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Vol.2 組織の変革を促すためのアセスメント活用

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HR Analytics & Technology Lab の研究テーマ
Vol.2 組織の変革を促すためのアセスメント活用

組織を変革する際にはもちろん、「どのように変革したいか」を考えることが大切である。それと同じく大切なことに現状把握がある。今回は、組織、そしてそれを構成する人材の変革を促すためのアセスメント活用の概要をお伝えする。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
研究主幹

入江 崇介(いりえ しゅうすけ)
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組織を変革していく際に、ありたい姿を示し、その現状を把握するために用いるツールとして、「組織サーベイ」と「360度サーベイ」がある。両者とも、「どのようなことを目指したいのか」を示すツールであると同時に、その現状を把握し、目指す姿に至るための改善策を検討するための素材となる。両者がどのようなものか、そして、それらを活用する際に留意すべきことをご紹介する。

組織サーベイ

組織の現状把握の観点はさまざまなものがある。例えば、年齢構成や離職率など、客観的な指標で把握できるものがある。一方で、従業員がどの程度仕事にやりがいを持っているか、また、各職場で風通しのよいコミュニケーションが取れているかなど、客観的な指標で把握することが難しいこともある。これらについて、「あなたは、現在の仕事にやりがいを感じていますか」や「あなたの職場では、自由闊達な意見交換ができていますか」のような項目からなる調査を実施し、従業員の主観にもとづく回答をもとに組織の現状を把握する方法を「組織サーベイ」という。近年では、人的資本の情報開示項目に「エンゲージメント」が含まれることから、エンゲージメント・サーベイを行う企業が増えているが、これも組織サーベイの一種である。

360度サーベイ

ある従業員に対して、上司、同僚、部下といった多様な関係者から「職場の目標を達成するために積極的に行動している」のような項目からなる調査の結果を収集し、日ごろの行動や仕事ぶりを把握する方法を、360度サーベイや多面評価という。組織がフラット化したり、プロジェクト型の仕事で多様な関係者と仕事を行うようになったりしたことなどを背景に、上司だけでなく、職場、そして職場外の多様な関係者からの評価を行うことの重要性が高まったことにより、360度サーベイの活用が近年進んでいる。

フィードバックの重要性

「組織のエンゲージメントの状態を把握し、その結果を統合報告書で報告する」「従業員個々の評価を360度サーベイで行い、その結果を人事評価に反映する」といった目的でデータを取得し、その結果を活用しているものの、サーベイの対象となった組織や個人、また、サーベイの回答者に対して、十分なフィードバックが行われていないことがある。このような場合、2つの点で問題があると考えられる。

1つ目の問題は、「せっかく現状を把握したのに、その改善のための機会を逸してしまっている」ということである。組織サーベイであればそれぞれの職場、360度サーベイであればそれぞれの評価対象となった個人に対し、その結果をフィードバックすれば、ぞれぞれで強みや弱みを把握することで、自律的な改善の機会とすることができる。このような機会を活用しないのは、とてももったいないことといえる。

2つ目の問題は、「回答に対するモチベーションを下げてしまうこと」である。回答者からすれば、自分たちが回答した結果がどのようなものだったのかを知りたいという欲求、そして、その結果をもとによい変化が起こってほしいという欲求がある。結果のフィードバック、そして、それをもとにした改善が行われない場合、これらの欲求が満たされないこととなる。そうすると、「せっかくサーベイに回答したのに」という思いを引き出してしまい、それ以降のサーベイに対する協力的な姿勢を引き出すことが難しくなってしまう。

万が一、現在、サーベイのフィードバックが十分に行われていないのであれば、実施について前向きに検討いただくことが重要だと考えられる。

フィードバック時の留意点

フィードバックを行う際に留意すべきは、「ただ、結果を返却する」というようにならないことである。なぜならば、組織サーベイの結果を受け取った職場のマネジャー、あるいは360度サーベイの結果を受け取った個人は、それらを活用する専門家ではないからだ。ただ結果を返却した場合、フィードバックした内容が十分に活用できなかったり、フィードバックした内容によってかえって悪影響が出てしまったりすることもある。

例えば、組織サーベイであれば、職場のマネジャーが自分一人で結果を解釈し、その結果をもとにした改善案をメンバーに提示し、その内容についてネガティブな反応をされてしまうこともある。また、360度サーベイであれば、自分が思っているよりネガティブな周囲からの評価を目の当たりにし、ただ、自信を無くしてしまうということも起きかねない。

よって、それぞれのサーベイ結果を読み取り、改善に生かすためのマニュアルを示したり、ガイダンスを行ったりするなど、サポートのための施策が欠かせない。場合によっては、読み取りや改善策の検討を人事担当がサポートしたり、カウンセラーやコーチなどの専門家の支援を得られるようにしたりすることが有用である。

さらなる活用に向けて

組織サーベイと360度サーベイは、「組織として目指す姿」をもとに調査項目が設計されていれば、現状を明らかにすることで、目指す姿とのギャップを把握することができる。そして、その結果をもとに改善策を検討することができる。

その際、「どのような対象で特に問題が起きているのか」や「うまくいっている組織とそうでない組織で、どのような違いがあるのか」などを分析することで、それらの効果を高めることができる。次回は、組織サーベイや360度サーベイを用いた分析のアプローチをご紹介する。

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