研究レポート

定量分析による持続的成長企業の特徴とは

持続的成長企業の組織・人材マネジメントを探る 第1回

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持続的成長企業の組織・人材マネジメントを探る 第1回

弊社では、「持続的成長企業の組織・人材マネジメント」研究に取り組んでいます。本研究においては、研究対象となる持続的成長企業を「過去数十年にわたって持続的に高業績である企業」と定義しています。
類似の研究としては、海外の「エクセレント・カンパニー」「ビジョナリーカンパニー2」などが有名ですが、日本企業を対象に、長期的な時間軸における「組織・人材マネジメントと業績の関係」にフォーカスして研究を行った例はあまり見ません。弊社においても、これまで「ESと業績」「組織文化と業績」の関係について予備的な研究を行ってきましたが、今回、組織・人材マネジメントに関して包括的な研究を試みています。
企業を取り巻く環境変化のスピードが増し、さまざまなレベルでの多様化・複雑化が進行する昨今においても、われわれが研究対象としている持続的成長企業が「いかに変化に対応してきたか」という過去から現在に至る歴史を探ることにより、「未来への展望につながる示唆」が必ず得られると信じています。
本格的な研究成果は今後の研究活動の中で紡ぎ出していくこととなりますが、今回はその第一弾として、本研究の概要および現時点における研究成果の一部をご紹介したいと思います。

「持続的成長企業の組織・人材マネジメント」を探る意義

本研究は、組織・人材マネジメントの観点から以下を明らかにしたいと考えています。

●企業が何十年にもわたって持続的に高業績であり続けられる(あるいは、高業績を持続できない)のはなぜか

上記の問いに答えるために、以下のような点を本研究の主眼において進めています。

長期的な時間軸を視野に入れ、転換点に着目する
本研究では「持続的な高業績」という観点に照らし、長期的な時間軸を視野に入れて情報収集・分析を行っています。具体的には、時系列で過去の歴史をひもといて、持続的成長企業において組織・人材マネジメントのあり方がどのような時点でどう変化し、あるいはどう維持されたかを把握し、業績との関係を考えます。
企業の長い歴史においては、どんな企業も大小の差はあれ、危機や内外環境の変化に直面しています。このような危機や変化などの転換点において、どのように成長や自己革新の糧としていったかが、その企業の“持続的成長”の可否を大きく左右するものであったと考えています。よって、転換点の前後の組織・人材マネジメントのありように特に着目していきたいと考えています。

業績の差異を生み出す本質(コンテキスト)に迫る
また、調査対象となる持続的成長企業群の表層的な共通項の抽出にとどまらず、その共通項を支える各々の「内外のコンテキスト」も明らかにしたいと考えています。ここで言う「内外のコンテキスト」とは、マクロ環境、業界・顧客動向、戦略・ビジネスモデル、組織・人材マネジメント等々、企業活動に関わるさまざまな要素の関係を指しています。業績は、それらの要素が相互に作用しあった結果であるために、その一部を取り上げるだけでは解明できないと考えているからです。
同時に、持続的成長企業と同じ業種に属する比較対象企業も同様の視点で探ることにより、何が業績の差異につながっていったかについて明示していく予定です。

「持続的成長企業」のダイナミックなモデル構築を目指す
本研究では、業績の差異を生み出す本質(コンテキスト)を、「持続的成長企業」のダイナミックなモデルとしてまとめることを指向します。そして、そのモデルは一つの固定的なモデルに帰結せず、「コンテキスト」次第ではいくつかのパターンを導く可能性があります。モデルとして一般化・パターン化することには、再現性・汎用性を高め、他の企業が学習できるようにするという意義があると考えるからです。

本研究では、上記のような点を主眼において「持続的な高業績」を導くメカニズムを把握することを通じて、どのような組織・人材マネジメントが企業の業績向上に寄与していくのかについて明らかにし、最終的には、日々いろいろな課題に直面する企業に、成長へのヒントや危機・困難の回避への示唆を提示することを目指していきます。

「高業績」をどう定義するか

本研究においては、「業績」を「株価パフォーマンス(TSR:Total Shareholders Return)(※1)」と定義しました。今回の研究では、先に述べたように組織・人材マネジメントを主眼に置いています。企業におけるオペレーションを支えているのは、企業を構成する組織や人材です。そのため、「業績」を定義づける指標には、企業活動のすべてを網羅しているものが適切です。「株価」は、理論上、将来のフリーキャッシュフローの現在価値であり、将来に向けた取り組みをすべて包含した財務情報と言えます。このことから、「業績」を定義するものとしてTSRを採用しました。

上記のような定義のもと、われわれは「持続的成長企業」を選定したうえで、各企業の過去の事実を収集し、定性分析を行いながら研究を進めています。今回は文面に限りがあることから、その研究成果の報告は次回に譲り、同時並行で進めている既存のサーベイデータを基にした定量分析の結果を次に紹介したいと思います。

企業の人材マネジメントと業績

リクルートワークス研究所の協力を得て、企業における人材マネジメントの思想や実態と業績の関係を探った定量分析から興味深い結果を得ました。「人材マネジメント調査2005」(※2)は、日本のリーディングカンパニーにおける「人材マネジメントの基本思想」「人事制度・施策の実態」「人事制度運用の巧拙」の3つのレイヤーについてアンケート調査を行ったものです。今回は、当該調査で得られたデータのうち、財務データの入手が可能な約90社の回答結果とその業績データ(※3)との関係を分析しました。

その結果、業績との間に有意な相関(※4)が確認された項目は下記のとおりでした。

企業の人材マネジメントと業績

上記の結果から、持続的成長企業の特徴がいくつか考察できます。

●共有化された価値観・ビジョン・・・1)、2)
「理念・ビジョン」が「全社員に浸透」していること、また「人材マネジメントの方針・施策に大きな影響」を与えていることと業績の関係が見られました。組織として大事にしていることや目指す姿が組織の構成員全員に染み渡っており、施策として具現化していることがうかがえます。

●活発な縦・横・ななめのコミュニケーション・・・3) 5) 6) 7) 8) 9)
「CEOはトップダウン型」は縦のコミュニケーション、「組織をまたいだクロスファンクショナルな仕事」「部門を越えた人事異動」は部門横断のコミュニケーション、「意思決定において階層を飛び越えた承認」は階層飛ばしやななめのコミュニケーション、「現場発の提案」はボトムアップのコミュニケーション、「知識・情報、成功事例の共有」は知識共有の日常化など、さまざまなレベルでのコミュニケーションが活発に行われていることがうかがえます。
「部門を越えた人事異動」は部門横断コミュニケーションのきっかけとなるだけでなく、異動先の部門において「ゆらぎ」を起こし、知識創造を刺激していると考えられます

●意思決定スピード・・・4) 6)
「スピード重視で即断即決」や「意思決定において階層を飛び越えた承認」など、意思決定プロセスにおけるスピードが優先されていることがうかがえます。

●長期的な視点で人材を尊重・・・10) 11) 12) 13)
「業績悪化でも人員削減をしない」「会社によるキャリア開発支援」「複線型のキャリア」などの雇用保証や長期的な視点でのキャリア開発という人事ポリシー・施策の成功が、「残ってほしい人材が辞めることはほとんどない」という実態となって表れていることが推察できます。

企業の持つ組織のDNA(その企業らしさ)と業績

次に紹介したいのが、企業が持っているDNA(≒その企業らしさ)と業績データ(※5)の関係を探った定量分析の結果です。これは、弊社が過去に行ったDNAサーベイの結果のうち、財務データが入手可能な約50社における業績上位群と下位群の企業において選択されたDNAを表わすワード(形容詞)を分析したものです。具体的には、業績の上位・下位各々10社中5社以上で選択され、かつその企業に属する従業員の3割以上が選択したワードを抽出し傾向を分析しました。その結果は、以下の表のとおりです。

上位10社で選択されたワード
下位10社で選択されたワード

上位10社において多く選択されたワードとその尺度の傾向から、以下の特徴があることが考察できました。

●仕事をやりぬくことに対する「シビアさ」
【最後までやりぬく責任感と誠実さ】【手堅く着実な課題の遂行】など「仕事をやりぬく実行力」に関するワードが多く選択されていることがわかります。そして、【厳しさと競争を通じた成長】に関するワードからは、その実行が「シビア」な環境におけるものであることが推察できます。

●「シビアさ」と同時に「オープンさ」「やさしさ」「個の尊重」も
【オープンなコミュニケーション】【相互の思いやりとあたたかさ】【自由と個性の尊重】などのワードが多く選択されていることから、場のオープンネス、相互信頼などのソーシャルキャピタルの豊かさ、自律性・主体性重視の人材観などがその実行を下支えしていることが推察できます。

一方、下位10社の傾向としては、【最後までやりぬく責任感と誠実さ】【手堅く着実な課題の遂行】など、選択されたワードの数は及ばないものの、上位10社と共通のワードが選択されています。しかし、その実行に対する「シビアさ」を連想させるワードは上位10社とは違って選択されていません。むしろ、【相互の思いやりとあたたかさ】【オープンなコミュニケーション】など「居心地の良さ」のみを連想させるワードが多く選択されていることがわかります。しかし、一部下位企業では、「シビアさ」を連想させるワードのみが選択されていることから、仕事の完遂、戦略実行を支える風土として、「シビアさ」「あたたかさ」のいずれか一方では業績向上につながらないことがうかがえます。

今後にむけて

今回、研究成果の一部として紹介した2つの定量分析を総合して見えてくる持続的成長企業の特徴は以下のとおりです。

●実行力がある

●価値観・ビジョンが浸透・具現化している

●縦・横・ななめのコミュニケーションが活発である

●意思決定スピードが速い

●長期的な視点で人材を尊重している

●仕事遂行における「シビアさ」と場における「あたたかさ」が共存している

冒頭に述べましたように、われわれの研究はまだ端緒についたばかりで仮説構築の段階にあります。よって、上記の持続的成長企業の特徴が、まだまだ発展途上のものであることを再度強調したいと思います。
加えて、今回の定量分析となったサーベイデータは、スナップショットでとらえた持続的成長企業のある時点での姿にすぎません。同時並行で進めている、「業績」の定義のもとに選定した調査対象企業における過去の事実を対象にした定性分析と統合しながら、仮説を練り上げています。
これらの仮説を検証することにより、

●企業が何十年にもわたって持続的に高業績であり続けられる(あるいは、高業績を持続できない)のはなぜか

という、本研究における問いに対する解を導いていく予定です。

今後の研究成果については、定期的に発信していきますのでご期待いただければ幸いです。

※1 TSR(Total Shareholder Return)は、株主価値創造の測定指標。ある一定期間における配当と株価の値上がりの総利回りで、株主にとっての投資収益性を示す。
※2 リクルート ワークス研究所 Works人材マネジメント調査2005
※3 TSRの1974年以降の年平均成長率(CAGR)
※4 5%水準で検定(サンプル数90→相関係数0.207以上)
※5 TSRの1991年以降の年平均成長率(CAGR)

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