国際的な経営学のトレンド Academy of Management(米国経営学会)2020 参加報告

Academy of Management(米国経営学会)2020 参加報告
執筆者情報
組織行動研究所
主任研究員
仲間 大輔

2020年度のAcademy of Management(AOM:米国経営学会)年次大会が開催されました。他のさまざまな学会と同様、本年度はリアル会場(カナダ・バンクーバーが予定されていました)ではなく、バーチャルでの開催となりました。大会期間も、8月7日から11日という予定だったところ、8月末にかけてのリアルタイムでのオンラインセッションの開催に加え、10月末までの録画セッション(動画配信)も組み合わされての実施となりました。


大会の概要

AOMは世界最大の経営学会で、例年の参加者は1万人以上にのぼります。また、米国からのみならず世界中から経営学者が集まることも特色です。

2019年度の大会は82カ国から11161名が参加していましたが、本年度は、バーチャル開催の影響か、参加登録者は7224人と減少しました。しかし、移動の時間や金銭的負担が減ったプラスの効果なのか、参加者の出身国数は88カ国と増加したのに併せ、米国以外からの参加者が過去最大を記録し、学生の参加も過去5年で最多となりました。

シンポジウムや論文発表など数多くのセッションが行われたのは例年どおりで、本年度も1565のセッションがオンラインで行われ、140万以上の閲覧数を記録しているとのことです。

<図表1>2020年大会の参加者・発表数など(すべて10/23時点の発表数字)

<図表1>2020年大会の参加者・発表数など(すべて10/23時点の発表数字)

AOMは、実務家の参加も見られるものの、基本は学生と研究者が参加者の大半を占める「学会」であり、発表内容の学術的なクオリティの維持に相当の時間と労力がかけられています。AOMでの発表論文は、事前のピアレビュー(その分野の専門家同士での論文審査)によって絞り込まれています。申し込み論文1件につき、3人程度の審査者がアサインされ、研究の質をより向上させるためのアドバイスと併せて、AOMでの発表に足るクオリティかどうかを厳格に審査します。

領域によって難度は多少異なりますが、通過率は2〜4割程度となっており、学会で採択された論文のみがProceedingsと呼ばれる予稿集にまとめられ、研究上の業績として扱われることになります。昨年は弊社からも発表し(「Academy of Management(米国経営学会)2019 参加報告」)、その内容も予稿集に載録されています。

<図表2>2020年大会の参加者種別

<図表2>2020年大会の参加者種別

世界中から多くの参加者を集めながら学術的な厳格性・先端性を維持していこうとする学会の位置付け上、こうした論文審査のプロセスは、きわめて重要な役割を果たしていますが、その分、機動性には欠けることになります。

例年、8月の大会に向けて、その年の1月初旬に論文提出締め切りがあり、その後1〜2カ月かけて審査が行われるというスケジュールでAOMは運営されています。このスケジュールは、本年度の大会準備過程において、新型コロナウィルスの影響が世界中で顕在化してきた際には発表論文採択のプロセスがほぼ完了していた状態であったことを意味しています。

大会準備事務局は、大会は中止とせず何らかの形で開催すること、リアルでは開催しないこと、バーチャルで時差に配慮した形で開催していくこと、というように段階的な意思決定を行い、本大会の「バーチャルで、リアルタイムセッションと録画セッション配信とを組み合わせた形での開催」という形態が決まっていきました。学会員の意見を聞きながら、必要な意思決定を周到に行っていく様子は、さすが経営学の学会と思わせるものでした。

チャットボックスや投票機能、資料ダウンロード用のタブなどを組み合わせた大会参加用のインターフェイスも非常に快適に動作され、プログラム委員長のAguinis博士(George Washington University)が「きわめて成功したバーチャルカンファレンス」と振り返るとおりであったと思います。

バーチャル開催の様子

 
初のバーチャル開催で感じたこと

各セッションは、リアルタイムセッションの開催とその録画の公開、もしくは、あらかじめ撮影された動画をアップしてのQ&A受付(非同期型セッション)、といった形態で行われました。

例年、大量のセッションが並行して、きわめて集中的に行われるところ、こうした分散的な形での開催となったのは参加者としていくつかの利点がありました。

まず、参加に関する負荷の軽減です。日本から米国に移動して時差があるなかで5日間朝から晩までセッションに参加するのは、渡航・宿泊などのコストに加え身体的な負担も大きいものでしたが、日本にいながら自分の都合に合わせて少しずつ参加・視聴することが可能になったことで、そうした負荷は大きく減少しました。

また、希望のセッションに参加できない、ということがなくなったのも大きいです。例年は、同時間帯に多数のセッションがあることに加え、複数の会場に分かれての開催となっているため、会場間の移動時間によって目当ての発表を聞き逃すということもありました。しかし、本大会では、ほぼすべてのセッションの録画が配信されるため、そうした見逃しがなくなったというのは参加者からすると大きなメリットでした。また、複数の論文発表で構成されるセッションのなかから、目当ての発表のみを選択して聞けるようになったこともありがたかった点になります。

さらに、発表者によりますが、論文に加えパワーポイントなどのプレゼンテーション資料がアップされることが多くなり、発表内容を振り返る際に有用でした。

こうした点は参加者としては歓迎すべき変化であり、来年以降、仮に例年のようなリアル開催になるとしても、録画・オンライン配信は継続することが望ましいと感じました。

一方で、例年の盛り上がりには及ばないところも一部にはあったような気がします。最先端の知見が取り交わされて皆がそれに熱中しているというような集合的な知的興奮は、どうしても感じにくかったように思いますし、実際、論文発表のなかには、プレゼンテーション資料がアップされないままとなっているような発表も散見されました。こうした微妙な温度差と併せ、大人数が同じ場所に集まることの効果をあらためて感じる大会でもありました。

パンデミックの個と組織への影響

前述のようなスケジュールでしたので、3月段階で発表論文の多くが決まっていたなかではありますが、やはりパンデミック(世界的大流行)という例年に比して特殊な環境下に即したテーマをセッションに組み込もうとする努力も見られました。そのなかでも、組織行動(Organizational Behavior)部門が特別開催した「新型コロナウィルスと組織行動についての会議」(※1)は、リアルタイムでも303名が参加し(その後、録画も配信)、大きな注目を集めました。COVID-19に関連した研究は、先月くらいからAcademy of Management Journalや、Journal of Applied Psychology、Organization Scienceといった経営学の一流学術誌でも論文が発表されるようになってきていますが、8月初めの時点ではまとまって発表されることはあまり多くなく、現在の社会問題にタイムリーに応えようとする研究者の意欲を感じました。

このセッションでは主に7つの研究が発表され、在宅ワークの時間の使い方や危機状況下でのクリエイティビティ、ストレス、リーダーシップなどのトピックがありました。

そのなかで印象的だった発表の1つが、University of South Floridaの大学院生であるGray氏による、パンデミック下で実際に見られたリーダーの行動についての調査結果の報告です。彼女たちの研究チームは、看護師や大学スタッフに対する調査から、マネジャーは、柔軟な作業スケジュールの設定やチームの仕事への感謝の表明などで、メンバーを有効に支援していたことを明らかにしました。しかし同時に、有用ではなかったマネジャーの対応もあり、例えば方針に関する頻繁なメール送信や熟練度の低いスタッフの追加などは、実際の有用性は低く、メンバーの負担感を増加させる結果になっていたということも指摘され、実践的な教訓につながる内容となっていました。

また、University of HaifaのVashdi博士の発表では、パンデミック下での孤独感や落ち込みからのレジリエンス(回復力)に焦点が当てられ、上海のヘルスケアメーカーのチームへの調査を通じて、もともと仕事上の緊密な連携があったチームのメンバーほどレジリエンスが高い、という結果が報告されました。

こうした研究は、聞き取り等の定性的な分析なども含まれており、まだ端緒についたばかりのものとなっています。そのため、ここでの発見が確かなものなのか、またどのくらい一般性をもつのか、といった点はこれからの本格的な検証を待つ必要がありますが、自らの研究成果を素早く発表して研究者間で連携しようとしている姿勢が印象的でした。

学術知見の今日的なテーマへの接続

パンデミックの影響を直接的に調査した発表と同時に印象的だったのが、これまでの学術文献上の蓄積を今日的なテーマに接続しようとしている研究群です。

例えば、上述の「新型コロナウィルスと組織行動についての会議」セッションでも、INSEADの大学院生のHe氏はバーチャルチーム(物理的に離れた場所にいるメンバーがオンラインなどを通じてつながっているチーム)におけるコミュニケーションとチームの創造性の関係について報告しました。メンバー間のコミュニケーション(チャット)が全員に共有されているオープンなチームを、各メンバーが上司と個別にコミュニケーションをするクローズドなチームとを比較した実験研究から、オープンなチームでは意見をよりよく統合できる一方で生み出されるアイディアの数は減少するという結果が示されました。バーチャルチームやチャットを介したチームのコミュニケーションはCOVID-19流行下で急速に一般化してきており、今日的な重要性が高い研究と感じました。

また、「コンピュータを介したコミュニケーション」(※2)という論文発表セッションでも、Goetz博士(University of St. Gallen)は、業務上の連携の必要性が高い従業員がバーチャルなコミュニケーションを多く取る場合に、ワークプレイス・フレキシビリティ(働く場所の柔軟性)の健康に対するプラスの効果が特に顕著に見られることを報告しました。バーチャルなコミュニケーションは、新型コロナウィルス流行以前からも存在し、その影響に関して研究がされてきていましたが、パンデミック下で関心を集める「オフィス以外の場所で働く」という状況への展開可能性が論じられることで、既存の学術知見の社会的意義があらためて高まっているように思います。

こうした研究は、直接的にパンデミックの影響を見たものではありませんが、これまで蓄積されてきた学術的な知見を踏まえて、社会的に重要性の高いトピックへ応用可能な知見を生み出そうとするものといえます。

こうした、学術文献上への貢献と社会的関心への応答とを両立させることへの意欲は、他のセッションでも感じられ(※3)、学会を通じて高まっているように思いました。

AIの組織への影響に引き続き関心が集まる

最後に、今大会で特に目立ったのがAIやアルゴリズムの組織への活用に関するセッションです。同様のセッションは昨年度もいくつか開催されており、満員による入室制限がかかったりしましたが(そうした制限がなくなったのもオンライン開催のメリットです)、今大会ではその趨勢に拍車がかかった状況です。実際、AIとタイトルに冠したシンポジウムが(少なくとも)5つ開かれ、「AIはマネジメントにどのような影響をもたらすか」「アルゴリズムを活用するときにはどのような留意点があるか」「AI活用における倫理的な問題点は何か」といった点についての意見交換が行われました。なかでも複数のセッションを通じて主張されていたのが「人間を中心に据えたAI活用」の重要性であり、学会の関心の高さが窺われます(※4)。例えば、Lebovitz博士(University of Virginia)からは、医療チームへの調査を基に、AIやアルゴリズムについての理解が十分できないまま、それに従うかどうかを判断しなくてはいけないという現場の葛藤の存在が指摘されました(※5)。そうした問題に対する取り組みとして、Carnegie Mellon UniversityのKim博士は「説明可能なAI(Explainable AI)」の開発について紹介し、どのようなものが「説明可能」として組織に受容されるのかに関する経営学者の知見や研究手法の活用可能性を論じた上で、学術領域を超えたコラボレーションの推進を強く訴えました(※6)。

また、より実証的な観点から興味深い研究が報告されていたのは、「AIに抵抗する:意思決定者はいつアルゴリズムを使い、いつ避けるのか」と題したセッションです(※7)。Imperial College LondonのYeomans博士の発表では、同じリコメンドであってもAIによるリコメンドとして受け取るときよりも、人間によるリコメンドとして受け取るときの方が、その内容が好まれる傾向にあるというデータが示されました。Logg博士(Georgetown University)たちの研究からも、採用場面においてAIよりも人による評価を望む割合は約70%という結果が繰り返し提示されており、組織がAIを活用していくことは、個人の視点からは抵抗感をともなうものであることが示唆されます。

しかし、AIの活用が個人にとって望ましい場面もあり得ることも同時に示されています。先のLogg博士の研究では、AIよりも人による評価を望む傾向は、競争率が高い環境や採用者が自分とは異なる意見をもつ場面では弱まる傾向にありました。同様に、「AIと働く準備をする:AIは従業員と組織、双方に影響する」と題したセッション(※8)でのLiu博士(National University of Singapore)の発表によれば、ワーカーのエンゲージメントは、成果の評価をAIが行う場合の方が、人間が行う場合よりも高くなることが示されました。Liu博士たちは、「AIによる評価は偏りがないことが期待されるため、それがエンゲージメントを高めている」という議論を展開し、評価基準が明確に示されていない状態においてはAIが評価する場合の方がワーカーの仕事の質も高くなるという研究結果が、議論を呼んでいました。

組織におけるデータ活用・AI活用は今後もいっそう進んでいくと思われますが、新しい組織の形を探求していくためには、こうした人とAIとの関わり合いについての研究が重要となってくると思いました。

終わりに

「環境の変化が激しさを増している」という議論はいつの時代にも通用する警句となってしまっていますが、新型コロナウィルスの世界的な流行や、急速に進むAIの活用によって、個と組織を取り巻く環境は誰の目にも明らかに変化しています。

こうした変化のなかで、学術的に蓄積されてきた研究知見を今日的な文脈に接続していくことの必要性と、トレンドに合わせたトピックだけではなく基礎的な研究知見を積み重ねていくことの重要性とをあらためて認識する機会となりました。

これからも、「個と組織を生かす」ための組織づくりについて、アカデミクスで蓄積/想像されている知見と、実務で培われている知見とを統合していくような研究や発信を続けていきたいと思います。


※1 OB Division Plenary: COVID-19 and Organizational Behavior (session 147)
※2 Computer-Mediated Communication (session 857)
※3 例えば、Current Research in Organization Design: Topics, Tools, and Triumphs (session 149) や、Cooperation and Conflict in Teams (session 904) など
※4 Broadening our Sight to "Artificial Intelligence in Management" (session 45)、
Work Design, Technology, and Artificial Intelligence: Keeping Humans at the Center of Work (session 1204)
※5 Organizing Work with Algorithmic Augmentation and Artificial Intelligence (session 251)
※6 Artificial Intelligence and Innovation Ethics (session 271)
※7 Resisting Artificial Intelligence: When Do Decision-Makers Avoid or Use Algorithmic Input? (session 352)
※8 Get Ready for Working With AI: AI Influences on Both Employees and Organizations (session 84)

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