人と組織をめぐる3つのテーマ JAIOP/JAAS/JAHRD 学会参加報告

組織行動研究所では日頃の研究活動を通じて得られた成果を発表するなど、さまざまな学会に参加しています。 その中で、弊社が設立から関わっている学会である産業・組織心理学会(Japanese Association of Industrial / Organizational Psychology;以下JAIOP)、 経営行動科学学会(The Japanese Association of Administrative Science;以下JAAS)、人材育成学会(Japanese Academy of Human Resource Development;以下JAHRD)は、 研究者だけでなく実務家も数多く参加する学会であり、産学の連携によって実践的研究を展開することを趣旨としています。
今回はJAIOP、JAAS、JAHRDの大会への参加を通じて感じた研究トレンドを紹介しながら、その中から垣間見える人と組織をめぐる昨今のテーマについて考えてみたいと思います。


人と組織をめぐる3つのテーマ

今回は、大きくメンタルヘルス、ダイバシティ、CSR(企業の社会的責任)の3つのテーマを取り上げます。 これらは昨今よく耳にするテーマではありますが、突き詰めて考えると、今後の個と組織のあり方を方向づけるものとして、深いところでつながっていることが分かります。 例えば、メンタルヘルスやダイバシティなどの顕在化しているさまざまな問題も、元をたどれば個と組織の相互作用の問題に帰着します。 一方で、押し寄せてくるダイバシティの波を自らの力に変えていくには、組織も自らのアイデンティティを明らかにし、従業員への浸透を図る必要があるでしょう。 こうした活動は企業の存在意義を外向きの視点で捉え直すことになり、CSRへと自然につながっていきます。 日本には、独自の技術やユニークな組織風土を発展させ、競争優位性を発揮してきた企業が多くあります。 自分たちが何者であるか、何を目指してきたのかを振り返る中で、強みを再認識していく――そこに将来への鍵が存在していると思われます。

メンタルヘルス

労働者に関わる社会的な問題としてメンタルヘルスがあげられます。近年の複雑で変化の激しい経営環境の下、さまざまなかたちで労働者の心理的な負荷が増大しており、従業員の心の健康であるメンタルヘルスに関わる問題が顕在化しています。

メンタルヘルスは学会でも継続的に取り上げられているテーマであり、ストレス状態の把握に始まり、その背景や原因、その対策についての研究が進められてきました。昨今の研究トレンドは、労働者個人のストレス反応の改善から、組織単位での健康を視野に入れた組織的な取り組みに移ってきています。

ここで昨年の学会で発表された関連する研究をいくつか紹介しましょう。ストレス研究のベースとなる個人のストレス状態の測定について、従来の臨床場面で使用されるストレス反応尺度を改良し、企業組織の中で使用することを前提としたワークストレス測定尺度の開発の報告がありました(※1)。

メンタルヘルスへの対応には、個人のストレス状態を測定することだけでなく、組織との関係が及ぼす影響について把握することも大切です。ストレス反応を低減する要因として、ソーシャルサポートの有効性が繰り返し指摘されています。ソーシャルサポートとは個人を取り巻く周囲の人々から受けるさまざまな支援のことで、上司からのサポートはストレス反応の低減効果が高いとされています。上司が的確に目標把握することによって、上司との面談機会が目標達成の場として有効に機能し、効果的なソーシャルサポートを生み出すことが確認されています(※2)。

また、上司・同僚の個人レベルだけでなく、職場全体でサポートする風土のような組織レベルのソーシャルサポートの効果についても研究が行われています。個人レベルのサポートのように直接的にストレス反応を低減させる効果はありませんが、積極的な対処行動を促し、消極的な対処行動を抑制するといった間接的な効果によってコーピングの資源となることが確認されています(※3)。

研究と並行して現場ではメンタルヘルスへの組織としての対応も幅が広がっています。先進的な取り組みとして、コミュニケーションの活性化をベースとした全社的なメンタリング・プログラムを展開し、メンタルヘルス問題に組織として対応する事例も報告されています(※4)。

企業の現場ではメンタルヘルスに関連してさまざまな取り組みが行われていますが、何より健全な組織であるための土壌が備わっていることが重要になります。健全なコミュニケーションに基づいて、組織の一員としてお互いに認め合い、一人ひとりの個性を大切にする組織風土を醸成することが、実は一番の近道なのです。

※1 西田豊昭他「総合的ワークストレス測定ツール開発の試み」JAAS
※2 伴英美子「上司との面談機会が介護職員のメンタルヘルスに及ぼす効果」JAIOP
※3 岡田知香他「個人レベル、組織レベルのソーシャルサポートと従業員のコーピング、ストレス反応との関係」JAIOP
※4 久村恵子他「メンタリング・プログラムの全社的活用 ―A社の事例を通じて―」JAAS

ダイバシティ・マネジメント

雇用形態の多様化が進み、非正社員の割合は労働人口の3割を占めるに至っており、労働力としての非正社員の基幹化が進行しています。これを反映して均等処遇の必要性が認識され、非正社員への人材マネジメントは充実化する傾向にあります。このような中で、均等処遇の進展が正社員に対してどのような影響を与えるかについて扱う研究も出てきました。そこでは均等処遇の進展により正社員の雇用に対する満足度はいったん下がりますが、さらに進展すると満足度が再び上がるという興味深い結果が報告されています(※5)。進展の過程で正社員の雇用に対する意識が再構成され、雇用の多様性を受け容れるようになったことが推測されます。多様性を受け容れる組織の取り組みによって従業員の意識が変わり、組織風土も変化することが垣間見えます。

団塊世代が定年退職を迎える「2007年問題」が目前に迫り、労働力の確保に向けた企業の取り組みには実感が伴ってきました。景気回復の影響も手伝って正社員回帰の動きも見られますが、雇用の多様化の流れを止めることはできません。女性、高齢者、雇用形態、グローバル化などのダイバシティへの取り組みは、労働力を確保するためには避けて通れない問題となっています。

日本企業にとって特に優先度の高いダイバシティ・マネジメント上の課題は、男女雇用機会均等への取り組みです。男性・新卒・正社員を基軸とした従来の人材マネジメントのあり方の限界をどのように乗り越えていくのか、久しく人事テーマとしてあげられていたことが現実の問題となっています。これは女性活用に限らず、さまざまなダイバシティ問題の根底にあるものであり、それぞれの企業に課された共通の課題といえます。わが国でのダイバシティ・マネジメントの研究は緒に就いたばかりであり、実践と連動した展開が期待されます。

※5 江夏幾多郎「非正規従業員増加の正規従業員への影響に関する分析 〜均等処遇の進展度に応じた際に着目して〜」JAAS

CSR

今世紀に入って相次いだ企業の不祥事や不正、人災といえる事故によって、企業のあり方が問われています。企業倫理の問題はコンプライアンス(法令遵守)として位置づけられ、CSRへの関心が急速に高まりました。

いま、企業は自社の利益追求だけではなく、自社を取り巻く多くのステークホルダーを考慮した経営活動を求められています。言いかえると、内向きの思考だけではなく外向きの思考により企業のあり方を考え、社会の一員としての存在意義を確立することが求められているといえます。

企業の存在意義をあらためて問い直していくと、創業以来の企業理念にさかのぼることが多いと思われます。その企業が担う社会的ミッションであり、果たすべき役割の原点がそこにあるといえます。現在では多くの企業が経営理念を制定していますが、高邁な理念を掲げるだけでは意味がなく、企業内に浸透しなければその機能を果たすことはできません。近年の研究では理念の内容や形成過程に加え、どのように浸透させるかに焦点が当てられています。浸透策と浸透度との関係が、経営理念の内容によってどのように異なるかを確認した研究があります(※6)。また、経営理念の浸透プロセスにおいて、組織や仕事へのコミットメントといった個人差がどう影響するかに着目した研究も進められており(※7)、今後の展開が注目されます。

一方で企業理念を組織全体で体現することは、組織の強み、競争優位性につながり、ひいては企業の持続的成長につながっていきます。これはCSR活動がもたらすポジティブな効果であり、多くの日本企業の強さの源泉になっています。日本には、短期的な経済合理性だけを優先するのではなく、長期的視点から見たコンピタンスの蓄積により持続的成長を実現している優良企業が数多く見られます。このことは長期雇用をベースとし、人を基軸とした日本型人事システムと無縁ではありません。まねのできないコア技術によって競争優位性を発揮した経営を展開する企業や、組織風土そのものの強みを発揮してユニークな事業を展開する企業など、日本企業の強さをあらためて研究することの必要性を強く感じました。身近なところに存在する日本流の成功モデルを明らかにしていくことが、これからの日本企業の発展に資するものと思います。

※6 野林晴彦「経営理念の浸透策と浸透度 ―経営理念内容との関係―」JAAS
※7 北居明他「理念の浸透方法が及ぼす影響に対するコミットメントの媒介・仲介効果」JAAS

多様な人材がひとつの理念を体現していく企業へ

高度化する知識創造社会において、企業の競争力は知的資本の優劣に左右されます。企業の競争力の源泉となるのは人材であり、従業員は重要なステークホルダーとして位置づけられます。従業員にとって働きやすい会社となることが、優秀な人材を獲得する上での優位性にもつながることから、CSR活動の関心は人材・労働分野にシフトしています(※8)。ダイバシティ・マネジメントはその中心となるテーマであり、ジェンダー、年齢などの表層的な多様性を超えて、個人の価値観のような、表面には現れない深層的な多様性を生かすことが求められます。

多様性を生かし、創造性を高めるダイバシティ・マネジメントの重要性は今後さらに高まっていくことは間違いのないところでしょう。蓄積されたコンピタンスに異質な要素が加わることによって発想の転換が起こり、その価値を高める機会を生み出して、さらにコンピタンスを発展させる――このようなコア技術を鍛える好循環が競争力をさらに高めていきます。

企業理念で謳っている社会的意義を実現するために多様な人材が集い、それぞれの個性を発揮することで、企業は組織として継続的に価値を生み出していくことができます。多様性を紡ぐのが企業理念であり、トップのリーダーシップだけでなく、現場も含めた本当の意味でのダイバシティ・マネジメントの実践が、社会的に尊敬される「良い会社」の条件となります。

変化するところと変わらないところ、それが企業組織の中でどのように実践されているのか、多くの日本企業のあり方が研究の材料となります。組織行動研究所では、それらの研究への取り組みを通じて、個と組織を生かすマネジメント機能の向上をサポートしています。

※8 シンポジウム「組織と社会との接点:人材育成の新たなる課題」JAHRD
 河口真理子「CSRと人材について」

執筆:組織行動研究所 主任研究員 舛田 博之
※所属・役職等は執筆時点のものとなります。

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