国際的な経営学のトレンド 第2回 AOM(米国経営学会)2008 参加報告

米国カリフォルニア州アナハイムで8月に開催された2008年度Academy of Management(AOM)年次大会の内容を先月に引き続き紹介する。今回は人事施策、CSR、ダイバシティなどの要因が企業の業績に与える影響についての研究発表に関して報告する。

企業の人事施策やCSR(企業の社会的責任)への取り組み、あるいはダイバシティの度合いなどは最終的に企業の価値や業績に影響を与えると考えられるが、その関係性は明確とはいえない。しかし、これらの要素が企業活動の一部を構成する以上、企業の生産性や将来的な価値に何らかの形でつながっているはずである。それらの要素が企業の価値や業績に与える影響はさまざまであろうが、関係性を分析することによって、企業活動における有効性を把握することができるといえる。AOM年次大会においても、これらの関係性に注目した研究が多数発表されていた。


人事施策(HRM Practice)が業績に与える影響

従業員をかつてのように単なるコストととらえるのではなく、企業経営における重要な資源、そして資本と考える昨今では、適切な人事施策が業績を高めるという仮説に基づいた研究が数多く行われている。今回の大会では、単純に人事施策と業績の関係性を見るだけではなく、その他の要因によって関係性が変化することを明らかにしようという研究が多く見られた。

ある研究(Integrating Macro- and Micro- HRM Research: Firm-Employee Commitment and Performance)では、人事施策と企業業績の関係に、事業戦略がどのような影響を与えるのかを分析しており、高品質戦略をとる企業のほうが、低コスト戦略をとる企業よりも人事施策が業績に与える影響が強いことを示唆する結果が示されていた。

また、人事施策の有効性は国・地域の状況によっても異なってくる可能性がある。例えば、中国企業のデータに基づく研究(Human Resource Management System and Firm Performance: A Study Based on Chinese Context)は、人事施策と企業業績の関係を分析し、中国における効果的な人事施策が何かを探るものであった。研究結果は、さまざまな人事施策のうち、厳格な選抜・公式の業績評価・従業員の規律管理(原文:strictly selection, formal performance appraisal, employee discipline management)のような基本的な施策がより強い影響を企業業績に与えており、研修・情報共有・従業員の関与度合い(原文:extensive training, information sharing, employee participation)などの施策はそれほど影響を与えないことを示していた。中国などの新興国においては、現状ではベーシックな人事施策の整備が必ずしも進んでおらず、その巧拙が業績に与える影響が大きいことを示唆する研究結果であったといえる。

CSR(企業の社会的責任)への取り組みと業績との関係

企業の人的資源に対する取り組みだけではなく、環境やガバナンス、提供する商品・サービスの倫理性なども含んだCSR(企業の社会的責任)への取り組みがどのように企業の業績や価値に影響を与えるのかを明らかにする研究も多数発表されていた。企業のCSRへの取り組みは、企業にとって短期的には費用の追加を意味するかもしれないが、そのような取り組みが将来的に価値を生み出すのであれば、経済的な活動としても正当化される。

ある研究(How CSR impacts financial performance: the pathways and the role of firm branding strategy)では、CSRへの取り組みがキャッシュフローの増大や企業の資金調達コストの低減に影響を与えていることを示す結果が得られていた。また、CSRの効果性は企業名が製品レベルで目に見える企業(企業ブランドを製品レベルで使用している企業)で大きくなることを示唆する結果も紹介されていた。さらに、CSRに熱心な企業は、長期的に事業リスクが小さくなると考えられることから、結果として企業の社債格付において上位の格付を得ているという研究(How Risk Mediates the CSP-CFP Link、なおCSPおよびCFPはそれぞれ“corporate social performance”“corporate financial performance”の略)も発表されていた。

ダイバシティと業績との関係

ダイバシティの度合いと企業業績との関係を分析する研究も多く見られた。例えば、経営陣における人種間のダイバシティは、製品の改善、広告宣伝、新製品の導入、市場や生産能力の拡大などの競争的な企業活動を増加させ、株価パフォーマンスを高める影響があることを示す結果を得た研究(Managerial Racial Diversity, Competitive Actions, and Organizational Performance)が発表されていた。また、組織内の女性の割合を扱った研究(Diversity and Organizational Innovation: The Role of Employee Involvement)では、新製品・サービスの導入、製品サービスの改善、新プロセスの導入、プロセスの改善から構成される組織イノベーションと、組織内の女性の割合に正の相関関係があることを示す結果が示されていた。

まとめ:CSRの観点から見た企業のあり方に関する研究はさらに加速

AOMでは数多くの研究発表セッションのほかに、比較的規模の大きなシンポジウムも開催される。そのうちのひとつは、経済的価値(≒株主価値)の追求を目指す事業戦略と、企業を取りまくすべての利害関係者の利益を満たすべきであるというステークホルダー理論の融合という、古くて新しい議論に関してであった。今回ご紹介したCSRやダイバシティと財務業績の関係に関する研究も、経済的価値とステークホルダーの利益が両立しうるのかを検証する内容であるといえる。来年の大会テーマは「Green Management Matters」であり、自然環境への配慮も含めた社会の公器としての企業のあり方が、今後も重要な研究課題であることは疑う余地がないと思われる。

以上2回にわたって、AOM年次大会で見られた研究について紹介した。当研究所では引き続き情報収集と得られた情報を活用しての研究を行っていく予定である。

【text:シニアスタッフ 本合 暁詩】

※記事の内容および所属等は掲載時点のものとなります。

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