産業・組織心理学会参加報告 JAIOP(産業・組織心理学会)2011 参加報告

執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
藤村 直子

産業・組織心理学会の第27回大会が福岡市の中村学園大学で開催され(2011年9月3日・4日)、2つのシンポジウム、ワークショップ、約60件の研究発表が行われました。弊社は1990年の第6回大会より研究発表を続けてまいりましたが、今年度は1件の研究を発表いたしました(「キャリア停滞と仕事の意欲低下(3)−昇進意欲と組織との関係性がもたらす影響−」)。本レポートでは、年次大会の中から特に興味深かったトピックスについてご紹介いたします。


サービス業で求められるセルフ・モニタリングと誠実性

「セルフ・モニタリングと誠実性がサービス業従事者の職務要因に及ぼす影響」(大嶋・小口)では、サービス業従事者において特に重要な対人スキルのベースになるもののうち、「顧客が求めているものを察知し、状況に応じた最適なサービスを提供すること」と「職場での円滑な人間関係」の双方を実現する個人特性として、「セルフ・モニタリング」に注目しています。

セルフ・モニタリング(Self-monitoring)とは「様々な社会的場面で、周囲の状況や他者の行動を手掛かりに、その状況におけるふさわしい行動をとろうとする傾向性」と紹介されています(Snyder,1974)。いわば“場の空気を読んだ上で行動がとれるか”であると言えます。発表において引用された先行研究では、セルフ・モニタリングは主に在職年数の短い従業員のパフォーマンスを予測する上で有効であること、在職年数が長くなると多面的に評価を受けるようになるためその効果が低下することなどが挙げられていました。

この研究では、パフォーマンスとパーソナリティの関係性を検討するにあたって、時間軸(在職年数の変化)を考慮するとともに、セルフ・モニタリングに加えて、誠実性をパーソナリティ要因に加えています。誠実性(Conscientiousness)とは、世界的に著名なパーソナリティを捉える枠組みであるBig Fiveのひとつであり、パフォーマンスを予測する上で最も重要な特徴のひとつとして先行研究でも注目されているものです。誠実性が高い人は、同僚や顧客との長期の関係構築において効果を発揮するものと考えられています。

実証データを用いて検証したところ、セルフ・モニタリングは勤務年数短期群において、また誠実性は勤務年数長期群において、より多くの職務要因(職務満足感など)と関連していることが明らかになり、勤務年数の段階によって職務要因との関係性が異なることが示唆されました。また、セルフ・モニタリングと誠実性の両方が高い群は、勤務年数にかかわらず組織市民行動(「正式な職務外で会社のために従業員が自ら進んで行う行動」)の得点が高いことが明らかになりました。対人対応場面での臨機応変さが求められる職務にはセルフ・モニタリングが重要になるものの、経験の蓄積とともに本人にとって職務がルーチン化した場合には誠実性が重要になると解釈することもできます。

顧客の特性、顧客接触の頻度、新規・リピート顧客の割合、サービス提供内容の難易度、求められる顧客対応の種類など、サービス業といっても職務形態・職務行動は様々であり、一概には言えないことは明らかです。しかし、本研究を通じて、サービス業における採用や育成において、セルフ・モニタリングと誠実性を、勤務年数や職務特性に応じて組み合わせて考慮することの重要性が示唆されました。誠実性とパフォーマンス要因との関係が出るのは2年目以降であるという先行研究もあるとのことで、短期間での入れ替わりの早い仕事ではセルフ・モニタリングが重要になる、成果をあげながら長く働いてもらうには誠実性が重要になる、といった考え方に応用できるかもしれません。

専門職のキャリア停滞感は何に影響されるのか

つぎに、専門職のキャリア停滞感に関する研究についてご紹介します。長期間同じ職務に従事している際、「任務が高度化し、責任範囲が広がり、職務の遂行方法が発展する」ケースと、「新たな挑戦や学ぶべきことが欠けキャリア発達が停滞してしまう」ケースがあります。後者の状態を「専門職の内容プラトー化」と呼びます。これは、将来の昇進可能性の停滞を示すキャリア・プラトーから派生した概念です。

「キャリア自律重視のキャリア開発と専門職の内容プラトー化との関係−専門性意識の観点から−」(山本寛 他)では、「専門職の内容プラトー化」にマイナスの影響を及ぼすもの、つまりプラトー化を抑制するものとして、3つ要因を実証的に検証しました。まず「キャリア自律重視のキャリア開発」です。「個人がキャリア発達のため自律的に行うキャリア・プランニングを組織が支援すること」で、具体的には職務管理・配置管理における選択機会の提供が挙げられます。その他の施策としては社内公募制度、キャリアデザイン研修等が含まれます。所属組織の人的資源管理においてキャリアの自律性が重視されている(と本人が認知している)ほど、プラトー化にマイナスの影響を及ぼす結果となりました。つぎに「専門性コミットメント」です。「自己の専門性の認知的、情緒的、行動的なコミットメント」のことで、自己の専門領域において学習と経験の蓄積を促し専門性の深化をもたらすことによって、プラトー化を抑制することが明らかになりました。最後に「組織間キャリア効力」です。「特定領域の高度な知識・経験をもとにした通用性の高さに関する自己効力感」のことで、組織間キャリア発達が可能であるという見通しが現在の職務でのキャリア発達に寄与することが明らかになりました。さらに、「専門性コミットメント」が高いほど、1点目の組織による「キャリア自律重視のキャリア開発」支援が「専門職の内容プラトー化」を軽減させる効果が強いことがわかりました。本人の専門性に対する意識が、組織の取り組みがプラトー化を抑制する働きに影響していることが示唆されました。

発表者より、本研究の調査対象は認定看護師であるため、特定の看護分野での教育、経験を積んでおり、当該分野での専門性を深化させるためのツールや機会について熟知し、計画、実践しているという背景があるという説明がありました。一般企業での専門職、専門性といった場合、分析や解釈の難易度は増すでしょう。専門性の定義も難しいですし、企業・事業の戦略の変化や技術革新などによって、必要な専門知識・経験も変化するからです。とはいえ、専門職がプラトー化に陥らずにキャリア発達を継続していくには、組織として自律重視のキャリア開発支援を行うこと、自己の専門性に関する志向を明確にすること、その専門性が組織間で通用するという効力感をもてるようにすることの重要性が示唆された研究であると言え、一般企業にどのように応用できるか非常に興味深いテーマでした。

メンタルヘルス支援における企業内での臨床心理士の活躍

大会2日目に「企業内で正社員としてメンタルヘルス支援に携わる臨床心理士の活動について」のシンポジウムが開催されました。2006年に厚生労働省は「労働者の心の健康の保持促進のための指針」(新メンタルヘルス指針)を策定し、その中で企業がメンタルヘルス支援を進めるにあたって実務を担当する「事業場内メンタルヘルス推進者」を選任することに努めることとしました(参考:厚生労働省メンタルヘルス・ポータルサイト)。企業でメンタルヘルス活動の実務を担当する産業保健スタッフは産業医をはじめとする医療従事者で構成している組織が大部分ですが、最近では臨床心理士を配置する企業も現れているようです。そこで、「こころの専門家」と言われる臨床心理士が企業内で産業保健スタッフの一員としてメンタルヘルスケアにどのように携わっているのか、3名の企業内で正社員として活躍している臨床心理士を話題提供者として、シンポジウムが企画されました。

シンポジウムでは、臨床心理士という資格の説明をはじめとして、3名の話題提供者から具体的な活動内容、各社のメンタルヘルス支援体制について紹介がありました。メンタルヘルス活動の実務を推進する組織の体制も各社各様で、臨床心理士が社員として加わった歴史や、現在在籍している臨床心理士の人数も様々でした。1次予防(未然防止)、2次予防(早期発見・対処)、3次予防(復職支援)ごとにどのような活動を行っているかについても、個人面談から、サーベイ結果を活用した職場でのワークショップ開催まで多岐にわたって、具体的な事例が紹介されました。通常ではなかなかオープンにしづらい話題であっても、この場限りということで貴重な事例を提供いただけたことは学会ならではの取り組みだと言えるでしょう。社員として働いているからこそ、会社の風土や職場や業務の実態をふまえたうえで、恒常的な、従業員や職場に踏み込んだ支援が可能になることが実感できました。

臨床心理士の有資格者約2万人のうち、活動領域としては教育や保健医療が多く、産業領域で活動している臨床心理士は約1割程度で、まだまだ少ないとのことでした。企業におけるメンタルヘルス支援の重要性はますます高まっており、精神障害での労災補償について、平成22年度の「請求件数」は1,181件(同45件の増)となり2年連続で過去最高、「支給決定件数」は308件(同74件の増)で過去最高となっている数値からも明らかです(参考:厚生労働省「平成22年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ」)。この厚生労働省の資料によると、平成22年度に業務上または業務外の決定が行われた件数(「決定件数」)1,061件のうち、精神障害等を引き起こした出来事の分類で100件を超えていた上位2つは「上司とのトラブルがあった」の187件(17.6%)、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」の113件(10.7%)で、後者は支給決定件数でもトップの41件(13.3%)でした。あくまで氷山の一角であることを考えると、1次予防(未然防止)において職場の支援の重要性と、上司に問題がある場合の課題解決の難しさをうかがわせる情報です。本シンポジウムでの上司をまきこんだ職場支援の事例や、職場との連携をとりながらの3次予防(復職支援)の事例などは、とても参考になりました。業態や職種によっても対処は異なることが考えられるので、職場支援体制のあり方や遇隊的な事例についても今後関心をはらっていきたいと思います。

おわりに

本レポートでは3つのトピックスについてご紹介いたしました。他にも、発表テーマとしてはリーダーシップ、チーム、組織行動、組織文化などが置かれ、今年度の特徴としては上司・部下関係、プロアクティブ行動(能動的な先取り行動)をテーマにした研究が多かったことが挙げられます。これからも産業界と学会の連携を深めるうえでも、弊社では継続して情報収集・研究発表を続けてまいります。

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