研究レポート

個人と組織の関係性による相違点

昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響(3)

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昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響(3)

昇進見込みとキャリア停滞感の関係を探る本研究では、これまで3回にわたり調査・分析結果を報告してまいりました。前回のレポート「昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響(2)~管理職志向と専門職志向による相違点~」では、昇進見込みが低いと認知することが、管理職志向、専門職志向の双方の人にとってキャリア停滞感を高めること、その傾向は前者のほうが強いことが確認されました。また、管理職や専門職といった職務志向の違いによって、昇進やキャリアの継続性がもつ意味が異なることも示唆されました。その後、キャリアの見通しが立たなくなったときにどのように反応するかに違いをもたらすと考えられる「個人と組織の関係性」に対する志向を分析に加えることによって、より詳細にキャリア停滞モデルを検討することを試みました。本レポートでは、その分析結果についてご報告いたします。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保(いましろ しほ)
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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員

藤村 直子(ふじむら なおこ)
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分析概要

昇進見込みとキャリア停滞感の関係に、管理職、専門職といった職務志向の違いに加えて「個人と組織の関係性」に対する志向がどのように影響するのかを明らかにするために、今回新たに調査を実施しました。調査概要は図表01のとおりです。

図表01 調査概要

「個人と組織の関係性」に対する志向については10項目を用いて測定し、因子分析の結果、組織志向、仕事志向の2つの志向に分類しました(図表02)。2つの志向に該当する項目をそれぞれ平均して志向得点を求め、標準化して比較した結果を用いて、得点の高いほうの志向にあてはめたところ、組織志向の人が312名(56.7%)、仕事志向の人が238名(43.3%)となりました。

図表02 組織志向と仕事志向 因子分析結果(パターン行列) N=550

図表02 組織志向と仕事志向 因子分析結果(パターン行列) N=550

つぎに、同じ管理職志向、専門職志向であっても「個人と組織の関係性」に対する志向(組織志向・仕事志向)は異なるであろうことから、2種類の志向をかけ合わせて分析を進めました。4つの志向に分類された人数、割合は図表03のとおりです。

図表03 組織志向・仕事志向と管理職志向・専門職志向 人数分布 N=350

図表03 組織志向・仕事志向と管理職志向・専門職志向 人数分布 N=350

以下の分析では、日本のホワイトカラーの典型的な働き方であると思われる「管理職・組織志向」と、今後増加が見込まれる「専門職・仕事志向」との比較を中心に進めます。2つの志向の職種内訳は図表04のとおりです。

図表04 管理職・組織志向と専門職・仕事志向の職種内訳

図表04 管理職・組織志向と専門職・仕事志向の職種内訳

分析にあたっては、志向の異なる2群で変数間の関係性に違いがあるかを検討するために、共分散構造分析の多母集団同時分析を、前々回、前回と同じ「キャリア停滞モデル」を用いて行いました。モデルで使用した尺度は図表05のとおりです。

図表05 モデルで使用した尺度

図表05 モデルで使用した尺度

分析結果

分析結果は図表06、07のとおりです。

図表06

【結果1】昇進可能性、キャリアの継続性認知がキャリア停滞感に及ぼす影響の違い

「昇進可能性」が低いと認知することで「見通し不全型の停滞感」が強められる傾向は管理職・組織志向、専門職・仕事志向いずれにおいても有意となり(それぞれ -.43, -.48)、両群には差が見られませんでした。職務の志向や組織へのコミットメント度合いとは関係なく、昇進の見込みが低いと感じると、将来への見通しが悪くなることが示されました。

また、「キャリアの継続性」があると認知することで「見通し不全型の停滞感」が強まる傾向は、管理職・組織志向のみ有意となり(.22)、「キャリアの継続性」が意欲低下に影響するのは管理職・組織志向の高い人のみでした。日本企業におけるホワイトカラーでは、昇進する過程において様々な職種や部署を経験させることが一般的であるため、管理職・組織志向の人にとっては、特定の専門領域や職種への長期の従事は、昇進へのパスを外れることへの懸念を醸成するのかもしれません。一方、専門職・仕事志向では、「キャリアの継続性」は「仕事のやりがい」につながって初めて、「見通し不全型の停滞感」を軽減させる効果がありました。これまでのキャリアの蓄積の結果として、現在の仕事がやりがいのあるものになって初めて、仕事に対する意欲が高まることが示唆されました。

【結果2】昇進可能性が仕事のやりがいに及ぼす影響の違い

「昇進可能性」が低いと思うと、いずれの志向の人でも「仕事のやりがい」が低下しますが(それぞれ .41, .16)、管理職・組織志向のほうが専門職・仕事志向よりもその影響を示す値は有意に高いことが確認されました。専門職・仕事志向の人にとっても、仕事を進めるうえでの環境・条件の充足という点で、昇進可能性は重要であるものの、「昇進可能性」が「仕事のやりがい」に与える影響が小さいことから、「昇進可能性」が低い場合でも、やりがいのある仕事を行っているとの認識をもたせることで、「見通し不全型の停滞感」を軽減する効果が期待できます。

【結果3】新天地志向に及ぼす影響の違い

「見通し不全型の停滞感」をもつ場合、いずれの志向の人でも「新天地志向」の程度が高まりますが(それぞれ.31, .63)、その傾向は管理職・組織志向よりも専門職・仕事志向のほうが有意に高いことが確認されました。一方、「意欲低下型の停滞感」をもつ場合、「新天地志向」が低下する傾向が、専門職・仕事志向でのみ見られました。新天地への転出が何らかの理由でかなわなかった場合には、専門職・仕事志向のほうが、ぶら下がり社員になる可能性をもっているのかもしれません。

また、専門職・仕事志向では、「昇進可能性」があると思うと「新天地志向」が高まりました(.19)。「昇進可能性」の認知が自分の能力の高さの確証につながるとすれば、組織コミットメントの低い専門職・仕事志向の人にとって、より良い環境への転出を後押しすることになると考えられます。一方、専門職・仕事志向でのみ、「仕事のやりがい」を感じることが「新天地志向」を低める影響が確認されました。このことからも、専門職・仕事志向の人にとって、「仕事のやりがい」が重要な意味をもつことが示されたと言えるでしょう。

考察

一連の研究では、比較的大手企業に勤めるホワイトカラーの男性のみを対象としていますが、この対象者にとって昇進が働く意欲に及ぼす影響は、キャリアの継続性や仕事のやりがいと比べて大きなものであることが推察されました。また、意欲低下は新天地を志向する見通し不全の状態から、あきらめて現状に甘んじる意欲停滞の状態に推移することも明らかになりました。また、前回のレポートで報告したように、管理職志向の人にとっては昇進可能性が、専門職志向の人にとってはキャリアの継続性と仕事のやりがいが働く意欲に影響を及ぼす重要な要素であることが示唆されました。

そして、今回の分析結果では、「個人と組織の関係性」に焦点をあてた組織志向・仕事志向とを組み合わせて見ると、「所属組織との関係性や昇進可能性が重要である管理職・組織志向」と、「組織とは関係なく仕事のやりがいが重要である専門職・仕事志向」といった傾向の違いがありました。同じ管理職志向、専門職志向であっても、組織との関係性をどう志向するかによって昇進やキャリアの継続性のもつ意味合いが変わることが確認されたと言えます。

最後に、管理職・組織志向、専門職・仕事志向の人の特徴をまとめます。

■管理職・組織志向
管理職を志向し、コミットメントの対象が組織である人にとって、昇進は「自分の貢献が組織から認められた証」としての意味合いが強くなる。昇進可能性は、直接的にも、仕事のやりがいをあげることによって間接的にも、見通し不全型の停滞感への影響が強い。また、特定の専門領域や職種への長期従事によるキャリアの継続性も、昇進への可能性を低下させることを示唆し、見通し不全型の停滞感への影響があることが確認された。この群にとっては、昇進は重要な動機付けの源泉であり、その可能性が低いと思うと意欲の低下は避けられない。組織へのコミットメントの強さを考慮し、「組織に認められている」「組織の役に立っている」とのフィードバックを得ることで、昇進可能性が低下した場合にも意欲低下を軽減できる可能性がある。

■専門職・仕事志向
専門職を志向し、コミットメントの対象が仕事である人の場合、組織内外を問わず、専門家集団の中で認められることを求める。昇進にこだわらない比率も最多であり、仕事のやりがいが意欲低下に及ぼす影響が大きい。見通し不全型の停滞感と新天地志向が高いのも特徴であるが、やりがいのある仕事ができる、あるいは自分が成長できるような刺激的な環境が組織にあることによって意欲低下が抑制されたり、リテンションの問題も払しょくされたりする可能性が示唆されている。組織が求める成果と個人が求める成果が合致する部分を広げることが鍵となるであろう。

さらに、本レポートではとりあげなかった管理職・仕事志向、専門職・組織志向の人の特徴についても、別途行った分析から明らかになった傾向をご紹介しておきます。

■管理職・仕事志向
管理職を志向し、コミットメントの対象が仕事である人の場合、管理職というのは複数ある職種のひとつであるという認識のもと、昇進は自身の影響力を高め、自分のやりたいことを実現するための条件と考える。昇進を希望する職位も他群に比べて最も高く、その実現のためには転職もいとわないようなアグレッシブさがうかがえる。見通し不全型、意欲低下型いずれの停滞感も他群に比べて最も低く、一方、新天地志向は最も高い。組織コミットメントが最も低いこの群は、自分のキャリアにとって意味が感じられなくなると、異動・転職といった新天地を志向する傾向が強いため、組織内でこの群の人たちを活かすには、やりがいのある仕事機会をアサインし続けるほかないだろう。

■専門職・組織志向
専門職を志向し、コミットメントの対象が組織である人にとって、スペシャリストとして組織に貢献することが重要である。自身の専門性を高められる環境が整う前提で、生活と調和が図れる範囲内で昇進を目指す、もしくは昇進にはこだわらない人が多いのが特徴である。 昇進は「自分の貢献が組織から認められた証」と考える組織志向でありながら、専門職を志向するこの群の中には、「管理職になれないから専門職」といったようにあきらめてしまっている人が一定数いることも想定される。意欲低下型の停滞感の平均値が最も高いこともそれを裏付けている。これは、健全に専門性の向上を追求する専門職志向とは異なるものである。複線型人事制度が導入されていたとしても、管理職として遇されることを貢献の証とする考え方が企業において支配的である限り、この状況は改善されないだろう。管理職と専門職を役割や適性の違いとし、専門性を通じた組織への貢献の評価のあり方が問われるところである。

以上のように、志向によって、昇進の意味合いや意欲低下に及ぼす影響がどのように異なるのかを明らかにしていくことによって、昇進機会の低下がもたらす意欲低下を未然に防ぐ方法を見出せるかもしれません。今回提示した2種類の志向は、昇進意向に影響があると思われるものを選定して取り上げていますが、昇進機会が減少し、個人が長い期間働くことが必要となるであろう今後の雇用・就業環境を見据えると、個人の志向やそれに応じた動機づけのあり方は、ますます多様化していくことが考えられます。組織力の要を担うミドル層の働く意欲が停滞しないためにも、組織と個人が期待役割を相互に明確にし、個人の適性や志向に合致した役割付与をさらに推進していくことが求められるでしょう。

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