変化の時代の経験学習 働く個人の「持論」にはどのようなものがあるか

働く個人の「持論」にはどのようなものがあるか
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
今城 志保
執筆者情報
組織行動研究所
研究員
佐藤 裕子
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子

昨今の企業を取り巻く環境変化や働き方の多様化にともない、自律的な職務遂行や経験から学んでいくことへの期待が高まっています。皆さんも、これまでやったことがない仕事に取り組むときに、過去の経験を参考にしながら、どうやったらうまくできるかを自分なりに考えることがあると思います。このような、自分なりの仕事をうまく進めるコツ、つまり経験から得た「持論」が、環境変化への適応に役立つ可能性に着目して研究を進めてきました。

実際に、調査・研究結果から、多くの人が持論を形成していて、その持論が今後仕事を進めていくうえで役に立つと感じていること、自分なりの持論をもつことを重要だと認識していることが明らかになりました。本レポートでは、働く個人の持論にはどのようなものがあるか、その性質によって役に立つ度合いや持論形成のきっかけがどのように異なるのかを紹介します。


変化適応に「持論」が役立つ可能性に着目

DX、グローバル化、そして昨今の新型コロナウイルス感染症対策をはじめとして、企業は大きな環境変化にさらされており、そこで働く個人にとっても、変化に適応していくことの重要性はますます高まっているといえるでしょう。現在勤めている会社のなかでの環境変化にとどまらず、転職や兼業・副業の増加など、キャリアにまつわる変化に対応していくことも求められてきます。

筆者たちの研究でも、中高年ホワイトカラーの転職者を対象としたインタビュー調査において、経験から得た「持論」を、転職後の仕事場面に応用して、新しい環境に適応したことを報告しています※1。一方で、経験を積む、あるいは同じスキーマ(構造化・体系化された知識)を繰り返し使うことで、認知の柔軟性が低下することも示されています。中高年の採用時に、「自分のやり方を押し通そうとする」ことなどを企業側が懸念材料として挙げるのも、その1つの表れでしょう。

働く個人が環境変化に適応することに、経験から得た持論はプラスの影響を及ぼすのでしょうか。また、変化適応に有効な持論はどのように形成されるのでしょうか。

職務遂行のための実践的な理論としての持論

ここであらためて、持論の定義について紹介しておきたいと思います。

大辞林(第二版)によると「あることに関して前から主張し続けている、その人独自の意見。持説」とあります。朝日新聞(2008)の「キーワード」の解説には、「立志伝中の人物だけでなく、学生も、働く人も、だれもが持っている『自分なりにどうがんばるか』の実践的理論。ばくぜんと頭の中にある『暗黙知』を言語化して、みんなに理解してもらえる『形式知』に磨き上げたもの」とありました。これらから、「意識され言語化されていること」「その人独自のものであること」を特徴として定義づけました。

類似した概念に「暗黙知(Tacit knowledge)」を挙げることができます。「学校で学ぶ知識や直接教えられるものではなく、多くの場合は本人によっても明確に語られることのない知識」(Wagner & Sternberg, 1985)、「行動にかかわるものであり、手続き的な知識である」(Sternberg et al., 2000)などから、実践に用いられる知識である点は類似しています。一方、暗黙知は言語化できないとする定義もあることから(Polanyi, 1966)、持論は言語化されたものであることと、本人がそれを活用している自覚があり、価値を置いているという点に違いがあると考えられます。

これらから、筆者たちの研究においては、以下を持論の定義としました。
「働く個人がもっている職務遂行のための実践的理論であり、言語化が可能な程度に意識化されていて、その個人が価値を置くもの」

対課題場面、対人場面の持論を分類する

ここからは、定量調査の結果を用いて、実際に働く個人がどのような持論をもっているのか、紹介していきます※2。


【調査1】どのような仕事場面で持論を有するのか

35歳以上55歳未満の会社員9996名を対象としたインターネット調査を実施しました。仕事における対課題場面、対人場面、それぞれ3つずつの場面を設定し、どの場面に対して持論をもっているか(複数ある場合は最も得意なものを1つ)をたずねました。場面選択結果は図表1のとおりです。対課題場面では場面2(仕事量の多さ)が、対人場面では場面1(対外の信頼獲得)が最も多く選択されていました。

<図表1>持論を有する仕事場面の選択結果(n=9996)
以下に3つの仕事場面があります。これらのうち、あなたが、うまく仕事を進めるための「持論」をもっている場面はどれですか。複数ある場合は、もっとも得意なものを1つお選びください。
※ここでいう「持論」とは、あなたなりの考え方やコツを指します。

<図表1>持論を有する仕事場面の選択結果

場面の選択には、職種、年齢、役職(一般社員・管理職)、所属している会社の従業員規模といった回答者の属性が影響を及ぼしていました。そして、場面によって、特に影響が大きい属性は異なっていました。例えば、対課題場面2(仕事量の多さ)は、営業職、一般社員に、対人場面3(上司・他部署の説得)は、営業職以外、管理職、従業員規模が大きいほど選択されやすいという結果となっていました。これは、持論が経験を通じて形成されていることと符合する結果であるといえます。


【調査2】どのような持論をもっているのか

調査1の回答者に対して、対課題場面、対人場面それぞれについて、「あなたが選んだ場面でうまく仕事を進めるには、どのような考え方やコツがあると思いますか。あなたなりの持論をご記入ください」と示して、持論の具体的な内容の記載を求めました。

対課題場面1〜3、対人場面1〜3の6つの場面ごとに200名ずつ、職種(営業・事務・研究開発)がほぼ同数になるように回答者を絞り込みました。対課題、対人の両方の場面に持論を記入した計618名のうちから、最終的に対課題場面について584名、対人場面について522名の記述内容を分析対象としました。

持論の分類に際しては、持論の性質によってパフォーマンスへの影響が異なるであろうことを想定し、それらの性質を分類できる枠組とするのが望ましいと考えました。例えば、自身の心がけや態度のような持論(最後まであきらめないことが肝要など)をもっている場合、その適用範囲は広範であると考えられます。一方、直接どのように行動するかの持論(顧客からの問い合わせには即座に回答するなど)もあり、この場合の適用範囲は、限定的になるかもしれません。

検討の結果、先行研究の枠組を参考に、職務遂行に一般に含まれる“思考・行動のタイプ”(状況認識、行動、戦略的な全体俯瞰、自己制御)と、職務遂行における“認知のモード”(反応が素早く直観的なものか、熟慮された分析的なものか)によって分類することにしました(図表2)。


<図表2>持論を分類する枠組(思考・行動のタイプと認知のモード)

<図表2>持論を分類する枠組(思考・行動のタイプと認知のモード)

出所:Eraut(2000)※3を参考に筆者らが作成


持論の自由記述の分類作業は、筆者3名で行いました。場面ごとに2名が独立してコメントを分類し、不一致が生じた部分はすべて3名で合議のうえ、最終的な分類を決定しました。

各枠組について、実際の記述内容をイメージしていただくために、抜粋したものを図表3、4に示しました。認知のモードの分類の際には、持論の記述が簡潔であっても理由の記述レベルに応じて「熟慮・分析的」にするなど、理由についても考慮したため、図表にも併記しています。


<図表3>分類した自由記述の例 対課題場面

<図表3>分類した自由記述の例 対課題場面

<図表4>分類した自由記述の例 対人場面

<図表4>分類した自由記述の例 対人場面

持論記述内容の分類結果は図表5のとおりです。場面に応じて、持論の性質には違いがあることが分かりました。全体的に、思考・行動のタイプとしては「行動」タイプが多く、認知のモードとしては「素早く・直観」タイプが多いようでした。対課題場面では、場面2(仕事量の多さ)に「行動」タイプが、場面3(能力以上の仕事)に「自己制御」タイプが多く、対人場面では、場面2(部下の動機づけ)に「行動」タイプが、場面1(社外の信頼獲得)に「自己制御」タイプが多く見られました。


<図表5>持論記述内容の分類結果

<図表5>持論記述内容の分類結果果

約8割が「持論」は役立っていると回答

記入した持論が役に立っている度合い(以下、役立ち度)への回答は図表6のとおりです。うまく仕事を進めるための考え方やコツを書いてもらっているので、当然のことながら役立ち度は高い結果となっていますが、「とても役に立つと思う」との回答は、対課題場面においては28.4%、対人場面においては30.7%と、約3割が積極的に役立ち度を実感していました。「役に立つと思う」まで足し合わせると、それぞれ81.2%、78.5%というように、約8割が役立っているとの回答でした。


<図表6>持論の性質と役立ち度の関係

記入した持論は、今後あなたが仕事を進めるのにあたり、どの程度役に立つと思いますか。

<図表6>持論の性質と役立ち度の関係

この役立ち度は、持論の性質によって違いはあるのでしょうか。持論の性質ごとに役立ち度を集計した結果が図表7です。


<図表7>持論の性質と役立ち度の関係

<図表7>持論の性質と役立ち度の関係

思考・行動のタイプは、対課題場面では戦略に、対人場面では自己制御に分類される持論の役立ち度が高くなっていました。認知のモードは、対課題、対人、いずれの場面においても、熟慮・分析的に分類された持論の方が役立ち度が高くなっていました。熟慮・分析的な持論は、持論がなぜ役に立つかの理由付けが明確になされているという特徴があります。持論が役立つ理由を本人が明確に意識している場合は、持論を適用すべき場面や適用の仕方がより効果的になることが期待できるといえるでしょう。

持論形成のきっかけは持論の種類によって異なる

職種や役職などの個人属性が、どのような場面で持論を有するかに影響していることは先に述べたとおりです。経験によって異なる場面で持論をもつようになることを示唆する結果でしたが、ここではもう少し詳しく、過去の経験と持論形成との関係について見ていきたいと思います。今回の調査では、持論形成のきっかけについても併せて聞いているので、その結果を紹介しましょう。場面によって、きっかけとして選択された割合が異なっているのが興味深いところです(図表8)。


<図表8>持論形成のきっかけ

記入した持論をもつようになったのはどうしてですか。きっかけや理由として、あてはまるものをすべてお選びください。

<図表8>持論形成のきっかけ

限られた選択肢への回答ではありますが、解決すべき場面に対して、どのようなきっかけが持論形成に有効なのか、その示唆が得られます。例えば、対課題場面2(仕事量の多さ)は、半数が「3.同じような経験を何度もした」を選択していますが、場面3(能力以上の仕事)は、繰り返しの経験よりも「4.プレッシャーの高い仕事をした」経験がきっかけになっている人が多いことが分かります。また、対人場面2(部下の動機づけ)は「7.反面教師になる人が身近にいた」の選択割合が半数以上と突出していました。一方、対人場面に関しては、「その他」や「わからない」の選択割合が高いことから、特定のきっかけを思い出せるものではなく、積み重ねにより醸成されてきたものであることがうかがえます。

さいごに―持論研究の今後の展望

今回の結果から、多くの社会人が仕事の経験を通じて持論を形成していること、役立つ理由が説明できる熟慮型の方が役立ち度が高いことが明らかになりました。

特定の持論への役立ち度だけでなく、一般に持論をもつこと自体の重要度についても聞いたところ、約2割が「とても重要だと思う」との回答で、「重要だと思う」と合わせると約6割、「どちらかといえば重要だと思う」まで合わせると9割以上がその重要性を認識していました。提示した場面での持論がある人を対象としているため、このような結果になっているとも考えられますが、多くの人が持論の重要性を感じていることが示唆されました。

本レポートは、2016年、2017年の研究発表論文をベースにしていますが、以降、持論形成プロセスにおける効果的なリフレクションの特性や、主体性・メタ認知といった個人特性の影響について、検討を進めています(図表9)。自律的な職務遂行や経験から学んでいくことに資する研究を、これからも行っていきたいと考えています。


<図表9>持論研究プロジェクトのこれまでの研究成果

<図表9>持論研究プロジェクトのこれまでの研究成果

※1 今城・藤村(2014)「中高年ホワイトカラーのキャリアチェンジ −キャリアの継続性と適応の観点から−」経営行動科学学会第17回年次大会
※2 今城・藤村・佐藤(2016)「中堅ホワイトカラーの『持論』に関する探索的研究」産業・組織心理学会第32回年次大会
今城・藤村・佐藤(2017)「中堅ホワイトカラーの『持論』に関する探索的研究2」 産業・組織心理学会第33回年次大会
※3 Eraut, M. (2000). Non‐formal learning and tacit knowledge in professional work. British journal of educational psychology, 70(1), 113-136.

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