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研究レポート
2040年働き方イメージ調査からの考察 vol.3
キャリア自律という言葉は近年、広く知られるようになりました。かつての日本では、終身雇用や年功序列のもとで、会社に身を委ねながらキャリアを積み上げていくことが一般的でした。2025年の今、あらゆる働き方が広がっています。加えて、AIをはじめとするテクノロジーの進歩により、求められるスキルや役割も絶えず更新されています。このような時代において、個人は、自分のキャリアに責任を持ち、自らのキャリアを自身で切り開いていく必要があります。自分自身で学び直しや選び直しを重ね、キャリアを組み立てる力が欠かせないのではないでしょうか。今回の調査では、多くの人が「キャリアは自分の責任だ」と考えている一方で、将来像を明確に描けていない現実が浮かび上がりました。本稿では、2040年を見据えて実施した「2040年働き方イメージ調査」の結果を手がかりに、キャリア自律の現状と今後の可能性について考えていきます。
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 研究員
はじめに、「キャリア自律」の程度を、キャリア自律尺度(堀内・岡田, 2016)の項目の一部を用いて確認しました(「あてはまる」~「あてはまらない」の5件法。図表1)。いずれの項目においても、「どちらかといえばあてはまる」や「どちらともいえない」の割合が高く、概して中間からやや肯定的な傾向が確認されました。まず「自分の能力を発揮できる仕事上の得意分野が見つかっている」「自分はどんな仕事をやりたいのか明らかである」といった項目からなる「職業的自己イメージの明確さ」では、「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計はそれぞれ38.5%、37.9%でした。キャリアの方向性をある程度意識している人が多い一方で、あてはまらないと回答している層も約2割存在し、自己イメージを確立できていない人も一定数いることがうかがえます。次に「キャリア設計は、自分にとって重要な課題である」「これからのキャリアを、より充実したものにしたいと強く思う」といった項目からなる「主体的キャリア形成意欲」については、「あてはまる」や「どちらかといえばあてはまる」が多く、一定の意欲を持つ人が多いことがわかりました。最後に「キャリア形成は、自分自身の責任である」「納得いくキャリアを歩めるかどうかは、自分の責任だと思う」といった項目からなる「キャリアの自己責任自覚」では、半数程度が肯定的に回答しており、多くの人が自身のキャリアに対して責任感をもっている様子がうかがえます。以上を踏まえると、「キャリアの責任は自分にある」という認識は広く共有されつつある一方で、キャリアの方向性を明確に描く段階には至っていないことが分かります。つまり、キャリア自律の意識は育ちつつあるものの、キャリア形成のうえで、自らの得意分野を見つけること、やりたい仕事を見つけることについてはまだ課題が残されているといえるでしょう。
続いて、「ビジネスパーソンとして、5年後どのように活躍しているか、具体的なイメージがありますか」と尋ねたところ、「ある」の選択率が22.6%であるのに対し、「ない」の選択率は77.4%と、大多数が将来像を明確に描けていないことが明らかになりました。次に「ビジネスパーソンとしての自分のこれからのキャリアのために、何か行動や学習を行っていますか。(例:転職活動を開始する、留学を予定している、社内外の研修に参加する、ロールモデルとする先輩に相談をする、など)」の項目をみると、「現在行っている」の選択率が17.2%であり、「近々行う予定がある」の選択率は12.9%で、約3割が実際に行動しているか、少なくとも計画をもっていることが分かります。一方で「やりたい気持ちはある」の選択率は34.8%であり「今後も行う予定はない」の選択率35.1%を合わせると7割近くにのぼります。行動に移せていない・移したいと思っていない層もかなりの割合で存在します。このように、キャリア形成行動には二極化の傾向がみられました。この結果は、多くの人がキャリア形成に前向きな気持ちをもっている一方で、将来像を明確に描けている人は2割強にとどまっていることを示しています。これは前段の結果とも対応していますが、「キャリアの自己責任自覚」は比較的高く、多くの人が「キャリアは自分の責任だ」と認識している一方で、「職業的自己イメージの明確さ(自分が今後活躍するイメージの明確さ)」や「主体的キャリア形成意欲(自分でキャリアを切り拓く意欲)」は相対的に低い水準にとどまっていました。すなわち、自身のキャリアに責任を感じているものの、明確なキャリアビジョンに基づいて動いているわけではない層が多数であると考えられます。
キャリア自律に関する6項目(図表1の各項目)の平均値を算出し(平均3.33、標準偏差0.72、α=0.831)、そのスコア(「あてはまる」を5~「あてはまらない」を1とした)が4以上の場合を「キャリア自律スコア高得点群」、4未満を「キャリア自律スコア低得点群」として群分けを行いました。まず先述の「ビジネスパーソンとして、5年後どのように活躍しているか、具体的なイメージがありますか」という質問への回答とキャリア自律スコアとの関係をみると、キャリア自律スコアが高得点でない層では「イメージがある」の選択率は14.9%にとどまり、85.1%の回答者が将来像を描けていませんでした。これに対し、キャリア自律スコアが高得点の群では「イメージがある」の選択率が51.7%と過半数に達していました。次に、キャリアのための行動や学習については、スコア低群では「現在行っている」の選択率が12.7%、「予定がある」の選択率が11.4%であり、「今後も予定はない」の選択率40.7%が最も多いという消極的な傾向がみられました。一方、スコア高群では「現在行っている」の選択率が34.1%で最も多く、さらに「予定がある」の選択率18.4%、「やりたい気持ちはある」の選択率33.3%を合わせると、8割以上が行動的で前向きな姿勢を示していました。キャリア自律意識の高さは、具体的な行動や学習の実行と関係しているといえます。
ここまでの結果で、キャリア自律スコアの高低によって将来の活躍イメージの有無や行動に差があることが分かりました。そこで、その違いを生み出している要因は何かを検証するために、キャリアのための行動・学習への影響要因を探るロジスティック回帰分析を行いました。その結果、現在のキャリア行動・学習の有無に関わる要因として関係していたのは「職業的自己イメージの明確さ」「主体的キャリア形成意欲」で、どちらもプラスの効果がありました。一方で「キャリアの自己責任自覚」は有意な関係を示しませんでした。つまり「責任は自分にある」と考えるだけでは行動につながらず、「将来像を具体的に描けているか」「キャリアをもっと充実させたいという意欲があるか」が、実際に行動するか否かを分ける要因になっているといえます。さらに、キャリアのための行動・学習を近々行う予定がある人を対象に加えても、結果は同様でした。「職業的自己イメージの明確さ」と「主体的キャリア形成意欲」がこちらでも強いプラスの効果を示し、特に後者は行動を促す重要な要因となっていました。「キャリアの自己責任自覚」は依然として有意ではありませんでした。ここまでの分析から、キャリアのための行動・学習に関連するのは「自己責任の自覚」ではなく、「自己イメージの明確さ」と「主体的キャリア意欲」であることが分かりました。すなわち、責任感を持つだけでは十分でなく、キャリアの方向性を具体的に描けていることや、それを実現しようとする意欲を持つことができているかが、行動への移行に不可欠であるといえます。
組織コミットメントに関する9項目(Meyer et al., 1993)の平均値を算出し(「あてはまる」を5~「あてはまらない」を1とした)、それをキャリア自律スコアの高低別に比較しました。t検定を行ったところ、キャリア自律スコアが高得点の群(平均=3.50、SD=0.88、 n=408)は、低得点の群(平均=2.89、SD=0.72、n=1533)に比べて、組織コミットメントが有意に高い水準にありました(p < 0.001)。得点のばらつきは高得点群でやや大きく、個人差が広がる傾向がみられる一方で、平均値の差は大きく、キャリア自律の高低が組織コミットメントに強く関連していることが確認されました。キャリア自律意識が高い人材ほど組織に対する誇りや一体感を持ちやすく、ここで働き続けたいという意識を抱くことが示唆されました。これは、キャリア自律が「組織を離れるための準備」ではなく、むしろ「自らのキャリア形成を主体的に考えながらも、そのプロセスを組織への貢献と結びつけている」ことを意味していると解釈できます。ただし、この関係は一方向にとどまらず、キャリア自律を発揮できる環境があるからこそ組織へのコミットメントが高まる、という関係も考えられます。逆に、自律が困難な環境では組織コミットメントが下がる可能性もあり、組織側の環境整備も重要であるといえるでしょう。特に、キャリア自律意識が高い層においては、「キャリアを自分で切り拓く姿勢」が「組織と共に成果を創出する姿勢」へと転化している可能性が高いといえます。その一方で、得点のばらつきがやや大きい点は、同じく自律的であっても「組織との結びつきを強める方向」と「個人志向を強める方向」に分かれる多様性を示しています。
キャリア自律意識が高い人材がどのような特徴を持っているのかを明らかにするために、キャリア自律スコア高得点群と低得点群を比較し、ジョブクラフティング(「仕事のなかに自分なりの意義を見出すために、仕事のやり方や内容に工夫を加えることがよくある」「仕事上で関わる人々のことをよく知ろうとする」)、逆境耐性(「はじめはうまくいかない仕事でも、できるまでやり続ける」「失敗すると、一生懸命やろうと思う」)、社会的スキル(「私は自分から友達を作るのがうまい」「職場の気が合う人たちと仕事をする機会を探している」)の3側面(それぞれ、「あてはまる」~「あてはまらない」の5件法で聴取)に着目して分析を行いました。まずジョブクラフティングでは、「仕事のなかに自分なりの意義を見出すために、仕事のやり方や内容に工夫を加えることがよくある」において高得点群の肯定的回答(「あてはまる」「ややあてはまる」の合計)が87.3%だったのに対し、低得点群は32.7%にとどまりました。「仕事上で関わる人々のことをよく知ろうとする」でも高得点群79.1%、低得点群28.1%と大きな差がみられました。逆境耐性については、「はじめはうまくいかない仕事でも、できるまでやり続ける」で高得点群は87.2%(低得点群42.1%)、「失敗すると、一生懸命やろうと思う」では同80.6%(同37.2%)となり、困難を成長機会に変える姿勢が際立っていました。社会的スキルでは、「私は自分から友達を作るのがうまい」で高得点群49.5%(低得点群15.8%)、「職場の気が合う人たちと仕事をする機会を探している」では同74.3%(同23.7%)となり、ネットワーク形成や協働の機会を積極的に求めていることが分かりました。
以下のことは、あなたにどの程度あてはまりますか。
一方で、今回の結果を「キャリア自律は当然なされるべきもの」と単純に捉えると、やや偏った見方になってしまうのではないでしょうか。弊社が2021年に行った「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」では、自分自身のキャリアを主体的に形成したいと考える人が多い一方で、「そう求められることにストレスや息苦しさを感じる」人も6割以上にのぼっています。また、「多くの人にとってキャリア自律は難しい」と考える人も7割を超えており、必ずしも誰もが前向きに実現できる状況にあるわけではありません。こうした結果は、キャリア自律が「やる気さえあれば実現できる」という単純なものではなく、置かれた環境やライフイベント、制度のあり方によって大きく揺れ動くことを示しています。加えて、「キャリアは自分の責任だ」という意識だけが先行すると、むしろ焦りやプレッシャーにつながりかねないという現実も浮かび上がります。だからこそ、責任感を促すだけでなく、将来像を具体的に描くための支援や、安心して試行錯誤できる環境づくりが不可欠だといえるでしょう。本稿で示したデータも、多くの人がこうした葛藤を抱えながら模索している実態の側面として理解する必要があるのではないでしょうか。
本稿では、「2040年働き方イメージ調査」の結果をもとに、働く人々のキャリア自律の現状と特徴を分析しました。分析の結果、多くの人が「キャリアは自分の責任だ」と考えている一方で、将来像を明確に描けている人は限られており、行動につながる力が十分に育ちきっていない現実が浮かび上がりました。つまり、責任の自覚は広がっているものの、それをどう形にするかという段階では課題が残っているのです。一方で、将来像をある程度具体的に描き、「自分のキャリアをもっと充実させたい」と考える人ほど、学習や行動に積極的であることも明らかになりました。キャリア自律を実質的に高めるには、責任感だけでなく、未来を思い描き、そこに向けて一歩を踏み出す力が欠かせないといえます。さらに、キャリア自律意識の高い人材は、組織への誇りや一体感を持ちやすく、日常の仕事のなかでも工夫や挑戦、人とのつながりといった形でその姿勢を発揮していました。これはキャリア自律が個人の成長にとどまらず、組織の力にも直結することを示しています。2040年に向け、働き方がますます多様化する時代において、キャリア自律は「個人がどう生きるか」を支える基盤となるでしょう。組織はその自律を後押しするパートナーとして、未来を描く力を引き出し、小さな挑戦を後押しする環境を整えていくことが求められます。キャリアに対して自ら責任を認識するだけにとどまらず、未来を描き、行動に移す力をどう育むかを考えることが、これからの働き方を見出すうえでの出発点になるはずです。
Meyer, J. P., Allen, N. J., & Smith, C. A. (1993). Commitment to organizations and occupations: Extension and test of a three-component conceptualization. Journal of Applied Psychology, 78(4), 538-551.堀内泰利・岡田昌毅(2016). キャリア自律を促進する要因の実証的研究. 産業・組織心理学研究, 29(2), 73-86.
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