「働きがい」は業績に関係するのか 2012年「働きがいのある会社」ランキング上位企業の株価パフォーマンス

執筆者情報
シニアスタッフ
本合 暁詩

2012年版「働きがいのある会社」ランキングが発表されました。本レポートでは、昨年に引き続き「働きがい」と企業の財務業績をあらわす株価との関係に注目した分析の結果を紹介します。今回は2010年のランキング上位企業の分析を加えることで、働きがいと株価パフォーマンスの相関関係だけではなく、働きがいが業績向上に影響を与える可能性を示す結果も得られています。


2012年度版「働きがいのある会社」

米国に本部を置く専門機関「Great Place To Work(R) Institute」は、毎年、世界40カ国以上で「働きがいのある会社」調査を実施しています。この調査は日本では2005年から実施されており、2012年版の調査には、123社が参加しました。この中から従業員250人以上の企業30位までと、従業員50人以上250人未満の企業10位までが発表されています(図表01参照)。

図表01 「働きがいのある会社」

●網掛けは上場企業
●日経ビジネス」誌2012年1月23日号、およびGPTWジャパンのホームページに掲載

一昨年の研究レポート『「働きがい」は業績に関係するのか〜日本における「働きがいのある会社」ベスト25企業の株価パフォーマンス』および、昨年の研究レポート『続「働きがい」は業績に関係するのか〜2011年発表「働きがいのある会社」ランキング上位企業の株価パフォーマンス』では、各年の「働きがいのある会社」調査結果に基づく分析を行い、働きがいのある会社のパフォーマンスが市場平均を上回っていることを紹介しました。以下では、昨年の分析手法を踏襲し、2012年版のランキング上位企業のうち、株式上場している15社(図表01において網掛けしている企業)の株価データを分析しました。

市場より高い「働きがいのある会社」の株価パフォーマンス

まず、株式市場全体(市場平均)の動きを表すTOPIX(東証株価指数)と「働きがいのある会社」15社の過去5年の株価の動きを比較しました。2007年3月末時点で1,713.6であったTOPIXはその後の金融危機や震災の影響などにより、2012年3月末時点では854.35となっています。企業の株価と比較するために、2007年3月末時点を1とすると、2012年3月末時点では0.5となります(1,713.6:854.35=1.0:0.5)。

この期間の「働きがいのある会社」の株価はどう動いたのでしょうか。TOPIXと同様に、2007年3月末の株価を1としたときに、2012年3月末時点でいくらになっていたのかを計算した結果を図表02にまとめています。15社中9社の企業において株価下落の度合いは市場平均より小さく、また、3社の株価は同時期に上昇していました。

図表02 2007年3月末を1としたときの2012年3月末時点の株価

次に、15社全体に投資するというポートフォリオ(複数の金融資産の集合体)を考えます。これを「働きがいのある会社ポートフォリオ」と名づけます。2007年3月末時点において15社の株式に等金額を投資した場合(例えば15社それぞれの株式に1万円ずつ投資する場合)、2011年3月末時点でポートフォリオはプラス35.5%のリターン(年率換算前)となりました。一方で、同期間にTOPIXに投資した場合、リターンはマイナス50.1%(年率換算前)です。株式市場全体が下落する環境においても、「働きがいのある会社」のリターンはプラスだったのです。昨年同様働きがいのある会社が、景気低迷時においても企業業績を高められる可能性が高いことを示唆する結果と言えます。

図表03 働きがいのある会社ポートフォリオのリターン(2007年3月から)

働きがいが業績向上に与える影響の可能性

ここまでは、2012年のランキング上位企業の過去5年の株価パフォーマンスに注目した分析を行ってきました。この分析結果は、働きがいと株価パフォーマンスが関係していること、つまり相関関係を示しています。しかしながら、働きがいが高いからといって株価パフォーマンスが高くなるという因果関係を示すものではありません。この点を探るために、過去のランキング上位企業のランキング発表後の株価パフォーマンスを分析しました。

2010年のランキング上位企業で2012年3月時点で上場している企業は10社あります。この10社を用いて、ランキング発表後の2010年3月末にポートフォリオを組んだ場合(これを2010働きがいのある会社ポートフォリオと名づけます)、その後2012年3月までのリターンはプラス3.2%(年率換算前)となりました。一方で、同期間のTOPIXのリターンはマイナス12.7%(年率換算前)です。

図表04 2010働きがいのある会社ポートフォリオのリターン(2010年3月〜2012年3月)

さらに個別に見ていきましょう。TOPIXは株式市場全体の状況を示すものですが、業種別に状況は異なっている可能性があります。それぞれの業種における各社の株価パフォーマンスの状況を把握するために、各業種別の平均的なパフォーマンスと比較してみます。ランキング上位企業の業種に対応する上場投資信託を業界インデックスとし、そのパフォーマンスと各社を比べます。ここでは野村アセットマネジメントが運用する上場投資信託NEXTFUNDS(2008年3月25日上場)を使用します。このファンドは、TOPIX-17(東証一部に上場しているすべての日本企業を17の業種に分類し、その業種に属する銘柄で構成された株価指数)に採用される銘柄の株式に投資を行ない、株価指数に連動する投資成果を目指したものであり、該当業種のインデックスとして適当と考えられます。

ランキング発表後の2010年3月末時点の株価および指数を1とした場合の、2012年3月末時点の値を図05に示しています。10社中8社がTOPIXよりも高いパフォーマンスとなっており、7社が業種インデックスよりも高いパフォーマンスを上げていました。

図表05 2010年3月末を1としたときの2012年3月末時点の株価・指数の値

全ての会社のパフォーマンスが優れていたわけではありませんが、働きがいのある会社はその後の業績が市場・産業全体と比較して高くなる傾向を示しています。

企業の株価は、その企業の現在の業績ではなく、将来の業績によって決まります。株価の上昇度合いが市場平均よりも高いということは、この期間において、投資家が働きがいのある企業の将来的な「稼ぐ力」を高く評価したことを示しています。
勤務している会社や経営者を信頼できる、自分が行っている仕事に誇りをもてる、一緒に働いている仲間と連帯感が持てる、といったことを強化する取り組みは、短期的には企業の業績には結び付きません。それどころか、例えば、連帯感を高めるために、社内の一体感を醸成するイベントを開催したりすればコストの上昇要因となります。また、従業員の信頼を得るために経営トップ層が個人レベルまで働きかけることも、短期的には組織全体の効率性を損なう可能性があります。
しかしながら、これらの施策が功を奏し、信頼、誇り、連帯感が強化されれば、将来的・長期的な企業の利益の向上につながっていくと考えられ、そのことが株式市場で評価されているということを表わしているのではないでしょうか。

また、これらを高めることが長期的な効果を生み出すのだとすれば、長期雇用が前提となっている日本企業においては、働きがいはより重要なこととも言えるでしょう。

本レポートで行った分析は、分析サンプルとしての対象社数が少なく、また分析期間も短いため、この結果のみをもって、「働きがいのある会社」の業績は高い、と断言することはできません。 しかし、以上の結果は、働きがいが業績を高める源泉であるという可能性を示しているのではないでしょうか。

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