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研究レポート
各種調査データより
グローバル化が急速なスピードで進展する今日、世界中の企業が中国市場に注目しており、日本も例外ではありません。共同通信社2011年のニュースによると、2005年には5,058社であった上海における日系企業の拠点数は、2010年には8,155社と急増しています。
また、変化は社数の増加だけに留まらず、その内訳にもおよんでいます。21世紀中国総研編「中国進出企業一覧・上場企業編」2007-2008年版によると、中国の日系企業のうち、製造業の割合は2007年には60.0%でしたが、2010年には、42.2%にまで下がりました。このデータは、日系企業の中国戦略の変化を如実に反映しています。日系企業は、かつて中国を工場とみなしていました。しかし、近年では、中国を巨大な消費市場とみなし、積極的に進出しつつあります。それに伴って、人材要件も変化し、中国の市場特性を理解するため、中国市場をよりよく知る優秀な現地人材が強く求められています。
本稿では、日系企業が中国において、優秀な人材を獲得するための有効な活動の一つとして、インターンシップに着目しました。インターンシップはいったいどのような効力を発揮するのかをより深く理解するために、各種調査データや中国の大学を卒業した筆者の経験から、中国におけるインターンシップの実態、企業側と学生側のメリットについて報告します。
技術開発統括部 コンサルティング部 5グループ コンサルタント
図表01 中国における2009年大卒生のインターンシップ経験の有無
「2009年中国大学生就職報告」(中国社会科学文献出版社) N=23,474
※211重点大学は中国「211工程(21世紀に大きく発展するため、全国100の大学を重点大学と定めて投資する戦略)」に含まれる大学のこと
中国では、大学時代にインターンシップに参加する人の割合は年々増えつつあり、中国社会科学文献出版社(※1)が2009年に発表した「2009年中国大学生就職報告」によると、2009年卒の大学生のうち、インターシップ経験がある人の割合は約8割にのぼりました。
その理由の一つとして、近年の大学卒業者数増加に伴って、卒業生の就職活動が厳しくなっていることがあげられます。2002年には約145万人であった大学卒業者は、2012年には約680万人と約5倍に急増する見込みです。そのような状況の中、大卒者を採用する際に約6割の企業が、インターンシップ経験を最も重視していました(智聯招聘※2による中国における企業のHR部門に対する調査、2009年)。また、内定を得られなかった2011年大卒者のうち、インターンシップ経験がなかった学生の70%は、就職活動でストレスを感じており、インターシップ経験のある学生の割合(60%)に比べて、高くなっています。
このような背景から、中国では、企業、学生の双方がインターンシップにますます重要視するようになっています。
※1 中国社会科学と文学に力を入れている専門学術出版機関※2 中国で最も早く(1997年)設立された専門的な人的資源サービスプロバイダの一つ
企業がインターンシップを実施する目的の一つは、早期の人材選抜・育成のためです。智聯招聘が2010年に5,000名のホワイトカラーを対象に実施した調査によると、実際に、ホワイトカラーの30%はインターンシップ参加者から正社員に登用されています。また、インターンシップから正社員への登用を行っている会社は、インターンシップの選抜基準も厳しくなっています。
例えば、インターンシップを人材の採用の一つの重要な手段とみなしているIBM(中国)では、2004年から中国各地で「Blue Path」というインターンシッププロジェクトを行ってきましたが、その合格率はわずか1%です。そして、インターンシップが終わった後、優秀なパフォーマンスを発揮した学生は同社の内定を得ることができます。事実、2008年にIBMの営業部やサービス部などの部門が採用した新人はすべて2007年「Blue Path」の優秀なインターン生でした。 内容についても非常に充実しています。2011年にインターンシップに提供された約600のポジションは、ほとんどすべての部門を網羅していました。2ヶ月間のインターンシップの間に、学生に詳細におよぶ合理的な仕事計画を与えるのみならず、グループトレーニングやE-Learningなどの様々な学習の機会も提供しました。
IBM以外にも、HP、マイクロソフトやバドワイザーなどの有名な企業が、数年前から、成熟したインターンシッププロジェクトを始めています。また、外資企業だけでなく、中国企業も、インターンシップの重要性を認識し始めています。中国移動(上海)は2008年から毎年夏休みに、211重点大学の学生をメインターゲットにしたインターンシップを始めました。中国IT大手会社であるテンセント(訊控股有限公司)も、いくつもの大学と協力して、インターンシップのプラットフォームをつくり、将来のIT人材を育成していると同時に、インターン生を優先的に採用しています。
■会社への理解を深めさせることができる
インターンシップは、企業と学生との採用活動に接触する貴重な機会であり、企業と学生との両方にとって、相互に理解・考察する重要なプロセスでもあります。このプロセスは、学生の企業への印象と将来的に入社を希望するかどうかの意思決定に大きな影響を与えます。うまく設計された良質なインターンシップであれば、会社の職場の環境や風土の魅力を学生に伝えることが可能になります。そのことは、次のようなインターン生の感想からも明らかです。
・「IBMのインターンシップは、挑戦する気持ちが満たされると感じました。私はインターンだったけれど、いつも二人のメンターのお世話になり、IBMの育成制度に感心しました。ぜひ、本当のIBMerになりたいですね」 (IBM -Blue Path2010年参加者/IBM社公式ホームページ・インターンシップ紹介ページより)
・「2ヶ月間のインターンシップの間に、最も強く印象に残ったことは、皆さんのクライアントへの誠実さでした。この経験のため、中国移動のブランドが好きになったばかりでなく、このブランドを支えている中国移動の社員に感銘を受けました」 (中国広東移動の2010年インターンシップ参加者/2011年1月更新の個人ブログより)
このような企業文化への理解、よい印象が口コミによって他の学生に広がることは、企業にとって非常によい宣伝効果となります。
しかしながら、この宣伝機能は必ずしもよい方にばかり機能するとは限りません。インターンシップの内容やそこで経験できることが魅力的ではなく、大学生に自分の能力を発揮できないと感じさせてしまえば、就職の際に志望を変更される可能性があります。そのような場合は、インターンシップは企業の弱みの拡大鏡になってしまいます。 つまり企業は、自分たちのニーズだけでなく、インターン生のニーズを十分に考慮した上で、いかに効果的なインターンシップを設計するのかについてよく考える必要があるのです。
一方、学生はなぜこれほどまで積極的にインターンシップに参加するのでしょうか。
図表02 インターンシップに参加する目的
「2011年インターンシップ調査の報告」(智聯招聘) N=7,001
「2011年インターンシップ調査の報告」によると、36.9%の学生がインターンシップに参加する目的を、「自身の能力向上のため」と答えています。次に多い回答は、「就職の準備」で27.1%、以下「学んだ知識を生かすため」「就職に関する知識を獲得するため」と続きます。一方「お金」や「学校のルール」を選択した人は合わせて13.1%と少なく、ほとんどの大学生は、就職準備として自分の能力や知識を向上させるためにインターンシップに参加しているといえます。
では、実際に学生は、どのようなインターンシップに参加しているのでしょうか。そして、それは目的に合致したものになっているのでしょうか。同調査ではインターンシップで学生が担当した仕事内容と、期間について聞いています。
仕事内容に関しては、回答者の50.0%と35.8%はそれぞれ「部門に関係する基礎的な仕事」と「部門のコア業務」を選択しました。「つまらない雑用」をしたと答えた学生は、14.1%に過ぎず、8割以上の学生が、実務に関わる仕事をしたと答えています。
期間については、あらかじめ決まっているものもありますが、学生の意欲によって期間を延長するといった対応をすることもあるようです。調査の結果では、1~2ヶ月が22.5%と一番多く、6ヶ月(19.4%)、2~3ヶ月(18.6%)と続きます。学生が最も望む期間も2ヶ月間であることから(智聯招聘、2010年)、学生の希望に叶っていると考えられます。
学生の能力向上や知識獲得のためには、実務に関係のない雑用や、2、3日や1週間といった短い期間ではなく、ある程度のまとまった期間で実務に関わる仕事をするようなインターンシップが有効であると考えるのが妥当でしょう。この点から鑑みると、多くの学生にとって現状のインターンシップは目的に合致しており、満足度は高いといえるでしょう。
次に、学生がインターンシップ経験を通して獲得したいと願ったものが、実際結果として現れているかどうかを見ていくことにします。中国社会科学文献出版社が2009年発表した「2009年中国大学生就職報告」では、卒業時の能力と、入社半年後の給与について調べています。
図表05 2009年大卒者の卒業時の能力スコア(SCANSの平均点)
図05は、アメリカ労働省の発表したSCANS(※3)という職場で成功するために備えるべき能力評価基準により、インターンシップ経験がある人とない人の卒業時の能力を測った結果です。これによると、211重点大学、非211重点大学を問わず、インターンシップ経験がある卒業生は、インターンシップ経験がない人に比べて、卒業時の能力スコアの平均が高いことがわかります。※3 Secretary's Commission on Achieving Necessary Skillsの略称。職場で成功できる若者が備えるべき能力を測定するため、1990年アメリカ労働省が発表したテスト
図表06 インターンシップ経験の有無と入社半年後の月給との関係
「2009年中国大学生就職報告」(中国社会科学文献出版社)N=23,474※1元=約12円
給与についても、211重点大学、非211重点大学を問わず、インターンシップ経験がある人は、インターンシップ経験がない人に比べて、半年後の月給が高いという結果になっています(図06)。加えて、特に専攻に関係するインターンシップ経験がある人の方が給与が高いことがわかります。そして、この差は非211重点大学の卒業生により顕著に表われています。
以上のことから、インターンシップ経験は、能力の向上や、その結果として得ることができる給与の上昇につながっているといえそうです。一方で、もともと能力の高い学生の方が、良質なインターンシップの機会を得やすいという可能性も見逃せません。これら2つの側面から考えると、インターンシップ経験の有無は、少なくとも大学生の実際の能力の有無を判断するに際して、一つの重要な基準になっているといえるのではないでしょうか。
以上見てきたように、インターンシップは企業と学生双方にとって下記の点で有効であるといえます。
<企業にとってのメリット>・優秀な人材の早期選抜と育成が可能になる・より多くの学生に会社を深く理解してもらうことができる<学生にとってのメリット>・仕事能力の向上とその結果得ることができる給与額の上昇が期待できる・企業の社風を理解し、自分に合うかを判断できる
このように新卒採用において非常に有効な採用活動の一つとなりうるインターンシップですが、中国における日系企業のインターンシップは欧米企業と比べて遅れているのが現状のようです。そのため、学生にとって、日系企業の良質なインターンシップを見つけ、参加することは難しくなっています。
日系企業は、中国において優秀な人材を採用するために、もっと積極的にインターンシップを活用すべきではないでしょうか。そのためには、中国大学生の実態を知り、企業と学生の双方にとって有効なインターンシップについて考える必要があります。インターンシップの内容としては、学生のインターンシップに参加する目的である能力向上につながるような実務に関係する仕事を長期間携われるものにする必要があります。また、募集方法についても検討しなくてはなりません。中国では、知人・友人からの紹介はインターンシップの獲得チャネルの40%近くを占めています。こういったコネクションによる募集は有効な方法の一つですが、より多くの学生に機会を提供するという観点からすると、問題があります。自社がターゲットとするより多くの学生に、インターンシップの情報を提供するためのチャネルを十分に吟味する必要があるでしょう。
研究レポート 2024/09/30
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