研究レポート

若手・中堅社員の離職に関する研究 ~「不満」と「キャリア発達の見通し」の2要因に着目して~(後編)

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~「不満」と「キャリア発達の見通し」の2要因に着目して~

企業にとって、優秀な従業員の確保とリテンションは重要な課題です。多くの企業は、仕事内容や待遇、人間関係などへの不満を解消することで、従業員を繋ぎ止めようと努力しています。ただ、従業員がどのような理由で離職していくのか、その原因を正確に把握することができなければ、離職の低減に向けて適切な施策を講じることはできません。
本研究では、若手・中堅就業者を対象に、非離職者と離職者のデータを用いて複数の切り口から分析することで、離職が生じる原因について確認します。そのうえで、「現状に対する不満」と「キャリア発達の見通しが持てないこと」の2要因によって離職意向が生じるというモデルを設定し、これが実際のデータに適合するかの検証を行います。これらの分析を通じて、従業員定着率向上のヒントを示します。

前編では、「非離職者」を離職意向が高い人と低い人とに区分して比較した結果や、「離職者」と「非離職者」を比較した結果を紹介しましたが、この後編では、離職意向がなぜ生まれるのかを説明する因果モデルを示したうえで、男女別、入社年次別の傾向の違いについて説明します。
前編はこちら

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
主任研究員

内藤 淳(ないとう じゅん)
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分析4 ~離職の要因の1つである「キャリア発達の見通し」に影響を与える要素は何か

「現状に対する不満」と「キャリア発達の見通しが持てないこと」が離職意向を高めるという因果関係を仮説的に表したモデルが図表6です。
非離職者のデータを用いて共分散構造分析を行った結果がある程度の適合を示していることから、この因果モデルには一定の妥当性があると見なすことができます。

<図表6>非離職者の離職意向を説明する因果モデル(共分散構造分析)

非離職者の離職意向を説明する因果モデル(共分散構造分析)

図表6のモデルからは、以下の3点が読み取れます。

○現状に対する「不満」と将来に向けた「キャリア発達の見通し」のそれぞれが、離職意向に対してほぼ同等の影響を与えている(パス係数はそれぞれ0.29と-0.31)

○組織のなかでより上を目指していきたいという思いである「垂直方向への志向」が「目指すキャリア像の設定」を促し、その結果として「キャリア発達の見通し」が高まるという繋がりがある(パス係数はそれぞれ0.29と0.44)

○「上司の内省支援の関わり」や「ロールモデルの存在」「一緒に働きたい社員の存在」が、直接的・間接的に若手・中堅社員の「キャリア発達の見通し」を高める影響を与えている

これまでの分析で見てきたように、「キャリア発達の見通し」を高めることは離職意向の低減に繋がると考えられますが、そのためには、上司の関わりやロールモデル・一緒に働きたい社員の存在が大きな役割を担っていること、また、そうした上司・同僚・先輩からの影響を通じて「この会社・組織で上を目指していきたい」という思いが形づくられることが「キャリア発達の見通し」を高めるうえで重要であることを、このモデルは示しています。

分析5 ~モデル中の関係は、「性別」と「入社年次」により傾向の差が見られる

図表6のモデルで見られた関係に、性別や入社年次による違いが見られるかを確認するために、データを「男性×1~3年目」「男性×4~8年目」「女性×1~3年目」「女性×4~8年目」の4群に分けて各群の特徴を分析しました。
多母集団同時分析という手法を用いて、4群の因果モデルにおけるパス係数を比較した結果が図表7です。

図表7の1行目と2行目に注目すると、「キャリア発達の見通し」と「不満」が「離職意向」に与える影響には、統計的に有意な差は見られません。このことは、この2つが「離職意向」を生じさせる大きな要因であるということには「性別」や「入社年次」による違いは見られず、一貫した傾向であることを示しています。
一方、3行目以下の「目指すキャリア像の設定」「垂直方向への志向(管理職指向、昇格指向)」「一緒に働きたい社員の存在」「ロールモデルの存在」「上司の内省支援の関わり」に関するパス係数の値には、有意な差(表中の水色とピンク色に網掛けされたセル)が多数見られます。このことは、これらの要素が「キャリア発達の見通し」に直接的・間接的に与える影響に、「性別」や「入社年次」による傾向の違いがあることを示しています。

<図表7>性別×入社年次別による多母集団同時分析

性別×入社年次別による多母集団同時分析

以下では、男性と女性それぞれの特徴を詳しく見ていきますが、最初に「男性」について入社年次別にどのような傾向の違いがあるかを見てみましょう。「若年(1~3年目)」と「中堅(4~8年目)」の2群に分けて、パス係数をそれぞれ上下段で示したのが図表8です。

<図表8>因果モデルで見た性別×入社年次別による多母集団同時分析(男性)

因果モデルで見た性別×入社年次別による多母集団同時分析(男性)

男性の場合、「1~3年目」では、「上司の内省支援の関わり→目指すキャリア像の設定」(0.76)、「ロールモデルの存在→垂直方向への志向」(0.41)、「一緒に働きたい社員の存在→キャリア発達の見通し」(0.37)のパス係数が高い一方、「垂直方向への志向→目指すキャリア像の設定」と「目指すキャリア像の設定→キャリア発達の見通し」は低い値となっています(共に0.08)。
これに対して、「4~8年目」では、「垂直方向への志向→目指すキャリア像の設定」と「目指すキャリア像の設定→キャリア発達の見通し」のパス係数の値が、「1~3年目」に比べて大きく高まっています(どちらも1~3年目:0.08→4~8年目:0.41)。

このことから男性の場合、「1~3年目」では、上司の関わりによって「将来の自分の働く姿」をイメージしたり、一緒に働きたいと思える同期や職場の同僚がいたりすることが、「この会社で成長できる」という実感を高めているということはあるものの、「垂直方向への志向→目指すキャリア像の設定→キャリア発達の見通し」という繋がりは見られません。これに対して「4~8年目」では、「この会社・組織のなかで上を目指したい」という思いである「垂直方向への志向」が「目指すキャリア像の設定」を経由して「キャリア発達の見通し」に影響を与えており、「垂直方向への志向」が年次を経ることで「この会社で成長できる」という実感(キャリア発達の見通し)を高める要因になっていくということが示唆される結果となっています。

次に「女性」について年次別2群のパス係数をそれぞれ上下段に示したのが図表9です。
男性の場合とは異なり、「1~3年目」と「4~8年目」のどちらも、「垂直方向への志向→目指すキャリア像の設定→キャリア発達の見通し」という繋がりが見られます。このことは、女性の場合、年次を問わず「この会社・組織のなかで上を目指したい」という思いである「垂直方向への志向」が、「この会社で成長できる」という実感(キャリア発達の見通し)を高めるうえで重要であることを示しています。

一方、「1~3年目」では値が低かった「ロールモデルの存在→垂直方向への志向」「ロールモデルの存在→目指すキャリア像の設定」「上司の内省支援の関わり→垂直方向への志向」のパス係数が、いずれも「4~8年目」では値が大きくなっています(それぞれ0.21→0.33、0.02→0.12、0.14→0.34)。このことは、「この会社で成長できる」という実感(キャリア発達の見通し)を高めるうえで、ロールモデルの存在や上司からの支援が、特に4年目以降に重要性が増すということを示しています。

<図表9>性別×入社年次別による多母集団同時分析(女性)

性別×入社年次別による多母集団同時分析(女性)

まとめ ~「この会社で成長できる」という見通しを持ち続けられるよう、入社年次や属性の違いを踏まえた支援・環境づくりが重要

共分散構造分析を用いたモデルの検証から、以下が示されました。

男女に共通するのは、以下の3点です。

○若手・中堅社員の離職意向を高める要因は、「不満」と、将来に向けて「キャリア発達の見通しが持てないこと」の2つ。これは男女や年次の違いによらず一貫している
○「垂直方向への志向→目指すキャリア像の設定→キャリア発達の見通し」という結びつきがある。そのため、「この会社・組織のなかで上を目指したい」という垂直方向への志向を高めることが、「この会社で成長できる」という実感(キャリア発達の見通し)に結びつく
○「キャリア発達の見通し」を高めるためには、上司の関わりやロールモデルの存在、一緒に働きたい社員の存在が重要である

また男女別の分析(多母集団同時分析)からは、以下のことが示されました。

○男性では、1~3年目では「この人たちと働きたい」と思える同僚や上司・先輩の存在が、4~8年目では「この会社・組織のなかで上を目指したい」と思えることが「キャリア発達の見通し」を高めることに繋がる
○女性では、1~8年目を通じ一貫して、「この会社・組織のなかで上を目指したい」と思えることが「キャリア発達の見通し」を高めることに繋がる。また、ロールモデルの存在や上司の関わりは、4年目以降により重要になる


近年、若手・中堅社員をめぐって、「優秀な社員が離職してしまう」「管理職になりたがらない社員が増えている」といった課題がしばしば指摘されています。本研究の結果から、これら2つの課題は別個の問題ではなく、相互に関連していることが示されました。
こうした課題を予防・低減していくための1つの重要な鍵は、「キャリア発達の見通し」、すなわち「この会社で成長できる」「今後、仕事の幅が広がっていく」という実感を高めることにあると考えられます。

そのためには、将来のキャリアを具体的にイメージするうえで大切な「ロールモデル」の存在、成長が停滞しないよう常に一段階上の目標を持ち続けられる環境、さらには仕事を通じて成長に繋がる経験が継続的に得られることが重要です。こうした環境を整えることは決して容易ではありませんが、会社や上司による継続的な支援は不可欠です。
また、効果的な施策を講じるためには、若手・中堅社員を一律に捉えるのではなく、性別や入社年次といった違いを踏まえたきめ細かな視点を持つことも重要になるでしょう。

本研究で得られた知見が、人事担当者やマネジャーの皆様にとって、若手・中堅社員の定着や育成を支援する施策を検討する際の一助となれば幸いです。

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