研究レポート

2040年働き方イメージ調査からの考察 vol.2

働く人々の未来展望と人生の満足度

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働く人々の未来展望と人生の満足度

弊社では、2013年から2019年にかけて「2030年の『働く』を考える」プロジェクトを推進し、2030年に焦点を合わせて、働くことに関する調査・研究・有識者インタビューを行いました。約10年経過した現在、改めて未来の働き方や環境を捉え直すべく、私たちは昨年、「2040年働き方イメージ調査」を実施しました。

働く人々の将来展望や未来予測について、前回レポートでご報告しましたが、そのなかで、2040年の社会変化に対する見通しは、全体としてやや悲観的であったことをお伝えしました。本レポートでは、そのような見通しの背景にある、働く人々の思いを掘り下げていきます。具体的には、「未来展望」「人生に対する満足度」「人生の要素ごとの満足度」について、年代による違いなどをふまえながら、傾向を確認します。めまぐるしく変化し続ける今日の社会において、前向きな未来を描くためのヒントを探っていきましょう。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
研究員

大庭 りり子(おおば りりこ)
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「自分の未来は明るいと思う」人は26.3%

まず、「未来展望」の程度を、未来展望尺度(姜・下田, 2002)の項目を用いて確認しました。「未来展望」とは、「ある時点における個人の心理的過去および未来についての見解の総体」(Lewin,1951)である「時間的展望」という概念の未来の側面を指します。その結果、「1.自分の未来は明るいと思う」という項目において肯定回答(「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」、以下同様)を選択した人は全体の26.3%でした(図表1)。その他の多くの項目も肯定回答は約3割でした。

他方、「2.自分の未来のために、現在何かしようと思う」という項目において肯定回答を選択した人は48.4%と、約半数が未来のために行動しようと考えていることが分かりました。自分の未来は明るいと思えていないからこそ、その準備として、現在何かしようと考える人が多いのでしょうか。

<図表1>未来展望

未来展望

しかし、「1.自分の未来は明るいと思う」と「2.自分の未来のために、現在何かしようと思う」の回答をかけあわせて見てみると、いずれかに「どちらともいえない」と回答している人が過半数であるものの、肯定回答をした人は、もう一方の設問でも肯定回答をする傾向にありました(図表2)。否定回答(「あてはまらない」「どちらかといえばあてはまらない」、以下同様)をした人についても、もう一方の設問でも否定回答をしている傾向にありました。

<図表2>未来展望のクロス集計

未来展望のクロス集計

この結果をふまえると、不安をモチベーションに何か行動しているというよりは、「未来のために現在何かしようとしているからこそ、未来を明るいと捉えることができている」人が多いという可能性があります。未来は明るいと捉えているからこそ何かしようとする気力が湧いている、という逆の因果も考えられることは留意する必要がありますが、まずは未来を見据えて何かに取り組もうとすることで、漠然とした不安とは距離を置けるようになるのかもしれません。

若い人ほど、自分の未来にポジティブなイメージをもてている

それでは、未来展望には、年代による違いはあるのでしょうか。結果としてはあまり差がない項目が多かったものの、自分の未来に対して 「明るい」「楽しみ」といったポジティブなイメージを思い浮かべている「イメージ」因子を構成する「1.自分の未来は明るいと思う」「5.未来の自分は今の自分より良くなっていると思う」の2項目は、若いほど肯定回答の出現率が高い傾向にありました(図表3)。若い人ほど、自分の未来にまだ多くの時間と可能性が残されていると感じていると解釈できましょう。それは自然な傾向であり、肯定的に捉えられる結果ではないでしょうか。

<図表3>未来展望(年代別)

未来展望(年代別)

「自分の人生に満足している」人は34.5%

次に、回答者のこれまでの人生の満足度を、人生に対する満足尺度(角野, 1994)を用いて確認しました。「3.私は自分の人生に満足している」という項目において肯定回答を選択した人は34.5%(図表4)であり、「1.ほとんどの面で私の人生は私の理想に近い」という強い表現の項目においても肯定回答が22.8%でした。未来は明るいと思っている人はあまり多くなかったものの、過去や現在に対しては肯定的に捉えられている人も一定数見られたのです。

<図表4>人生に対する満足度

人生に対する満足度

人生満足度の一部の項目は若い年代の方が高い傾向

それでは、人生の満足度は、年代による違いがあるのでしょうか。図表5のとおり、「1.ほとんどの面で私の人生は私の理想に近い」「5.もう一度人生をやり直せるとしてもほとんど何にも変えないだろう」の2項目は、若いほど肯定回答の出現率が高い傾向にありました。

今回の調査の回答者は、2040年時点で70歳以下の人は働いている可能性が一定あるだろうと想定し、現在22歳から55歳の人としたため、60代以上の回答を得られていません。しかし、参考として、「人生に対する満足尺度と回答結果についての整合性が高く、よく似た概念を測定している」とされる主観的幸福度は、男性は40代、女性は50代において幸福感が下がり、その後また高くなると報告されています(⻑崎, 2023)。こうした変化は、一般に「U字カーブ」とも呼ばれています。そのため、今回の調査結果だけを見ると、年を重ねるほどに人生の満足度は下がってしまうような印象を受けますが、仕事量の多さや介護と仕事の両立の負荷、教育費や住宅費によるプレッシャーなどが過多となりやすい40代・50代を乗り越えると、やがてまた上昇するのかもしれません。

<図表5>人生に対する満足度(年代別)

人生に対する満足度(年代別)

「職場の人間関係」に満足している人は44.3%

人生に対する満足度を構成するであろう要素のうち、いくつかをピックアップして項目ごとの満足度を確認しました(図表6)。その結果、「1.家族、友人などプライベートな人間関係」に満足している人(「満足している」「やや満足している」、以下同様)は55.8%と、半数を超えていました。一方で、「2.職場の人間関係」に満足している人は44.3%でした。職場の質を構成する12の要素のうち、対人関係は仕事の満足度に対して最も影響がある(De Neve et al., 2018)ともいわれています。そのなかで、半数近くが肯定的な回答をしている点は望ましいと捉えられるものの、なお改善の余地があるといえそうです。

「3.現在の収入」「4.現在の資産」は、いずれも約3割の人が満足、約4割の人が不満足でした。そして、「5.日本の経済」「6.日本の政治」は、いずれも約1割の人が満足、約6割の人が不満足でした。

<図表6>人生の要素ごとの満足度

人生の要素ごとの満足度

このような不満が未来の不安にもつながっている可能性があると考え、「自分の未来は明るいと思う」の回答とかけあわせて見た結果が図表7です。いずれの項目も、満足している人の方が未来は明るいと思えている、つまり不安が少ない傾向にありました。

<図表7>未来展望と人生の要素ごとの満足度のクロス集計

未来展望と人生の要素ごとの満足度のクロス集計

40代はプライベートな人間関係と職場の人間関係の満足度の差が大きい

最後に、人生に対する満足度を構成する要素についても、年代別で違いを確認していきましょう(図表8)。まず、「1.家族、友人などプライベートな人間関係」の方が「2.職場の人間関係」よりも満足度が高い傾向はどの年代も同様でした。その2つの差分が最も大きかったのは40代で、「1.家族、友人などプライベートな人間関係」が55.6%、「2.職場の人間関係」が38.2%と、肯定回答の出現率の差分は17.4ポイントもありました。一方、50代におけるそれらの差分は2.7ポイントと、ほぼ同率でした。

弊社調査(2024)においても「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」ことが組織課題の上位に挙げられており、その一因の可能性として新人・若手社員の支援など、ピープルマネジメントの難度の上昇が示されていました。ミドルマネジメント層に相当する人も一定数含まれる40代は、部下のマネジメントの難度が、職場の人間関係の満足度に影響している可能性があります。

なお、「3.現在の収入」「4.現在の資産」「5.日本の経済」「6.日本の政治」は、年代による出現率の違いはあまり見られませんでした。

<図表8>人生の要素ごとの満足度(年代別)

人生の要素ごとの満足度(年代別)

本レポートでは、働く人々の未来に対する見通しや、これまでの人生、現在の状況に対する満足度を確認しました。全体として未来展望はやや慎重なものであり、前回レポートで報告した2040年の社会変化に対する悲観的な見通しとも通じる結果が得られました。また、人生に対する満足度は低くないように見受けられたものの、経済・社会に関する項目の満足度は低く、こうした不満が、未来に対する不安と関係している可能性が示唆されました。

一方で、「未来のために現在何かしようと思う」人は約半数にのぼり、行動意欲の高さがうかがえました。さらに、「未来のために現在何かしようと思う」人の多くが、自分の未来を明るいと捉えている傾向にありました。このことは、行動意欲や行動そのものが未来に対するポジティブな認識を後押ししている可能性を示しています。

未来の不確実性が増すなかで、ポジティブな見通しを持つことは容易ではありません。しかし、現時点での行動が自分の未来のイメージを変える可能性があるとするならば、社会や組織としても、そうした前向きな行動を後押しできる環境づくりが、今後より一層求められていくのではないでしょうか。

調査概要

調査概要

参考文献

De Neve, J. E., Krekel, C., & Ward, G. (2018). Work and well-being: A global perspective. Global happiness policy report, 74-128.
Lewin, K.(1951). Field Theory and Social Science. : Selected Theoretical Papers (D. Cartwright, Ed.). New York, NY: Harper & Bros.
角野善司(1994).人生に対する満足尺度( The Satisfaction with Life Scale〔SWLS〕)日本語版作成の試み.日本教育心理学会総会発表論文集,36:192
姜信善・下田亜由美(2002).不安に対する態度が未来展望に及ぼす影響.富山大学教育実践総合センター紀要,3,57-62.
長崎貴裕(2023).「日本人の主観的幸福感:何をどのように測るべきか(未来ビジョン研究センター ワーキングペーパー No.24)」東京大学未来ビジョン研究センター.
リクルートマネジメントソリューションズ(2024).「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2024年

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