、海外展開を進める日本企業においても重要な課題となっている「グローバルリーダー」に関するワークショップ、思いやりや共感をどのように育むことができるのかというワークショップ、また多様な国籍の人材が一堂に会する海外研修で文化的知性を育むことに関する研究など、さまざまな視点に触れることができました。

学会の規模の違いもさることながら、やはり英語という世界共通言語で行われる学会であることもあり、日本の学会では普段目にすることのない研究も少なくありませんでした。

今後も組織行動研究所では、海外学会の動向をウオッチし皆様にご紹介するとともに、自らもユニークな研究を行えるよう研鑽に努めたいと考えております。

関連する記事

ピックアップ

[報道関連・マスコミの皆様へ]
取材・お問い合わせはこちらから
「この記事」の
WEBからのお問い合わせ
お問い合わせフォーム
電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付時間
/ 8:30~18:00 月~金(祝祭日除く)

※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください。

記事のキーワード検索
Page Top