業績を高める組織・人材マネジメント 持続的成長企業の組織・人材マネジメントを探る 第2回

本研究は、「企業が何十年にもわたって持続的に高業績であり続けられるのはなぜか」という命題を組織・人材マネジメントの観点から明らかにすべく、2007年度より継続しているものです。本稿では、その仮説検証に向け実施した定量調査の結果とその考察について述べていきます。

※調査結果の詳細につきましては、「業績を高める組織能力と組織・人材マネジメント調査2009」をご参照ください。


持続的成長企業の条件

本研究では、企業の持続的成長に関してダイナミックなモデルを探究しています。ダイナミックなモデルとは、有機的な生命体ともいえる企業における組織・人づくりのダイナミズムの可視化を意味し、その属する生態系(マクロ環境や業界の競争環境)との相互作用の差異による持続的成長モデルのパターンを想定することです。よって、長期的な時間軸における変化の分析や、環境との相互作用を加味した包括的分析を行っています。

現在、仮説構築が終わり、その検証・ブラッシュアップの過程にあります(中間報告については「持続的成長企業の組織・人材マネジメントを探る」〜第1回〜」をご参照ください)。これまでの定量・定性的手法を組み合わせた分析により、抽出した持続的成長企業の条件は以下のとおりです。

□持続的成長企業は、継続して変化対応・自己革新している
□その変化対応・自己革新を促すため、相反する価値基準をもつ
  ・シビアな価値基準の徹底
  ・従業員尊重・共同体意識などのあたたかさ
  ・長期的・大局的視点での経営
  ・意思決定スピードの重視や変化に対する迅速な対応
□変化対応・自己革新を具現化するための優れた組織能力をもつ
  ・やりぬく、PDCAをまわすなど、卓越した行動力・実行力
  ・活発な縦・横・ななめのコミュニケーション
  ・知識創造・組織学習・組織変革を促進する場・仕組み
  ・Valueの創造・維持・発展
□社会的使命・責任を重視することが、持続するにあたり不可欠

分析を通じて、持続的成長企業が上記特徴を継続的に持ち続けていること、時代の変化に合わせて各々の特徴を相互作用させつつ成長につなげてきたことが確認できました。そこで、さらに普遍的な持続的成長企業の要件を探るために、大規模な定量調査を実施することとしました。

定量調査の概要
「業績を高める組織能力と組織・人材マネジメント調査2009」

図表01 「業績を高める組織能力と組織・人材マネジメント調査2009」の概要

本調査実施にあたり、以下の2つの仮説をおきました。

● 仮説1 環境変化に直面しながらも、業績を高めることを可能にする組織能力がある

● 仮説2 組織能力を強化する組織・人材マネジメントが存在する


先行研究によると、資源ベース理論を中心に「経営資源や組織能力が企業の競争優位の源泉である」との認識が一般化していますが、源泉となっている「経営資源」「組織能力」の定義についての共通認識は確立していません。本調査では、「組織能力」を「組織が成果を上げるために、経営資源を組み合わせ活用しながら、発揮している動的な能力である」と定義しています。

調査要素や項目の設計においては、6つの調査領域(「組織能力」「人的資本(一般社員)」「人的資本(中間管理職)」「経営トップ」「組織・人材マネジメント」「組織風土」)に先述の持続的成長企業の条件を具体的にブレークダウンして組み込みました。

なお、本調査は、以下の点において先行する調査研究と異なっているといえます。

● 人事制度の実態など表層的なもののみを把握する調査ではなく、人的資本の行動レベルまでを調査のスコープとしている。

● 業績と組織能力や組織・人材マネジメントの関係性を分析することを意図している。

● 複数の現場管理職を回答対象者としており、組織全体の状況を把握することを試みている。


以下、分析手順に従って、結果と考察について説明します。

● 仮説1 「環境変化に直面しながらも、業績を高めることを可能にする組織能力がある」の検証

− 業績と組織能力の関係を明らかにしたうえで、その内容と構造について分析


● 仮説2 「組織能力を強化する組織・人材マネジメントが存在する」の検証

− 業績を高める組織能力と関係の強い経営資源を特定し、その影響を構造化

− 各々の経営資源を支え、組織能力にも直接的影響を与える組織・人材マネジメントの要件についての分析

業績向上に影響を与える3つの組織能力

上場企業の公表財務データを用いた分析の結果、「組織能力が業績を高める」ことが示され、仮説1が支持されました。具体的には、業績を被説明変数、組織能力を説明変数とする回帰分析を行った結果、組織能力は業績総合指標(※1)に強い影響を与えていることが示されました(β=.40、n=74)(※2)。ここでの業績は単年度ではなく5年間のデータに基づいており、中長期的な業績と組織能力の関係が示されたといえます。

※1「業績総合指標」平均売上高成長率、平均ROA、対TOPIX株価上昇倍率の潜在変数(因子)として算出。本調査では、短期ではなく、中長期的に業績を表す指標を「業績」指標として採用した。具体的には、規模の拡大を示す平均売上高成長率、効率を示す平均ROA、将来的な業績への期待を示す対TOPIX株価上昇倍率という3つの指標を統合した潜在変数を、企業の「持続的成長」を表す「業績総合指標」として設定した

※2「β」モデルに引かれたパスの関連性の強さを表す標準化解(マイナス1.0〜プラス1.0の値をとる)

次に、「業績を高める組織能力とは何か」「その組織能力はどのように業績を高めているか」について、同じく上場企業の公表財務データを用いた共分散構造分析により明らかにしました。その結果、業績を高める組織能力として、「ビジョン共有力」「知識創造力」「実行変革力」の3つが抽出され、業績を高める構造についても明示されました(図表02)。なお、「知識創造力」は「横断展開力」(縦・横・ななめに関係性を展開する力)、「意思疎通力」(信頼やケアなどの感情を相互に通じ合わせる力)、「知の交流力」(知を交換・結合して、アイデアを生み出す力)で、「実行変革力」は「実行力」(決めたことをやりぬく力)、「変革力」(将来に向け、自己革新する力)で構成されています。

図表02 業績と組織能力の因果モデル

以上の結果から、「ビジョン共有力」「知識創造力」「実行変革力」の3つを「業績を高める組織能力」として定め、分析を進めました。

3つの組織能力を高める(組織・人に関わる)
経営資源とその構造

特定した3つの組織能力(「ビジョン共有力」「知識創造力」「実行変革力」)のそれぞれについて、経営資源(経営トップ、中間管理職、一般社員、組織風土、組織人材マネジメントを実現する場や仕組み)がどのように関係し合いながら影響しているかについて、以下、具体的に分析結果を提示します。

◆ ビジョン共有を推進する経営トップと中間管理職(図表03−1)

ビジョンをその意味や背景も含めて組織の隅々まで共有していく原動力は、ビジョンの創造や発信を担い、日々その姿勢を体現する経営トップと、ビジョンをメンバーにブレークダウンして伝える中間管理職の連携プレーであることが改めて確認できました。

図表03-1 3つの組織能力を強化する主な源泉についての因果モデル(ビジョン共有力)

◆ 現場の知識創造プロセスを活性化する中間管理職と一般社員(図表03−2)

現場において知の創造が起こるのは、組織の中で知の連結点となる中間管理職が起点となって、望ましい風土を醸成し、ロイヤリティの高い一般社員の知識創造に向けた実践を引き出しているということが構造として確認されました。

図表03-2 3つの組織能力を強化する主な源泉についての因果モデル(知識創造力)

◆ 実行と変革を同時実現する経営トップ、組織風土および中間管理職(図表03−3)

トップのリーダーシップや組織的柔軟さが、理念を軸にして目前の問題に対処しながらも、イノベーションを推進する中間管理職の行動を引き出し、戦略の着実な実行と将来に向けた変革を同時に実現しているという構造が明示されました。

図表03-3 3つの組織能力を強化する主な源泉についての因果モデル(実行変革力)

業績を高める組織・人材マネジメントの要件

最後に、経営資源のうち、組織や人に関わる経営資源を形成するインフラとしても機能している「組織・人材マネジメント」(場や仕組み、システム)と組織能力との関係性についても相関分析の結果を用いて考察しました。その結果、以下のような組織・人材マネジメントが組織能力全体を高め、ひいては業績を高めることが明らかとなりました。

 ● 理念と組織・人づくりの一貫性
  1. 理念の言語化
  2. 理念を反映した人事制度構築と公正な運用
  3. 求める人材像の明確さ

 ● 組織・人づくりへの長期的投資
  4. 人材開発・採用に対する継続的な経営資源投入
  5. 次世代経営者の育成

 ● 変化に対応する組織・人づくり
  6. 環境変化に対応する戦略的な組織設計・人材配置
  7. 柔軟でスピーディな組織づくり
  8. チャレンジやプロセスを評価する仕組み
  9. 多様性の尊重

まとめ

本分析の結果から、中長期的な業績を高める3つの組織能力(「ビジョン共有力」「知識創造力」「実行変革力」)があり、各々関係し合って業績に影響を与えていることが確認できました。また、組織・人に関わる経営資源も相互に影響を及ぼしながら、3つの組織能力を高めるダイナミックな構造が各々あることが示されました。また、経営資源のうち、組織・人材マネジメントを実現する場や仕組みの要件も明らかとなりました。これらの結果から、当初設定した2つの仮説は支持されたといえます。

調査結果は、一見すると目新しさはないように見えます。しかし、実際の財務データと組織能力や組織・人づくりの関係が定量的かつ構造的に示されたことに大きな意義があると考えています。また調査結果は、実際にはその内容を徹底できていない業績低迷企業が多くあることを示しており、この内容を実践できるか否かが業績の差異につながることを示唆しています。

これまでの研究成果をふまえ、今後は、戦略や企業のライフステージの違いや、企業を取り巻く環境の変化の度合いによって、組織能力そのものや組織能力を高める構造が異なるかなどについて分析を進めていきます。また、今後の社会・経済の変化を視野に入れたうえで、将来においても持続成長する企業の要件について探求していきたいと考えています。

(本稿は、弊社季刊誌「リクルートマネジメントソリューションズMessage Vol.20」(2009年10月発行)掲載の『続・日本企業 持続的成長の条件は何か?定量調査による仮説モデル検証』を加筆・修正したものです。)

関連する無料セミナー

関連する記事

ピックアップ

[報道関連・マスコミの皆様へ]
取材・お問い合わせはこちらから
「この記事」の
WEBからのお問い合わせ
お問い合わせフォーム
電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付時間
/ 8:30~18:00 月~金(祝祭日除く)

※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください。

記事のキーワード検索
Page Top