インタビュー調査からの仮説モデルづくり 中年期ホワイトカラーのキャリア停滞からの復活プロセス

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子

2013年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、労使協定によって継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止されました。一部経過措置はあるものの、希望者全員が65歳までの継続雇用制度の対象となったわけです。老齢厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げも進行しており、私たちが中高年層の働き方、キャリア停滞感に関する研究を開始した5年前に比べて、企業、個人ともに、“年齢にかかわりなく長く働く”ということに対する意識、本気度合いが変わってきているように感じられます。研究領域において中年期のキャリア危機については古くから扱われていますが、ビジネスパーソンにとっても長く働くことによって、40代、50代でのキャリア停滞感がその後のキャリアに及ぼす影響は今後ますます大きくなっていくことが考えられます。

これまでわれわれの研究では、中年期のホワイトカラーにとってのキャリア危機の1つとして昇進見込みの低さを取り上げてきました。これまでの研究で、職務志向(管理職志向、専門職志向)や個人と組織の関係性に対する志向(組織志向、仕事志向)によって、昇進の行き詰まりがもつ意味や、働く意欲への影響の仕方が異なることが示唆されました(研究レポート「昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響(3)」)。そこで、研究の次のステップとして、インタビュー調査を通じてキャリア危機への対処方法についての仮説を構築することを試みました。本レポートでは、経営行動科学学会第15回年次大会で発表した論文をもとに、研究結果の概要についてご紹介します。


調査概要

中年期のキャリア危機への対処方法は、どのようなプロセスになっているのか、その仮説を構築するためのインタビュー調査を実施しました。調査概要および対象者は図表01、02のとおりです。

対象者は、キャリア危機を経験した後、現在はやる気を取り戻している40代〜50代前半のホワイトカラー男性10名です。キャリア危機の経験時期は入社10年目ぐらいまでの初期キャリアでのものを排除するために、30代後半以降に限定しました。対象者選定は、インターネット調査を通じて、職種、キャリア停滞時期、停滞理由に関してできる限り偏りが出ないように行いました。ただし、停滞理由については、「自分の評価に納得できない」「仕事の達成感が感じられない」「上司との人間関係が悪い」が3大理由となっており、これまで研究で扱ってきた「昇進見込み」については2割弱の選択率でした(図表03)。そのため、インタビュー対象者選定に際しても上司や仕事に関する理由が多くなっています。

図表03 意欲低下の理由
「『あなたの仕事に対する意欲・やる気』が低下した理由を上位3つまで選んでください。」
※グラフの値は1位から3位の選択率を合計したもの

なお、インタビューでは、新卒入社時の会社選びから始まって現在に至るまでの異動の経緯も含めた職務経歴の確認、キャリア危機を経験した当時の具体的な出来事や意識の変化などキャリア停滞時の本人および周辺環境の状況、やる気を取り戻した現在の状況や今後のキャリアの見通しについて、約90分にわたりお話を伺いました。

分析結果

インタビュー結果の分析方法には、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下, 2003)を用いました。ここでは詳細については触れませんが、インタビューなどの定性調査の結果からプロセスに関する理論を構築するのに適している方法です。具体的には、インタビュー結果データからキーワードを見つけて名前をつけ、これらの「概念」をまとめたものとして「カテゴリー」を生成していきます。そして、概念やカテゴリー間の関係を考えながらモデル化していきます。今回のインタビューから抽出したカテゴリー、概念は図表04のとおりです。各列の数字は、対象者それぞれに概念に該当するエピソードがあった個数を、概念の2行目にある対極例は、その概念とは反対の内容に関するエピソードがあった個数を表しています。

図表04 概念一覧

これらの概念とカテゴリー間の関係を考えながら、キャリア停滞からの復活プロセスをモデル化したものが図表05となります。

図表05 キャリア停滞からの復活プロセス

以下、図表05の各概念について簡単にご紹介します。具体的なエピソード例については論文をご参照ください。

まず、「キャリア意識」とカテゴリー化した概念としては、今回のキャリア停滞から復活した10名のうち、9名が「キャリア志向が明確」(概念【1】)であることが確認されました。やりたい仕事を具体的にイメージできている、自身の働く価値観が明確になっているといったエピソードが、新卒入社時、異動のタイミングや困難な状況での判断の拠り所として登場していました。また、「キャリアを自らコントロールする意思」(概念【2】)といった、自らの意思でキャリアを作っていこうとしていることや、自分なりのポジショニングで所属組織に貢献することを求めている姿勢が10名中8名に見られました。

次に、キャリア危機への対処方法の中核をなす「キャリア停滞時の行動」としては、3つの概念から構成することができました。仕事への意欲が低下しているからといって仕事をいい加減にやったり、最低限の責務を果たすというだけでなく、キャリア停滞中でも目の前の仕事を精一杯やっている「目の前の仕事への全力投球」(概念【3】)行動が10名中7名から見受けられました。その上で、異動希望を出したり上司との対話機会を設けたり、さらに上の上司に相談したりして、自ら意欲低下の原因に働きかけて、それ自体を変化させて解決を図ろうとしている「状況への働きかけ」(概念【4】)を10名中7名が行っていました。また、意欲低下の原因への働きかけというよりは、その事象に対する考え方や感じ方を変えようとする「状況認知の変化」(概念【5】)を行っていたのは10名中8名でした。

最後に、概念として抽出できたのは1つでしたが、「環境」カテゴリーとして、停滞時の状況を変化させるような「他者からの支援」(概念【6】)が10名中5名に確認されました。

このように、キャリア志向が明確で(概念【1】)、自らキャリアをコントロールする意思をもっていると(概念【2】)、目の前の仕事に全力投球できたり(概念【3】)、意欲低下を引き起こしている状況への働きかけを自ら行ったり(概念【4】)、状況を変えられない場合にもそれに対する認知の仕方を変えたりする(概念【5】)対処行動をとることができ、その結果、状況変化に際して他者からの支援を得られる場合もあり(概念【6】)、いずれ状況が改善されて、キャリア停滞から復活する、といった一連のプロセスとなります。

一方、インタビューにおける個別のエピソードにおいては、“キャリア志向は明確であったとしても、キャリアを自らコントロールする意思が弱く、目の前の仕事に全力投球していないため、状況が変化しても復活しきれない”というケースや、“キャリア志向の明確さ、キャリアを自らコントロールする意思ともに弱く、キャリア停滞時の働きかけもないためにキャリア停滞から抜け出せない”というケースも確認できました。

考察

「キャリア停滞からの復活プロセス」モデルを個々のケースで見ていくと、同じ概念間の関係においても、いくつかの意味合いの違いが存在しているようでした。冒頭で述べたように、これまでの研究で、志向によってキャリア危機の認識の仕方が異なることが確認されましたが、キャリア危機への対処行動に関しても、それら志向による違いがある可能性が示唆されたのです。具体的には、所属組織にコミットして、そこから得る報酬や誘因によって欲求の充足を得る「組織志向」と、所属組織よりも自分の仕事に強くコミットし、仕事を通して欲求の充足を得る「仕事志向」による違いです。インタビュー対象者の志向の推定に際しては、これまでの研究と同じ質問項目で傾向を確認した事前定量調査の結果と、インタビュー内容を勘案しました。その結果、入社以来ずっと組織志向である5名、ずっと仕事志向である1名、組織志向から仕事志向へと変化した4名に分類できました。

■ずっと組織志向の人の特徴
組織貢献というキャリア志向が明確で(概念【1】)、自分なりの立ち位置でキャリアを自らコントロールする意思をもち(概念【2】)、組織への貢献ができていれば仕事内容には強いこだわりがなく、キャリア停滞中も目の前の仕事に邁進しながら(概念【3】)停滞から復活している。

■ずっと仕事志向の人の特徴
やりたい仕事に対するキャリア志向が明確で(概念【1】)、上司との人間関係など何らかの理由で意欲が低下したとしてもやりたい仕事に携われていれば仕事には全力投球で取り組み(概念【3】)、環境変化によってキャリア停滞から復活している。

■組織志向から仕事志向に変化した人の特徴
キャリア志向が明確で(概念【1】)、キャリアを自らコントロールする意思をもっていることによって(概念【2】)、キャリア停滞をきっかけにやりたい仕事を再定義できたために、仕事志向への転換を図れて、仕事へのやりがいを見出せるようになっている。

キャリア停滞からの復活プロセスのパターンとして、停滞理由が仕事である場合に、逆風を転機として、キャリア志向が組織志向から仕事変更へとポジティブな変化が起こると、停滞からの復活プロセスが促進されるケースが確認できました。停滞理由が上司である場合には、上司もしくは自分が異動するのを待つしかないという状況が多いようですが、それでもただ待っているだけでなく目の前の仕事を精一杯やることによって、キャリア停滞が本人にとっての成長機会に変化することもあるようです。また、キャリア停滞後、他者からの支援(概念【6】)によって、以前よりもやりがいのある仕事機会を得ている人も複数名いました。

今回のインタビュー結果から、中年期のホワイトカラーがキャリア危機に直面したときの対処行動にはいくつかのパターンがあるものの、いずれのパターンにおいても、どのようなキャリアを目指したいかという「キャリア志向の明確さ」と自分のキャリアは自分で作るという「キャリアを自らコントロールする意思」が影響していることが明らかになりました。そして、仮にキャリア志向が明確であっても、自分のキャリアは自分で作るという意識がないと、キャリア停滞に陥ったときの復活が滞ることも示唆されました。この研究の続きとして、ここで構築した仮説を検証する定量調査結果をすでに実施しており、現在分析中です。次のレポートでは、調査結果の一部をご紹介します。

※本レポートは、経営行動科学学会第15回年次大会発表論文の一部を加筆・修正しています。

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