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研究レポート
「働きがい」は業績に関係するのか
米国に本部を置く専門機関「Great Place To Work(R) Institute」は、毎年、世界40カ国以上で「働きがいのある会社」調査を実施しています。本レポートでは2010年版の日本における「働きがいのある会社」調査結果に基づき、「働きがい」と企業の財務業績をあらわす株価との関係に注目した分析を行いました。分析の結果は、「働きがいのある会社」の株価パフォーマンスが市場平均を上回っていることを示しました。
米フォーチュン誌にも毎年掲載されている「働きがいのある会社」調査は、日本では2005年から実施されており、これまで4回の調査が行われています。2010年版の調査には81社が参加し、調査のスコアが高い25社が「働きがいのある会社」として「日経ビジネス」誌2010年3月1日号に掲載されています。
図表01 「働きがいのある会社」ベスト25
Great Place to Work(R)では、働きがいのある職場を「従業員が勤務する会社や経営者・管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感が持てる場所」と定義しています。そして、この定義に基づいた「信用」「尊敬」「公正」「誇り」「連帯感」の5つの面から会社の「働きがい」を評価しています。
従業員と経営者が相互に信頼し、従業員が誇りを持って業務にあたり、協働がうまくいく職場であれば、間違いなく「働きがいがある」と言えそうです。これは従業員にとっては喜ばしいことでしょう。しかし、「働きがいがある」ことは企業の業績にもよい影響を与えるのでしょうか。
米国における調査結果に基づいた研究では、「働きがいのある会社」の株価パフォーマンスが市場平均を上回っているという結果が得られています(文末参照)。今回は、日本における2010年「働きがいのある会社」ベスト25社のうち、株式上場している11社(図表01において網掛けしている企業)の株価データを分析しました。
まず、株式市場全体(市場平均)の動きを表すTOPIX(東証株価指数)と「働きがいのある会社」11社の株価の動きを比較してみました。TOPIXは2007年3月から低下局面に入っており、2007年3月末時点で1,713.6であったのが、2010年4月末時点では987.0となっています。企業の株価と比較するために、2007年3月末時点を1とすると、2010年4月末時点では0.576となります(1,713.6:987.0=1.0:0.576)。
この期間の「働きがいのある会社」の株価はどう動いたのでしょうか。TOPIXと同様に、2007年3月末の株価を1としたときに、2010年4月末時点でいくらになっていたのかを計算した結果を図表02にまとめています。これらの結果は、株式市場全体が下降する中で、11社すべての企業において株価下落の度合いは市場平均より小さく、また、株価が上昇していた企業もあることを示しています。「働きがいのある会社」の株価パフォーマンスはいずれも市場平均を上回っていたのです。
図表02 2007年3月末を1としたときの2010年4月末時点の株価指数
次に、11社全体に投資するというポートフォリオ(複数の金融資産の集合体)を考えます。これを「働きがいのある会社ポートフォリオ」と名づけましょう。2007年3月末時点において11社の株式に等金額を投資した場合(例えば11社それぞれの株式に1万円ずつ投資する場合)、2010年4月末時点でポートフォリオは-11.9%のリターン(年率換算前)となりました。一方で、同期間にTOPIXに投資した場合、リターンは-42.4%(年率換算前)です。
図表03 「働きがいのある会社ポートフォリオ」のリターン(2007年3月から)
また、2008年秋に発生したリーマンショック後の状況に注目するため、期間を短くして分析した場合にも同様の傾向が見られました。2008年3月末時点に投資した場合、TOPIXのリターンが-18.6%なのに対し、「働きがいのある会社ポートフォリオ」のリターンは-1.5%にとどまりました。
図表04 「働きがいのある会社ポートフォリオ」のリターン(2008年3月から)
これらの結果は、経済環境が悪化し株式市場全体が低迷する中でも、「働きがいのある会社」の株価パフォーマンスは比較的安定していることを示していると言えるでしょう。働きがいのある会社であれば、企業を取り巻く状況が厳しい中でも、業績の大きな落ち込みを避けることが、ある程度可能であることを示唆しているのではないでしょうか。
本レポートで行った分析は、分析サンプルとしての対象社数が少なく、また分析期間も短いため、この結果のみをもって、「働きがいのある会社」の業績は高い、と断言することはできません。しかし、働きがいのある職場環境が会社の業績を安定させ、特に不況時における企業業績の足腰の強さの源泉となっていることの可能性を感じさせる結果と言えます。
The Great Place to Work(R) Instituteは、働きがいのある職場では、あらゆる人間関係において信頼が育まれているとしています。企業の2010年3月期の決算が出そろい、企業業績の回復傾向が鮮明になってきましたが、ギリシャの財政問題や原材料価格の上昇など、企業業績への不安材料はつきません。そんな中で、従業員と経営陣との信頼関係が確立され、従業員が誇りを持って仕事に取り組み、従業員同士の協働ができる会社であることが、企業業績を安定させる鍵となる可能性を、分析の結果は示しているのではないでしょうか。
【text:シニアスタッフ 本合 暁詩】
※記事の内容および所属等は掲載時点のものとなります。
参照:・ Fulmer, I. S., Gerhart, B., and Scott, K. S., Are the 100 best better? An empirical investigation of the relationship between being a "great place to work" and firm performance, Personnel Psychology, Winter 2003; 56,4; ABI/INFORM Global, pp.965
・ Edmans, Alex, Does the Stock Market Fully Value Intangibles? Employee Satisfaction and Equity Prices (August 12, 2009). Available at SSRN: http://ssrn.com/abstract=985735
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