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Vol.3 データを「まとめて、分けて、見る」

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HR Analytics & Technology Lab の研究テーマ
Vol.3 データを「まとめて、分けて、見る」

組織サーベイや360度サーベイを実施した際に、さまざまな切り口で「まとめて、分けて、見る」ことで、より具体的に課題を特定できたり、新たな示唆を得ることができたりする。今回は、「まとめて、分けて、見る」ことの意義と留意点をお伝えする。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
研究主幹

入江 崇介(いりえ しゅうすけ)
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組織サーベイや360度サーベイといったアセスメントを実施した際、個々の組織や個人に結果をフィードバックすると共に、すべての回答者や対象者の結果の平均値や分布、またばらつき(標準偏差など)を確認することがある。加えて、職種や役職など、属性別の傾向の確認が行われることもある。このように、アセスメントの結果などのデータを、なんらかの特徴をもとに「まとめて、分けて、見る」ことにより、有効活用する方法についてお伝えする。

「まとめて、分けて、見る」のイメージ

「まとめて、分けて、見る」の具体的なイメージは、図表01のとおりである。

<図表01>「まとめて、分けて、見る」のイメージ

「まとめて、分けて、見る」のイメージ

例えば、エンゲージメントの高低を確認するための組織サーベイ項目への個々人の回答結果を、職種という単位で「まとめて」平均値を算出し、職種ごとに「分けて」傾向を「見る」ということである。このようにすることで、職種ごとのエンゲージメントの高低を確認することができる。

結果の活用

職種などの属性別にエンゲージメントの平均値を求め、その結果をもとに、「営業職より研究職でエンゲージメントが高い」のように実態を把握することは、それ自体に意義がある。なぜならば、「現場の従業員の状態を見て『なんとなく感じていた職種別のエンゲージメントの差異』」に対し、データによって裏付けを取ることができるからだ。場合によっては、「データを確認したことで、はじめてエンゲージメントに職種別の違いがあることが分かった」というケースもあるかもしれない。

また、例えば営業の部門長、研究の部門長、それぞれがもつ「エンゲージメントの高さの感覚」が異なる場合、データにもとづくことで、共通の基準をもとに認識のすり合わせを行うことができることなども意義として挙げられる。

より積極的に結果を活用するのであれば、「エンゲージメントが低い職種に対して重点的にエンゲージメント改善策を実施する」のように、手を打つ順や手当ての軽重を検討するための素材とすることもできる。

他にも、図表02のようにエンゲージメントが高い人達と低い人達でグループ分けをして、エンゲージメントの高低を分かつ要因を探索し、エンゲージメントが低い人達に対し、その要因の改善策を実施するといったアプローチを行うこともできる。図表02の例であれば、エンゲージメント高群と低群の差が最も大きい「職務満足度」がエンゲージメントの高低を分かつ要因であるとあたりをつけ、その改善を行うというアプローチである。

<図表02>エンゲージメント向上の要因探索

エンゲージメント向上の要因探索

関係性の有無に関する新たな示唆

ここまでは、平均値を用い、スコアの高低について「まとめて、分けて、見る」ことのイメージと効用について説明してきた。

続いて、やや応用的ではあるが、「まとめて、分けて、見る」ことで、2つの変数の関係性について新たな示唆が得られるケースについて紹介する。

図表03~06は、横軸を職務満足度のスコア、縦軸をエンゲージメントのスコアとし、両者の関係を散布図で表したものである。なお、架空のデータであるため、軸の値は省略している。

図表03においては、青い丸のプロット、赤い三角のプロット、両者を合わせた場合、図表中の破線の直線にそって「横軸の職務満足度の値が高いと、縦軸のエンゲージメントの値も高い」という傾向が見られる。

<図表03>直線的な傾向が見られる例

直線的な傾向が見られる例

では、図表03のうち、赤い三角のプロットだけに着目した場合はどうであろうか。赤い三角のプロットだけに目を向けると、図表04のように、「横軸の職務満足度の値が高いと、縦軸のエンゲージメントの値も高い」という傾向はほとんど見られなくなる。

<図表04>直線的な傾向が見られない例

直線的な傾向が見られない例

すなわち、「全体で見ると、職務満足度の値が高いとエンゲージメントが高い。一方で、集団を分けて見ると、職務満足度の値が高くても、エンゲージメントが高いという傾向が見られなくなる」という現象が生じるのだ。また、図表05と図表06のように逆の現象が起こることもある。

<図表05>直線的な傾向が弱い例(直線とプロットの距離が大きい)

直線的な傾向が弱い例(直線とプロットの距離が大きい)

<図表06>直線的な傾向が強い例(直線とプロットの距離が小さい)

直線的な傾向が強い例(直線とプロットの距離が小さい)

もちろん、職種などの属性別に、一方では関係性が見られ、他方では見られないというケースもある。

このように「まとめて、分けて、見る」ことで、データ全体を分析することでは見えてこない関係性が見えてくることもある。平均値だけでなく、変数同士の関係性を確認する際にも、「まとめて、分けて、見る」ことが有効なことがあるのだ。

「まとめて、分けて、見る」際の留意点

このようなアプローチを取る際、より精緻に実態を確認しようと、役職、職種、勤務地、年次など、さまざまな属性別の傾向を確認しようとすることもある。細かく実態を把握することに意義はあるが、分析を行い、その内容を確認するコストにも目を向ける必要がある。その点から考えると、属性による実態に差があることが分かっても、それによって打つ手を変えたり、手当ての軽重を変えたりすることができないことが想定されるのであれば、そのような属性別の分析は行わないなどの選択を取ることも1つの手である。

また、「職種と役職」のように複数の属性を組み合わせ、「研究職の管理職の特徴」などを確認しようとすることもある。しかし、複数の属性を組み合わせた場合、その組み合わせに該当する人の数が少なくなってしまうため、下手をすれば個人を特定しかねなくなってしまう。また、組み合わせが多く、個別性が増すと、それぞれの特徴を把握し、それらに応じた手を打つことも難しくなる。よって、過度に多くの属性を組み合わせないようにすることも必要である。

「まとめて、分けて、見る」ことには意義があるが、過度にならないよう、留意することが必要である。

おわりに

今回は、組織サーベイや360度サーベイの結果を「まとめて、分けて、見る」ことについて説明をした。次回は、両者のデータを組み合わせることで、組織のコンディションを改善するためのマネジメント行動を抽出するための方法についてご紹介する。

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