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研究レポート
採用選考プロセスが候補者に与える印象とは?
近年、日本の新卒採用場面で採用CX(候補者体験/Candidate Experience)の向上が重視されるようになってきています。採用CXは、海外ではすでに定着しつつある概念で、多くの研究や調査が行われていますが、日本ではまだ歴史が浅く、先行研究・調査事例も少ないようです。加えて、日本では新卒入社者は一括採用のプロセスを経て入社するケースが多く海外と比較するとやや特徴が異なるため、海外の調査結果をそのまま適用できるとは限りません。本レポートでは、前編でこれまでの採用CXの研究の概観について触れ、後編では日本での調査結果についてご紹介します。
技術開発統括部 研究本部 測定技術研究所 研究員
目次
CXとは、「Candidate Experience」の略で、直訳すると「候補者体験」という意味です(詳しくは用語集をご参照ください)。CXというとカスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)を想起することが多いため、区別するために「採用CX」と記載されることもあります(本レポートでも以後、採用CXとします)。採用CXは狭義には候補者による採用選考プロセスでの体験を、広義には採用選考プロセスを通じて候補者が抱く選考プロセスそのものや企業に対する印象のことを指します。企業の採用選考プロセスにおいて、候補者にポジティブな印象を与えているかどうかを重視するものとして扱われる考え方です。
企業が採用活動において採用CXを重視すべき背景としては、大きく以下2点が挙げられます。
近年、人口減少に伴う売り手市場の継続や、技術進化による特定職種(例:IT関連職)の採用難が顕在化しています。このような環境下で、求職者の企業への興味を喚起し、優秀な人材の内定承諾率を向上させるためには、採用CXの向上が不可欠となります。
現代においては、SNSなどを通じた情報発信が容易であり、候補者を適切に扱うことが企業の評判を守るうえで重要です。また、特にBtoC製品を扱う企業の場合、候補者は潜在的な購買者でもあるため、採用プロセスにおける企業イメージの損失が売上減少に直結する可能性があります。採用活動では、一定の割合の候補者に対して不合格といった否定的な情報を伝える必要が生じますが、このような場面でも候補者全体に対する丁寧な対応を行うことで、不合格の通知後も候補者に対するブランドイメージの維持が期待できます。
採用CXが初めて定義された具体的な時期については諸説ありますが、海外においては、すでに採用選考プロセスにおける重要な要素として広く認識されています。例えば、2011年に非営利団体であるTalent Board(現在はERE Mediaに統合)によって立ち上げられた「CandEベンチマークプログラム」では、企業が候補者の体験を調査し、評価軸に基づいて総合的に高い評価を得た企業を毎年表彰する仕組みが導入されています。これまでにのべ2000社以上の企業が世界各国から参加しており、調査結果のサマリレポートも公開されています。
一方、学術分野においては、1980年代から採用選考プロセスについて候補者視点から研究する分野が認識されており(McCarthyら, 2017)、採用CXという概念が定義される以前から、候補者の反応に関する研究が行われてきました。なかでも、採用CXの考え方の基盤となる理論としてはGilliland(1993)が挙げられます。この論文では、候補者が採用選考プロセスに対してどの程度公正と感じるかという観点から、 「手続き的公正」と「分配的公正」という2つの側面に焦点を合わせています。つまり、採用選考のプロセスや採否判断そのものに関する公正さという観点から採用選考を捉えており、例えば、採用プロセスが特定の人種や性別などに対して差別なく公平に実施され、採否が判断されるためにはどのような要素が必要なのかといった内容が整理されています。そのなかで、特に「手続き的公正」を確保するうえで、候補者視点で重要な要素として、以下のように10のルールを提示しています。
※SIOP White Paper(2020)の掲載内容を筆者にて日本語訳
この理論をもとに、その後多くの研究が行われてきました。近年ではインターネット技術をはじめとした新技術の影響や、候補者の反応の調整変数などを考慮した新たなモデル(例:McCarthyら, 2017)も打ち出されるようになっていますが、Gilliland(1993)の提案したルールは今でも重視されています。SIOP White Paper(2020)によると、特に以下の要素はあらゆるモデル・研究で一貫して重要性が指摘されており、これらが採用CXの質を向上させるための重要な観点になると考えられます。
ではこれらの採用CXで重視すべき評価観点は、実際に優秀な人材の獲得や企業ブランドの向上に寄与しているのでしょうか?
この問いに対する学術的な検証として、Hausknechtら(2004)は、Gilliland(1993)の提唱したモデルをもとにメタ分析を実施しています。この研究において、「分配的公正」や「手続き的公正」に対する評価が候補者の内定承諾意向や応募企業への魅力度に対して正の相関を持つことが確認されています。また、これらが内定承諾「意向」にとどまらず、実際の内定承諾「行動」にも影響を及ぼすことが示されています(Konradtら, 2017)。さらに、候補者の反応に関する近年の包括的レビュー(McCarthyら,2017)では、候補者の反応が入社後の候補者のパフォーマンスを含むその後のさまざまな態度や意図、行動に対しても有意な影響を与えることが示されています。このような研究結果から、採用CXを重視することが採用活動を行う企業にとって実質的な利益をもたらす可能性が高いことが明らかになりつつあります。
ここまでで、採用CXに関する海外での研究実績の一端についてご紹介しました。採用CXという言葉が出てくる前から、候補者視点で採用選考を捉える考え方は重視されており、知見が蓄積されてきたことがお分かりいただけたかと思います。また採用CXという用語が生まれてからは、前述のERE Mediaが主催するCandidate Experience Awardsの影響もあり、学術界だけでなく産業界にも採用CXの考え方が浸透してきており、今後さらに重要性が増すことが予想されます。このような海外の流れを受け、後編では日本における採用CXの現状についてご紹介します。
ERE Media. (n.d.). What do your candidates think of you? Retrieved February 10, 2025, from https://www.eremedia.com/candidate-experience
Gilliland, S. W. (1993). The perceived fairness of selection systems: An organizational justice perspective. The Academy of Management Review, 18(4), 694–734.
Hausknecht, J. P., Day, D. V., & Thomas, S. C. (2004). Applicant reactions to selection procedures: An updated model and meta-analysis. Personnel Psychology, 57(3), 639–683.
Konradt, U., Garbers, Y., Böge, M., Erdogan, B., & Bauer, T. N. (2017). Antecedents and consequences of fairness perceptions in personnel selection: A 3-year longitudinal study. Group & Organization Management, 42(1), 113–146.
McCarthy, J., Bauer, T・N., Anderson, N., Costa, A. C., & Ahmed, S. (2017). Applicant Perspectives During Selection A Review Addressing “So What?,” “What’s New?,” and “Where to Next?”. Journal of Management. 43(6). 1-33.
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