研究レポート

―適性検査にまつわる疑問―

受検者から見て、オンラインでの試験監視とテストセンターでの監視は違うのか?

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―適性検査にまつわる疑問―

日本の採用場面で使用される適性検査では、受検者が指定の会場で受検するテストセンター形式と、オンラインで受検するWEB受検形式がありますが、WEB受検形式ではオンライン監視の導入が普及しつつあります。

オンライン監視とは、受検者が自宅などでWEBテストを受ける際に、不正行為を防ぐ目的でカメラやマイクなどを通じて受検の様子をリアルタイムまたは録画で確認する仕組みを指します。このオンライン監視はコロナ禍をきっかけに普及が進んだこともあり、その実態について分かっていないこともあります。そこで本稿では、受検者視点での課題点について、オンライン監視とテストセンターでの監視とを比較しながら検討します。

※本研究の詳細は、“甲斐(2024)・新卒採用選考における受検環境と主観的実力発揮感の関係:オンライン監視型Webテストの観点から・日本テスト学会 第22回大会発表論文”を参照してください。

【日本の適性検査におけるオンライン監視普及の背景】

日本の採用活動において、適性検査は広く活用されており、その利用割合は2024年卒時点で86.9%にのぼります(就職みらい研究所, 2025)。この適性検査の受検形式として、かつては紙の冊子を受検者に配布し、企業が用意した受検会場で受検する方式、いわゆるPBT(Paper-Based Testing)が主流でした。しかし2000年前後からは、パソコン上で受検できるCBT(Computer-Based Testing)が登場しました。植野(2009)によると、CBTの利点には、柔軟な受検環境の構築(障がいをもつ受検者や遠隔地の受検者への対応)が可能であること、テストの管理・配布・採点が容易であることなどがあり、現在はPBTに替わってCBTが主流の形式となっています。

さらにこのCBTを、監視者付きで実施する方法として、2000年代にはテストセンター形式が登場しました。これは、テスト事業者が専用の会場を用意し、受検者がその会場に設置されたパソコンを使って受検する形式です。監視体制が整っていることから不正行為を防止できる点が評価され、公平性の高い受検環境を備えた適性検査の受検形式として定着しました。

一方で、テストセンター形式には、受検者が会場に足を運ばなければいけないという制約があります。さらに、コロナ禍による外出自粛の影響もあり、2020年ごろから自宅で受検できるCBTへのニーズが急速に高まりました。こうした背景のなかで登場したのが、オンライン監視形式です。なお、このような普及を後押しした要因としては、自宅におけるインターネット環境の整備が進んだことや、カメラ付きパソコンが一般的になったことも挙げられます。これらの技術的条件の整備も相まって、オンライン監視形式が新たな選択肢として受け入れられるようになったといえるでしょう。

【オンライン監視形式における懸念】

オンライン監視形式は時代の変化と共に利用が進み、現在では多くの受検者がこの形式での受検を経験するようになっています。自宅で受検できる利便性の高さは評価される一方で、受検者自身が自宅などに適切な受検環境を整えなければならないことに対する負担感や、パソコンのカメラを通じて監視されることの精神的な負荷を指摘する声も聞かれるようになりました。特に後者に関しては、就職活動という人生の重要な局面において「失敗したくない」という思いから、不正行為をしていないにもかかわらず、誤って疑われることへの不安が生じるという意見もあります。その結果、不正していないことを過剰に示すような行動 (例えば、視線をあまり動かさないようにするなど)が見られたり、過度な緊張感をともなって受検したりするケースがあることが、受検者から指摘されています。このようなケースに至ると、受検者は受検そのものに十分に集中できず、オンライン監視が本来の実力発揮を阻害してしまう可能性があります。実際に、オンライン監視の存在によってテスト不安(テストのような、受検者が評価される場面において生じる不安のこと)が増大することも確認されています(Conijnら, 2022)。このような状況は受検者にとって望ましくないだけでなく、受検を依頼する企業にとっても、採用CX(Candidate Experience)の観点において、受検者の選考参加意欲が下がるなどの不利益につながるリスクがあります。

【オンライン監視下では、受検者は実力を発揮できないのか】

ではオンライン監視のもとでは、受検者は実力発揮できないと感じているのでしょうか。ここで、オンライン監視形式とテストセンター形式の経験を比較した調査結果を紹介します(図表1)。

<図表1> 調査概要

調査概要

まず、各受検形式において受検中に気になったことを複数選択式で尋ねたところ、受検形式によって受検者が気になったポイントには違いがあることが示唆されました(図表2)。オンライン監視形式では「不正を疑われるのではないかと感じた」という項目の選択率が高い一方で、テストセンター形式では「騒音・雑音が聞こえた」という項目の選択率が高くなっています。

<図表2> 受検中に気になったこと

受検中に気になったこと

さらにこのような受検環境の違いの影響を、受検者本人の視点から確認するために、「実力発揮度」と「集中度」に関する質問を、オンライン監視形式とテストセンター形式それぞれに対して行いました。

  1. 【実力発揮度】受検では自分の力が十分に発揮できたと思うか
    1 そう思わない/2 どちらかといえばそう思わない/3 どちらかといえばそう思う/ 4 そう思う
  2. 【集中度】受検では問題を解くことに集中できたか
    1 まったく集中できなかった/2 どちらかといえば集中できなかった/3 どちらかといえば集中できた/ 4 とても集中できた

2つの観点について受検形式ごとの平均値を比較したところ、実力発揮度および集中度のいずれにおいても、両形式間に統計的に有意な差は認められませんでした(図表3)。つまり、オンライン監視形式は、テストセンター形式と比較しても、受検者が実力を十分に発揮できる環境として遜色がないと評価されていることが分かります。これは、近年オンライン監視形式の導入が進んでいる状況を踏まえると、非常に前向きな結果であるといえるでしょう。

<図表3> 実力発揮度と集中度の集計結果(両形式の経験者)

実力発揮度と集中度の集計結果(両形式の経験者)

次に、オンライン監視経験者(N=292)に対して、「不正を疑われるのではないかと感じた」を選択した群(不正懸念群)と選択しなかった群(不正楽観群)に分けて分析したところ、不正懸念群は不正楽観群と比較して、有意に実力発揮度・集中度が低い結果となりました(図表4)。

<図表4> 実力発揮度と集中度の集計結果(オンライン監視形式の経験者)

実力発揮度と集中度の集計結果(オンライン監視形式の経験者)

【実力発揮感を引き出すにはどうすればよいのか】

では、そもそも受検者はどのような状況で実力を発揮できたと感じられるのでしょうか。前述の「実力発揮度」と「集中度」の2観点から構成される「主観的実力発揮感」という概念をおき、そこに影響を与える先行要因をモデル化した結果を図表5に示します。先行要因としては、テスト不安や、不安を感じやすい性格特性(神経症傾向)、受検を依頼された企業への志望度、テストに向けた事前準備の充実度を想定しています。

<図表5> 主観的実力発揮感に関する因果モデルと共分散構造分析結果

主観的実力発揮感に関する因果モデルと共分散構造分析結果

分析の結果、神経症傾向、テスト不安、志望度については主観的実力発揮感との有意な関係が確認された一方で、事前準備の充実度は、主観的実力発揮感に対してほとんど影響を与えないことが分かりました。つまり、受検者がどれだけ入念に事前準備を行ったとしても、それがテスト後に実力を発揮できたという実感に直結するとは限らないことが示唆されます。

それでは、適性検査の受検場面において、受検者が実力を発揮できたと感じられるようにするためには、企業はどのような要因に働きかけることが有効なのでしょうか。志望度については、企業や職種への関心の強さなど、適性検査とは異なる観点で決まるものであるため、実力発揮感を高めるための主要な要素とはいいがたいと考えられます。そのため、実力発揮感を促進するには、テスト不安の軽減が重要なアプローチとなります。

教育分野においては、テストの前に懸念や感情を書き出す短期筆記開示がテスト不安を軽減することが報告されています(則武ら, 2022;Ramirezら, 2011)。このような手法は、就職活動における適性検査の場面にも応用可能性があると考えられます。しかしながら、本稿で対象としたオンライン監視形式という特殊な受検環境においては、受検者側への心理的介入よりも、テスト実施側による監視運用の設計や改善の方が、テスト不安を軽減するうえでより効果的である可能性があります。例えば、受検者が過度な緊張や不安を抱くことなくテストに臨めるようにするために、監視方法の事前説明により運用の透明性を高めるような取り組みが挙げられます。

【まとめ】

本稿では、適性検査におけるオンライン監視形式について、受検者の視点から調査および考察を行いました。オンライン監視は、不正行為の防止という公平性と、受検者にとっての利便性の両立が可能な新たな受検形式です。また今回の調査結果からは、実力発揮という受検者の主観的評価観点において、テストセンター形式と同程度の水準が得られていることが明らかになりました。一方で、オンライン監視環境下では「不正行為を疑われるのではないか」という過度な懸念がテスト不安につながり、結果として実力発揮感の形成を妨げる可能性が示されました。これらの知見を踏まえると、オンライン監視形式の適性検査においては、公平性や利便性の確保に加えて、受検者が本来の能力を十分に発揮できるような運用設計についても、今後さらなる検討が求められると考えます。

【参考文献】

Conijn, R., Kleingeld, A., Matzat, U., & Snijders, C. (2022). The fear of big brother: the potential negative side‐effects of proctored exams. Journal of Computer Assisted Learning, 38(6), 1521-1534.
Ramirez, G., & Beilock, S. L. (2011). Writing about testing worries boosts exam performance in the classroom. Science, 331(6014), 211-213. https://doi.org/10.1126/science.1199427
植野真臣. eテスティング:先端理論と技術, 教育システム情報学会誌, 2009, 26 巻, 2 号, pp. 204-217
分寺杏介. コンピュータを用いたアセスメントに関する研究トピックの整理と最新の動向, 日本テスト学会誌, 2023, 19 巻, 1 号, pp. 191-225
則武良英・湯澤正通. (2022). 中学生のテスト不安と数学成績に対する短期構造化筆記の効果. 教育心理学研究, 70(3), 290-302.
就職みらい研究所.(2025). 『就職白書2025』データ集 https://shushokumirai.recruit.co.jp/white_paper_article/20250220002/

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