研究レポート

若手・中堅社員の離職に関する研究 ~「不満」と「キャリア発達の見通し」の2要因に着目して~(前編)

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~「不満」と「キャリア発達の見通し」の2要因に着目して~

企業にとって、優秀な従業員の確保とリテンションは重要な課題です。多くの企業は、仕事内容や待遇、人間関係などへの不満を解消することで、従業員をつなぎ止めようと努力しています。ただ、従業員がどのような理由で離職していくのか、その原因を正確に把握することができなければ、離職の低減に向けて適切な施策を講じることはできません。
本研究では、若手・中堅就業者を対象に、非離職者と離職者のデータを用いて複数の切り口から分析することで、離職が生じる原因について確認します。そのうえで、「現状に対する不満」と「キャリア発達の見通しが持てないこと」の2要因によって離職意向が生じるというモデルを設定し、これが実際のデータに適合するかの検証を行います。これらの分析を通じて、従業員定着率向上のヒントを示します。

まず前編では、研究のねらいや概要を説明したうえで、新卒で入社した会社を現在も離職していない「非離職者」を離職意向が高い人と低い人とに区分して比較した結果や、「離職者」と「非離職者」の比較などについてお伝えします。
また後編では、離職意向がなぜ生まれるのかを説明する因果モデルを示したうえで、男女別、入社年次別の傾向の違いについて説明します。
後編はこちら

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
主任研究員

内藤 淳(ないとう じゅん)
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研究のねらい ~「不満」「キャリア発達の見通し」と離職との関連性を検証

離職に関しては、これまで数多くの調査・研究が行われています。そのなかで大多数を占めるのが、業務内容や給与、人間関係などへの不満と離職との関係性を解き明かそうとするものであり、不満と離職との間には相関関係があることが明らかになっています。
一方で、企業の現場からは、「離職には前向きなものもある」という声をよく聞きます。不満というネガティブな理由だけでなく、より良いキャリアを求めるなど、将来を見据えた前向きな視点から離職する人もいるという見方が存在します。
過去の研究でも、「仕事のなかでの成長機会と昇進の可能性の多寡が、離職意思に影響する」「現在のキャリアに不満があっても、その会社で未来への見通しが立っていれば離職にはつながらない」「キャリアの見通しを持てないことが離職につながる」という研究結果が報告されています。

そこで本研究では、今の会社のなかで「この先成長していくことができる」「この先自分が求める内容とスピードで仕事の幅が広がっていく」と思える状態を「キャリア発達の見通し」と呼び、この「見通し」が持てないことと「不満」の2つの要因に着目して、若手・中堅就業者の離職との関係を検証していきます。そのうえで、「不満」と「キャリア発達の見通し」の2要因により離職意向を説明するモデルを設定し、これが実際のデータに適合するかの検証を行います。

調査概要 ~「非離職者」と「離職者」のデータを用いて、離職・離職意向との関係性を捉える

2024年8月にインターネットを利用し、下記2群を対象に調査を行いました。

○非離職者 大学・大学院を卒業し、新卒で入社した企業(従業員規模400人以上)に調査時点で勤めている1~8年目の就業者(過去3年間に転職活動を行っていない)……791人 *1

○離職者 大学・大学院を卒業し、新卒で入社した企業(従業員規模400人以上)を入社1~8年目の時期に自発的に離職し、現在は別の会社に所属している就業者(直近3年以内に転職し、転職回数は1回のみ)……317人 *2

質問項目は、「離職意向」*3(非離職者のみに質問)、「不満」*4、「キャリア発達の見通し」とその先行要因*5、「キャリア発達の促進要因」*6、「キャリア意識」*7、「能力・評価に関する自己認知」*8(以上、非離職者と離職者の双方に質問)、「離職理由」*9(離職者のみに質問)でした。なお離職者には、離職当時の状況を振り返ってもらい、離職前の会社、仕事、本人の状態を回想する形で回答を求めました。

この調査から得られたデータを用いて、以下5つの分析を行っています。

○分析1……「非離職者」のなかで離職意向が高い群と低い群を比較
○分析2……「非離職者」と「離職者」の傾向を比較
○分析3……離職理由に基づいて「離職者」を二分し、「非離職者」を加えて3群で比較
(ここまでを前編で解説)

○分析4……「不満」「キャリア発達の見通し」の2要因により「非離職者」の離職意向を説明するモデルを構築し、データへの適合を検証
○分析5……「性別」と「入社年次」によって、上のモデル中の傾向に違いが見られるかを分析
(上記は後編で解説)

それでは、各分析結果について具体的に見ていきましょう。

分析1 ~離職意向の高い人は「不満」が高く、「キャリア発達の見通し」が低い

「非離職者」のなかで、5件法で質問した離職意向が3以下の群を「離職意向_低」、4以上の群を「離職意向_高」と区分し、「不満」や「キャリア発達の見通し」などの平均値を両群で比較したのが図表1です。
「離職意向_高」のスコアを見ると、「不満」については、「離職意向_低」に比べて高くなっています。一方、「この会社・組織で成長していくことができる」という実感である「キャリア発達の見通し」、上司の支援やロールモデルの存在などの「キャリア発達の促進要因」、「キャリア意識」、「能力・評価」については、いずれも「離職意向_低」に比べて低くなっています。
このことから、離職意向の高い人は「不満」が高く、「キャリア発達の見通し」が持ちにくいこと、また、「キャリア意識」が低く「職務遂行能力」「組織や上司・同僚からの評価」に対する自信が低い傾向があることがわかります。

<図表1>非離職者の離職意向 高群と低群の比較

非離職者の離職意向 高群と低群の比較

分析2 ~「離職者」も同様に「不満」が高く、「キャリア発達の見通し」が低い

「不満」や「キャリア発達の見通し」などの質問に対し、「非離職者」と「離職者」の平均値を比較したのが図表2です。

「不満」については、「離職者」のスコアが「非離職者」に比べて高くなっています。また、「キャリア発達の見通し」と「キャリア発達の促進要因」については、「離職者」が「非離職者」に比べてスコアが低くなっています。この傾向は、図表1の「離職意向_高」と「離職意向_低」の関係と同様です。

ところが「キャリア意識」「能力・評価」については、「離職者」の方が「非離職者」に比べてスコアが高い傾向が見られます。これは図表1とは逆の関係であり、このことは「離職したい」という気持ちを抱くだけでなく、実際に離職という行動に踏み出す人は、「キャリア意識」が高く、自身の「能力・評価」に対して自信を持っている傾向があることを示しています。

<図表2>非離職者と離職者の比較

非離職者と離職者の比較

分析3 ~中堅社員(4~8年目)では、キャリア意識が高く、優秀な層が辞めている傾向あり

分析2では、「離職者」と「非離職者」の比較を行いましたが、ここではさらに「離職者」を離職理由に基づき2タイプに分類して傾向の違いを見ていきます。

A. 不満解消重視型
……以前の会社・仕事に対して耐えられない不満要因があり、その状態を解消・改善したかった
B. キャリア発達重視型
……以前の会社・仕事に対して耐えられないような不満はなかったが、今後のキャリアを考えてより良い機会・環境を獲得したかった

入社して1~8年目までの間に、新卒で入社した企業を辞めた317名に対して、「離職理由」が上のAとBのどちらに近かったかを尋ねたところ、「A. 不満解消重視型」が166名、「B. キャリア発達重視型」が151名となりました。図表3は、詳細な離職理由について、A、Bそれぞれの選択率を比較したものです。

「A. 不満解消重視型」の離職者では、人間関係や仕事のやりがい、条件面(労働時間)などへの不満を解消するために離職した人が目立ちます。一方、「B. キャリア発達重視型」の離職者は、「仕事の幅を広げること、成長の機会や専門性の発揮を望むなど、将来のより良いキャリアを目指して離職した人が多いことがわかります。

<図表3>離職理由の詳細(A、B両群の比較)

離職理由の詳細(A、B両群の比較)

また、離職者を入社「1~3年目」の群と「4~8年目」の群に分け、それぞれの「A. 不満解消重視型」と「B. キャリア発達重視型」の比率を算出したのが図表4です。

<図表4>入社年次とA、B両群の出現率

入社年次とA、B両群の出現率

これを見ると、入社「1~3年目」に離職した離職者では、「A. 不満解消重視型」が68%と「B. キャリア発達重視型」に比べてかなり多くなっています。ところが、「4~8年目」では比率が逆転しており、「B. キャリア発達重視型」が58%と「A. 不満解消重視型」よりも多くなっています。

図表5は、前述の図表2における「離職者」を「A. 不満解消重視型」と「B. キャリア発達重視型」に区分し、「非離職者」と合わせて3群で比較したものです。

<図表5>非離職者と離職者(離職理由別)の比較

非離職者と離職者(離職理由別)の比較

「A. 不満解消重視型」の離職者は「不満」が非常に高く、「キャリア発達の見通し」もはっきりと低くなっています。これに対して「B. キャリア発達重視型」の離職者では、「不満」は「A. 不満解消重視型」の離職者ほどは高くはありませんし、「キャリア発達の見通し」もそれほど低くない状況です。一方で「B. キャリア発達重視型」の離職者は、「キャリア意識」や「能力・評価」については、「非離職者」よりも全体的に高くなっています。

このことから、4年目以降に多くなる「B. キャリア発達重視型」の離職者では、社内におけるキャリア意識の高い優秀層が、「今の会社にこのまま所属し続けていれば一定のキャリアは見込める」という認識を持ちつつも、より高いレベルへと成長できる機会を社外に求めて離職していると解釈することができます。

<図表6>まとめ

まとめ

続く後編では、離職意向がなぜ生じるのかを説明する因果モデルについてご紹介します。
後編に続く

(脚注)

(脚注)

*1 内訳は、○性別 男性…318人、女性…473人 ○現在の年齢 21~25歳…302人、26~29歳…351人、30~34歳…124人、35~39歳…14人 ○勤続歴 1~3年目…325人、4~8年目…466人 ○現在の職種 営業…180人、エンジニア(技術、開発、研究職)…185人、エンジニア(IT・システム関連)…106人、スタッフ(企画、人事、総務、経理など)…140人、コンサルタント・専門職…56人、その他事務職…124人
*2 内訳は、○性別 男性…117人、女性…200人 ○現在の年齢 21~25歳…49人、26~29歳…150人、30~34歳…104人、35~39歳…14人 ○離職時の勤続歴 1~3年目…127人、4~8年目…190人 ○離職時の職種 営業…63人、エンジニア(技術、開発、研究職)…47人、エンジニア(IT・システム関連)…46人、スタッフ(企画、人事、総務、経理など)…67人、コンサルタント・専門職…25人、その他事務職…69人
*3 「現在の会社を働く場所の一つとしたときに、今後働く場所や転職について今のあなたの感覚に一番近いものを選んでください」という質問を用いて5件法で測定
*4 「不満」の程度を、「会社(2要素)」「仕事(2要素)」「対人(2要素)」「評価(2要素)」「条件面(5要素)」の5分野13要素について5件法で測定
*5 「キャリア発達の見通し」は、「社内で仕事経験を積むことでこの先自分が成長していける見通し」と「社内で担当する仕事の幅がこの先自分の希望するスピードと内容で広がっていく見通し」の2項目で、「目指すキャリア像の設定」は「社内における今後のキャリアについて思い描くことができている程度」を2項目で測定。また、キャリア発達の見通しの先行要因については、「社内で管理職を目指したいと思う程度」と「昇格したいと思う程度」について5件法で測定
*6 「上司の内省支援の関わり」は、「担当業務の中で新たな挑戦の場を提供してくれたり、自分では気づかなかった成長の機会に目を向けさせたりしてくれるか」など5つの質問について5件法で測定。また、「社内に将来この人のようになりたいと思えるキャリア上の目標となる社員がいるか(ロールモデルの存在)」と「『一緒に働くことに魅力を感じる社員』がどのくらい多くいるか(一緒に働きたい社員の存在)」を5件法で測定
*7 「主体的キャリア形成意欲」については、堀内と岡田(2016)が作成した尺度の項目を一部改変した3つの質問を用いて5件法で測定。「市場価値に対する関心」については「自分が保有する仕事上の経験や知識・スキル・能力が世の中一般でみた際に持つ価値に対する関心の程度」を、「仕事の幅を広げたい欲求」については「将来のキャリアに向けて、担当する仕事の幅や領域を広げたいという気持ちの強さ」を5件法で測定
*8 「職務遂行能力」「組織からの評価」「上司・同僚からの承認」に関する自己認知を5件法で測定
*9 新卒で入社した会社を離職した理由がAとBのどちらに近いかを4件法で測定。「A:以前の会社・仕事に対して耐えられない不満要因があり、その状態を解消・改善したかった」/「B:以前の会社・仕事に対して耐えられないような不満はなかったが、今後のキャリアを考えてより良い機会・環境を獲得したかった」

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