アジアのHRD・ODの潮流 ASTD STADA Asia Pacific Conference 2012 参加報告

弊社では、ASTD(*1)が主催する国際大会に毎年研究員を派遣しています。一昨年初めてシンガポールで開催されたASTD STADA Asia Pacific Conference (ASAP) (*2)は、昨年も10月31日から11月2日の3日間にかけて開催されました。2回目となる2012年大会の様子を報告いたします。

【脚注*1】ASTD:米国人材開発機構。1943年に設立された産業教育に関する世界最大の会員制組織(NPO)。会員は世界中の企業、公共機関、教育機関で学習と開発に携わる人々で、その数は約7万人(100カ国以上)におよぶ。ASTDは学習と開発に関する国際的な資源に比類ないネットワークを持っており、調査研究、出版、教育、資格認定、カンファレンスを展開している。年1回開催される国際大会は学習と開発における世界の潮流をつかむ機会でもある。

【脚注*2】ASTD STADA Asia Pacific Conference (ASAP) :ASTDとシンガポール人材開発協会STADA(Singapore Training and Development Association)が共催した、アジア地域におけるASTDのカンファレンス。


アジアをはじめ、世界の人材開発の専門家が集う場

本大会の今年のテーマは、「Developing Human Capital in the Asia Pacific Economy」であり、開催国のシンガポールだけでなく、隣国のマレーシアやインドネシア、そして日本などのアジア各国からの参加者が集まりました。さらには、アジア地域以外のアメリカやイギリスからの参加者も見られました。なかには、シンガポール人が参加者の3分の1ほどしかいないというセッションもあるほどで、成長著しいアジア新興国における人材開発の潮流に世界の注目が集まっていることがうかがえました。

42個あった個別のセッションのカテゴリー分類とそれぞれのセッション数は図表01のとおりです。昨年設けられていた「Public & Private Sector Training(公共セクターと民間セクターのトレーニング)」と「Training for Small & Medium Enterprises(中小企業のトレーニング)」のカテゴリーが廃止されたものの、そのほかのカテゴリーは昨年同様になります。セッション数の多さから、やはり「Leadership Development & Talent Management(リーダーシップ開発とタレントマネジメント)」のテーマへの注目がもっとも高いことがうかがえます。

図表01 カテゴリー別セッション数

そして、本大会のいくつかのセッションに参加して、アジアにおけるL&D(Learning & Development)のトレンドが見えてきました。キーワードとしては、「職場の多様性への対応」と「事業成長を牽引する経営人材育成」の2つが挙げられます。以下、セッションのなかで展開された議論とともに紹介していきます。

世代間のギャップに直面するアジア企業

まず「職場の多様性への対応」については、世代間ギャップへの注目が高まっていることが挙げられます。アメリカのASTD大会ではこれまですでに論じられてきたテーマですが、アジアの国々においてもGeneration Y(*3)の従業員のマネジメントの難しさがクローズアップされているようです。

【脚注*3】Generation Y:一般的に1980〜2000年に生まれた世代を指します。豊かな時代に生まれ育った彼らは、幼少期からITが周囲に存在した世代であり、前の世代とは異なる価値観や能力をもった世代とされています。

たとえば、Tata Consultancy Services社(インド)のRanjan Bandyopadhyay氏、Cegos Asia Pacific社(シンガポール)のJeremy Blain氏、Ayala corporation社(フィリピン)のJohn Philip Orbeta氏、PETRONAS Leadership Centre社(マレーシア)のYasir Abdul Rahman氏といった、各国を代表する優良企業の4人のパネリストによるセッションでは、国を越えた議論が白熱しました。
(セッション名:Learning & Development Trends in Asia Pacific)

Tata Consultancy Services社は、20歳代を中心に構成されており、従業員の69%がGeneration Yであることから、新卒社員の導入教育に力を入れていることを紹介していました。特に、グループ活動を中心とした合宿研修を通じて、学生時代にあまり磨かれてこなかったコミュニケーション能力を鍛えていると話していました。

Ayala Corporation社からも、新卒社員の基礎能力に問題意識を感じているという声が挙がりました。とりわけビジネス英語やロジカルシンキングの能力不足に手を打つために、社内教育はもちろん、大学とも連携して学生時代からの教育のあり方を変えていきたいということを語っていました。

PETRONAS社でも、35歳以下の若い世代は、誰かに教えられるのではなく、自分たちで問題を見つけて洞察を得ようとする傾向があるため、一方的な押しつけ型の教育は通用せず、コーチング型の育成が求められるようになってきたという報告がありました。

そして、若者への教育施策そのものだけでなく、その育成を担うマネジャーへの教育施策についても、人材開発の専門家として考え方を変えていく必要があるという議論がなされていました。

ここで見落としてはいけないのは、TataやAyala、PETRONASは、いずれも各国を代表する優良企業であることです。学生の就職人気も高く、優秀な人材を採用していると思われるものの、それでもなお強い問題意識を感じているのです。Generation Yへの対応は、一企業はもちろん、国や地域を越えた課題と言ってもよいでしょう。

しかしながら、その一方で、Tataからは「Generation YのIT知識やスキルは非常に高く、自ら新しい技術を身につけていく。彼らがベテラン社員に教えることも多い」という点についても述べられていました。いかにしてGeneration Yがもつ素晴らしい自発性や能力を活かせるかという課題が、私たちに問われているのかもしれません。

また、驚くべきは、アジア企業においても、日本と同様、高齢化問題に直面していることです。1834年創業のAyala Corporationでは、定年退職者が増えていくことによって、組織にナレッジが留まらないという問題を抱えており、いかにして高齢者の力を活用していくか、またナレッジトランスファー(知識移転)の仕組みをいかにして築いていくかというチャレンジがあるとの報告がありました。日本では2007年問題として議論されてきたテーマですが、アジア各国においても問題視されていることは新しい発見でした。

計画的な経営人材育成に挑むアジア企業

次に「事業成長を牽引する経営人材育成」については、新興国の速い経済成長スピードを支えるための経営人材の供給不足が問題視されている様子がうかがえました。そのため、タレントマネジメントやサクセッションプランをテーマとしたセッションへの注目が寄せられており、すでに先進的な取り組みを始めている実務家も現れているようです。

Hong Kong Institute of Human Resource Management(中国・香港)の代表を務めるFrancis Mok氏は、そのセッションのなかで、CEOからタレントマネジメントの検討を要請されても、即座にリーダーシップパイプラインの設計やタレントプールの構築、あるいはハイポテンシャル人材の教育プログラムという人事施策の検討に入ってはいけないと警鐘を鳴らしました。Mok氏は、タレントマネジメントを「ビジネスの成功と人材を結びつけること」であるとして、まず取り組むべきは、ビジネス戦略の検討からであると主張しています。
(セッション名:The War for Talent - Where Should My Organization Start?)

その意味では、まさにビジネス戦略を念頭に置いた経営人材育成の好事例は、前述のAyala Corporation社のJohn Philip Orbeta氏のセッションであると言えるでしょう。
(セッション名:LEAPing into Leadership Effectiveness: The Leadership Excellence Acceleration Program of the Ayala Group of Companies)

不動産業・金融業・通信業など、さまざまな事業体を抱える総合企業であるAyalaグループでは、グループ経営幹部の過半数を外部採用によって調達しており、内部登用のリーダーがなかなか輩出されない状態にありました。このままでは将来、高い事業成長目標を達成していけないリスクがあることから、人事責任者であるOrbeta氏は、複数の事業を統括できる経営幹部が育つような人材開発の仕組みを整えていこうと考えたのでした。

Orbeta氏が取り組んだことは、CEOとともに経営人材の需要供給分析を行ったことでした。以下の図表02のように分析を行っており、需要と供給の差分の人数こそが、自社がこれから開発するべきターゲットであるということです。日本企業では、経営人材育成と言ったときに、「いつまでにどれだけの人数を育成していく必要があるのか」ということを明確にすることを後回しにしてしまいがちなところもありますが、Ayalaグループでは、まずここからしっかりと検討を行ったということは参考にすべきだと感じました。

図表02 Ayala Corporation (Philippine)におけるリーダー人材の需給分析

出所:ASTD-STADA2012“LEAPing into Leadership Effectiveness:The Leadership Excellence Acceleration Program of the Ayala Group of Companies”(John Philip Orbeta氏)をもとに作成

そのうえで、各事業会社からグループ経営幹部候補となる人材の人選を行い、LEAPと呼ばれる一連の経営者教育プログラムを展開していったのです。受講者は、Ayalaグループの各事業会社から集まっており、事業を越えた議論ができるようにしました。プログラムについては、経営リテラシーの領域は米国MBAの協力を得て進め、リーダーシップの領域は360度フィードバックサーベイを用いて、自分自身の影響力を内省する機会を作り出しています。

また特筆すべきは、この一連のプログラムには、AyalaグループのCEOも参加していることです。MBA知識学習後に行う、自事業への応用ディスカッションでは、CEO自ら受講者のまとめた資料や発表に対して質問したり、フィードバックをしていることが語られました。また、集合型研修は、受講者一人ひとりの言動を直接確認できる機会であるため、人事責任者であるOrbeta氏もすべてのプログラムをオブザーブしています。さらには、Ayalaグループの役員会議のなかに、人材育成委員会を設け、経営幹部候補人材の状況を共有し検討するための場を作ったようです。これほどまでに経営トップがコミットしている経営者教育は、日本でもあまり見あたらないかもしれません。

LEAPの成果としては、事業を越えたリーダー人材のネットワークができたこと、複数事業にまたがる広い視界が培われ、オープンな議論ができるようになったことがあるようです。そして、実際に事業をまたぐ配置・ローテーションが行われ、昇進を果たした受講者も出てきています。そのほかにも、プログラム中におけるCEOとの直接のやりとりがきっかけとなり、各事業会社のなかで新しいプロジェクトが発足しているということも起こっているようです。

Orbeta氏は、LEAPの取り組みを通じて、人事自身が自らの力不足に向き合い、自己研鑽することの大切さを再認識しなければならなかったと語っています。たとえば、CEOのコミットを取りつけることの難しさは想像するに難くないと思いますが、「CEOをコンフォートゾーン(慣れ親しんだ安全地帯)から引きずり出さないといけない」と述べています。Orbeta氏が、戦略的人事パートナーとしてCEOと議論できたからこそ実現したのだと思われます。私たちは、経営人材育成が人事としての胆力を問われるテーマであることを、Ayalaグループの事例を通じて、学ぶことができるのではないでしょうか。

まとめ

今回、「職場の多様性への対応」と「事業成長を牽引する経営人材育成」という2つのキーワードを挙げましたが、アジアならではの人材課題というよりも、グローバル共通の人材課題であるようにも感じられます。その背景には、IT技術の進展やボーダーレスなグローバル経済活動によって、国や地域同士の結びつきが強まってきていることがあるからなのかもしれません。

また、本大会への参加を通じて、アジア地域の人材開発担当者の専門性の高さを実感しました。日本企業の人事・人材開発に携わる私たちも、アジア各国の人事・人材開発の動向や潮流にアンテナを広げ、大いに学び、知識を取り込んでいく姿勢が必要になっているのだと思います。

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