研究レポート

人材マネジメントに関する調査 追加分析

人事制度方針タイプ別にみる人材マネジメントのあり方

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人事制度方針タイプ別にみる人材マネジメントのあり方

日本企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、多くの企業が人事制度の見直しや新たな施策の導入を進めています。ジョブ型雇用への移行、リスキリングの推進、タレントマネジメントの強化――。しかし、こうした施策を導入しても、期待した成果が得られないケースも少なくありません。その理由の1つは、「自社の人事制度のタイプに合った施策を選べていない」ことにあるのではないでしょうか。

本レポートでは、弊社が2025年6月に発表した「人材マネジメント調査2025」(※)のデータを分析に用いました。企業の人事制度を3つのタイプに類型化し、それぞれのタイプで従業員が高いパフォーマンスを発揮していると認識している企業が実施している施策を分析しました。その結果、人事制度のタイプによって、効果的な施策が異なることが分かりました。本レポートでは、人事制度方針を群分けし、それぞれの群(タイプ)で効果を発揮する施策を明らかにし、各企業において最適な人材マネジメントのあり方を考えるための観点を提示します。

人材マネジメント調査2025 ~労働力不足の新時代を切り拓く、これからの人材マネジメント~

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
研究員

久米 光仁(くめ こうじん)
プロフィールを⾒る

調査の概要

弊社では、企業の人材マネジメントの現状を把握し、今後の実践的なヒントを得ることを目的に「人材マネジメント調査2025」を実施しました。本調査では、企業383社を対象に、人材マネジメントの現状と課題を把握し、今後の実践のヒントを得ることを目的として分析を行いました。調査の結果、多くの企業では「業績向上」は一定程度進んでいるものの、「新価値創造」や人材の「流動化」に関しては課題が残っていることが明らかになりました。一方で、「人材の最適化」を実現できている企業は、業績向上にとどまらず、新価値創造においても高い成果を上げている点が確認されました。

今回は追加分析として、人事制度の方針や施策運用の特徴をもとに企業を類型化し、企業が取り得る人材マネジメントのパターンを整理したうえで、それぞれの類型で、どういった施策を行うことが従業員のパフォーマンス発揮に結びつきやすいのかを検討しました。

図表1 「人材マネジメント調査2025」の調査概要

人事施策の方針は3つのタイプに分類できる

今回の分析では、企業の人材マネジメントの類型を理解するために、等級・評価・報酬・異動・育成に関する各施策の方針を個別に捉えるのではなく、それらの方針の組み合わせパターンについて着目しました。なぜなら、現場の人材マネジメントは単一の方針だけで機能するものではないためです。

そこで、現在の人事施策方針について尋ねた設問(あなたが所属している会社の「現在」の人事施策方針についてお答えください)を用いてクラスター分析1を行ったところ、3つのクラスターに分けることができました。

それぞれ、各クラスターの10項目の平均値の違いから、ジョブ型、日本型、スペシャリスト型と命名しました。以下では、各クラスターの特徴を10項目の平均値の違いに基づいて整理します(図表2)。

1クラスター分析とは、複数の項目に対する回答パターンの類似性に基づき、グループを見出す統計手法です。今回は、10項目の人事施策方針に対する各企業の回答の組み合わせを分析し、方針が近い企業同士を同じグループとして整理しました。

図表2 【クラスター別】現在の人事制度方針の平均点 <単一回答/n=383>

あなたが所属している会社の「現在」の人事施策方針についてお答えください。

まず1つ目は、職務と成果を軸に制度を組み立てる「ジョブ型」です。等級の格付けにおいて「職務を重視している」(3.87)が3群のなかで最も高く、職務を軸に等級を設計している企業群です。評価においても「成果や結果を重視している」(4.14)が最も高く、成果重視の姿勢が表れています。

報酬水準についても「短期成果や現在の貢献度を重視して決定している」(3.80)が高く、短期的なパフォーマンスを処遇に反映しやすい方針になっています。一方で、「年齢やこれまでの貢献、蓄積した能力を重視して決定している」(1.99)は3クラスターのなかで最も低い点が特徴です。

異動については「会社主導で行っている」(3.81)が高く、「従業員の意見や希望をできるだけ反映させている」(3.31)は3を超えているものの比較すると低いといえます。配置運用は企業主導を基調としつつも、本人意向もある程度取り込んでいる様子がうかがえます。育成については、ゼネラリストとスペシャリストのいずれも同程度であり、育成方針は他施策ほど明確に偏っていない傾向が見られます。

次に、能力や経験の蓄積を基盤とする「日本型」です。等級の格付けにおいて「能力を重視している」(4.04)が最も高く、能力を基盤とした等級制度を採用している企業群です。「育成は、ゼネラリストとして育てることを重視している」(3.98)が高く、幅広い経験を通じた人材育成を志向している点が特徴です。異動に関しては「会社主導で行っている」が他2クラスターと比較したときに一番高く、異動の意思決定において企業側が主導権を持っている実態が読み取れます。

 評価は「成果や結果を重視している」(3.45)よりも「行動やプロセスを重視している」(3.76)が高く、成果だけでなくプロセスも含めて評価する運用になっています。報酬水準に関しては「年齢やこれまでの貢献、蓄積した能力を重視して決定している」(3.46)が高い一方、「短期成果や現在の貢献度を重視して決定している」(2.80)は相対的に低く、長期的な蓄積や貢献の積み上げを処遇に反映させる傾向が見られました。

最後に、専門性の育成を中心に据えた「スペシャリスト型」です。育成において「スペシャリストとして育てることを重視している」(3.79)が最も高く、専門性の形成を強く意識した企業群です。報酬水準については「年齢やこれまでの貢献、蓄積した能力を重視して決定している」(3.83)が高く、蓄積された能力や貢献を処遇に反映させる傾向が見られます。

等級の格付けは「職務を重視している」(3.40)と「能力を重視している」(3.55)が共に同程度であり、職務軸・能力軸のいずれにも極端には偏っていないといえます。

異動については「会社主導で行っている」(3.96)が高い一方で、「従業員の意見や希望をできるだけ反映させている」(3.45)も3より高い水準にあります。配置や異動においては会社の事情を重視しつつも、本人意向も併せて取り込みながら運用しているといえます。

クラスター別にみる「パフォーマンス発揮」高群・低群の施策差

本調査では、企業の人材マネジメントの成果を測るために、業績の向上ができているかについての設問があります。そのうちの3項目(業績目標を達成している/個々の従業員が期待するパフォーマンスを発揮できている/個々の従業員が活躍できている)の平均値を、パフォーマンス発揮尺度としました。この尺度の中央値以上・未満で2群に分け、クラスターごとに人事施策の実施率にどのような違いがあるのかを確認しました。中央値以上・未満の2群間で有意な差分が見られたものを紹介します。なお、クラスター間でパフォーマンス発揮尺度の平均に差はありませんでした。

ジョブ型クラスター

ジョブ型クラスターで、パフォーマンス発揮が高い企業群(n=68)と低い企業群(n=50)を比較したところ、目標管理、評価分布の規制、賞与制度、退職者ネットワーク(アルムナイ)に有意な差異がありました(図表3)。

目標管理では、OKR(Objectives and Key Results.目標設定や目標管理のためのフレームワークの1つ)の導入率が高群11.8%、低群2.0%となり、高群で有意に高い結果となりました。さらに、評価分布の規制・コントロールは低群60.0%と高群の38.2%を上回りました。高群では、低群と比べるとOKRのような挑戦的な目標設定を促し、評価分布のコントロールをしないで、個人の挑戦や成果を柔軟に評価しています。低群では評価のばらつきを抑える仕組みを強めることで運用を安定させようとする一方、それが個々の貢献や成果を十分に捉えきれない評価制度の運用につながっている可能性があります。

報酬面では、会社業績連動型賞与が高群69.1%、低群54.0%で高群において実施率が高い傾向を示しました。部門業績による賞与原資の決定も高群23.5%、低群10.0%となりました。業績がよくないことで賞与設定の柔軟性が失われているという側面もあるものの、会社や部門の業績と報酬の連動性をより明確にすることが、パフォーマンス発揮と結びついている可能性が示唆されます。

加えて、退職者ネットワーク(アルムナイ)やカムバック制度は高群51.5%、低群36.0%であり、高群で実施率が高いといえました。パフォーマンスの高い企業ほど、退職者ネットワーク(アルムナイ)の構築、カムバック制度の仕組みを持っていることがうかがえます。

図表3 【ジョブ型】人事施策の実施状況 <複数回答/n=118/%>

Q.あなたが所属している会社の人事施策について、導入・運用しているものをすべてお答えください。

日本型クラスター

日本型クラスターで、パフォーマンス発揮が高い企業(n=66)と低い企業(n=54)を比較すると、異動・配置の設計、育成体系の整備、人材ポートフォリオのモニタリングなどに差が表れました(図表4)。

配置・ローテーション施策において、機能・職種間のジョブローテーションの実施率が高群74.2%と、低群の50.0%を大きく上回りました。加えて、機能・職種内のジョブローテーションも高群は65.2%で、低群の50.0%より高い傾向が見られました。企業主導の異動が特徴である日本型において、パフォーマンスが高い企業ほど、横断的な経験付与を通じて活躍機会をつくる方向で活用していると考えられます。育成面では、機能・職種別の教育体系の整備が高群66.7%、低群51.9%となり、高群の方が高い傾向でした。

人材ポートフォリオのモニタリングは高群16.7%、低群0.0%であり、高群では人材を動かす前提としての現状把握・配置の根拠づくりが進みつつあることを示しています。エンゲージメントサーベイ等の従業員意識の(図表4)モニタリングは高群84.8%、低群72.2%であり、高群がより継続的に従業員の状態を把握しているようです。

評価関連では、高群の方が育成目的の多面評価の実施割合が高く(高群34.8%、低群14.8%)、昇格基準の社内公開も高群の方が高い傾向でした(高群54.5%、低群38.9%)。一方、低群の方が行動・コンピテンシーや専門性評価(高群13.6%、低群27.8%)、経営理念や(図表4)バリューの実践度評価(高群7.6%、低群20.4%)を行う割合が高くなっています。低群では、理念やコンピテンシーといった望ましい行動の評価に重点をおいているのに対し、高群では多面評価による育成実践や、昇格基準の公開による透明性の確保といった形で、成長支援・評価の納得性を重視した施策を行う傾向にあります。

 図表4 【日本型】人事施策の実施状況 <複数回答/n=120/%>

Q.あなたが所属している会社の人事施策について、導入・運用しているものをすべてお答えください。

スペシャリスト型クラスター

スペシャリスト型クラスターでは、パフォーマンス発揮が高い企業(n=92)と低い企業(n=45)の間で、等級制度の運用、評価運用、配置施策、育成施策に有意な差がありました(図表5)。

 

等級制度の運用をみると、職能等級制度の実施率が高群53.3%、低群35.6%である一方、役割等級制度は低群60.0%が高群42.4%を上回っており、低群ほど役割等級に寄った設計になっていることが分かりました。専門領域のなかでのスキル蓄積を評価しやすい職能等級制度は、このクラスターにおける「報酬水準は年齢やこれまでの貢献、蓄積した能力を重視して決定している」という特徴的な方針と整合性が高く、特定の役割やポジションに紐づく評価をする役割等級制度よりも職能等級制度を整備することでパフォーマンス発揮につながりやすい可能性があるといえます。

評価運用では、高群において評価基準の開示が57.6%で、低群の42.2%を上回りました。評価分布の規制・コントロールも高群54.3%、低群37.8%と、高群において実施率が高いことが分かりました。スペシャリスト型においては、評価の納得性が成果と直結しやすく、基準の明示や一定の運用規律が、パフォーマンス発揮を下支えする要素として機能している可能性があります。

配置施策では、機能・職種内のジョブローテーションが高群54.3%、低群31.1%で、高群が有意に高い結果でした。専門領域のなかで経験を広げる運用が専門性の強化、ひいてはパフォーマンスの発揮に結びついていると考えられます。なお、機能・職種間のジョブローテーションについては有意ではありませんでした。

育成施策としては、機能・職種別の教育体系が高群55.4%、低群40.0%となり、高群が高い結果でした。一方、1on1などの定期的な面談は低群68.9%が高群51.1%を上回りました。スペシャリスト型では、業務裁量が比較的高く、対話の量そのものよりも評価基準や専門内キャリアの見通しが明確であることがパフォーマンスに影響しやすい可能性があり、1on1を増やすこと自体よりも、評価基準の透明性や専門内での配置・教育体系の設計とセットで運用されているかどうかが重要であると考えられます。

図表5 【スペシャリスト型】人事施策の実施状況 <複数回答/n=137/%>

Q.あなたが所属している会社の人事施策について、導入・運用しているものをすべてお答えください。

まとめ

本分析では、等級・評価・報酬・異動・育成に関する各施策の方針の類型に着目して、パフォーマンス発揮ができているかどうかで群を分け、行っている人事施策の内容について実施率を見ました。自社の実際の人事施策の運用を再考する際、自社の人事施策方針に沿っているかどうかが重要であることが分かりました。

例えば成果主義を導入しても、報酬が年功的であれば効果は限定的です。また、スペシャリストの育成を重視しながら機能・職種間の頻繁な異動を続ければ、パフォーマンスの発揮にはつながらないでしょう。したがって、等級・評価・報酬・異動・育成という一連の施策方針を俯瞰し、実際に行っている人事施策と矛盾なく連動しているかを検証することが求められます。設定している方針と現状の施策運用にずれがないかを確認し、必要に応じて施策内容の再設計を検討することが、実効性の高い人材マネジメント改革につながるでしょう。

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