日中大学生の就労観についての比較調査 上を目指す中国人学生、安定を求める日本人学生

定期採用・新卒一括採用は日本独特の雇用慣行であり、日本企業は毎年決まった時期に新卒の学生を採用し、その後比較的長い時間をかけて従業員を育成するのが一般的とされています。この雇用慣行は終身雇用、年功序列といった日本的経営の前提のもとに成り立っています。しかし、終身雇用神話が崩れてきたといわれる近年でも、長期雇用の慣習は根強く、新卒一括採用も、いまだ日本企業の正規従業員雇用の本流を占めているのが現状です。

一方で、近年の急速なグローバル展開の流れをうけて、採用の対象を日本人学生だけでなく留学生や海外の新卒学生にまで広げている企業が出てきています。特にアジア進出のため、企業が積極的に採用活動を行っているのが、中国をはじめとしたアジアの新興国です。

日本企業が、アジアで新卒の学生を採用する際には、多くの場合、日本での新卒採用と同様の能力・性格特性をもった人材を求め、入社後も同様の仕事の与え方や育成を前提としています。しかし、日系企業の現地法人で現地従業員の定着問題が生じているように、必ずしも同じ方法で同じ効果が得られるわけではありません。この状況を踏まえて考えると、日本の新卒採用者と同様の観点で海外の新卒を採用し、育成するというやり方は通用するのでしょうか。

この問いに対する示唆を得るべく、2011年7月に「日中大学生の就労観についての比較調査」を実施しました。本報告では、この調査のうち、本人が望むキャリアパスのイメージ、会社や職場に求めるもの、海外志向に関する回答を中心に取り上げ、日本と中国の学生の就労観に差異はあるのか、その差異が何に起因しているのかを明らかにしています。中国の新卒者を採用し育成する際に、何に留意すればよいのかを考える上での一助となれば幸いです。


調査概要

調査概要詳細は図表01のとおりです。日中それぞれ、男女、理系・文系についてはほぼ同じ割合で回答を得ることができました。

図表01 「日中大学生の就労観についての比較調査」調査概要

日本人学生は「居心地のよさ」を、
中国人学生は「成長の機会」を重視

まずはじめに、「会社を選択する上で重視するもの」として日中の学生それぞれの選択率が高かった選択肢(各々上位5項目、のべ8項目)のうち、両者の差異が大きかった4項目を取り上げます(図表02)。

図表02 会社を選ぶ上で重視するもの (「あなたが会社を選択する上で重視するものは何ですか」)
日本N=200、中国N=170

日本の学生の多くが選択しているのに、中国の学生はそれほど選択していない項目には、「職場の雰囲気のよさ」(日本49.5%)、「勤務時間や勤務地などの勤務条件」(日本35.0%)があり、日本の学生の多くが選択しているのに対し、中国の学生は、27.9%、18.9%といずれも日本より約20%も低い選択率となっています。

一方、中国の学生の多くが選択しているのに、日本の学生は少数しか選択していない項目には、「会社の成長性」(中国39.5%)、「能力開発や育成制度の充実」(中国34.2%)があります。日本の学生は、両者とも17.0%といずれも中国の半分に満たない低い選択率に留まっています。

これらの結果から、日本の学生は会社を選ぶ際、自分自身が居心地よくいられる場所であるかどうかを重視しているのに対して、中国の学生は、自分の能力を向上させるための機会がどれだけあるか、会社の成長性に自分の成長のスピードをなぞらえ、自身の成長の場として適切かどうかを重視していることがうかがえます。この傾向は、終身雇用を前提としている日本の雇用慣行と、中途市場の流動性が高く、必ずしも終身雇用を前提としない中国の雇用慣行、両者の前提の違いを反映しているといえるのではないでしょうか。

長期勤続・管理職志向の意味合いが違う

前述の「中途市場の流動性が高い中国では学生が転職可能性を視野に入れて会社を選択しているのではないか」という仮説は、先行研究(『在中国日系企業の人材マネジメント』,張英 莉,2008)や、一般的にいわれている中国の学生の就労観のイメージと大きく違わないものと思われます。

しかし、本調査の「望ましいキャリアパス」についての質問では、このイメージからすると、一見意外とも思われる回答結果が確認されました。日中両国とも「1つの会社に長く勤め、だんだんと組織を管理する立場になっていく」の選択率が一番高いのです。しかもその割合は、日本25.8%、中国32.9%と中国の方が高い結果となりました(図表03)。この結果が意味するものを明らかにすべく、この選択肢を選んだ人が「仕事をする上で重視するもの」として選択している項目について両国の比較を行いました。
各国の選択率が高かった選択肢(各々上位5項目、のべ6項目)は次のとおりでした。「高い収入が得られること」「将来のキャリアに役立つ専門性が身につくこと」「雇用や収入が安定していること」「自ら創意工夫したり個性が発揮できること」「社会的に意義があること」「自分が成長できること」

図表03 望ましいキャリアパス (「あなたにとって望ましいキャリアパスのイメージに近いものはどれですか」)
日本N=200、中国N=170

これら6つの項目のうち、両国に大きな差異がみられた項目は4つありました(図表04)。
差異の大きかった順から、「将来のキャリアに役立つ専門性が身につくこと」(中国40.7%、日本14.3%)、「自分が成長できること」(中国55.6%、日本38.8%)、「高い収入が得られること」(中国50.0%、日本38.8%)となり、いずれも中国の学生の選択率が日本の学生の選択率を大きく上回っています。一方で、「雇用や収入が安定していること」については、日本が69.4%、中国が35.2%と、逆転の結果が確認されました。


図表04 1つの会社で管理職になりたい人が、仕事を選ぶ上で重視するものするもの
(「あなたが仕事を選択する上で重視するものは何ですか」) 日本N=49、中国N=54
※望ましいキャリアパスとして「1つの会社に長く勤め管理職になる」を選択した人のみを抽出

このことから、日本の学生が、「1つの組織に長く勤め、だんだんと組織を管理する立場になっていく」というキャリアパスを選択する理由は、自分自身の成長やキャリアアップのためというより、雇用や収入の安定がその動機の中心であるようです。対する中国の学生は、自身が成長し将来役立つキャリアを身につけ、その結果として高い収入を得るといった組織の中で立身出世することがその動機の中心であるととらえることができます。

以上の結果に加えて、「若い頃は雇われて働き、後に独立して仕事をする」の選択率が、中国では22.0%であるのに対し、日本では約3分の1にあたる8.4%しかないという結果も見逃せません。つまり、中国の学生の多くが描いている理想のキャリアパスは、自身の市場価値を高め立身出世し然るべき社会的地位を得るというものであり、転職や独立をそのための手段の1つと考えているのと同様に、成長の場所(その結果として、出世できる場)としてふさわしければ1つの組織に留まり管理職となるキャリアパスもまた、目指すべき成功のパターンの1つとしてとらえているのではないでしょうか。

海外志向の有無、割合は違うがマインドは同じ

日本の若者の海外志向が低下していることは、各種調査(内閣府「労働者の国際移動に関する世論調査」,2010)の結果として多く紹介され、すでに周知のことかと思われます。実際、本調査でも日本人学生の約半数(「海外で働きたいとは思わない」と「考えたことがない」を選択した人の合計49.5%)が、海外で働くことに対して消極的であるという結果が出ています(図表05)。対する中国の学生は、積極的な海外志向をもっている人が87.1%(「どんな国・地域でも働きたい」と「国・地域によっては働きたい」を選択した人の合計)と、約9割を占めています。本調査に回答した中国の学生は、日本の民間企業が主催するグローバルインターンシップ(日本企業での)の参加者であることから、もともと海外で働く志向の強い人であり、多少のバイアスは否めませんが、先行調査(『中国・人と組織の実態調査』ワークス研究所,2008年)の結果にも中国人が海外勤務に積極的あるのに比べて、日本人は海外勤務に消極的であるという結果が出ているように、学生においても中国の方が海外志向をもっている人が多いということがいえそうです。

図表05 海外志向 (「海外で働くことについて、選択肢の中からあなたの考えに最もよく当てはまるものを選んでください」)
日本N=200、中国N=170

割合の違いは明らかになりましたが、次に「海外で働く」ということの意味合いに両国で違いがあるのか、あるのであればそれはどのような違いなのかをみていくことにします。この点について明らかにするために、両国の海外志向をもっている人(「どんな国・地域でも働きたい」と「国・地域によっては働きたい」を選択した人の合計)が、「仕事をする上で重視するもの」として何を選択しているかの比較を試みました(図表06)。


図表06 海外志向がある人が、仕事を選ぶ上で重視するもの
(「あなたが仕事を選択する上で重視するものは何ですか」) 日本N=101、中国N=148
※「どんな国・地域でも働きたい」もしくは「国・地域によっては働きたい」を選択した人のみを抽出

まず注目すべきは、「自分が成長できること」を選んでいる割合が、日本50.5%、中国52.7%とほとんど変わらないことです。
加えて、日本の学生の中で、海外志向のない人(「海外で働きたいとは思わない」と「考えたことがない」を選択した人の合計)と比較した際の結果(図表07)にも特筆すべきものがあります。「自分が成長できること」の選択率(50.5%)は、海外志向のない人の選択率(41.4%)よりも約10%高くなっています。反対に、「雇用や収入が安定していること」の選択率(56.4%)は、海外志向のない人の選択率(69.6%)よりも10%強低い結果となっています。つまり、海外志向のある人の割合は中国と比べて低いものの、日本の学生で海外志向のある人に関しては、中国の学生同様、自分の成長を求めるアグレッシブな志向をもっている傾向があるようです。


図表07 日本の学生の海外志向の有無と仕事を選ぶ上で重視するもの
(「あなたが仕事を選択する上で重視するものは何ですか」) 
海外志向のある日本人学生N=101、海外志向のない日本人学生N=99

中国の新卒者の採用・育成で留意すべきこと

今回の調査では、日本の学生と中国の学生には、会社に求めるもの、望ましいキャリアパス、海外志向について、以下のような差異があることが分かりました。

●会社に求めるものについて
・日本の学生は、自身にとって居心地のよい居場所であることを重視している
・中国の学生は、自身が成長する(その結果として然るべき地位を得る)場として適切であるかどうかを重視している

●望ましいキャリアパスについて
・日中いずれの学生も、「1つの会社に長く勤め、だんだんと組織を管理する立場になっていくコース」の選択率が一番高いが、それを望ましいと思う背景にある価値観・考え方には差異がある
 −日本の学生の動機の中心的なものは、雇用や収入の安定である
 −中国の学生の動機の中心的なものは、組織の中で立身出世しようという上昇志向である

●海外志向について
・日本の学生に比べて、中国の学生は海外志向をもっている学生が多い
・中国より数は少ないものの、海外志向をもっている日本の学生については、安定を重視する傾向は弱まり、成長を重視しアグレッシブな思考を持ち合わせている

以上のような差異がみられる日本の学生と中国の学生を、全く同じように採用・育成することには、やはり問題があるといえます。採用、およびその後の導入期の2〜3年は、もともと彼らがもっている就労観をある程度考慮し、日々の仕事や経験が、どのように成長やその先のキャリアパスにつながっているかを、日本の新卒者以上に意識的に伝えるように配慮することが必要となるのではないでしょうか。

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