学会レポート

国際的なHRDの潮流 第2回

ASTD 2009国際会議 参加報告

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ASTD 2009国際会議 参加報告

人材開発(HRD)と組織開発(OD)領域における世界最大の会員制組織ASTD(米国人材開発機構)が主催する国際会議が今年も開催されました。前号「ASTD 2009国際会議 参加報告(第1回)」でご紹介した「不況期における学習、タレントマネジメント、「全員フォーカス」と共同体意識」に引き続き、今号では、新しい労働力(ミレニアルズ世代)への対応、セールストレーニングの増加についてご紹介いたします。

執筆者情報

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サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
主任研究員

嶋村 伸明(しまむら のぶあき)
プロフィールを⾒る

新しい労働力への対応が本格化

すでに1999年あたりから、来るべき労働人口の変化への対応は叫ばれていました。ベビーブーマー世代の退出がもたらす影響については昨年のレポートで述べたとおりです。そしてここ数年で世代論の主役を担っているのが「Y世代(Gen-Y)」と呼ばれる人々です。「Y世代」は2000年あたりまで使われていましたが、2000年以降、「Millenials(ミレニアルズ)」という呼び方が主流になってきました。もともとY世代以前の世代の呼称として「X世代(Gen-X:1960~1980年代生まれ)」があり、X世代との比較で呼ばれることを嫌ったY世代の人々が、自分たちで「ミレニアルズ」という呼称を普及させたといわれています。

「Y世代(Gen-Y)」「ミレニアルズ」とは、一般的に1980~2000年に生まれた世代を指し、米国で8000万人、実に人口の41%を占め、その数はベビーブーマー(7200万人)を上回ります。人種的にきわめて多様なのも特徴で、34%はヒスパニック、アフリカン・アメリカン、アジアン、ネイティブアメリカンで構成されています。また4人に1人はシングルペアレント。75%はワーキングマザーのもとで育っているという人々です。彼らは別名「トロフィー世代」とも呼ばれ、「あなたは特別なんだ」といった育てられ方をしました。また、生まれたときからITが周囲に存在した世代です。すなわち新たな生育環境のもと、従来とは異なる価値観や能力をもった世代とされているのです。

そして、ミレニアルズはその圧倒的な数で、マーケットとしても企業労働力としても無視できない存在です。知識労働における労働力不足が目に見えており、タレントの獲得と定着が喫緊の課題となっている今日、企業は彼らを惹きつけ、パフォーマンスを引き出し、定着させていかなければなりません。この課題への対応を扱うセッションはASTD国際会議では毎年一定数存在していましたが、今年はさらに増えてきた印象です。また、引退するベビーブーマーのスキルやノウハウを移転させるために、いかに世代間の交流を促す関係づくりをしていくかといったテーマを扱うセッションもありました。エネルギー、通信など設備メンテナンスに熟練のスキルが求められる産業では、この技術移転問題は深刻のようです。ミレニアルズの特徴についてはいろいろな研究がありますが、一般的には下表にあるようなものです。

図表01 ミレニアルズ(1980~2000年に生まれた世代)の特徴

図表01 ミレニアルズ(1980~2000年に生まれた世代)の特徴

従来は、ミレニアルズが従来型の集合研修には不向きな行動・思考特性をもっていることと、それにトレーナーとしてどのように対処すべきかというテーマが多かったのですが、数年前に登場したWeb2.0と呼ばれるテクノロジーが学習に活用され始めてから、テクノロジーをうまく活用して彼らの学習意欲を最大化させようといった論調が出てきました。

今年、基調講演を行ったASTDプレジデント、トニー・ビンガム氏の主張はまさにそこにフォーカスしたものでした。同氏は新たな世代の学習方法の特徴を理解することの必要性と、そこでのインフォーマルラーニングの可能性、Web2.0と呼ばれるテクノロジーを効果的に活用することの重要性を主張しました。

テクノロジーの世界ではすでにWeb2.0は過去のバズワードになっているようですが、インフォーマルラーニング(昨年のレポート参照)における有用性は間違いなくありそうです。新たな世代の台頭と彼らが好む学習方法の普及は、近い将来、学習とトレーニングのあり方を大きく変えていくものと思われます。

新しい労働力への対応が本格化1
新しい労働力への対応が本格化2

セールストレーニングに関するセッションの増加

最後に、今年のASTD国際会議のトピックとして、セールストレーニングに関するセッションが例年よりも多く見られたことに言及しておきます。これには2つくらいの背景があると思われます。ひとつには、景気後退期にプロフィットセンターであるセールスの強化は大きな関心事項となっていること、そしてもうひとつはASTDが今年、今日的なセールスのコンピテンシーモデル(「The world class selling」)を発表したことです。

顧客がもつ情報、知識が飛躍的に向上している今日、セールスに求められる能力も大きく変化しています。今年の国際会議では、ASTDのコンピテンシーモデルに関するセッションや、セールスをとりまく環境の変化と、それに対応していくセールストレーニングはどのようにあるべきかを論じるセッションがいくつか展開されました。

中でも、SPINモデル(ソリューション型の営業スキルを体系的にまとめた完成度の高い理論)で世界的に有名なニール・ラッカム氏のセッションは日本人参加者の注目を集めていました。同氏は、時代の変遷とともにセールスに求められる機能がどのように変化してきたかをわかりやすく振り返り、「今日はSalesとMarketingの統合が始まっている時代であり、Value Communicator(価値の伝達者)としてのセールスはもはや通用せず、Value Creator(価値創造者)にならなければ生き残れない」と主張し、営業プロセス自体が顧客にValueを生み出すような戦略を考える重要性について言及していました。

おわりに

2009年ASTD国際会議の概要をお伝えしてきましたが、継続的に参加していて感じるのは、ますます複雑性とスピードを増す社会情勢、経済情勢の変化に、人材開発、組織開発の専門家たちがなんとか対応していこうと知恵を絞り、実験し、新たな手法やコンセプトを見つけ出していこうとするエネルギーの強さです。

毎回300を超えるセッションの一つひとつがそうした変化への取り組みの実践例であり、そこで扱われるテーマやコンセプト、それらの紹介のされ方、参加者の会話から聞こえてくるキーワードといったものが毎年少しずつ変化しています。 今回の不況への対処として、「学習により重きを置く」と回答した企業が以前よりも増加しているという事実も、これらの継続的な取り組みからもたらされた結果であると解釈できます。 今年の国際会議のキャッチコピーは「A Learning Engagement」でした。「学習を生み出す結びつき」というのがその意味するところのようです。 ASTD国際会議は、同じ領域で変化にチャレンジしている数多くの仲間と会話し、情報交換し、ある種の連帯感を確認し、次のチャレンジへのエネルギーをもらう場として機能しているのかもしれません。 弊社では引き続き情報収集に努めて参ります。

おわりに
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