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研究レポート
-アトラクト(応募者の惹きつけ)における面接官の重要性-
個人面接は応募者の志望度に大きく影響しますが、日本の新卒採用において面接官のどのような振る舞いが影響するのかを実証した研究は多くありません。本研究では、志望度に影響を与えると考えられる要因を網羅的に捉え、実際にどの程度影響するかを検証しました。
技術開発統括部 研究本部 測定技術研究所 主任研究員
目次
日本企業において、新卒採用は現在でも人材の量・質を確保するうえで重要な手段となっており(安田, 2023)、新卒採用における人材の充足の可否は企業経営に直結する課題だといえます。一方で、新卒採用をめぐる環境は厳しさを増しています。例えば、2025年卒の新卒採用においては約6割の企業が採用数の目標を達成できていません(就職みらい研究所, 2025)。新卒採用の難化の背景には構造的な人口および労働力人口の減少があり、採用母集団の確保はますます困難になることが予想されています(就職みらい研究所, 2025)。応募者を自社に惹きつけ、志望度を高めることを「アトラクト」といいますが、採用母集団の拡大が難しくなるなかで人材を確保するためには、応募者をいかに自社にアトラクトするかがますます重要になると考えられます。
本研究では面接を取り上げます。面接はほぼすべての企業で導入されているうえに、2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査(リクルートマネジメントソリューションズ, 2024)においても志望度向上にもっとも影響が大きかった場面として挙げられており、多くの企業に共通して大事なプロセスであると考えられるためです。なお、本研究および本稿で取り上げる引用は、基本的に「個人面接(応募者が1人で受ける面接)」について述べています。
個人面接のなかで、アトラクトに関連するとされている要因を、本研究では「面接官の特徴」「面接官からの評価」「面接官の反応」「情報提供」にまとめました。
採用面接場面において、アトラクトにもっとも影響が大きいのは組織との適合性の認識(Uggerslev et al., 2012)といわれています。応募者が一番気になるのは企業の組織が自分に合うかどうか、ということです。しかし、組織の雰囲気は実際に組織のなかに入ってみないと分かりません。応募者は組織の雰囲気をどのように感じているのでしょうか?実は応募者は面接官やリクルーターなど、採用で接点のある社員の言動を組織のシグナルとして受け取るといわれています(Rynes et al., 1991)。応募者にとっては、面接官は組織を代表する存在そのものだといってもよいでしょう。面接官についての具体的な先行研究としては、応募者はあたたかな態度を示した面接官と接したときに良好な態度を取る(Taylor et al., 1987)、リクルーターが親しみやすいときに組織に魅力を感じる(Goltz et al., 1995)、応募者に興味を示した面接官の組織に対して魅力を感じる(Turban & Dougherty, 1992)などといったことが指摘されています。
先行研究では、面接官から高く評価されると入社後への期待が高まるとされています。具体的には、採用選考時に面接担当者から自分の適性がよく精査されたと感じている内定者ほど入社後の人間関係への期待が高まる(林, 2009)、採用面接において高い評価が得られたと自己評価した応募者は入社後の組織への期待が高くなる(林, 2015)といった知見が得られています。
面接は、企業と応募者が双方向のコミュニケーションを取ることができる機会です。応募者の発言を踏まえた良質なコミュニケーションは、志望度に影響する可能性があります。実際に岩本(2024)は、面接内での承認を伴うコミュニケーションが辞退の抑制につながることを示しています。
面接は、応募者が企業についての情報を直接受け取ることができる機会でもあります。面接官自身の言葉による仕事の情報は、その企業での仕事に対するモチベーションを高め、応募者の志望度を向上させる可能性があります。例えば林(2009)は、面接官から面接のなかで仕事の話があった内定者ほど入社後の仕事への期待が高まることを指摘しています。
このように、面接内で生じるさまざまな要素が志望度に影響すると考えられます。では、日本の新卒採用場面ではどの要素がどのくらい寄与するのでしょうか?
本研究では、インターネットを用いた調査を2025年2月に行いました。対象は2025年卒の大学生・大学院生で、就職活動を終えて内定をもっている方々です。対象者は334名であり、男性が111名、女性が223名、平均年齢は22.4歳です。はっきりと記憶に残っている面接について回答してもらうため、本調査では就職活動中にもっとも印象に残った面接を想起してもらい、その面接に限定して回答してもらうという形式を取りました。結果指標としては「面接後の志望度の変化」、志望度に影響を与えると考えられる面接内の事象として前述の「面接官の特徴」「面接官からの評価」「面接官の反応」「情報提供」を聞いています。また、志望度に影響を与える可能性があるものとして、調査回答者の性別および面接が対面/オンラインのいずれであったかをコントロール変数として聞いています(図表1)。
まず、結果指標と面接内の事象それぞれとの相関係数*1を確認しました(図表2)。
これを見ると、「面接官の特徴」「面接官からの評価」「面接官の反応」「情報提供」は「志望度の変化」に対していずれも統計的に有意な値が出ています。これらの結果を見ると、面接内の事象はすべて志望度に影響を与えているように見えます。
次に、結果指標と面接内の事象、コントロール変数を用いて重回帰分析を行いました(図表3)。重回帰係数は、それぞれの要素が結果指標に対してどのくらい独自の影響を与えているかを示したものです。要素が独自の影響力をもっておらず、他の要素と共通するものばかりだった場合は値が小さくなります。
この結果を見ると、「情報提供」が統計的に有意な値を示していません。「面接官の特徴」「面接官からの評価」「面接官の反応」はいずれも有意であり、特に「面接官の特徴」が志望度の変化に強く影響を及ぼしていることが分かります。情報提供においては、実は面接場面で入社後の仕事の話をされても応募者は魅力を感じないとする研究もあります(Turban & Dougherty, 1992)。仕事を一方的に売り込まれているように感じると応募者は企業に対し懐疑的な見方をするためだと考えられています。つまり面接場面においては、情報提供には価値があったとしても、それは「面接官の反応」のように応募者の発言を踏まえたものである必要があり、一方的な売り込みと感じられるものであってはアトラクトする効果が薄いと考えられます。
本調査により、日本の新卒採用においても面接官の特徴、面接官からの評価、面接官の反応が応募者の志望度を高めることにつながるということが示されました。特に面接官の特徴の影響は大きく、面接官が応募者に対しあたたかく、しっかりと話を聞く姿勢で臨むことはアトラクトのためにも意識すべきポイントであるといえます。また本研究では、上記の結果以外に「面接官の反応」が薄い場合、内定には至っていないものの順調に選考が進んでいる会社が他にある応募者については、特に志望度に悪影響を及ぼすことも分かりました。就職活動が重なり、多くの企業を見比べながら選考に参加している応募者に対しては、リアクションの薄さが手痛い失点になる可能性もあるということです。
あたたかい雰囲気で、しっかりと話を聞き、相手に合わせたコミュニケーションをというと、心がけ次第で誰でもできることのように思えます。しかし本当にそうでしょうか? 自分が知らない話・興味のない話でもしっかり聞き、質問をし、肯定的なコメントを返すには技術が必要です。応募者を選抜する際も評価をぶらさないためにはトレーニングが必要ですが、今後はアトラクトについてのトレーニングも必要になっていくでしょう。
本調査で回答してもらった印象に残った面接について、印象が「悪かった」「とても悪かった」と答えた方が全体の22%を占めました。内定を取得し、就職活動を終えても、もっとも印象に残った面接は悪い印象だった、と答える人がこれだけいるということは無視できない結果です。近年採用CX(候補者体験)の考えが普及しつつありますが、印象の悪い面接は応募者だけでなく企業のためにもなりません。選抜だけを考えるのではなく、ぜひ応募者をアトラクトする面接になるよう取り組んでいただきたいと思います。
*1 相関係数は-1から1までの値を取り、絶対値が大きいほど関係が強く、0に近いほど関係が弱いことを示す指標です。正の値は一方が大きいほどもう一方も大きくなり、負の値は一方が大きくなるほどもう一方が小さくなる関係にあることを示しています。
Bauer, T. N., Maertz Jr., C. P., Dolen, M. R., & Campion, M. A. (1998). Longitudinal assessment of applicant reactions to employment testing and test outcome feedback. Journal of Applied Psychology, 83(6), 892-903.Chapman, D. S., Uggerslev, K. L., Carroll, S. A., Piasentin, K. A., & Jones, D. A. (2005). Applicant Attraction to Organizations and Job Choice: A Meta-Analytic Review of the Correlates of Recruiting Outcomes. Journal of Applied Psychology, 90(5), 928–944.Chapman, D. S., & Mayers, D. (2015). Recruitment processes and organizational attraction. In Nikolaou, I., & Oostrom, J. K. (Eds.), Employee recruitment, selection, and assessment: Contemporary issues for theory and practice (pp. 27–42). Routledge/Taylor & Francis Group.Goltz, S. M., & Giannantonio, C. M. (1995). Recruiter friendliness and attraction to the job: The mediating role of inferences about the organization. Journal of Vocational Behavior, 46(1), 109-118.林祐司. (2009). 新卒採用プロセスが内定者意識形成に与える影響 製造業大手A社のデータを用いて 経営行動科学2009 年 22 巻 2 号 p. 131-141林祐司. (2015). 新規大卒採用活動における構造化面接のもとでの面接者の評価と応募者の自己評価. 日本労務学会誌, 2015 年 16 巻 1 号 p. 74-91岩本慧悟. (2024). 新卒採用における選考辞退を抑止する面接官コミュニケーションの探索-生成系AIを用いた面接録画データの面接官発言の分類を用いた解析- 人材育成学会第22回年次大会論文集 196-199Rynes, S. L., Bretz Jr., R. D., & Gerhart, B. (1991). The importance of recruitment in job choice: A different way of looking. Personnel Psychology, 44(3), 487-521.Taylor, M. S., & Bergmann, T. J. (1987). Organizational recruitment activities and applicants' reactions at different stages of the recruitment process. Personnel Psychology, 40(2), 261-285.就職みらい研究所.(2025). 『就職白書2025』 Turban, D. B., & Dougherty, T. W. (1992). Influences of campus recruiting on applicant attraction to firms. Academy of Management Journal, 35(4), 739-765.Uggerslev, K. L., Fassina, N. E., & Kraichy, D. (2012). Recruiting through the stages: A meta‐analytic test of predictors of applicant attraction at different stages of the recruiting process. Personnel Psychology, 65(3), 597-660.安田宏樹. (2023). 日本企業の新規学卒者の位置づけに変化はあるか 日本労働研究雑誌No.756 P.50-61
研究レポート 2025/11/10
従業員の年代・職位に着目することの重要性
従業員のキャリア自律は、企業にとって有益なのか?
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研究レポート 2025/10/20
2040年働き方イメージ調査からの考察 vol.3
働く人々のキャリア自律に向けて
エンゲージメント キャリア自律
—日本的雇用慣行の変化の一側面—
転職のネガティブなイメージはなぜ生まれ、薄れたのか(前編)
働くの歴史 就職活動