指向と性格の変化を15年間のデータで検証 管理職は小粒化したのか

本レポートでは、管理職候補者の実態をとらえるために、管理職適性検査NMATの15年間のデータを用いて、指向と性格の変化を検証した結果をご紹介します。


管理職候補者層を取り巻く環境の変化

管理職のマネジメントスタイルやリーダーシップの在り方についての議論は多岐に渡っています。しかしさまざまな議論があるとはいえ、管理職が組織の中で重要な役割を果たしていることについては同意が得られているところでしょう。そのため、管理職候補者層の人材的な厚みや意欲・能力の高さは、事業の将来を左右しうる重要な要素であるといえます。

一方で、バブル崩壊から現在に至る15年の間に、管理職を取り巻くビジネス環境は大きく変化しています。組織のフラット化や成果主義、降格制度などさまざまな人事施策の導入がなされるとともに、採用抑制の影響で後輩を指導する機会が減少し、育成経験を積まないまま管理職になる人も増えてきました。加えて管理職の業務として、コンプライアンス対応やメンタルヘルス対策など、業績管理以外のさまざまな仕事をこなすことが求められるようになってきています。

このような変化がある中、「管理職候補者層において管理職を志望しない人が増えている」「管理職候補者層が小粒化している」といった声が企業の経営者や人事担当者などから聞かれるようになりました。図表01は弊社が2009年に実施した「昇進・昇格実態調査2009」で、昇進・昇格に関する問題について、160社の人事担当者からご回答いただいた結果です。ここでも「管理職に魅力を感じない者の増加」や、「現管理職の後に続く人材の枯渇が大きな問題」として認識されているという結果が出ています。

図表01 昇進・昇格に関連する問題

「昇進・昇格実態調査2009」(リクルートマネジメントソリューションズ)より

今回の研究は、激変する環境下の管理職候補者層の実態をとらえるために、1)管理職への志望度は低下しているか、2)性格や指向の変化が生じているか、の2点について実証的に分析を行ったものです。

指向と性格の変化を15年間のデータで検証する

分析対象データとして、1994〜2008年に実施された弊社の管理者適性検査NMATのうち、年齢層が30〜44歳の管理職候補者層のデータ(毎年約2万名分)を使用しました。NMATは、性格特徴、知的能力、役職タイプ別指向の3つから構成されていますが、今回の分析では、この中から性格特徴8尺度および役職タイプ別指向4尺度(※1)を用いて、各尺度の素点平均の推移を確認しました。(※2・※3)

※1 性格特徴は中間管理者層のさまざまな職務における適性に関連の深い性格特徴を測定したものであり、「両極に配置した2つの特性のうちどちらの傾向がどれだけ強いか」という両側尺度を採用しています。また役職タイプ別指向は、どのような立場で企業組織に参加し、貢献したいと考えているかを4尺度で測定したものです。

※2 1999年に一部項目の改定を行っているため、1994〜1998年のデータと1999〜2008年のデータに分けて傾向を把握しています。

※3 NMATの得点は、平均が50となるように標準化された標準得点で報告されており、毎年前年のデータを元に得点の微調整を行っています。今回の分析に当たっては、この調整の影響を取り除くために、標準得点に変換する前の各尺度の得点(素点)を用いました。変化の度合いを把握するために基準年を設けたうえで、尺度間の大小が比較しやすいよう、各年の平均と基準年の平均の差を、基準年の標準偏差で割った値を用いて比較しています。なお、各年の標準偏差に大きな違いが見られなかったため、1994〜1998年のデータについては1994年の標準偏差、1999〜2008年のデータについては1999年の標準偏差を基準としています。

指向の変化に関する分析結果を図表02に示しています。1994〜1998年には大きな変化は見られなかったものの、2002〜2003年頃から「実務推進指向」(一定の分野で着実に実務を推進する職務への指向)が上昇し、「企画開発指向」(専門的視点から企画や商品開発・研究を行う職務への指向)や「創造革新指向」(新たなコンセプトを打ち出し、戦略的に事業を推進する職務への指向)が低下する傾向が見られました。一方、「組織管理指向」(組織やグループを統括・運営する職務への指向)については、15年間を通じて大きな変化は見られませんでした。

図表02 管理職の役職タイプ別指向の変化(1994〜1998年、1999〜2008年)

性格についても、1994〜1998年の期間では大きな変化は見られません。ところが、2002〜2003年頃を境にして、目標設定のしかたである「承認−自律」については自己の納得を重視する「自律」よりも周囲の考えを重視し歩調を合わせる「承認」寄りに、課題に対する姿勢である「維持−変革」については改革的・挑戦的で独創性を重視する「変革」よりも堅実・着実で従来の方法を応用する「維持」寄りに、集団との関わり方である「調整−統率」については支配的・指示的で自分の意見を主張する「統率」よりも協調的で他人の意見を尊重する「調整」寄りになる傾向が見られました(図表03)。

図表03 管理職の性格特徴の変化(1994〜1998年、1999〜2008年)

※ 各尺度は得点が低いほど尺度の左側の特徴が、また得点が高いほど尺度の右側の特徴が強いことを示しています
例:「内向−外向」の場合、得点が低いほど内向的、高いほど外向的

次に、このような指向と性格の変化について考察します。

管理職への志望度は下がっているのか

予想された仮説に反して、今回の分析結果では管理職候補者層において組織管理指向は下がっていませんでした。その理由としては、3つの仮説が考えられます。

1. 金銭的なインセンティブ

ひとつめは管理職になることにより金銭面で優遇されることが、組織管理指向を下支えしているという仮説です。
株式会社リクルートの「働く女性の管理職志向と企業選びの視点調査」(2006年)によると、管理職を指向する男性の約64%が管理職になりたい理由として「多くの報酬がもらえること」をあげており、管理職を指向するうえで金銭面でのインセンティブが大きいことを示しています。
金銭面でのインセンティブが重視される背景として、管理職にならないと賃金が上がらないという状況が影響している可能性が考えられます。1995年から2008年にかけて全体的な傾向として給与水準が低下し、特に40歳代後半以降の賃金の伸びが抑えられる状況にあります。こうした中、一般社員と管理職の賃金格差は減少しつつあるものの、依然として1.6倍前後の差があります。

2. 管理職の仕事自体の魅力

2つめは業績圧力や多様なマネジメント関連業務で疲弊していると思われがちな管理職が、実は意欲的に働いているため、管理職候補者から見て組織管理の仕事が魅力的に見えるという仮説です。弊社で提供している従業員満足度調査「ESサーベイ2」のデータで見ると、管理職は一般社員と比較して満足度が高く、負担感が低いことが示されています(図表04)。
また『中堅崩壊』などの著書で知られる野田稔氏(明治大学大学院 グローバルビジネス研究科教授)が35〜44歳の会社員を対象に実施した調査を見ても、管理職の人たちは責務が多岐にわたり業務負荷が高い一方で、同世代でプレイヤーとして働いている人たちよりも満足感が高く意欲的であることが示されています。

図表04 「満足度」「負担感」(ESサーベイ2)における管理職と一般社員の違い

3. 管理職候補としての期待による動機付け

3つめの仮説として、今回の分析対象である適性検査の受検者層は管理職候補者としてすでに動機付けられているのではないかという可能性が考えられます。
NMATは昇進・昇格者選抜目的での利用が中心となっています。NMATを受検するまでに管理職候補者としての上司や周囲からの期待を感じ、動機付けられることで、管理職への意欲が高まっている面があると考えられます。

管理職候補者の小粒化は進んでいる?

今回の分析では「実務推進指向」に上昇傾向、「企画開発指向」と「創造革新指向」には下降傾向が見られました。この結果から、前例のない新領域を自ら切り開いていくよりも、知識やスキルを学び、経験に裏打ちされた働き方を望む姿勢がうかがわれます。
各尺度を構成している項目に注目すると、実務推進指向では「すでに熟知している仕事をこれからも続けていきたい」という傾向が強く見られました。一方、「企画力が問われる仕事」や「新規事業に関わりたい」ということに対する指向は大きく低下しています。これらの傾向からは、自分で何かを創造していくような仕事、正解のない仕事は避けたいという思いが感じられます。

他方、性格については「調整−統率」が「調整」寄りに、「維持−変革」が「維持」寄りに、「承認−自律」が「承認」寄りに変化している傾向が確認されました。この結果から人物像をイメージすると、周囲の意見や賛同を重視しながら着実な方法で安定成長を求める傾向が強くなっているということができます。これは多少のリスクを負っても自分のやりたいことの実現に向けて周囲を力強く統率していくような、挑戦的で革新的なリーダー像とは程遠いと言わざるを得ません。

こうした守り・保守化傾向ともいえる指向や性格の変化は、経営者や人事担当者から見た管理職候補者層の小粒化の要因のひとつではないかと思われます。このような変化が起こっている背景について、3つの仮説を提示したいと思います。

1. 組織のフラット化と専門性推奨の影響

ひとつは新しい業務を経験する機会が減少するとともに業務の高難度化が進んだことが、新しい業務への挑戦意欲を減らし、現在の仕事に安住したいという指向を生んでいるという仮説です。

平成不況下での採用抑制と、90年代に多くの企業が導入した組織のフラット化により、中堅社員が後輩の育成や小集団のリーダー的な役割を担う機会は減少する傾向にあったと考えられます。このことは管理職に至るまでの長期間、プレイヤーとしての業務を行い続けるということを示しています。
また国際競争の激化を背景に、専門性の高いスペシャリストの育成が意識されるようになった半面、従来のようにジョブローテーションを繰り返してゼネラリストを育成するという機会が減ってきています。このことがひとつの業務だけに熟練した社員を増やすとともに、専門外の業務に対する抵抗感を生む結果になっている、という可能性は十分考えられます。

また、新しい業務を習得することも困難になってきています。単純な業務を機械化したり派遣社員へのアウトソーシングを行ったりしたために正社員には高度な業務だけが残っている状況であることや、IT化の進展によりメール等でのやり取りが増え、他者には業務内容が見えにくい、という状況が多くの職場で生まれました。このような職場の変化が業務の高難度化や属人化を招き、新しい業務を経験するうえでの物理的・心理的障壁を生み出していると考えられます。

2. 求められる管理職像の変化

2つめは求められる管理職像に合わせて、指向も変化しているという仮説です。2007年に弊社で実施した「新入社員意識調査」によると、「理想の上司はどんな上司ですか?」という問いに対して「人間関係を大事にする」が最も多く、かつ年を経るごとに選択率が高まる傾向が見られています。半面「実力がある」「業績を正当に評価してくれる」「自分を厳しく指導してくれる」といった項目に対しては選択率も低く、経年でも減少傾向にあります。
フリーコメントにも「人をしっかりと見てくれる」「話を聞いてくれる」「その人を見て伸ばしてくれる」などメンバーのことをしっかりと見て、理解し、伸ばす、よき理解者・支援者といった特徴がフリーコメントに多くあげられていました。管理職候補者層においても、強力なリーダーが一方的な指示命令を行う支配的なマネジメントスタイルより、メンバーの意向を汲みながら組織運営をするリーダー像が望ましいと感じ、自分もそうありたいと考えるようになったことが仕事への取り組み姿勢に表れている可能性が考えられます。

3. 成果主義の導入

3つめは成果主義の導入により、確実で短期的な業績への指向が高まる一方で、すぐには成果が出ない業務、成果が出るかどうか不確実な業務が避けられている、という仮説です。
成果主義の導入は総額人件費の上昇抑制が目的である例も多く、従業員からは成功すれば報酬が上がるというよりは、失敗すれば報酬が下がる制度と受け止められている傾向が少なからずあります。そのため、従業員は熟練した仕事、確実に安定した成果の出る仕事を続けることを希望し、未経験の仕事や成果が出るかどうか不確実な仕事を避ける傾向が現れたのではないかと考えられます。労務行政研究所の2005年の調査によると、成果主義人事制度について05年で72%の企業が導入、うち約7割が00〜04年に導入しています。本研究で見られた変化の開始も同時期にあたり、こうした制度が働き方や仕事への取り組み姿勢に与える影響は大きいと考えられます。

創造する管理職の育成に向けて

管理職候補者層において、管理職に対する指向は必ずしも減少していないものの、管理職候補者層の指向や性格(自己認知)が保守安定化している傾向が見られました。このことは先述の昇進・昇格実態調査において表れている「現管理職の後に続く人材が枯渇している」という課題と一致します。また、保守安定化した管理職候補者層ならば、新規事業をリードするような創造的で革新的な管理職は遠慮したいと考える可能性もあります。このことは人事からすると「昇進・昇格そのものに魅力を感じない者が増えている」と見えるのかもしれません。

管理職、特に上級管理職ほど不確実性の高い事案について、得られた情報から要点を押えて決断することが求められます。しかしリスクを負って挑戦した経験のない人が、管理職になったからといって突然こうした難しい決断を下せるようにはなりません。正解や安全策を求める社員ばかりでは事業の将来は厳しいでしょう。
将来の創造的な管理職の育成のために、たとえ小さくてもリスクを負ってチャレンジする機会をつくる、チャレンジすることが評価される風土を醸成する、小規模でもメンバーを束ねるリーダー的役割を担う機会をつくる、といった施策が望まれます。

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