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研究レポート
定量調査を通じて検証した2つのポイント
新任管理職のマネジメント業務への適応を促進する要因を明らかにするために、課長相当管理職369名を対象とする調査データを分析しました。その結果、自己理解が不足し、問題に対して主体的な対処行動をしていないと、適応感にマイナスの影響を及ぼしていることが確認されました。
本レポートでは、産業・組織心理学会での発表論文をもとに、その結果の概要についてご紹介します。
※詳細の研究成果についてご覧になりたい方は、発表論文をご参照ください。産業・組織心理学会第32回大会発表論文「新任管理職の適応に影響を及ぼす要因の検討 」※その他の発表論文もこちらに掲載しています。
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主幹研究員
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主任研究員
サービス統括部 HRDサービス推進部 トレーニングプログラム開発グループ マネジャー
企業のビジネスパーソンにとって、プレイヤーから管理職への昇格は大きな節目となります。この転換の過程では、移行期特有の課題を乗り越え、管理職として必要な知識や能力を取得し新たな環境に適応していくことが求められます。
しかし現在の日本企業においては、そういった転換を困難にする状況が生じています。組織のフラット化や人員構成の変化にともない、後輩指導などの昇格前のマネジメントの代理経験が減少することでマネジメントの基礎能力が高まらないまま昇格するケースや、昇格後も管理職がプレイヤー実務を多く抱えざるを得なくなり、戦略立案や部下育成が疎かになるケースなどが増え、管理職として必要な知識・能力を高めづらくなっています。結果、マネジメント業務に適応する難易度が過去よりも高まっていると考えられます。
そこで、本研究では新任管理職のマネジメント業務への適応を促進するための要因を明らかにすることを試みました。着任後の状況によってマネジメントの難易度は変化するであろうこと、着任後に直面する問題に対する対処次第で、実際の成果や本人の学習は変化し、結果として本人の適応が左右されるであろうことを考慮し、研究にあたっては、適応に影響を与える要因として「着任直後の状況」と「対処行動」に着目しました。
2015年11月、従業員数300名以上の企業に勤務する、部下をもつ課長相当の男性管理職369名に対してインターネット調査を行いました。初めて管理職になったときの経験に関する質問を行うため、管理職に就任してから2年以上5年未満の者に限定し、転職者については、以前の会社で管理職経験がないことを条件としています。職務系統別に「営業系」「事務系」「開発系」がほぼ均等になるようにデータを収集しました。
調査内容は、以下のとおりです。
・初めて管理職に着任した際の「着任後の状況」元山(2006)および定性調査結果(リクルートマネジメントソリューションズ,2014 未発表)を参考に作成した21項目(「あてはまる」~「あてはまらない」の4件法)
・初めて管理職になってから2年までの間に直面した問題を乗り越える際の「対処行動」元山(2006)を参考に作成した14項目(「よく行った」~「まったく行わなかった」の5件法)
・「適応感」「今振り返ると、管理職に就任後の新しい環境への適応は、どの程度うまくいったと思いますか」(「とてもうまくいった」~「まったくうまくいかなかった」の6件法)
分析に際しては、「着任直後の状況」「対処行動」の因子構造を確認し尺度化した上で(図表1、2)、「着任直後の状況」と「対処行動」が「適応感」にどのような影響を及ぼしているかを確認する、重回帰分析を行いました。
まず、「適応感」に対して「着任直後の状況」の各尺度(部下の問題、周囲の支援不足、自己理解の不足、職務理解の不足)が及ぼす影響を確認するために、階層的重回帰分析を実施したところ、「自己理解の不足」のみ統計的に有意な主効果(マイナスの係数)が確認され、管理職としての役割理解や強み・弱みの理解が不足すると「適応感」にマイナスの影響を及ぼすことが示唆されました。
※以降、詳細の分析結果は発表論文をご参照ください。
管理職のディレールメント研究においても、自分の状態を正しく理解できないことで行動を誤ることが指摘されていますが(Zedeck, 2011)、具体的には昇格前の役割や強みを引きずり「仕事を任せない」「部下に関心をもたない」といった行動をとった結果、部下マネジメントがうまくいかなくなる、といった状況が想定されます。一方で、昇格後の初期段階で「自己理解」ができていれば、管理職としての課題が認識でき、管理職として求められる学習や行動を積み重ねることで自身の成長や適応感を実感できるようになると考えられます。また、管理職への昇格は階層的境界をまたぐ変化であり、組織社会化の一種であるとも考えられます。転換の過程では役割情報を学ぶことが重要であるという点は先行研究にも符合する結果だといえます (Haueterら, 2003)。
同様に、「対処行動」(自力対処、支援獲得)が「適応感」に及ぼす影響を確認するために階層的重回帰分析を実施したところ、両尺度について有意な主効果(「自力対処」はプラスの係数、「支援獲得」はマイナスの係数)が見られ、両者の交互作用(複数の要因が組み合わされたときに現れる作用)も確認できました。
「自力対処」のプラスの影響については、自分の行動結果の反省や、経験に照らした判断を管理者自らが主体的に行うことで、マネジメントの経験則が増え、状況対応の幅が広がり、管理職としての適応感を高めるのではないでしょうか。Bauer ら(2007)は組織側の受け入れ態勢と個人のプロアクティブ行動のどちらもが組織社会化(個人が新たな組織に入り適応していくプロセス)においては有効であることを示していますが、「自力対処」はプロアクティブ行動に近い概念であると考えると先行研究にも符合するといえます。
一方で、「支援獲得」のみの対処では適応にマイナスの影響を及ぼすことから、助言などをそのまま受け止めるのではなく、自分で考える・内省するといった主体的な行為がともなわないと、適応につながらないことが示唆されました。
上記2つの分析結果をふまえて、対処行動をとっても自己理解が不足していると適応につながらない、あるいは対処行動をする際に自己理解がともなうと適応がより促進されると考え、それを検証するために、階層的重回帰分析により対処行動の両尺度(「自力対処」「支援獲得」)と「自己理解の不足」との交互作用を確認しました。結果、「自己理解の不足」と「自力対処」の交互作用について、有意傾向が確認されました。図表3は、交互作用の様子をグラフに表したもので、自己理解が不足し、自力対処ができていないほど、適応感が低いことが確認されました。
「自力対処」は過去の経験の応用や、自らの行動を内省をする動きを含んでおり、自己モニタリング行動とも捉えることができます。先行研究でも、日々のプロセスを通じて自らの成長度合いをモニターし、状況に応じた計画を立てることが、管理職の学習に強い影響を及ぼすことが確認されています(藤江ら, 2014)。自分の行動結果に加えて「自己理解」の中核である、自分が果たすべき役割や管理職としての強み・弱みまで焦点を当てて定期的にモニタリングすることが、マネジメントの学習と適応を促進する上では重要であることが示唆されました。
今回は適応を測定する際に、結果変数として本人の適応感を用いましたが、業績や上司評価などの外部基準を併用することも有効だと考えられます。また、状況と対処行動が適応感に及ぼす影響を定量的に検証することを試みましたが、今後、より詳細な適応プロセスを確認することで、管理職への移行期における適応モデルの検討を更に深めていきたいと考えています。
・元山年弘(2006)『ライン・マネジャーへのキャリア移行に関する研究』神戸大学付属図書館 博士学位論文・Sheldon Zedeck.(2011) APA Handbook of Industrial and Organizational Psychology volume3,563-569・Haueter,J.A, Macan,T.H. and Winter,J.(2003)“Measurement of newcomer socialization: Construct validation of a multidimensional scale,”Journal of Vocational Behavior,63,20-39・Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M., &Tucker, J. S. (2007) Newcomer adjustment during organizational socialization: a meta- analytic review ofantecedents, outcomes, and methods. Journal of applied psychology, 92(3), 707.・藤江・宮崎・山岸(2014)『管理職への役割転換における学習・実践を促進する要因モデル』経営行動科学学会第17回大会発表論文集
※本レポートは、産業・組織心理学会第32回大会発表論文「新任管理職の適応に影響を及ぼす要因の検討 」の一部を加筆・修正しています。
※重回帰分析について詳しく知りたい方は、「人事データ活用入門 第5回 『重回帰分析』で予測力を高める」をご覧ください。
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