オンライン環境下での自律的・拡張的な学び 第2回 日常的な業務遂行と協働・共創の場面を学びに変える

日常的な業務遂行と協働・共創の場面を学びに変える
執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
部長
小方 真

前回は、テレワーク(リモートワーク、在宅勤務)の導入が進んだオンライン下での企業人・働く人たちの学びについて、「役割転換などのきっかけから周囲の期待を捉えつつ小さなWillを育み、目先の膨大な情報量に流されず、自らや周囲を俯瞰し自律的に針路を描く必要性」について述べた。

本稿では、オンライン環境下における業務遂行場面、チームや組織での協働・共創場面を想定し、学習理論も俯瞰しながら自律的・拡張的な学びのあり方について具体的なレベルで検討していきたい。


業務遂行場面を、自律的・拡張的な学びに変える

組織における仕事は、目標→方針→課題→タスクとブレイクダウンされ、マネジャーとメンバー間での指示もしくはコミュニケーションにより確定していく。これまで多くの日本企業では、仕事を明確に定義することなく、大まかな業務管掌を定めて個別の業務は状況を見ながら個別最適を図ってきた。ただし、オンライン環境下においては、マネジャーは部下の状況が見えないことが「心配」であり(※1)、「そもそもそのようなマネジメント・仕事のデザインの仕方から抜本的に改定すべきである」(※2)との論考も見られる。前回も触れた、“ジョブ型”の掛け声に惑わされることなく、自社・自職場に合った仕事のデザイン・デザインの再構築が求められることとなる。

※1 リクルートマネジメントソリューションズ(2020)一般社員2040名、管理職618名に聞く テレワーク緊急実態調査 【前編】温かく明快なコミュニケーションで、誰も孤立させないテレワークを
※2 リクルートワークス研究所(2020)「Works 161 オンライン元年

以下、マネジャーが組織マネジメントを行う主要な5つの活動(マネジメントサイクル)におけるオンライン環境下でのポイントをピックアップした。

図表1 オンライン環境下でのマネジメントのポイント

要するに、プロセス全体で仕事のデザインが「大胆で大まか」になり、納期やゴール、成果が「明確に規定され、途中確認や明示的な介入が入る」という形態である。小単位で仕事を渡して、都度確認しながら進めていたような仕事も、オンライン環境下では、ある程度の時間(半日や1日、場合によっては数日間)単位の仕事を仕立てて、目的や成果の確認や発展的な課題への対応を行っていくこととなる。そのためにも、仕事をデザインするマネジャーは当然として、仕事を進める当事者にとっても、仕事の目的や意義を俯瞰的に捉えておく、事業や戦略外部環境とつなげて把握しておくことが今以上に必要となるであろう。

そのような活動を、学びに転換する鍵は何か。まず、求められるのは仕事や課題に向けた当事者意識であろう。その上で、課題を進める際に、(1)今の実力でどの程度こなせそうか、どのあたりに壁がありそうか、(2)壁を乗り越えるにあたっての方策・方略をどれほど持ち合わせているか、そのバリエーション(周囲の力を借りるなど)はあるか、(3)事前に確認すべきことは何か、入手すべき資源は何か、などについて自らがあたりをつけていき、なるべく事前に見通しをつけていくことが求められる。ただし、不確実な環境下での課題推進となるため、(1)(2)(3)がすべて揃わないと課題に取り組めないなどのスタンスは好ましくはない。何が分かっていないのかを明らかにしながら、走りつつ考えていくことも期待されよう。

(1)から(3)のプロセスによって、業務遂行場面を学びに転換することができるのか。メジローの「変容的学習理論」の考え方が参考になる。 メジローは、おとなの学習を、「将来の行為を方向づけるために、以前の解釈を用いて、自分の経験の意味について新たな、あるいは修正された解釈を作り出すプロセスである」と定義している(※3)。そのなかで、「解釈や意味づけを行う際に習慣的に準拠としている前提や価値、信念を構成している枠組み」(※4)として、「意味パースペクティブ(meaning perspective)」という概念を提案している。学習者はその過程で、経験や事物の意味づけ方や何を優先して考えるのかを変えていくということである。メジローは、学習者自身による意味づけの重要性を訴求し、学習者本人にとっての意味やこのフレームがゆがみ、未発達である場合の、学習の成果に影響を与えることとなるリスクも示している。ゆえに、学習を通じて、新たな経験を既存の枠組に同化させるだけではなく、成人学習はそのパースペクティブの再構築を目指さなければならないと論じている(※5)。

※3 ジャック・メジロー(2012)『おとなの学びと変容―変容的学習とは何か』鳳書房
※4 小池源吾・志々田まなみ(2004)「成人の学習と意識変容」広島大学大学院教育学研究科紀要
※5 常葉―布施美穂(1998)「メジローの『パースペクティブ変容』概念に関する一考察自己決定性の中心性をめぐって-」『人間の発達と社会教育学の課題』お茶の水女子大学社会教育研究会編

当事者意識をベースにしながら、不確実な環境下で(1)から(3)のプロセスを経験すること、つまり、テレワーク下における仕事や役割の拡張は、メジローの言うところの「学びの広がり」や「学習者自身にとっての意味づけの変容」に向けた好機であるといえるかもしれない。他方、そのようなプロセスを孤独で沈思黙考で行うのは辛いとの声が出てきそうである。次に、チームや組織での協働場面を用いた学びのあり方の変化についても検討していきたい。

チームや組織で協働・共創場面を、自律的・拡張的な学びに変える

2020年6月に、北米・グローバルの人材開発プロフェッショナルが集まる、ATD国際大会がバーチャルにて開催された。COVID-19への対処に加え、コロナ後の組織やチームへのRe-boarding(再搭乗)、バーチャルチームにおけるコミュニケーションに関しても多くの議論がなされた。詳細は「ATD2020バーチャルカンファレンス 参加報告」に譲るが、オンライン化で顕在化するコミュニケーション上の「凶暴性」「防衛性」、「協働や共創活動の減少」に対して、相互の信頼(Trust)をベースにしながら、チームの信頼と協働を高める仕組みづくりの必要性が訴求されていた。具体的には、「相手を大切にしていることをはっきり示す」「自信をもって共に働く」「明快なコミュニケート」「信頼しきる」という4つの要素が示されている。

図表2 チームの信頼と協働を生み出すためにもつべき4つの要素

前述した個人としてきちんと仕事ができるようになることが前提としてあって、オンライン環境下では、自分も周囲の協働者も大切にする/し続けるという人間や文脈の深い理解と尊重がベースになっていることがうかがえる。

チームや組織のあり方自体も、ある程度自律した個人であることを前提とした、モチベーションや人間としての生存欲求を確認するような場へと移行していくことだろう(日本・アジア企業において内包している、新規入職者のオンボーディング機能をどのように担うのかなどの議論は別途必要である)。

このチーム・組織自体のあり方の変化を、個人としてどのように自らの学びにつなげるのかについて考えてみたい。まず、(1)チームや組織において相互に信用・信頼に足る仕事レベル・人としての一定の水準が理解できること、である。外部や他者に対してオープンであり変化対応力を高めることが重要になってきているなか、チーム・組織のなかでどのくらいの仕事やスキルのレベルが前提となっていて、卓越するとはどういうことなのかが分かることは自らの能力開発上も重要なポイントとなる。また、ATDの報告のとおり人間としての器量が一定以上ともなわないと、バーチャルチームかつ一期一会かもしれない協働や共創は難しくなっていく。

次に、(2)これからのチームや組織で仕事を進める価値や醍醐味を体感できることである。1+1が時に0に近づいたり、∞(無限大)になったりするのがチームや組織の醍醐味であろう。自律した、専門性の異なる個人が集うチームのブレイクスルーの局面などに立ち会うことを通じて、自分のキャリアや仕事観の幅は確実に広がっていく。

最後に、(3)人間としての成熟・熟達の果てしなさを知る、ということであろう。記録や記憶に残る組織・チームには、すごい人やすごい片鱗をもつ人たちが存在する。その人たちとの交流や切磋琢磨を通じて、自らの人間的な成長や熟達のあり方や方向性についてさらなる思索の深まりが期待される。

これらの点に関連して、ベイトソンの「学習とコミュニケーションの階型論」の観点から検討する。ベイトソンは、学習を論じるにあたり、行動主義的学習観をカバーしながら、コミュニケーション論と進化論までの統合を試みた。具体的には、4段階に分類された階型論のうち、学習IIは「選択肢群そのものが変化する学習(学び方を学ぶ、文脈やコンテクストを学ぶ)」、学習IIIは「システムそのものが変更される学習(創発的な学習)」と定義し、私たちの日常的な学習は「II」が大半であり、「III」の例として、禅の体験やサイコセラピーを挙げている。今日における学習「III」は、集団内外の相互作用そのものが変化する際に起こる学習ということもできる。この定義に倣うと、これからの環境下での組織・チームでの学びにおいては、参加者の仕事・人としての一定の水準が確保された上で、学習IIからIIIにかかる学習が生成される可能性が高いといえるだろう(※6)。ベイトソンは、近代人が報酬と苦痛からの逃避の前提にした「道具的コンテクスト」に基づく生きづらさを問題にし、「III」による新たな生き方の「学び」の重要性を指摘してきたともいえる(※7)。今日における「III」への遭遇を通じて、自らのキャリアや人生の多様性と学びのあり方そのものを拡張することができるかもしれない。

※6 グレゴリー・ベイトソン(1986)『精神の生態学』思索社
※7 渡辺徹也(2002)「グレゴリー・ベイトソンの『学習』概念について」京都大学 生涯教育学・図書館情報学研究

以上、これからの業務遂行場面や協働・共創場面の変化を仮定し、業務遂行や協働プロセスを通じた学びを、ダイナミックな学びに拡張していく試みを、学習理論検討してみた。出発点は、「自らが、人として一定レベル成熟した上で、当事者意識をもち状況を俯瞰的に理解し、ことがらを前に進めること」であろう。当然、チームや組織としての心理的安全性を確保することなどは大前提となる。

本観点については、前稿でも触れたユーリア・エンゲストロームをはじめ複数の学習論の研究者が近年論考を進めている。別機会で論じていきたい。

バックナンバー第1回 日常の小さなきっかけを生かし、ダイナミックな学びにつなげる

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