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研究レポート
面接の「精度」に影響を与える要因とは
面接は採用選考の中で最も重視される評価手法であり、ほとんどの企業の採用活動において行われています。これを読まれている方の多くも、一度と言わず選考面接を受けた経験がおありだと思います。しかし、その時のことを振り返って、見事に面接を通過したとき、逆に受からなかったとき、なぜそうなったのかという疑問に明確な答えを出すことができる方はどれほどいらっしゃるでしょうか。
心理学には、他者が自分をどう見ているかを本人に答えさせた実験研究がありますが、結果はあまりぱっとしないものだったようです。面接場面でも、面接者は応募者本人の予想とは結構異なった評価を下しているのかもしれません。一方で、面接者の立場を経験された方は実感があると思われますが、面接者は自分の評価の正しさをある程度信じて採否の意思決定を行っています。
一般的な実感として、応募者本人は「ありのままの」自分をそのままに評価してくれているとは思っていないでしょうし、面接者の側も自分が100%「組織風土や仕事に合わせて」、「偏りなく」、評価ができていると思っていないでしょう。実際のところ、面接の「精度」はどのような要因に影響されるのでしょうか。どのような面接をすれば狙った効果が出るのでしょうか。
今回は、これまでの米国における数多くの先行研究の結果や、少数ではありますが日本で行われた面接研究などをご紹介しながら、この疑問について考えてみたいと思います。ちなみに、面接には「採用基準に照らした応募者の評価」という機能以外に、応募者への情報提供やアピールの場としての機能がありますが、ここでは研究の蓄積が多い、評価手法としての面接に限って話を進めたいと思います。
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主幹研究員
面接が採用選考の中心的な手法とされているのは、米国でも同様です。過去に米国の研究者が(今では誤りとされている知見に基づき)「面接はよい人を評価することができないので、採用時に行うべきではない」とのメッセージを出したときでも、企業は面接をやめるようなことはありませんでした。
このような事情から、面接に関する研究は米国の産業組織心理学の分野で非常に多く行われてきました。これらの研究を通じて、主として2つの結論が得られています。一つは「優秀な人材を評価するという目的に照らしたときに、面接がどの程度効果的であるか」、すなわち妥当性に関する知見です。面接の妥当性は採用選考の中で用いられる他の評価手法と比べても決して見劣りせず、弊社のGATのような一般知的能力検査に次いで高いレベルであることが報告されています。もう一つは、面接の「構造化」の効用です。構造化とは、評価内容の明文化、評定用の項目やアンカー(評価段階の目安)の事前作成、質問項目の準備、面接者訓練などを含む一連の面接実施手法のことですが、ある程度の構造化によって面接評価の精度が上昇することが分かっています。
しかし、米国の研究で得られたこれらの知見を日本の面接評価にそのままあてはめることはできません。ご存知のとおり、日米では採用や育成の事情がずいぶん異なります。職務経験のない新卒の学生を多く採用し、さまざまな職務を経験させながら長期にわたって社内で育てる日本と、職務経験のある人を即戦力として職務の定まったポストにつける米国では、採用に関する考え方も当然異なっています。研究の対象となっている米国の面接において質問の中心は前職での経験であり、対象となるポストの職務要件との兼ね合いで評価が行われます。日本のように、「この人は積極的に行動できそうだ」とか「周りの人とうまくやっていけそうだ」などといった、人柄についての評価基準は少なくとも表向きには重視しません。上に触れた米国の研究は、こうした米国特有の採用事情を背景としていることを十分にふまえる必要があります。
そこで気になるのは日本の採用面接の妥当性です。残念ながら日本での研究は少なく、現時点ではまだ統一見解は得られていませんが、これまでの日本での採用面接研究で明らかになっているのは次のようなことです。
■ 面接評価には、次の3つの要素が含まれ、これらが相互に絡み合って最終的な面接評価となる。
(1)応募者の特性の違い……性格や能力などの人物特性、外見、学歴など応募者の特性の違い
(2)面接者によるばらつき……面接者独自の評価の甘辛や評価観の違いによる評価のばらつき
(3)会社によるばらつき……会社独自の評価観の違いから、ある応募者の特性がプラスに評価されたりマイナスに評価されたりするといったばらつき
■ 応募者の特性の違いに関しては、知的能力の高い応募者に対しては面接評価が高くなる傾向がある。これは程度の差はあるが、面接者や会社によらず一般的に見られる傾向である。
■ 面接者によるばらつきに関しては、面接者間においてより顕著に見られる。一方で、面接者個人の中での評価は一貫性が高い。面接者間のばらつきは、面接を構造化することによってある程度抑えられる。
日本の事情を概観してみると、研究成果として分かっていることは意外に少ないと驚かれる方もいらっしゃるでしょう。肝心の面接者間のばらつきや会社のばらつきが、何によって、どういったメカニズムで面接評価に影響を及ぼすかに関する知見はほとんどないのが現状です。ひと口に面接と言ってもやり方はさまざまであり、一般的な傾向を導くのが難しいことの表れと言えるかもしれません。
以上の研究成果をふまえて、「わが社の面接はどうあるべきか」をどのように考えたらよいのでしょうか。ここであえて「わが社の」と書いたのは、「あるべき面接」に正解があるわけではないからです。とはいえ、どんな面接でもいいというわけではありません。面接評価に影響を与える要因を知り、どうコントロールするのか、あるいは面接者の裁量の範囲とするのか、意志をはっきり持つことが必要だと考えます。
採用の評価基準を会社内で統一することを前提とした場合、応募者の特性以外で面接評価に影響を与える要因は、(1)面接者間のばらつき(2)会社による評価観点の2点です。以下では、この2点をどうコントロールしていけばよいかを考えてみたいと思います。
面接者間のばらつきを減らす一つの方法は、先にあげた構造化面接です。しかし全ての面接を構造化することは現実的ではありません。また「事務的になる」「展開が難しい」などの理由から、構造化面接には面接者自身の抵抗感が強い場合があります。また、応募者へのアピールの目的との相性があまりよくないといった欠点も指摘されています。
構造化面接以外の解決策を考えるためには、面接者間のばらつきが何によって生じているのかを突き止めることが必要になります。面接者間の評価がどうして異なるのかを知ることで、面接者自身が評価の際に気をつけるようになる、人事側でばらつきを是正するための面接者の組み合わせを考える、目的や状況に合わせて適切な面接者の選抜を行うなど、何らかの対策を講じることもできるでしょう。また、面接の評価基準が抽象的、多義的な表現になっていないかを見直し、共通認識を持つためのガイダンスを開催することもありえるでしょう。
評価基準が会社内で統一されているとの前提を置きましたが、仮に面接者によって優先順位など評価基準にばらつきがあってよいとする場合にも、何によってばらつきが生じるのかを知っておくことは面接の精度を確保する上で大切だと言えます。
面接をコントロールするためのもう一つのポイントは、会社としての評価観点を明確にし、評価可能な、妥当なものにすることです。「会社による評価観点」と言ってすぐに思い浮かぶのは、組織風土や文化に合った人かどうかの評価観点でしょう。いわゆる「ウチに合っている人かどうか」は、職務ではなく組織を基準に人を採用し、長期にわたる育成を前提とする日本での採用において中心的な評価基準であると言えます。特に新卒採用ではメディアを通して「自社らしさ」が盛んにアピールされ、面接以前の段階から、自社に共感し、適応しやすい母集団を形成することに力が注がれています。
しかしながら、組織風土をきちんと明文化することは容易ではありません。また、それを実際の面接で応募者にどのように質問すればよいのかという問題も残ります。最終的な判断を下す場面においては、結局のところ、面接者の感覚に任される部分が大きくならざるを得ないというのが現実かもしれません。
実は、面接評価における組織風土への適合に関しては、研究の先進国である米国でもあまり蓄積がなく、最近になって注目を浴び始めたところです。組織よりも職務への適合が重視される米国においても、組織適合はリテンションや組織へのコミットメントを予測するものとして、さらには職務遂行度を予測するものとして、有効であるとされてきています。日本においても、組織への適合はどれほど面接者によって妥当に評価されているのか、組織への適合は入社後のパフォーマンスを予測するものとしてどれほど有効なのか、など今後確認すべき課題が多く残されています。
面接者間のばらつきや、会社によるばらつきが何によって、どういったメカニズムで面接評価に影響を及ぼすかに関する研究はまだまだ途上にあり、今後の重要なテーマの一つです。採用の成否は企業の競争力に大きな影響を与えます。その手段である面接に関するより詳細な知見を蓄積することの意義は大きいと言えるでしょう。
一方で、面接で何を狙い、そのためにどのような手段を取捨選択するのかは、会社側の意志に属する問題です。科学的な知見もふまえ、「わが社の面接はどうあるべきか」「それに向けて何をすべきか」それぞれの正解を探していただければと思います。
研究レポート 2024/09/30
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