学会レポート

国際的な経営学のトレンド

Academy of Management(米国経営学会)2019 参加報告

公開日
更新日
Academy of Management(米国経営学会)2019 参加報告

2019年度のAcademy of Management(AOM:米国経営学会)年次大会が、8月9日から13日にかけて、ボストンにて開催されました。

執筆者情報

https://www.recruit-ms.co.jp/assets/images/cms/authors/upload/3f67c0f783214d71a03078023e73bb1b/8053c5a3461f42b1bde51aebb13d2108/nakama.webp

技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員

仲間 大輔(なかま だいすけ)
プロフィールを⾒る

大会の概要

AOMは世界最大の経営学会で、参加者は1万人以上にのぼります。また、アメリカのみならず世界中から経営学者が集まることも特色で、2019年度の大会は82カ国から11161名が参加し、その規模は年々拡大を続けています。

図表1 主な出身国別参加者数(上位5カ国)

毎年、5日間にわたりシンポジウムや論文発表など数多くのセッションが行われますが、今年は過去最多の7524件の発表申し込みのなかから選ばれた3369件の論文発表と併せ、1200以上のシンポジウムなどが行われました。研究関心ごとに分かれた25の研究カテゴリー(Division)によってセッションは運営されており、戦略論、組織論、組織行動、イノベーション、キャリア開発など、さまざまな分野での研究が積み重ねられています。

図表2 主な研究カテゴリと発表論文数(ペーパーセッションのみ)

今年は、弊社からも初の発表を行ったこともあり、関連するトピックのセッションを中心に参加してきました。発表の内容紹介と併せて、「組織の設計」と「チーム」に関するセッションについてご案内します。

大会の概要

組織の設計がどうコラボレーションに影響するか

私たちの発表は、「組織の設計がどのようにコラボレーションに影響するのか」という観点から行っている研究で、ゲーム理論・実験経済学を専門とする上條良夫教授(高知工科大学)との共同研究になります(※1)。「組織デザインを再考する」(“Revisiting Organization Design”)と題された論文発表セッションで口頭発表を行いました。発表要旨は学会論文集にも掲載されていますが(※2)、ここではその内容を簡単に紹介します。

論文は、組織設計のモデルを構築し、組織設計が人々の行動や組織のパフォーマンスにどのように影響するのかを調べたというものです。同じ仕事を行うにしても、その分担の仕方は複数考えられますが、この研究では、少人数の組織(e.g. グループやチームなど)を題材に、そこでの業務分担の設計によって組織のパフォーマンスにどのような違いが出るのかを調べています。

具体的には、以下の図にあるように2つの標準的な組織類型をモデル化しました。

図表3 2つの組織類型

図の左側はいわゆる機能別組織の特徴を捉えたもので、このような組織設計の下では、メンバーは業務ごとにまとまります(図の例ではタイヤ部門とシャーシ部門)。このような組織形態において、全体としてのパフォーマンスを高めるためには、各部門の間でアウトプットが効率的に調整されている必要があります。例えば、会社全体でのクルマの生産のためには、タイヤとシャーシの両方が必要となり、どちらか片方があるだけではパフォーマンスにはつながりません。

それとは対照的に、図の右側は、いわゆる事業部別組織の特徴を捉えたものです。このような組織設計では、事業部内に必要な業務が集められています(図の例ではタイヤ担当とシャーシ担当)。この場合、部門の内部での調整を効果的に行う必要がありますが、そこからのアウトプットは組織全体の成果にそのままつながります(図の例では2つの事業部門でのクルマの生産の合計が全体的な生産高になります)。

以上のような状況をゲーム理論的に分析したところ、この2つの組織類型の間に明確な有利不利はありませんでしたが、実験室で実際の人々の行動を実験的に観察したところ、組織設計によってメンバーの行動が変わり、その結果として組織全体のパフォーマンスも影響されることが示されました。具体的には、参加者は右図(「事業部別」)の組織設計の方がより組織貢献を行い、協働が促進されるという結果を得ました。

この結果は、組織設計が業績に与える因果関係を実証的に示すものであると同時に、実務的には、マネジャーによる自組織の業務分担の設計の巧拙が組織業績を左右することを示唆するものだと考えています。学会でのフィードバックを踏まえ、同様のパラダイムを用いた研究を発展させていく予定です。

組織設計の重要性を再認識する

「組織の設計」という問題は、組織設計(Organization Design)や組織構造(Organizational Structure)といったテーマでのセッションで議論されており、Strategic Management(戦略論)やOrganizational and Management Theory(組織論)という、比較的マクロな視点をもつ研究カテゴリーで扱われています。ここでマクロ的な視点というのは、集合としての組織(代表的には企業)レベルを分析対象にする視点のことで、組織を構成するメンバー・チームなどへの影響を主な分析対象とするミクロ的な視点と対比されます。

組織の構造・設計には、近年になって再び注目が集まっており、なかでも「組織デザイン:新たな方法論」というセッションは、100名を超える聴衆が集まり、部屋に入れない参加者も出るような盛況を見せました(※3)。そこでは、モデル構築、シミュレーション、フィールド実験、質的研究、といった各分野の専門家が集まってそれぞれの持論が語られました。特にINSEADのPuranam博士は、これまでのような企業レベルのマクロな視点だけでなく組織内部のミクロ構造(Micro-structure of organizations)から組織構造を見ていくことの必要性を議論し、説得的でした。

組織設計の重要性を再認識する

組織のなかのメカニズム(組織の構造や設計の影響もその1つ)を分析していく必要性は、他のセッションでも活発に議論されました。特に、数理モデルやシミュレーション、実際の現場を対象にしたフィールド実験などの新たな方法論を取ることの有用性と必要性が指摘されています。例えば、経営・組織研究への実験的アプローチの導入を提唱する「組織論と戦略論における実験」というセッションに参加しましたが(※4)、これは5年連続での開催になります。ここ3年は私も連続で参加していますが、年々聴衆が増えていっていることに加え、“Organization Science”という著名な学術誌での特集も企画されているということで、組織のなかのメカニズムに対する研究者の関心の高まりを感じました。

さらに、イノベーションに対する組織設計の影響にも注目が集まっていました。例えば、「組織階層のなかでのイノベーションと適応」と題したシンポジウム(※5)では、新しいものを追求するのか、それともエラーを避けることを重視するのか、といった組織の意思決定が組織構造によって影響されることを示したCsaszar博士(ミシガン大学)の研究が紹介されました。また、一般にイノベーションを阻害されているとされる階層性も、必ずしも悪ではないということがさまざまに論じられており、当該セッションのオープニングスピーカーを務めたShapira博士(ニューヨーク大学)は、「階層がある組織のプラスの要素は、上司が部門を超えた補完性をもたらすことであり、それはイノベーションを促進し得る」と論じました。また、「組織設計に関する最新研究」というセッション(※6)では、「非階層的な組織はアイディアの創出フェーズには良いが、出てきたアイディアを評価し選択する選別フェーズにはむしろ階層的な組織の方が望ましい」というKeum博士(コロンビア大学)の研究が発表され、その結論だけでなく、実際の企業現場を対象とした調査と実験室での実験を組み合わせたアプローチ方法にも注目が集まっていました。

これらのセッションを通じて、よりふさわしい組織設計について、その重要性を再認識する活発な議論が起こっていたのが印象的でした。

チームのダイナミズムを捉える

上記に加え、もっともミニチュアの組織である「チーム」に関連したセッションにも複数参加しました。チームの研究は、Organizational Behavior(組織行動)やConflict Management(葛藤解決)といった、ミクロよりのアプローチを取る研究カテゴリーで扱われています。

「チームとチーミング研究のフロンティア」というセッション(※7)では、組織行動論の研究者たちによって、今後のチーム研究についてさまざまな議論がなされました。特に注目が集まったのは、チームの流動性と、多様性についてです。

チームのダイナミズムを捉える

Kerrissey博士(ハーバード大学)らの研究グループは、チームワークの時間軸に沿った変化を見ていくべきという研究発表を行い、チームの流動性に着目した研究の必要性とその方法論的な難しさについて指摘しました(※8)。既存のチーム研究の多くは、チームを静的なものとみなして研究することが多いものの、メンバーの入れ替わりであったり、チームの境界の変化であったり、実際のチームがダイナミックに動いていくものであるのは皆が感じていることです。彼女たちの指摘には、フロアからも賛同の声が上がり、活発な意見交換が行われていました。

また、チームにおけるさまざまな「多様性」のあり方についての研究発表も注目を集めました。Gray博士(テキサス大学)らの研究グループは、50以上の組織におけるチームのデータから、チームのなかでの水平的な多様性(属性や経験などのメンバー間の違い)と垂直的な多様性(メンバー間のステータスやパワーなどの格差)によってチームに及ぼす影響が異なることを示す研究を発表しました(※9)。まだ進展中というステータスでしたが、会場からは質問が相次ぎ、セッションの終了後も関心のある聴衆が質問のために列を作りました。多様性の内実を吟味していくことの重要性は他のセッションにおいても議論されており、社会的な関心の高まりと同期して、「多様性」が研究テーマとしてもますますホットになっていると感じました。特に、チーム内の格差(Bunderson博士らの区分では垂直的な多様性)に関する研究は活発で、なかでも力関係(Power)や権威や名望(Status)の格差の影響について、近年の研究の蓄積を背景に、今回の学会でも複数のセッションが行われていました(※10)。

一方で、そのように実際の組織に近い状態を考えていくと、そのトレードオフとして、組織のなかで働くメカニズムが分かりにくくなります。実際、流動性を含んだチームの概念や、多様性という概念の多様性を取り扱おうとした上記の発表はかなり入り組んだものとなっていたところもあります。「チームとチーミング研究のフロンティア」セッションの指定討論者となっていた、Edmondson博士(ハーバード大学)は、「複雑な要素をもつチームという対象に対し、いかにシンプルな切り口から見ていくのかが重要であり、それこそがチーム研究者にとってのチャレンジとなる」とコメントしていました。Edmondson博士が提唱者としても有名な「心理的安全性」も、その概念の曖昧さや過度の一般化を批判されることもあるものの、そうした「シンプルな切り口」の1つであると考えられます(※11)。チームメンバーの流動性や多様性についての研究は弊社でも取り組んできていますが(※12)、あえて単純な切り口から複雑な事象を切り取ってそこで働くメカニズムを捉えようとする研究姿勢は、私たちの目指す方向とも重なることが多く、共感をもちました。

終わりに

激しさを増す環境変化に対応するための組織の設計というのは、実務的のみならず学術的にも関心が高まりつつある領域になっています。ティールやホラクラシーといった新しい形の組織が注目を集めているなか、組織の形がどのように人々の行動や組織の成果に結びついているのか、そのメカニズムを理解することが求められているということをあらためて感じました。

終わりに

しかし、その一方で、今回紹介した「組織の設計」と「チーム」という2つの研究潮流は、互いに通じるものがある一方で、マクロとミクロという異なる研究分野に属しており、互いに交流することはほとんどないという現状もあります。現に、それぞれのセッションでの研究発表で互いについて言及することはほとんどありません。もちろん例外もありますし、その統合を進めなくてはいけないというような提言が学会内でなされてもいます(※13)。

その1つの道筋が企業組織内部のデータを活用した研究の進展です。関連したセッションでは、企業と研究者双方における利点が強調される一方で、両者の視点の違いや対立が表面化してくることも多いことも指摘されました(※14)。組織のモデル化に関する議論において、理論主導と現象主導の2つのアプローチがあるなかで研究者は前者のアプローチをできる限り取るべきであるとCsaszar博士は論じていましたが、企業組織内部のデータを活用するにあたっては、まさしくこの2つのアプローチの対立が先鋭化してくると感じます。

企業側がデータを活用したいのは、何らかの現象を解きあかして解決したいからであり、その意味で現象に主導されて分析を進めていくことになりますが、研究者は理論からアプローチしていく(べきである)ので、どうしても食い違うところは出てきてしまいます。この点をうまく橋渡ししていかなければいけないというのは、民間企業の研究員として活動していくなかで私たちも日々(社内外をとわず)感じていることでもあります。弊社でもこうした組織内部データを活用した研究を進めてきていますが(※15)、両者の中間のような立場にある民間企業の研究所がこうした研究を積極的に進めていくことで、学会ならびに実務家の双方に貢献したいという思いを新たにしました。

これからも、「個と組織を生かす」ための組織づくりについて、アカデミクスで蓄積・創造されている知見と、実務で培われている知見とを統合していくような研究を続けていきたいと思います

※1 Nakama, D., & Kamijo, Y. (2019, July). “Organization Design for Coordination and Cooperation: Model Analysis and Behavioral Experiment.” In Academy of Management Proceedings (Vol. 2019, No. 1, p. 12315).
※2 https://journals.aom.org/doi/abs/10.5465/AMBPP.2019.12315abstract 
※3 Organization Design: Established and Novel Methods to Provide New Insights to a Classic problem (Session 165)
※4 Experiments in Institutional Theory and Strategy Research (Session 196)
※5 Innovation and Adaptation within Corporate Hierarchies: Mechanisms and New Questions (Session 1809)
※6 Current Research in Organization Design: Topics, Tools, and Triumphs (Session 383)
※7 Frontiers of Team and Teaming Research: Discovering New Directions and Opportunities (Session 2034)
※8 Kerrissey, M., Satterstrom, P., & Edmondson, A. “Adaptive approaches to studying teamwork.”
※9 Gray, S., Buderson, S., & van der Vegt, G. “Unpacking vertical and horizontal member differences in teams: The role of hierarchy stability”
※10 例えば、Frontiers of Social Hierarchy Research: Dynamics in Teams and Organizations (Session 1197)や、Hierarchy and Status in the Workplace (Session 2138)など。
※11 今城志保 (2017) 心理的安全性の要因と効用.
※12 仲間大輔・渡部幹 (2018) 能力の多様性と集団内協力: エージェントベースシミュレーションによる検討 日本社会心理学会第59回大会.
   Nakama, D., & Takemura, T. (2019). “Interactive effects of hierarchy and task demand on team effectiveness within a firm.” 34th Annual Conference of the Society for Industrial and Organizational Psychology.
   仲間大輔・仲村友希・村本由紀子 (2019) 貢献能力の格差と組織内協力 ~社会的ジレンマ状況を用いた実験研究~ 産業・組織心理学会第35回大会
※13 例えば、Felin, T., N.J. Foss, R.E. Ployhart. (2015). “The microfoundations movement in strategy and organization theory.” Academy of Management Annals, 9(1), 575-632. や、Ployhart, R. E., & Hale Jr, D. (2014). “The fascinating psychological microfoundations of strategy and competitive advantage.” Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1(1), 145-172. を参照。
※14 Insider Econometrics: Advancing Management Research with Unique Organizational Data (Session 127)
※15 例えば、仲間大輔・竹村幸祐 (2019) 能力格差と課題タイプが集団パフォーマンスに及ぼす影響:企業組織データを用いた分析. 日本社会心理学会第60回大会

  • SHARE
  • メール
  • リンクをコピー リンクをコピー
    コピーしました
  • Facebook
  • LINE
  • X

関連する記事