研究レポート

企業間の共通性と特殊性を探る

新卒採用面接で評価される人とは

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新卒採用面接で評価される人とは

これまで採用面接に関する研究は、2007年の研究レポート「面接の科学~面接の『精度』に影響を与える要因とは~」でもご紹介したように、主に米国で数多く行われてきました。1989~2001年の12年間には、主要な学術ジャーナルに278の研究が報告されています(Posthuma et al, 2002)。

しかし、面接で実際に何が評価されているかについては、まだ十分に研究が行われていません。加えて、日本の新卒採用では職務経験のない学生を評価するため、欧米における職務経験を評価する面接とは状況が大きく異なり、欧米の先行研究の知見をそのまま適用することには限界があります。そこで本レポートでは、弊社が行ってきた採用面接に関する実証研究のなかから、複数の日本企業における新卒採用面接評価のデータを用いた最近の研究成果をご報告します。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保(いましろ しほ)
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面接評価の2つの構成要素と先行研究

面接で評価されるものは、「A)“対面コミュニケーション場面”という特徴によって、どのような面接でも共通して評価されるもの」、「B)仕事や役割の遂行に必要な人物特徴から評価されるもの」に大分されます。A)には、外見やコミュニケーション能力の高さ、表情の豊かさなどが含まれ、B)には、いわゆるコンピテンシーや性格特性などが含まれます。

ただし、2つにまたがるような個人特性もあります。例えば「コミュニケーション能力」は面接という場で評価されやすい特徴であるとともに、多くの職務遂行において必要な能力であるともいえます。一方で、外見は採用面接に影響を与えることが研究で示されているのですが、職務の遂行に関係ないことも多々あります。

面接の評価内容を上記の2つに区別して考えるメリットは、2つの評価内容が異なる場合にあるといえます。評価したいもののうち、面接で評価されやすいものは何か、逆に意識的に面接で評価しなくてはならないものは何かを知って、対策を立てることが面接の精度向上のためには有効であると考えます。ところが残念なことに、数多く行われている先行研究はこのような区別を意識して行われておらず、評価内容に関しては、いずれか一方の立場に立った研究しかありません。

そこで今回、先行研究とは異なる日本の新卒採用での面接を扱うとともに、先行研究では十分に研究が進んでいない評価内容の整理を試みました。

■ A)どのような面接でも共通して評価されるもの

海外の先行研究で面接評価との関連が最もよく研究されているのは一般知的能力です。先行研究からは両者の間には、やや強い正の相関があることがわかっています(e.g., Huffcutt, et al, 1996)。一般知的能力の高い応募者は、面接時に論理的に、あるいは簡潔に、あるいは複雑なことをわかりやすく話すなどして、コミュニケーションの質を上げることで評価を高めるためではないかと考えられます。

一方、性格特性との関連性についてはあまり多くの研究がなされていないものの、いくつかの研究で関連性が最も強いのは「外向性」であると報告されています(Barrick et al, 2000;Huffcutt et al, 2001)。「外向性」は、面接ではなく一般的な対人場面での印象評価にも強い影響があることが示されています(Kenny et al, 1994; Levesque and Kenny, 1993; Park & Judd, 1989)。つまり、外向的な人は積極的だったり、明るい印象をもたれたりするため、初対面での印象を良くすることで面接評価に影響を及ぼしていると考えられます。

■ B)仕事や役割の遂行に必要な人物特徴

先行研究では、面接を含む採用選考の妥当性を評価する際に、採用選考時の評価が採用後の職務遂行レベルを予測できているかを分析しています。つまり、採用時には採用後に高いレベルで職務を遂行できる人物かどうかを見極めることが重要であり、そのために必要な人物特徴を評価することの重要性は自明のように思われます。

それでは採用後の職務が特定されないことの多い日本の場合、必要な人物特徴をどのように考えればよいのでしょうか。実務場面では、主要な職務を念頭に置いてその職務の遂行に必要な特性を抽出したり、その会社のさまざまな職務に共通して求められる人物特徴を特定したりすることによって、採用時に何を評価すべきかを決めることが多いようです。ここでは職務の特徴とともに、その会社が価値を置くものや働き方の特徴なども重要な要素となります。同じ業種、同じ規模の会社で、同じ営業の仕事であっても、その会社が何を自分たちの強みであると意識するかによって、営業のスタイルが異なることは十分にあり得るわけです。

分析の概要

ここでは面接で評価されていることを明らかにするために、上記のA)、B)それぞれに対応する2つの仮説を置いて、複数の分析結果をメタ分析の手法を用いて統計的に統合を行いました。

仮説1
「外向性」と「一般知的能力」は一般に面接評価にプラスの影響を及ぼす ――A)に対応
仮説2
組織特徴によって面接で評価される人物の特徴は異なる ――B)に対応

仮説1は、海外の先行研究で面接評価との関連が確認された個人特性が日本の面接評価にも関連しているかを検証するものです。仮説2では、組織特徴(業種や規模など)から予測される“仕事の進め方”に適したタイプの人物が面接で評価されていたかを検証します。業種やその他の組織のシステムの違い(従業員数、権力の分散化、階層のフラットさetc)が組織風土の違いと関連すること(Gordon, 1991;Hofstede, 2001)、業種によって職種の構成が異なることなどから、組織特徴は“仕事の進め方”をある程度規定すると考えました。

図表01 分析概要

図表01 分析概要

以下、仮説1、2それぞれに対応した分析結果をご報告します(※1)。

※1 詳細については、「論文カテゴリー」の学会発表論文「採用面接における評価内容の企業間の共通性と特殊性―面接でどのような人が評価されるかはなぜ企業によって異なるか ―」をご参照ください。

分析1:組織特徴にかかわらず、 面接では同じタイプの人が評価されるのか

「企業の違いにかかわらず新卒採用面接評価に影響を及ぼす性格特性・一般知的能力は何か」を検証するために行ったメタ分析の結果は図表02のとおりです。メタ分析の手続きはHunter & Schmidt(1990)に従っています。性格特性・一般知的能力は、新卒採用時に実施されたSPI2の16尺度を用いました。

図表02 面接評価と性格特性・一般知的能力に関するメタ分析結果

図表02 面接評価と性格特性・一般知的能力に関するメタ分析結果

* 補正は、面接評価とSPI2の信頼性に関してと、選抜による範囲制限の両方について実施。

図表中の「80%確信区間」の値が0を含まなければ、その尺度と面接評価の相関は企業の違いにかかわらず一定方向であることを示すものとなっています。「社会的内向性」「身体活動性」「達成意欲」「活動意欲」「敏感性」「自責性」「自信性」の7尺度がそれにあたります。これらの尺度の特徴から、一般に面接では、対人場面において積極的で覇気があって意欲が高く、自分に自信をもっている応募者ほど評価が高くなる傾向があるといえます。これらの特徴は、仮説であげた「外向性」の人物特性とほぼ一致するものです。例えばGoldberg(1992)によれば、「外向性」には社交的、大胆、活動的、エネルギッシュ、主張するなどの特徴があてはまるとされています。

以上の結果から、仮説1のうち、「外向性」は一般に面接評価にプラスの影響を及ぼすことが支持されました。ただし、関係の強さを表す妥当性係数の値はいずれもさほど大きくなく、これ以外の要素によって面接評価が大きく影響を受けていることも示しています。

一方で、一般知的能力の3尺度の確信区間はいずれも0を含んでいるため、一般知的能力と面接評価は正の関連をとらない場合もあり得ることになり、仮説1はこの点では支持されませんでした。この結果を先行研究が行われた米国と日本の採用事情の違いから考察すると、本研究のサンプルはすべて4年制大学の卒業見込み者であり、先行研究のサンプルと比べると一般知的能力のばらつきが小さいことから、結果的に面接評価との相関が小さくなったと考えられます。また、仕事で求められる行動の文化的な違いも考えられます。例えば日本では米国よりも上司にサポーティブなリーダーシップを求めるという報告があるように(Kabasakal & Bodur, 2004)、日本では知識を身につける、論理的な思考をするといった一般知的能力に支えられる職務行動よりも、同僚や上司との良好な人間関係の中で職務を行うといった性格特性に起因する職務行動がより重視されているのかもしれません。

分析2:組織特徴によって面接で評価される 人物の特徴は異なるのか

分析2では分析1の使用データのうち、組織特徴が入手できた性格81研究、能力66研究を用いました。研究ごとの「SPI2の尺度得点と面接評価の相関」を従属変数とし、「組織特徴(業種、従業員数、創業年、資本金)」を独立変数としてカテゴリカル回帰分析(※2)を行いました。性格特性13尺度のうち6尺度で、組織ごとの面接評価と尺度得点の相関の違いが組織の特徴によって有意に説明された結果となり(図表03)、面接でどのような人物が評価されるかは、組織の特徴によって一部規定されていることが示唆されました。

※2 カテゴリカル回帰分析とは、従属変数が質的データ(カテゴリや文字など四則演算ができないデータ)でも利用できる回帰分析のこと。従属変数(本研究では“SPI2の尺度得点と面接評価の相関”)を独立変数(同じく“組織特徴”)がどれくらい説明できるかを定量的に分析する回帰分析のひとつ。

図表03 “SPI2の16尺度と面接評価の相関”と“組織特徴”に関するカテゴリカル回帰分析結果

図表03 “SPI2の16尺度と面接評価の相関”と“組織特徴”に関するカテゴリカル回帰分析結果

* 5%水準で有意でなかった変数のセルは空白。
* 業種の列の数字は、標準化係数がプラスに大きな値を示した順。例えば「内省性」と面接評価の相関は、「メーカー法人」「非メーカー法人」「メーカー個人消費者」「非メーカー個人消費者」の順に高くなる傾向があった。
* 従業員数、創業、資本の列の+-は標準化係数の符号で、絶対値が3以上のときに2つ記号を入力。例えば「内省性」と面接評価の相関は、「従業員数が少ないほど」「創業が新しいほど」「資本金が大きいほど」高くなり、資本金のほうが創業の新しさよりも影響が強い傾向があった。

業種による影響を見ると、メーカー、非メーカーともに法人相手の企業において、行動よりも思索を好み、ものごとを深く考える傾向(「内省性」)が強い人の面接評価が高くなっています。また、メーカーに比べると非メーカーのほうが、課題解決にあたる際の行動や決断の速さ(「活動意欲」)を評価する傾向がありました。ものづくりにじっくり取り組むメーカーと、機敏な対応が必要なサービス業の違いであると推察できます。

従業員数の多さは、全体的にあまり強い影響はありませんでした。このサンプルの中で創業の新しい会社の多くはITや通信関連の企業や、大企業からある事業に特化して独立した子会社です。このような会社では、じっくり考えて(「内省性」)慎重に行動する(「慎重性」)タイプの人が評価され、逆にフットワークがよく(「身体活動性」)、気分の浮き沈みのある(「気分性」)人の評価は低くなる傾向がありました。

資本金の大きさも、創業の新しい会社と似た評価傾向がありました。資本金が大きい会社は、大きな設備投資の必要なメーカーや社会インフラの構築や整備にあたる会社が多く、比較的安定した大企業中心ですが、職務の特徴からも組織風土からも、フットワークよく動く押しの強いタイプ(「身体活動性」「自信性」)よりも、落ち着いた思慮深いタイプ(「慎重性」「内省性」)が好まれるということかもしれません。

このように、組織特徴によって面接でどのような人が評価されるかが影響を受けていることが確認されました。今回は仕事の仕方の違いを表現するものとして企業の特徴を用いましたが、次のステップとしては直接仕事の違いを評価した独立変数を用いて、面接評価への影響を再度検討することが必要となります。

最後に

本研究では複数企業のデータを用いて、面接では「外向性」は共通して評価されやすいこと、面接でどのような個人特性が評価されるかは企業によって異なっており、それは業種や創業の新しさといった組織の特徴によって一部説明できることが確認されました。

今後は、面接の評価内容と入社後のパフォーマンスとの関係性についても検討を進めていく予定です。職務や組織にかかわらず共通に評価される「外向性」は単なる評価バイアスなのか、仕事をするうえでの対人関係構築に役立つからなのか、適合評価のうち、組織への適合と職務への適合のどちらがより入社後のパフォーマンスとの関係性が強いのか、などの疑問に答えるための研究を行っていく必要があると考えています。

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